懐かしい家 小池真理子怪奇幻想傑作選1 (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041494189

作品紹介・あらすじ

夫との別居を機に、幼いころから慣れ親しんだ実家へひとり移り住んだわたし。すでに他界している両親や猫との思い出を慈しみながら暮らしていたある日の夜、やわらかな温もりの気配を感じる。そしてわたしの前に現れたのは…(「懐かしい家」より)。生者と死者、現実と幻想の間で繰り広げられる世界を描く7つの短編に、表題の新作短編を加えた全8編を収録。妖しくも切なく美しい、珠玉の作品集・第1弾。

感想・レビュー・書評

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  • ホラー作品の路線は大別すると、絶叫系のテンションの高いホラーか、秘めやかに忍びよるような静かなホラーに分かれると思うのですが、この『懐かしい家』に収録されている短編たちは概ね後者の印象。怖さ・不気味さの中にどこか格式高さというか、上品な怖さや哀しさ、憂いや寂しさを感じた気がします。

    ピアノ教室の先生である語り手と、老婆とその孫を描いた「ミミ」
    夫と別居し、かつて住んでいた家に一人暮らしすることになる女性を描いた表題作の「懐かしい家」
    設定は違えど、生者と死者の距離が曖昧になり、そして生死の概念を超えた人の孤独を浮き彫りにします。

    周囲の人間が死に瀕した時にだけ現れる蛇口。その蛇口が見えてしまう男を描いた「蛇口」は、描写の不気味さが見事だったなあ。この蛇口をひねると流れてくる水は、その人間が死ぬか、それとも生き延びるか教えてくれるのですが、蛇口から流れる水の描写の不気味さがたまらない……。

    タクシーに乗った人物をどこかへ連れて行ってしまう「車影」
    ふとした瞬間に生に疲れ、死に誘い込まれそうになる怖さを、一つの物語として上手く昇華されていると感じました。語り手の涙が話に、また一つ情緒を与えてくれているように思います。

    「くちづけ」は夏目漱石の『夢十夜』を読んだときのようなイメージ。物語のイメージはところどころでしか掴めないのですが、そのイメージと繊細で美しい文章にわけが分からないながらも引き込まれます。
    そして語り手の目覚めと共にその夢の儚い美しさと、人を愛してしまったゆえの哀しさの対比が心に残る。
    この短編集の中でも特に短い短編なのですが、美しくも切ない幻想的なイメージが、強く印象に残りました。

    別段派手な話という感じではないのですが、いずれの短編も切り取り方、見せ方、そして文章の技巧が光った短編集だったと思います。

  • 小池真理子は恋愛小説意外では初めて。
    これがかなり面白かった。

    彼女の描く恋愛小説では、男女間にあやうく孕む狂気が関係を破綻させていくことがあるけれど、このホラー短編集の狂気はそれとは異質で、「あっちの世界」のものだ。

    過去に死んだ不倫相手が、違う男の背中に現れる、エロティックな「公平の背中」や、とつじょ壁に現れる蛇口をひねるとおどろおどろしい液体がほとばしり、身近な人の死を伝える「蛇口」など、不気味で印象的な作品が8編収められている。どれも出色の作品なので、これはコストパフォーマンスの高い一冊だ。

    著者のホラーをもっと読んでみたくなった。

  • 切ない話とホラーのバランスがとても良かったです。
    世にも奇妙な物語で放映された話もあって、懐かしい気持ちになった。康平の背中が不気味で好き。全体的に妖気じみていていいですね。楽しんで読ませていただきました!

  •  小池真理子さんのホラー短編小説アンソロジー。初出誌は巻末に記載されているが、年代が全部は載っていない。「1991年」と「2011年」のものがあることだけは分かるので、その辺りの頃、と推測するしかない。
     とても良い作品集だった。抑制された堅実な文体で淡々と醸し出される「恐怖の」イメージが、美しい。もう少し文章が磨かれれば、泉鏡花とまでは行かないまでも彫琢されれば、これは立派な芸術作品になると思う。
     ただ一つ、「蛇口」だけは、ストーリーは悪くないが文章が良くなくて、1991年の作だからもしかしたら作者のごく初期のものなのかもしれない。
    「ミミ」のような、一種の詩情さえ湛える形象の美しさを、更に「言葉」それ自体の輝きと共に構築できれば、それは素晴らしい芸術になるだろう。

  • 他のアンソロジー読んで、小池真理子さんのホラー短編をもっと読んでみたくなったので。落ち着いた柔らかい筆致で描かれる日常に、すっと異常や狂気が滲んでいる。全体的には怖さは控えめで、喪失と愛情をテーマとした感傷的な作品群となっており、切なさにぐっとくる短編集。
    特に『ミミ』や『懐かしい家』では、失った者への愛情や哀しみが丁寧に描かれる。
    『蛇口』は、不吉な蛇口が現れると誰かが死ぬというホラー色の強い作品。唯一男性の語り、似た系統の作品集の中でアクセントを出している。

  • 突然、壁に現れる蛇口をひねるとおどろおどろしい液体がほとばしり、身近な人の死を伝える「蛇口」
    これが一番、怖かった。小池真理子ってこんな作品もあるのね。

  • 2018 3/2

  • 読書会で小池真理子ぜひ読んでみて!と強くお勧めされたことがあり、初めて読んでみました。ものすごくよかった。どの作品も引き込まれた。ひとつ読み終えると、すぐ次のを読みたくなったけど、夜寝る前に読むのは、怖くて無理Σ(゚д゚lll)怖いけど、憧れる場面ばかりでした。懐かしい家は、映画異人たちの夏を彷彿させられた。あれもすごくよかったな。怖いけど、そっちに行ってしまう感じ、切ない。哀しく愛しい。

  • 怪奇小説とホラー小説をあえて区別するなら、本作は怪奇の方。怖さ酷さは少なめで、物悲しくて薄ら寒い感じ。TV「世にも奇妙な物語」的な短編が揃ってます。

    特に「康平の背中」に出てくる醜い子供が不気味。老人のようなしゃがれた声で「まんじゅう、くれえ」と叫ぶ。何者なのか、なぜ「まんじゅう」なのか詳細不明。ただただ不吉で禍々しい空気は、映画「呪怨」の俊雄を彷彿とさせる。

  • 表題作の「懐かしい家」がたまらなく良い。縁側のある和室も応接セットが置かれた洋間もある昔ながらの和洋折衷の家、という表現に、今はもう無い親戚の家が具体的に蘇るようだった。短いが「くちづけ」も良かった。

  • 夫との別居を機に、幼いころから慣れ親しんだ実家へひとり移り住んだわたし。すでに他界している両親や猫との思い出を慈しみながら暮らしていたある日の夜、やわらかな温もりの気配を感じる。そして私の前に現れたのは…(「懐かしい家」より)。生者と、死者、現実と幻想の間で繰り広げられる世界を描く7つの短編に、表題の新作短編を加えた全8編を収録。妖しくも切なく美しい、珠玉の作品集・第1弾。

  • 悪意や憎悪とは違う暗さが怪奇が素敵でした。

  • 小池真理子さん、初読み!
    ホラー短編集ですが、全くグロい描写もキモイ描写も突然何かが襲ってくることもなく、じんわりと怖い。映像は静かで薄暗くてノイズが入っている感じ、BGMは無い。おお、これぞジャパニーズ・ホラーなのか。『ミミ』,『神かくし』,『首』,『蛇口』,『車影』,『康平の背中』,『くちづけ』,『懐かしい家』の8編収録。

    『神かくし』と『蛇口』は途中でオチが見え始めてしまったけれど、文体とじめっとした雰囲気が嫌いじゃない。純粋に面白いと思って読んだのは、不思議な少女がピアノ教室にやってくる『ミミ』、死別した愛する人がやってきたのにこちらを向いてくれない『康平の背中』。
    そして『くちづけ』は大変短いのになんだか美しくて声に出して静かに読みたくなります。絵を描きたくなります。夢十夜を思い出すのは私だけではないはず。

    続編も読もう。

  • 短編集。

    副題にもある怪奇幻想という言葉がしっくりくる。
    いわゆる怪奇現象は、平凡な日常の片隅に当たり前のように潜んでいて、いつでもその深く暗い穴をぽっかりと空けて、我々を待ち構えている。
    落ちるか否かは人智の及ばぬ領域である。

    なんて感想を抱いたが、どの作品も怖くなく驚きもしない。ただ平坦な物語の進行があるだけ。
    お世辞にも面白くはない。

  • しっとりとした雰囲気のホラー短編集。じわっとぞくっと怖い物語が多いのだけれど、「ミミ」や「懐かしい家」なんかは、どこかしら優しさを感じる部分もあります。異形のものとわかっていても、つい肩入れをしたくなってしまうなあ。
    お気に入りは「車影」。かなり分かりやすいホラーなのだけれど。ラストに残る思いがなんともやりきれません。

  • キモい。怖い。そして面白くもない。

  • 小池真理子特有の落ち着いた柔らかな文体と、最後にぞくっとさせる話の進め方が上手い。でも短編なのでさくさく読めるところが魅力。

    続編も期待。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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