父がしたこと

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041140161

作品紹介・あらすじ

目付の永井重彰は、父で小納戸頭取の元重から御藩主の病状を告げられる。居並ぶ漢方の藩医の面々を差し置いて、手術を依頼されたのは在村医の向坂清庵。向坂は麻沸湯による全身麻酔を使った華岡流外科の名医で、重彰にとっては、生後間もない息子・拡の命を救ってくれた「神様よりも偉い存在」でもあった。御藩主の手術に万が一のことが起これば、向坂は一国の主を死なせた庸医に落ちかねない。そこで、元重は執刀する医師の名前を伏せ、自らと重彰を助手に据えることで、手術を秘密裡に行う計画を立てるが……。御藩主の手術をきっかけに、譜代筆頭・永井家の運命が大きく動き出す。

感想・レビュー・書評

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  •  主人公・永井重彰の父・元重は、御藩主の世話をする小納戸頭取。ある日その父から、御藩主が内密に外科手術を受ける、と聞かされる。執刀するのは、全身麻酔を扱う町医・向坂清庵。実は向坂医師には、重彰の嫡子・拡の命を救ってもらった経緯があり…。
     結末はあまりにも想定外の結果で、しかしそれぞれの人物の“命”をかけた物語が、とても良かった。藩主と家族の両方を守った元重は、「武士の鑑」だと思う。

  • いかにも青山文平らしいというか…
    でも、納得いく結末かと言われれば、ちょっと。もし、本当に「父がしなければならなかったこと」だとしたら、真相は息子にも書き置くべきではなかったのでは(それでは小説にならない、というのは置いとくとして)。

  • 幕末の漢方蘭方医療のリアル。それぞれの考え方、効果、限界などがよくわかる。
    タイトルのことを忘れて読んでいて、すっかり医療小説だとばかり思っていたところでのミステリ展開。
    「父がしたこと」、しなければならなかったこと、その重みと意味。小納戸頭取(というお役目を初めて知った)の立場としては正しい選択なのだろう。そこは納得なのだけど。

  • 初青山文平。
    久しぶりに、華岡青洲の「麻沸散」(全身麻酔薬、通仙散)の文字を見た。
    史実を土台にした医療時代小説だけど、本筋は武家小説。
    気になって、いろいろ考えてしまった。
    藩主の妄言とは?どこの藩?
    向坂先生は気の毒だとか。
    関係ないけど、
    華岡青洲の直系の子孫は東京で歯科医院を営んでいる。

  • 藩主の全身麻酔による外科手術を手配することになった永井元重・重彰親子。術を依頼されたのは華岡流外科の名医・向坂清庵。
    重彰は数年前に鎖肛をもって生まれた長子を清庵によって救われていた。
    藩主が全身麻酔術を選んだのは、生まれつき痛みに弱い性質からだった。
    手術は成功するが、清庵は不審死を遂げる。
    医師は、手術中に藩主が痛みから漏らした妄言を聞いてしまったために暗殺されたのだった。手を下したのは元重だったことを元重の遺書で重彰は知る。

    重い!激しい!苦しい!
    青山文平らしい作品。

  • 最期の最期までミステリと気づかずに読んでました……。
    てっきり医療系の人情ものかと読み進めていたのですが、最期にミステリだったのか、と気づきました。(鈍感なもんで)

    結構詳しく江戸時代の医療の流派について語られているので、その辺の知識が肝になるストーリーなのかと思い慎重に読んでいったのですが。(とにかく漢字が多いのです)
    ミステリに関わるところではあまり関係がない感じなんですよねぇ。
    肩透かしを食らった感じです。
    医療知識もミステリに絡めてあるとよかったのでは?と個人的には思いました。
    全体の2/3までは医学の話で、残りの1/3はミステリとストーリーが分断されている感があります。
    今までミステリ要素が全くなかったのに突然話の流れが変わって「?」な違和感がありました。
    ストーリーを急展開させなくてはならない理由が突如出てきてしまったのですかね??

    感想です。
    権力者にとって、一番怖いものは「身内の裏切り」なんだろうな、と思いました。
    自分の仕えている主にどこまで忠誠心を誓えるか。
    そして、他人も自分と同じレベルで忠誠心を持っているのか。
    どちらにしても約束できるものではありません。
    今の時点では裏切っていない人間が未来永劫、裏切らないとは限らないんのです。
    実際、ちょっとしたことで人を裏切るのが人間じゃないですか。(諸行無常と言ったものです)
    この本の父(元重)はそういったものを見越したうえで、ある決断をします。

    うーーーむ。
    ミステリ部分は妙にしんみりするのですが、とってつけたような感じになってしまっているのが残念なんですよね。(あくまで個人的感想です)

  • 目付の永井重彰視点で語られる静謐な物語。
    蘭方が認められ、発展し始め、漢方医からの反発が強まるなかで行われた藩主の外科手術。執刀医の向坂は重彰の息子の恩人だった。藩主の信頼厚い小納戸頭取永井元重は、失敗したときに孫の恩人を守るため、策を巡らし、息子と二人だけで藩主の手術・療養を乗り切ることにする。

    医師を志したことがあり、世の中の流れにも敏感で、思慮深く、柔軟な思考をもっている元重。先進的な考えを持つ英明な若き藩主。父と同じく医師を志したことがあり、息子の療養に際しても妻を守り、夫婦協力することを当然と思う重彰。芯の通った聡明な母と妻。良心的な名医向坂。
    どこをとっても悲劇になりそうもないのに、静かな語り口が不穏を孕む。

    そしてあってはいけない出来事が起こる。

    遺書で全ては明らかになるが、が!
    結局のところ自己満足にしか思えないのは仕えるべき主をもたない、現代人だからか。
    聡明で柔軟だと思えた人が犯した二つの罪。二つめはずるいなとすら思ってしまう。封建制の呪縛からまだ逃れられない世代というべきか。

  • 「本売る日々」に続いて2冊目の作品。武士としての生き方の第一はなんとしてもその当主を守ることなのかなと感じました。自分の家族よりも重き置くというのは、現代社会の価値観で考えると理解に苦しむ一端もありました。私息子も先天性の腸の病気があり、この時代に生きていたら、とても耐えられない状況に置かれたのかなと思います。鎖肛の孫や息子を護ろうとする凛とした女性たちの生き方には感服しました。

  • 昔の医者の話かと思ったら違う方向に。

  • 藩主の痔瘻の治療や新生児の鎖肛など、肛門の話を扱った小説は稀でありながら興味深く読ませてくれた。
    御城の小納戸頭取を勤める永井元重は、藩主より絶大な信頼をよせられていた。藩主の治療に必要な麻酔は、この時代には蛮夷として忌避されていたが、医師の向坂清庵は痔瘻手術に麻酔を使ったのだったが…。
    藩主を思う元重は様々な思惑、恩義、葛藤を抱えていたが、譲れない事象の為に家族の思いを裏切り自戒の念に苛まされる。
    苦しみながら父がしたことを捉える息子の心情が、感情を抑えながらも沁みるように感じさせる結末だった。

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著者プロフィール

作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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