- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041066560
作品紹介・あらすじ
1948年、米国に留学中だった著者は、サナトリウムで療養しながら「起業」し、そのお金でヨーロッパに旅立った――。渡航が難しい時代に世界を渡り歩いた女性が残した、驚きと発見溢れる旅文学の金字塔!
感想・レビュー・書評
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コアさんのレビューを拝読し、俄然興味が湧いた。
犬養毅の孫と家柄的なものは大きいだろうが1948年の、戦後間もない頃に単身留学。(しかも旅費は友人達から工面!) 現地の人に引けをとらない語学力や交渉力(これが凄かった!)・教養・時にはユーモアを発揮。トラブルがあっても瞬間冷静になり、知らない土地にいても前進できる度胸。
これ全部日本国内で身につけたの…?
勉強内容の難易度といい勉強量といい、コアさんの仰る「この時代のインテリは賢い」というのは確実なんだろうな。
著者は27歳の頃に出国、ボストン留学からのヨーロッパ周遊へと繰り出し、計10年異国を"放浪"する。
彼女のその後の人生に影響を与えたと見られる体験が「ドイツの冬の旅」という章にある。タイトルからしてクリスマスマーケットに見られる煌びやかな旅かと想像していたが、行き先の一つが難民キャンプだった。
10年の放浪後に著者は、ライフワークとなる聖書の研究や難民救済活動を開始される。後年の別著にて、銃弾が飛び交う旧ユーゴスラビアに降り立つ話があったが、ドイツでの彼女はまだ腰が引けているように見えた。よそ者に警戒する子供達に対しても「非常に不愉快で、また哀れで…」と何だかよそよそしい。
昼夜問わずキャンプで人々の世話をするソーシャルワーカーの女性が「エネルギーのすべて」だとするボロボロの聖書。「われらが父と祈りながら互いに殺し合ったり…」と嘆く難民の一人。人々の心を左右する信仰。これらの光景も聖書の研究を始める発端になったのかもしれない。
所変わってフランス。「お城をもらった話」は、まさに事実は小説よりも奇なりをよく表していた。
天蓋孤独な上に周囲に溶け込めないインドネシアの留学生に会ったのを機に、互いに助け合える友人作りを目的にしたイベントを著者は思い立つ。会場の確保や食材の調達と、次々とアイデアを繰り出す回転の良さは、見事と言うには物足りないくらい。
思えばその行動の源流は、まだ彼女がボストンにいた頃の出来事にあるのかも。たまたまバスで知り合った人が収穫祭の食事に招待してくれ、その席で「友情のパスポート」について教わったという。
「たがいが兄弟姉妹であることを意識することこそ、我々の時代に一番必要。それだけが、友情のパスポートになる」
遠く離れたフランスで、彼女は留学生に友情のパスポートを与えたんだな。
お嬢様であっても、深窓の令嬢ではない。
願望が出来れば自分の足で叶えに行く。とてもカッコ良くて清々しい。『咲かせて三升の團十郎』の時とはまた違う、季節外れの薫風が吹き抜けていた。
コアさん、改めて素敵な作品をご紹介くださり有難うございました(^^)!!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
高橋源一郎さんお薦めの一冊。
戦後間もない1948年から9年間、単独で行動した(いい意味で)とんでもない”お嬢さん”の記録。的確な判断力、直ぐに実行に移す行動力、とっさの機転とユーモア、友人ときには道で出会ったばかりの人々との交流と包容力、そして時々の会話に垣間見られる教養の深さ。こういう素晴らしい人がいたんだなぁと圧倒されました。アメリカ、ヨーロッパそれぞれの土地の空気も感じられて共に旅をした気分です。 -
著者は犬養毅の孫。27才でアメリカ留学に出発したのは昭和23年のこと。初めから留学を終え戻る気はなく、ヨーロッパへ向かう計画だったという。
「戦後まもない世界を自分の目で確かめたセレブお嬢様の奮闘記」と解説にあるが、恵まれた環境を利用せず自分の道を切り開いて行こうとする意思の力と行動力がもの凄い。逮捕されかけたり病気になったり、放浪中の様々な事件や困難を、知恵を出し巡り会う人の力も生かしながら乗り越えてゆく。冒険記としても面白いが、こうやって自分のやることを見定め真摯な思いを持って進んで行くべきなんだろうなと思わされる。放浪せずとも。
#お嬢さん放浪記 #犬養道子 #角川文庫 #読書 #読書記録 #読書記録2021 -
誰かを使うこと。そして、誰かに使われること。
犬養を起点に生じるこうした関わりが、少しもネガティヴだったり冷酷にみえたりしないのは、どうしてだろう。それはきっと、どの使役の仕方、そして目的にもすべからく敬意が宿っているからだ。あの人ならこれができるし、懇切丁寧に頼んだら乗り気で応じてくれるに違いない……洞察力に裏打ちされたお願いだから、聞く者も真摯に向き合うし、たいてい聞き入れる。そういうふうにどんどん輪が高い強度で拡がっていくから、どんな夢想を抱いたとしても、そしてその願いの前に困難が立ちはだかったとしても、たいてい打開策が見つかる。犬養が古城を借り受けてパーティ開催に漕ぎ着けるプロセスには感嘆のあまり笑ってしまった。少しの可能性も諦めず、用いうる知恵を総動員し、人の幸せのために努めた彼女の背を私は敬意を持って見つめる。金がなくてその日の食にも参っていたほどなのに、それでもできることはあるのだ。耳に優しい(がゆえに忘却も素早い)金言でも、人生の生き方として実地に貫かれ、提示されると、ひとかたならぬ説得力が満ちる。彼女の知見から紡がれる言葉はきっと単なる音素の連なりである以上の、普遍的な豊穣さがある。
犬養の本をいろいろ読みたい。 -
行動力と知性の化身みたいなお嬢さんの旅日記。
そこらのバックパッカーとは比べ物にならない程の経験を自らの力で切り開いていく様に圧倒される。化け物みたいな内容と反して、文章がとてもお上品でかわいいです。 -
著者の犬養道子さんは、五・一五事件で暗殺された犬養毅のお孫さんである。カソリック教徒であり、長年難民の支援活動に力を入れてこられたが、一昨年(二〇一七年)鬼籍に入った。
著者の家柄を知る読者は題名から、親の援助を受けて気ままに世界を旅する女性像を思い浮かべるかもしれないが、そのような思い込みは見事に裏切られる。
舞台となっているのは、一九四〇年代後半から五〇年代にかけてのアメリカやヨーロッパ。まだ海外へ渡航すること自体が珍しかった時代に、自分の旅費は自分で稼ぎ、女性ひとりで旅をして回ったのだから、その好奇心と行動力には驚かされる。
しかも、彼女は旅行者として上っ面の欧米を見聞したのではない。その土地に暮らす市井の人々と同じ地平でものを見て、聞いているのである。ときには危険な目にも遭い、ときには人間の心の温かさに触れながら。それが読者の心を打つ。
のちに著者はキリスト教研究をライフワークとするのだが、本書にはすでにその精神が流れているという気がする。彼女にとってキリスト教は、理念ではなく、行動であり実践なのだと。 -
行動する「お嬢さん」の話。
犬養家という名家のお嬢さんでありながら、とてもそうとは思えない行動力。
でも、そういった家の出身でなければ、その発想はないだろうと思われる行動力。
特にお金を稼ぐことに関しては、単に働いて稼ぐのではなく、事業として動いていく様子には、「お嬢さん」でなくてはできないことだと感心した。 -
昭和23年からアメリカ、ヨーロッパで留学生活を送ったある女性の体験記。
著者は犬養毅元首相の孫ということで、タイトル通り「お嬢さん」なのだが、留学中の行動は大胆で豪快。病気をしたり、貧乏したり、色々あるが、そのたびに度胸とアイデア、そして人とのつながりで乗り切る。 -
青年期に読んだら、もっと影響を受けていたのは間違いない。小田実の「なんでも見てやろう」より10年も前に、そして女性が書いたことに驚き!