紙屋ふじさき記念館 あたらしい場所 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041141397

感想・レビュー・書評

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  • このシリーズ7冊目。でもって完結巻ということのようね。

    いよいよ藤崎産業の社員となった百花が同期の3人と一緒に記念館の移転開館に向けた道筋をつけていく様子が描かれる。
    その過程では、飯田や美濃など今まで訪れた場所、物語ペーパーや組子障子のカードをはじめとしたこれまで創ってきたグッズ、三日月堂やモリノインク、文字箱などの関係した先々のことが現われ、紙こもの市も再開されるなど、まるでシリーズ総集編の趣。
    物語としては、なんだかツール・ド・フランスの最終日のパレード走行を思わせる、全体的に緩い感じの話になってしまったが、折々にはこのシリーズらしい慎ましやかでもホッとする話も織り込まれていて、ずっと読み続けていた者としてはまずまず面白く読めた。

    在りし日の父が隣で眠っている妻のお腹の中の子どもに語りかける情景や道草書房の社長が語る子どもの名前に対する親の思いにはホロリとする。
    そうして生まれた百花は相変わらず自己肯定感は低めだが、それでも与えられた役割を『やるしかない』と受けて立てるようになって、父が『よく生きる』と遺した、少しでも良い方向に進もうという生き方がしっかり受け継がれていく様が好ましい。
    ついでに言えば、一成も自分のことを『世間の標準から少しずれている』と語るようになり、最初の巻からするとふた皮くらいむけたみたいでほっこりする。

    第5巻の感想に、コロナ禍について『このお話にわざわざこの話題を入れるか』と書いたが、それを乗り越えこれまでとは異なる新しい生活様式を作り定着させつつある今、『和紙とともにある暮らしを提案する』という新記念館のコンセプトに象徴される、伝統を守りながら発展させていく様々な取組みを描いてきたこのシリーズの志はピタリと嵌ったようにも思った。

  • シリーズ完結編。
    前作で藤崎産業に入社が決まった百花が、藤崎産業に入社して、新しい記念館をオープンするまでの2年が急ぎ足で描かれる。
    正直、あと2作ぐらい分けて描いてもいいのでは?と思うところもあったけど、オープンまでにクリアしなければいけないタスクと、コロナが落ち着いて、徐々に取り戻していく日常と、百花の亡くなった父の本の再刊行と、いろいろな出来事が並行して描かれており、かなり読みごたえはあった。
    コロナで会っていなかった一成も、創業家の一員として、かなり自覚が出て来て、1作目に比べて、百花以上に成長したなぁ、と感じた。
    ここ最近作者のシリーズ作品が完結を迎えるものが続いているが、これまで各シリーズに登場した人物も勢ぞろい感もあり、ファンならば堪らない完結作となるだろう。
    紙の話もすごく勉強になったし、時折出て来る飯田や美濃の情景ある描写も好きだったので、終わってしまうのはかなり寂しい。

  • ほしおさんの文章は、細かい技術的な説明も、登場人物の言葉としてすっと入ってくる。主人公の成長ものがたり、少し駆け足と感じる部分もあったけれど、コロナ禍だからこその内容でとても良かった。

  • 今作で完結。
    新しい仲間と新しい記念館を作り上げていく過程は楽しい。今までの記念館の歴史を振り返る感じではあった。
    またここから新しいシリーズができそうな気もしますが、どうでしょうねえ。

  • 無事藤崎産業に入社した百花が、新記念館の開館に向けて奮闘します。

    前作では現実世界と同じくコロナ禍の中でもがく様子が綴られて、果たしてどうなるのかとくるしくなるような思いだったけれど、それが綺麗に取り去られた、爽快な完結でした。

    ほんとにこれで終わりなの?って思うくらいに、これからも、と未来を想像させる終わりで、百花たちのこれからは続いていくけど、その様子が読めないことがさみしいです。

  • シリーズ七冊目にして完結巻。物語の途中からコロナ禍の現実がなだれこんできて、世は自粛自粛、記念館の閉館セレモニーも中止になってしまい。そこからの新記念館の候補地探し、開館準備室の立ち上げ、意欲的で有能な同僚たちとの出会い、薫子さんのアドバイスにも力を得て、和紙の良さをつたえるために奔走する百花。最後は、無事、新記念館がオープンするところまでが描かれて、大団円。これからもっと、という思いを胸に抱いて。和紙への思い、ものづくりへの思い、素直に好きなことをつきつめて、好きなことでつながる世界-それでいて無理に恋愛方向にもっていこうとしない-が描かれたやさしい世界にひたることができた。

  • なかなか辛かったです…

    半分くらいは、前回までのおさらい、という様なストーリーで、とにかく話が進まない。
    そこから徐々に進むが足踏みで、残り30ページが一気にイベントへ。

    これまでがあって、新しいふじさき記念館がある。
    これまでの百花があって、藤崎産業の百花がある。
    というのはよく伝わった。

    もう読みたくないかなと思ってしまった…

  • 紙屋ふじさき記念館終わってしまいましたね。
    まあ話的にはこれから始まるですが。
    紙も小物も文具も好きなので本当に楽しかったです。こもの市に行きたくなったし、水引もその本も買ってしまいました。
    本当に文具やその周りの物が何て魅力的なんだろう。先人達の日々の研鑽と努力が今でもその物達を輝かせていると思いました。
    このシリーズは終わってもまた別の話で記念館の人達と会えると信じて待っています。

  • 紙に関係する事がふんだんに盛り込まれた物語でした。著者の紙に対する想いが感じられ、自分も少し愛着が出てきたかなと思ってます。シリーズ完結は残念だけど、また別の物語で登場人物に会えたらいいなと思う読後でした。

  • いよいよ最終巻。

    百花は藤崎産業に入社し、新しい記念館準備室に配属される。
    記念館は川越にあり、古い商家をリノベーションしたもの。
    同期の本宮さん、松岡さん、烏丸さんと、アイディアを出し合いながら、内装やどんな内容にしていくかを決めていく。

    この雰囲気は、これまでの学園祭の時の雰囲気や、月光荘の終りの方とも似ている。
    これまで出てきた人々だけでなく、他の作品にも出てくる人(例えば三日月堂の弓子さん)なんかもちらっと出てきて、いかにも「大団円」な感じが演出される。
    ・・・人が多すぎて、これって誰だっけ感が否めない。
    他の皆さんはもっとこのシリーズを読みこんでいて、困らないのだろうか。

    この間まで紫式部の職場生活を読んでいたせいか、新入社員の同期の間の軋轢が生まれたりしないかと思ったりもした。
    一人だけバイト出身で、創業家の一成とつながっているという立場は、紫式部の場合のように攻撃されやすい気がしたのだ。
    が、この作品に限って、そういうドロドロはない。
    みんな大人で協力的。
    クリーンな物語だった。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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