僕の神さま

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041097786

作品紹介・あらすじ

亡くなった祖母が最後に作った桜の塩漬けをダメにしてしまった僕は、同級生で「神さま」と呼ばれる名探偵の水谷君に相談する。学校中のみんなから頼りにされる、何でも解決してくれる水谷君。彼の答えに決して間違いはない、だって水谷君は「神さま」だから……。彼から新しく作ることを提案されるが、桜の季節にはまだ少し早く……。(「春の作り方」)。学校で抜きんでて絵がうまい川上さんが図工の時間、クラスメイトの少女から筆洗い用の水をぶちまけられた。彼女はいったいなぜそんなことをされたのか。(「夏の『自由』研究」)。秋の体育祭、冬の怪談話、そしてまた春。小学校を舞台に四季を通じて描かれる、切なく残酷な連作ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • なんて出来た子なのだ水谷くん!
    みんなから神さまと呼ばれても調子にも乗らず、常に冷静で言うべきことと言わないでいいことの判断ができ、人の話を親身に聞き、困った人を助ける。間違ったことは素直に認め、それでも挫折しない。逃げない。でもそれを隣にいる僕や他の子に自分と同じレベルの思考を求めたりもしない。「子どもは、大人を頼っていいんだよ」と柔らかく言う水谷くん。天才小学生でした。そしてその水谷くんの台詞にはハッとさせられる。主人公の僕が気付くことがたくさんあったように。あまりにも偉大な背中である。

    「間違ったことをしていると思っていたからこそ、罪悪感に苛まれていたからこそ、それを否定してくれる理屈にしがみついたんだ。自分がやったことは正しい。自分は間違ってなんかいない。それを補強してくれる言葉や出来事だけに目を向けて、それ以外のものはなかったことにした」

  • 意外、を見た一冊。

    小学生といえば無邪気なイメージ。
    高学年とはいえそれを見事に覆す意外な小学生を見た作品だった。

    一話目は他作品で既読、あの時のあの子達か…と懐かしさと温かい涙も束の間、その後彼らがこんな謎と重さに対峙していたとは。

    皆から頼りにされる水谷君。慕う僕。

    神さまだから…。神さまなんかじゃないよ…。

    この思いが交錯する中で浮き彫りになるお互いの胸の内はもちろん小学生が直面するにはつらい重さに心がチリチリ。

    君たちには今はただ楽しみだけを背負って欲しい、そんな願いを口にしたくなるせつない読後感。

  • 芦沢央11冊目。見どころはラストの怒涛の展開。小学校4年生の主人公・佐土原君と神様と言われる水谷君の話し。何でも解決してくれる水谷君。お爺ちゃんのアレルギーの原因、川上さんが絵の具の水をかけられた理由、騎馬戦で勝つ方法、失踪した4歳の子どもの居場所。また川上さんが父親から虐待されている事実を知り、川上さん、佐土原君、水谷君は大人に託すが川上さんが父親に殺されてしまう。この話しは貧困、いじめ、虐待が絡み、さらに友人とは何か?についても深い。芦沢さんが読者のバイアスを上手く利用することで切なさを助長した。⑤

  • みんなから"神さま"と呼ばれる頭のいい小学生、水谷くん。彼が名探偵となって、日常の謎を解く、ほんわかしたストーリーかと思ったら、裏切られた…
    とても重いテーマを秘めていて、なんともいえない気持ちになる。
    子供は子供なりに色んな事情を抱えて生きているのだ。
    全ての子供が健やかに育っていける社会になればよいのに…

  • 最近この著者の作品をよく読むようになった。
    真綿で首を絞めていくようなミステリ、というのか……。
    優しさの奥に隠れている昏さ、明と対になる暗。
    そんな雰囲気が好きだ。

    さて、本作の主人公たちは小学生。
    彼らはどんなに頭が良くても、どんなに頑張っても、「子供」だ。
    それがある種の絶望感を持って迫ってくる。
    もちろんお話とわかっている。
    でも、本作のような内容を読むと、ああ、私は、
    子供たちを助ける仕事、強制力を持って彼らの生命身体を脅かすような者と戦える人になりたかった のだと思う。
    それを一番感じるのが、「夏の「自由」研究」。
    ずっと心に引っかかり続ける後悔、そして無力感。
    ズキズキと痛む傷は、彼らの心から消えることはあるのだろうか。

    逃げてもいい、子供なんだから、そう水上君は言う。
    そう、子供なんだから、助けを求めていい。
    人生のほとんどが大人の時間なのだから、たった20年ぽっち、ましてや小学生なら、助けを求めていい。
    もちろん、現実世界は、そんなに甘くなくて、助けを求める術を知らない、奪われた、助けてもらえなかった、そんなこともある。
    大人が受け止めきれないこともある。でも。
    水上くん、君もだよ。
    君だって子供なんだ。
    どんなに大人ぶっても、どんなに賢くても、君だって助けを求めていい。
    誰かの人生を背負うには、まだまだ経験値不足だよ。

    歳をとることは夢を捨てることだ。
    キラキラは消えていく。
    老いは怖い。
    でも、自分では輝けなくても、なりたい自分になれなかったとしても、だから、次代がいるんじゃないか。
    キラキラを残してあげられるんじゃないか。

    子供は、宝物だ。

  • 水谷くんの冷静な分析。クラスにいたなと思えた頭脳明晰冷静。
    日常のちょっとした謎解きかと思いきや、少しずつつ不穏な問題が。芦沢央さんの作品は読みやすい。そして、神様と頼られる水谷くんの弱さ。「誰かの謎に挑み、解決策を提示することは、誰かの人生を背負うこと」「その人の人生に関わり、結果に対して責任を負う。批判も、後悔も、葛藤も、全部一身に受け止める」
    そんなこと大人もできないのに、水谷くんは背負おうとする。主人公はその大変さに気づき、おののくも、目をつむらずにいこうとする。自分が親に守ってもらえていることにあらためて気づく主人公も大人だと思う。
    水谷くんにとって主人公のあり方が救いになると思った。読みやすい。小学生主人公の単純なミステリーと思わず、子どもは社会の鏡。と思って読むべき部分もあった。

  • 小学校が舞台、彼らにすれば不可解な出来事をその都度、名探偵コナンのように「水谷くん」が分析、解決していく。
    水谷くん、何事もはっきりしなきゃいけない性格なのかな?どこか大人びていて、とっつきにくい印象。深堀りしていないから謎。

  • 芦沢さんの本は3冊目。
    この本も読みやすいし面白かったです。
    語り部の佐土原くんの描写が丁寧でリアルです。探偵役の水原くんは小5とは思えない大人ぶりでした。
    エピローグのまとめ方が上手。


  • 水原くんは同級生の悩みや相談を真剣に聞いて
    解決してくれるので、神さまと言われてる。

    神さまが言うから本当だと信じる僕、
    そんな僕の本音はなんだったのか。

    同じ年の子に神さまと呼ばれる水原くんは
    本当は何を思ってるのか。

    信じる人の心、信じたいと思う人の心
    ココロと言う見えない物に
    思いを馳せる意味を考えた物語。

  • 主人公の「僕」の同級生には、「神さま」というニックネームを持つ水谷くんという少年がいる。彼はどんな謎も紐解き、だれからも頼りにされている。もちろん、「僕」もその例外ではない――そんな彼らの一年間のエピソードをつづった連作短編集です。

    どこかほのぼのとした出だしから、やがてぐっとアクセルを踏み込むように状況の深みが増し、小学生には重すぎる事実が立ちはだかっていきます。そうして彼らはどうするか――その選択を、決断を手放しに誉めることはできません。

    「神さま」の選択としてなら、きっと正しく「冴えたやり方」だったとなるのでしょう。ただ、神さまと他社から称される少年もただの一人の子どもであるのは終盤の彼自身の台詞で少し読み取れます。けれど描写上彼の内面には踏み込んでいない、あるいはあえて踏み込ませていないので、神さまとされている水谷くん自身の苦渋がどの程度かわかりません。そのため、彼が抱えざるをえない責任の重さを思うと、じりじりとした感覚に囚われもしました。

    事件そのものの性格もあり、じっとりと重く、やるせない。そういう読後感を残した物語でした。

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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