リトル・バイ・リトル (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041067505

作品紹介・あらすじ

ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。家族は、母、小学校2年生の異父妹の女3人。習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、二番目の父――。「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた、第25回野間文芸新人賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 少しずつ、徐々に、小刻みに、

    直木賞受賞作家の芥川賞候補作。19歳の時書かれたものだという。とてもみずみずしい作品で、清々しい気持ちで読み終わる。

    主人公ふみは母と腹違いの妹と3人で暮らす。
    島本さん自身、母子家庭を経験していて、そのことが反映されているらしい。

    でも、島本さんの作品はこの作品もそうだけど、あまり現実感が薄い。
    どこかお行儀が良い。
    もっとドロドロした展開を期待するのだけど、落ちる一歩前で踏みとどまってしまうという感じ。

    芥川賞選考の際の村上龍さんのコメント「好感を持った。だが受賞作に推すためには好感だけでは足りない」には深く同意。

    最後、ふみと周が井の頭公園で結ばれたところは、なぜかすごくリアルに感じたけど。

    でも、いろいろ書きましたが、好きな作品です。
    故石原慎太郎氏は「可憐な青春小説の域を出ない」と評してますが、この作品はそれが魅力なんだと思った。

  • 島本さんの本は少なくとも5冊以上読んでいるが、この本はとてもさらっと読めました。

    主人公のふみは、母子家庭で、父親が2人います。家の都合で大学に行けず、アルバイトをしながら、家計を助け、妹の面倒もみながら忙しく過ごしています。そんな中、母親の勤務先のマッサージ店で出会った、周という男の子と知り合い…


    周くんとお姉さんのやり取り好きだなぁ。
    ふみが抱えていた悩みは普通よりももっと複雑で理解しがたいけれど、1人の女の子の物語としては、ふみの感情について共感できるところもあり、楽しく読めました。

    やっぱり島本さんの文章好きだなぁ、ただの恋愛小説だけで終わらないところがいい。

  • 野間文芸新人賞受賞作品。

    直木賞を受賞した「ファーストラヴ」よりも自分は面白く読めた。慈しむように出てくる言葉に、こちらまで癒されてしまった。

  • 誰かに言われて、自分がおかしいなと思っていたけど、いつのまにか慣れてたことを再確認することがある。
    ペットにモルモットが良かった。
    題名のとおり、少しずつ、だんだんと小さな希望が見えてくる話。

  • 島本理生さん、2作品目。
    以前読んだ「ファーストラヴ」が面白かったので購入、読了。

    「ファーストラヴ」の方が面白かったかなー…
    エンタメ要素が強く、物語自体にも動きがあったので自分としてはそっち方が好みだったかなという感じです。

    本作の方が、より島本理生さんっぽい作品なのかもしれませんが…(他の方のレビューを見る限り)

    個人的にはお母さんの雰囲気とか、生き様とか…スゴく好きだなぁと思いました。

    「人生ってなんやかんやあるけど、笑い飛ばしながらやっていこうぜ」的な(笑)
    そんな空気感のある人って、周りを幸せにする気がします。

    読みながら、自分も少し前向きになれた気がしました。
    と同時に、自分も家庭の中でそういう存在でありたいなとも思いました。

    「little by little」
    「少しずつ、徐々に、だんだんと」

    前向きに生きていれば「だんだんと」課題は解決されるし「少しずつ」でも幸せには近付いていく。

    このタイトルには、そんな意味が込められている気がしました。

    <印象に残った言葉>
    ・男の子の母親が帰った後、自分の体当たりが効いたのだと喜ぶ母の横で、私はむこうの親に詳しい事情を知られないように祈っていた。(P97)

    ・あの人はダメだよ。分かってるでしょう。ふみちゃんが期待するような人間性は、もうあの人の中で壊死してるも同然なんだよ。それにだった一度だって正当な理由もなく家族に手をあげるなんて、すること自体がおかしいんだよ。(P134、母)

    ・今ここで死んじゃうのもいいなんて、ちょっと思った。(P147、ふみ)

    ・でも、他人には言わなきゃずっと分からないままですよ。(P149、周)

    <内容(「Amazon」より)>
    第25回野間文芸新人賞受賞作品

    わずかずつ、かすかな輪郭を帯びてゆく日々。

    あれから私はどれくらい成長したのだろうとふいに疑わしい気持ちになって、その後にゆっくりと不安が押し寄せてきた。あのときよりも、もっとずっと前から時間の止まっている場所が自分の中にあるような気がした。

    ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。家族は、母、小学校2年生の異父妹の女3人。習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、2番目の父――。「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた、第25回野間文芸新人賞受賞作。

  • 芥川賞候補にもなったような作品。
    高校生でないと書けない感性であり、高校生では書けない表現力に心動かされた。
    じんわり哀しくずっと暖かい、いいお話し。

  • 島本理生さんが20歳の頃に書いた作品。
    昨今の小説と比べると幼さを感じるのは否めないが、それでも島本さんの優しさが滲み出ている本だった。

    ✏どんな言葉にも言ってしまうと魂が宿るんだよ。言霊っていうのは嘘じゃない。書道だって同じことで、書いた瞬間から言葉の力は紙の上で生きてくる。そして、書いた本人にもちゃんと影響するんだよ。

  • ふみは、ぴょんと障害物を飛び越えるようにではなく、すうっと自然なかんじで外の世界に足を踏み入れていく。その何気ない感じが、ふみの無意識から発せられるベクトルに静かにゆっくりと従ったかのようでもあります。「いつもは思慮深い」なんて母親に評されている場面がありますが、無理をせずに自分の歩幅の範囲内で外の世界に足を踏み入れてみるということをしている。これが、ふみが外の世界を知りその空気を吸っては吐いてを繰り返すという行為につながり、すなわちそのことによって少しずつオトナへの成長を促されていくことになります。と同時に、ふみの場合、自分ではうまく気づくことができずにこころに抱えているちいさな歪みがあり、それを結果的に外の世界の方から整えてもらうということが起きています。こっちも少しずつ(つまり「リトル・バイ・リトル」ですね)、といった風でした。ふみの無意識はそのあたりをちゃんとわかっているかのようで、そのために外へと向かうベクトルが発生しているようにも見えるし、また、運気というか運命というか、そういうものの好い面がふみの人生を少しずつ好転させていく時期でもあって、二つがちょうど重なって作用しているように僕には読み受けられました。

    ボーイフレンドの周は、怖さを感じながらそれを誰にも言わずに抱えているふみに、「言わなきゃずっと分からないままですよ」と他人に話をすることをすすめます。そして、僕に話して、とやさしく促します。こういう関係はとても好いものですよね。上手に話を聞いてあげること、そんな姿勢を自然なかたちで相手に対して持てること。こういった人間関係が構築できることはすばらしいことです。周はまだ高校生ですが、ちゃんとわかっているし、こころの面でいえば相当な優等生。ナイス・ボーイなのでした。

    本作品で繰り広げられるあれこれは、ほとんどが瑣事といってしまってもあまり差し支えはないだろうものばかりです。でも、その一つひとつが日常の基本的なところの隙間を埋めたり土台を補強するようなものであって、読み手のこころをもポンポンと少しずつ地固めしてくれるようなところがあります。そして、描写のテンポのよさや描写するものへのフォーカスの仕方のうまさ、書かないでいいものはまったく省くことなどで、全体を通して風通しのよい文章の流れになっていると思いました。だから瑣事と言ってしまえる場面であったとしても、読ませるし、読みやすいのです。

    ふみが周と話をしたいとはじめて電話する場面では、そのとき周はバイトに行く時間で、「バイトの後なら平気ですよ、だいぶ遅くなっちゃうけど」と応えます。すると、ふみは何時でも構わないから連絡を待っている、と告げます。こういう、お互い無理をせず、過度に近づきすぎない距離感でのやり取りが成立する関係ってとてもいいものだと僕なんかは思うのです。ましてや、彼らは十代ですから、急ぎ、慌て、行けるところまで行きたがるような傾向がどちらかといえば強く出やすいと思われる年代。電話したいと思ったら無理を言ってまで「今すぐ」と要求し、要求される側もそれに無理をしてでも応える、なんていう行為になるのではないかと思い浮かびがちでもあると思うのです。それを踏まえながら二人のやり取りを振り返ると、ふみと周のあり方は、ある種の理想の提示のようでもある。さらには、ストレスや緊張の回避の仕方という別な視点からも考えてみると、自分や相手の居心地の良さあるいは呼吸のしやすさがわかってる二人だと見ることだってできます。相性もきっと良いだろう二人だと認めることもできるでしょう。

    中編といったくらいの分量なのですぐ読めてしまうでしょうけれども、柔らかな小説であるいっぽうで、やっぱり清冽な若さを感じさせる風だって色濃く吹いていました。読み終えると、知らず知らずに構えていたガードがこれまた知らず知らずのうちに解かれているような感覚です。引っ込み思案なはずの「こころ」が、自分から読みたがってでてくる、そんな感じで読んでしまう作品かもしれません。

  • とてもすきな世界観。

    嫌なこととか悲しいこととかはどうしても起こるけど
    それでも平和を感じられる日々。
    ひとつひとつの言葉が心に優しくあたたかい。

    高校生のときに書いたってほんとに衝撃。

  • 「今ここで死んじゃうのもいいなんて、ちょっと思った」

    人生で初めて読んだ小説。主人公ふみの抱える闇に、柔らかな光を灯してくれるキックボクサー・周の純粋さが心地よい。少しやんちゃなお母さんや、変わり者の周のお姉ちゃんもいいキャラ。柳先生の優しい語り口も好きだった。島本理生さんの語り口含め、エモさの塊のような作品。

    以下、セリフメモ。

    ≪店のシャッターが閉まってコンビニだけが強い明かりを放つ夜の道を、彼は無言で自転車をこいだ。その背中に自分の体をつけると鼓動が二重に響いて二つの心臓を抱いた気がした。気の遠くなるような音だった。≫

    ≪ ひまな時間にはたいがい周のことを考えた。二人で出かけた少ない思い出を何度も頭の中で再生しすぎてすり切れてしまうと、今度は知っている曲をかたっぱしから小声で歌い、最後には電柱の数をかぞえた。そんなふうに過ごしているうちに、日は暮れていくのだった。≫

    「でも、他人には言わなきゃずっと分からないままですよ」
    「他人って」
    「たとえば俺とか」
    周は強い口調でそう言うと、すぐに表情を緩めて、いつものおっとりとした調子で続けた。
    「毎回怖いって思うたびに、そう言えばいいじゃないですか」
    「そうかな」
    「そうですよ」

    ≪ 橋を渡ってから公園の奥まで歩いていた途中で急に腕をひかれて、背の高いしげみの中に入った。まるで野犬が飛びかかってきたようだと思いながら木の枝や落ち葉や虫を飲み込んだ土の上に横たわると、じっとりと湿った柔らかさに吸い込まれそうだった。覆いかぶさった周の肩の向こうに色の濃い葉をつけた枝が何本も伸びていて、隙間からは小さな夜空が見えた。私たちはそこで寝た。長いような短いような、伸縮自在の時間の中で。≫




  • 父親という、穴があいたふみさん。

    周りの人の愛によって、だんだん埋められて
    前に進んでいくんだなあと。

    人生の一部を切り取ったような話でした。

    とっても読みやすいけど、
    深く底知れない感情も見えたり。

    この先2人がどう生きていくのか見てみたい。

  • 鬱々としたところから、
    少しずつだけど、引き上げてくれる、周。

    食が充実する相手っていい。
    食べ終わったら、どこか泊まりに行こうよ
    が、すき。

    柳さんと奥さんの約束も、すき。

  • 2人のお父さんお義父さんとは繋がりはほとんどないふみ。島本理生さんらしく、実の父からはDVを受けていた。マッサージ師をしている母に紹介された周との恋愛。習字の先生の柳さん。柳さんの奥さんがなくなったシーンが1番じーんときたな。私より長く生きてという夢。言霊になるというのはほんとうだな。

  • 周みたいな優しくて、強くて(ボクシングしてる)、包み込んでくれて、俺っていうのがすごい似合う感じの男の子と付き合ってみたかった〜〜

    お母さん呑気すぎ〜
    状況が変わらないなら楽しいほうがいいってそりゃそうだけどさ〜

    この人の書く小説の母親は割と責任能力ない人ばっかだなぁ

  • 貧しく複雑な家庭で育ち人とかかわることの苦手な娘が、高校卒業後少しずつ外の世界へと踏み出していく様を描いた作品。
    野間文芸新人賞受賞作。

    すらすらと読める青春小説風でありながら、つらい現状を達観せざるを得ない主人公の、背景にある家庭や実父との関係は痛々しく、ずっしりと重い。
    ボーイフレンドと二人でいるときには年相応の瑞々しさがあり、救われる。主人公には、もっと自由になって感情をあらわにしてもいいんだよ、と親心から声援を送りたくなった。

    遅い夏休みの旅のお伴に持参し、飛行機の中で眠気と戦いながら一気に読んだ一冊。読後半月以上経ち、ほかの何冊かとまとめてようやく感想が書けた~。

  • ふみくらいの年齢のころ、私はこんなに多感だっただろうか。どの作品もそうだけど、人物描写が丁寧。ふみの幼いような、それでいて大人っぽい一面は、著者そのものなのかな。

  • 母、異父妹と3人で暮らすふみ。静かで平穏で、一見何の変哲もない生活だが、家族の複雑な過去がそこに時折暗い影を落とす。家族を軸にした人々とのふれあいのなかで、ふみは少しずつ、光の射す外の世界へと踏み出してゆき…。

    ナラタージュの人だったのね。空気が似ている。同じ作家だからね。

  • この小説と出会ってもう十数年経っていることに驚きます。何度も繰り返し読んでは、初めて読んだ頃に少しだけ戻れる気がしてしまいます。この物語をずっと大事だと感じられるように生きていきたい。

  • 高校生の時にデビューされた島本理生さんの2作目の小説です。
    あとがきを読むと、本作は高校生の時に書かれた作品のようです。
    芥川賞の候補にもなった作品です。
    派手さはないですが、雰囲気が良い作品で、個人的には良かったです。

  • これを20歳でといわれるとたしかにすごいけど、他の作品を知っているからこそ、、、

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞。15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。その他の著書に『ナラタージュ』『アンダスタンド・メイビー』『七緒のために』『よだかの片想い』『2020年の恋人たち』『星のように離れて雨のように散った』など多数。

「2022年 『夜はおしまい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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