紙屋ふじさき記念館 春霞の小箱 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041114193

作品紹介・あらすじ

現記念館の閉館まであと半年と少し。大学卒業後の進路も見えてくる中で、百花は一成のもとで和紙の仕事をしたいと強く心に思う。記念館存続のためにも活動を続ける百花だったが、予想外の事態が起きて……。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズの5作目。

    第一話 ぴっかり千両
    第二話 墨流しと民藝
    第三話 春霞の小箱

    ふじさき記念館も残すところ半年ほどで閉館する。

    そんな中、百花は夏休みにサークル遠足として東秩父へ和紙の紙漉き体験へと出かける。

    古い町並みや趣きある鄙びた雰囲気を存分に楽しみながらも滲み出る歴史の厚み、時の流れの儚さを思い貴重な体験をする。

    体験して得るものは、価値があり何ものにも代え難い貴重なものとして残るだろう。

    この中で、「西本願寺本三十六人家集」を知る。
    三十六歌仙の和歌を集めた装飾写本であり国宝だと。
    歌を読み学ぶためのものであり、美しい筆跡を味わう。
    初めて知り得ることが多くて勉強になる。

    墨流し、これは水と墨と風だけで作り出す。
    人間には作り出せない世界であり、一回だけの形。

    いろいろな体験をすることにより、ふじさき記念館でのワークショップに活かすことができ、閉館へと向けて準備も順調に進んでいくのだが、年が明けてから世の中の雰囲気が変わってきつつあった。
    2月まではなんとかワークショップもできたが、3月にはとうとう中止となる。
    そして、先の見通しのないまま、閉館セレモニーもなく、記念館の最終日を静かに終えるのだった。

    ラストが、寂しいのだが今回もものづくりをしている人たちの姿、ものに宿った手の跡に心惹かれる。
    伝え続けることの難しさもあるが、けっして無くしてはならないものだと気づかせてくれた。


  • シリーズ5冊目。今年3月に出た本でようやくここで追いついた。

    第一話はほとんど「小川町和紙体験学習センター」と「東秩父村和紙の里」の紹介みたいな章。ネットで写真も見ながら読む。
    サークルの遠足の中でメンバーのキャラは知れてくるが、二作目に出てきた美濃の紙漉きの二番煎じみたいで、お話としては物足りない。
    和紙の里で漉いた葉書が後日届いて、皆でああだこうだ言うものと思っていたが、それもなく。

    第二話は料紙、染め紙と墨流しの話。こちらも「西本願寺本三十六人家集」など調べながら読むが、ここらの知識を深めたくてこの本を読んでいるわけではないのでねぇ。
    第三話は大学祭があって、閉館の準備をして、お正月に飯田に行って、楮かしぎに、記念館の最後のワークショップに硯の石紋と、駆け足でなんだか忙しい。
    2つの話には『ものづくりをしている人の姿、ものに宿った手の跡に心惹かれる』とか『身体を使うとき、心は自分を超えてはるか遠いところまで広がっていく』など、いい感じのことが書いてあると思うのだけど、物語としてそれが深まらず。

    そして終わりには新型コロナウイルスが登場して、あの時はあんな風に何かの区切りを迎えた人も多かっただろうしその無念な感じはよく分かるのだが、このお話にわざわざこの話題を入れるかなぁ。
    これからの話の展開に思うところがあるのか、この先どういう話になっていくのだろうか…。

  • 【収録作品】ぴっかり千両/墨流しと民藝/春霞の小箱

    三日月堂とのつながりもより深まって……と思った矢先の新型コロナ騒動。現実にもリンクして……逃げずに書くんだな。どんな状況でも、人は生き続けるしかない。
     

  • シリーズ5作目。
    記念館の閉館まで、あと半年。
    何とか記念館の事業を続ける為に、ワークショップに力を入れる百花と一成の様子を中心に、大学3年生となった百花の学生生活もこれまでより多めに描かれている。
    今作ではがっつり三日月堂も出て来るし、三日月堂でも出て来た楮の話も再び登場。
    日本各地に残る紙の歴史を描いている良作なのだが、今作はとにかく登場人物が多く、半年の物語を短いピッチで書いているので、これまでのような百花や一成の記念館や紙に対する思いの深さが伝わって来ず、かなり残念。
    以前の百花の興味から、紙で「こんなことが出来る、あんなことも出来る」って言うのが楽しかった。
    これまでいろいろ生み出して来たから、ネタ切れなのかもしれないけれど、今回初めて出て来た「墨流し」のパートだけは良かった。
    「習字」ではなく、「書道」を学んできた身には墨のすることの大事さを描いてくれたのは嬉しかった。
    何故、今作でこんなに書き急ぐのだろうと思ったら、ラストで新型コロナの影響が・・・
    今後どうなってしまうのだろうか???

  • 「紙屋ふじさき記念館」、その5。

    和紙と活版印刷…とつながって、「物語ペーパー」に使われた百花の亡き父・吉野雪彦の著作を復刻した小冊子を刊行するという話がもちあがる。
    また、紙そのものが芸術作品になろうかという、墨流しの技法を使った料紙との出会いから、閉館する記念館の最後の企画は料紙を使った文箱を作るワークショップと決まったのだが…


    だんだん、失われつつある手作業や伝統技法の解説が多くなり、百花の研究レポートのようになってきたような…
    その上、突然、リアル世界の新型コロナウィルス感染が物語世界に入り込んできたことにびっくり。

    もちろん、コロナ禍で人々の生活様式も価値観も大きく揺さぶられたことは間違いないんだけれど…
    ここまではっきりとリアル時間が百花の大学三年生と特定されたら、この先の物語も現実世界の実像を反映させて進まなくてはならなくなりそうで、何となく違和感が残った幕切れだった。
    この先の世界の変動、例えば為替変動や他国の戦争も、物語に入れますか?この物語の伝えたいことって、そこですか?という…

    そして、例によって蛇足ですが、表紙のイラストが気になって気になって…
    百花の体のねじれ方もすごいが、腿裏まで届くような長〜いショルダーバッグと、いつも三揃スーツの御曹司の、レギパンのようなピッチリしたパンツ。ううう…誰も気にならないのかしら…

    さらに個人的には、ご贔屓の登場人物、文字箱の綿貫さんの再登場希望。

  • いつも通り。

  • ここにもコロナが。
    何年後かに読んだら、「そんなことがあったねえ」と話せるのだろうか。

  • 東秩父村の和紙の里に行ったことがあるので、思い出しながら楽しく読み始めた。百花の成長を感じ、閉館からどのような進展がと思いきやのラスト。読者にも伝わる悔しさと不安。

  • サークルをあげての紙漉き体験。「なにもしなければ、失うものはない。でも、あたらしく得るものはない。まわり道でも、失敗しても、やってみることに意味がある」(p.96-97)という思いもあらたに。墨流しの技法への興味、父がむかしの紙作りやその周辺を扱った小説を描きたいと考えてたことを知り、またそれに関連して民藝の運動にも興味がでてきて。江戸時代の紙問屋との戦い、軍事利用。きれいなだけじゃない、紙の歴史のなまなましい側面も。すべては、記念館の閉館へ向けての、ワークショップの充実、Webサイト運営、閉館イベント、閉館後の本社での活動へと向けられていくかと思われた矢先の終章。裏表紙に書かれた"予想外"の事態がまさかこんな形とは。今までそんなことは露ほども示唆されていなかったのに。実在の時系列とは独立して進んでいたかのような物語世界で、急に記念館の閉館が実際のあの年月に重ね合わされるだなんて。そこから引き起こされるカタストロフに、落差に目眩のする思い。続編描かれるのだろうか。

  • 紙は奥深いっ!!今回はサークルのメンバーと小川町へ紙漉き体験に。墨流しのところでは民藝も出てきてテンションが上がる。物語ペーパーも見てみたいし、『東京散歩』も読んでみたいな。
    記念館の閉館がコロナ禍の後ろに隠れていたなんて。何年後かに読み返したら、懐かしく感じるだろうな。
    閉館後の記念館の続きを知りたい。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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