- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041913048
作品紹介・あらすじ
"2年前の未解決殺人事件を、再調査してほしい。これが先生のゼミに入った本当の目的です"臨床犯罪学者・火村英生が、過去の体験から毒々しいオレンジ色を恐怖する教え子・貴島朱美から突然の依頼を受けたのは、一面を朱で染めた研究室の夕焼け時だった-。さっそく火村は友人で推理作家の有栖川有栖とともに当時の関係者から事情を聴取しようとするが、その矢先、火村宛に新たな殺人を示唆する様な電話が入った。2人はその関係者宅に急行すると、そこには予告通り新たなる死体が…?!現代のホームズ&ワトソンが解き明かす本格ミステリの金字塔。
感想・レビュー・書評
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’21年11月4日、読了。KindleUnlimitedで。本当に久々に読んだ、有栖川有栖さんの、長編。
楽しかった…もう、ただそれだけ、それ位、有栖川さんの作品が好きです。なんだか、どれを読んでも「優しさ」を感じます。どんなに残酷な殺人事件でも。
この作品も、そういう意味で、有栖川さんらしいなぁ、と僕は感じました。ズバッと「愛」が語られる、解決編…そこに、いつもの火村の、氷の様な「怒り」。
論理的には、いつものキレは感じなかったけど…久々に、有栖川有栖さんを満喫しました!あと何作、未読作があるかなぁ…(╥﹏╥) -
臨床心理学者・火村英生は教え子の貴島朱美から「2年前の未解決殺人事件を調査してほしい」と依頼を受けた。その事件は、朱美が抱いている「夕焼けへの恐怖」とも繋がっていて──。
火村英生が探偵役を務める作家アリスシリーズの一作。2016年放映のドラマを見ていて、読みながら内容を思い出して懐かしくなった。火村に事件を解決してもらいたくてゼミに入ったという朱美。彼女の中に眠る6年前の放火事件と夕焼け色への恐怖の謎。未解決事件の再調査へと臨んだ火村とアリスは、新たな殺人事件へと直面する!3つの事件が重なり合う長編で読み応えあり。最初の幽霊マンションの仕掛けから、読者はすでに試されている。
作品全体を覆う夕陽の匂い。地平線に血を流しながら沈む生命のようでもあり、過去の情景を焼きつけたフィルムのようでもあり、思わず祈りを捧げたくなる神々しさすら感じさせる。ノスタルジックで、どこか不気味で、そんな人間を染め上げる朱色を、文章から想像させる筆致はさすが。その鮮やかな朱色によって浮かび上がった動機の影。純粋すぎて屈折した感情(という名の信仰)も味わい深い。まあ、そこまでするか?とツッコみたくはなる(笑) あの動機は当てられないなあ。
登場人物が朱美の伯父やいとこなどが多くてわかりづらいのと(家系図ほしい)、事件も三重構造なので複雑。もうちょっと盛り上がるかなと思ったけど、地味な手がかりを積み上げて過去の真相を手繰り寄せるのは面白かった。あと、アリスと朱美の「なぜ推理小説では人が殺されるのか?」という問答が好きだったので、引用しておきます。こういうキャラの語りも魅力的。
p.228~230
「私が思うに……殺人事件がテーマだと、死体が登場するわけですよね。死体とは、『あなたを殺したのは誰ですか?』と問いかけても、それに答えて語る能力をなくした存在です。窃盗事件や詐欺の被害者やったら、なにがしかの情報を自ら提供してくれるけれど、殺人事件の場合にそれは期待できない。死体──死者は、こちらがいくら問いかけても絶対に答えることがない。その不可能性が鍵のような気もします」
「不可能性が強い分だけ、物語が緊張して面白くなるということですね?」
「ええ、そうなんですけど、推理小説が持つ独特の切ないような興趣というのがあるんですが──いや、ここは主観的にしゃべっていますから、考え込まないでください──、その魅力の説明としては不充分でしょう。殺人事件を扱った推理小説の不可能性というのは、換言すると、いくら問いかけても答えないものに語らせること、ではないかと思うんです。問いかけても答えないと確信しているものに、答えてくれないと確信しながらなお問いかけるというのは、切ない行為だと思いませんか?」
朱美は曖昧に頷いている。
「そして、これほど人間的な行為もないかもしれない。人は、答えてくれないと判っているものに必死に問い続けます。その相手は、たとえば神です。何故、世界はこのような有様で『ある』のか? 人はどこからやってきて、どこに行くのか? その短い旅の意味は何なのか? またあるいは、問いかける相手は運命です。何故、私はこのような不運に見舞われなくてはならないのか? どこで道が分かれていたのだ、と。あるいは、失われてしまった時間に問いかけます。邪馬台国はどこにあったのか? ぼんやりと幻のように残る大切な記憶をどうしたら取り返せるか? 死者にも問う。私を本当に愛してくれていましたか? 私を赦してくれますか? 泣いても叫んでも、答えはありません。相手は決して語りません。それでも、また問うてしまう。──そんな人間の想いを、推理小説は引き受けているのかもしれません」
「だから、人が死んで──」
「謎は解け、真相が引きずり出されるんです」
轟々という音をたてて、列車は鉄橋を渡る。紀ノ川だ。
「だから、推理小説は人を殺すんですか。お話を伺うまで、推理小説がそういうものだとは知りませんでした。探偵は巫女になって神の声で語り、象徴的に世界に意味を与えてくれるんですね?」 -
初っ端から火村先生&アリスに挑戦状を叩きつけるような事件。
そんな始まりのわりに事件は地味だなぁと思っていたら、思ってたよりも大胆な犯人だった。
流石に過去の事件は解決するにも手がかりが…な状態から、突然の閃きと推理。
最後はあっという間に全ての事件を解き明かしちゃう火村先生、流石でした!
今回はアリスの推理小説に対する考え。
それに『海のある奈良の死す』での火村先生が見る悪夢の内容を知ることが出来たので、ミステリだけでなくキャラクターへの興味も満たせて良かった。 -
火村英生シリーズ8作目。
動機が弱いという感想がよく出てくる作品ではありますが、
人間なんてどんな動機で何をしでかすか分からないので、いいんじゃないでしょうか。
今回は火村先生の内面に少し触れる部分もあり、読み進めると面白いものが出てきそうだなと思わされる回でした。 -
久しぶりの火村シリーズ。初期の作品で火村の犯罪者に対する想いが聞ける稀有な回でもある。肝心のストーリーは長編ならではの旅情性と2人の掛け合いが十分に楽しめて良かった。解説でも書かれていたように「どちらへ転んでもいいトリック」というのが秀逸で他にあまり例が浮かばない。だが、犯人の殺人の動機だけが解せない。流石にそれで犯行には及ばないだろうと思えてならない。有栖川作品の初期に見られる物語全体を覆うセンチメンタルな雰囲気(今風ではエモい雰囲気)が何とも物悲しく、これぞ本格ミステリの王道とも言える。
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一章から火村さんもアリスもずっと一緒。そんな始まりが好みだった。夕焼け、極楽浄土、風景、、火村さんとアリスの掛け合いがとても良かった。