山師トマ (角川文庫 リバイバル・コレクション K 48)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (113ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042047032

感想・レビュー・書評

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  • 賛否あるけど、私はめちゃくちゃ好きな作品。
    コクトーっぽくない作品のように見えるんだけど、主人公の嘘つきサイコはやっぱり最後は悲惨に終わるあたりは、コクトーだなと。

    読んだのが学生の時だった事もあり、
    嘘って通し続けたら、いずれ本物になる!
    なるほどね、悪くないね、新しい考え!
    って、短絡的な解釈をしたのを覚えてる。

    何が虚で何が実なのか?
    それを決めるのは、本当は誰なのか、何なのか。
    嘘は悪なのか?本当に?
    嘘の上に成り立つ人生は全て作り物なのか?
    そこにある生きた証を否定できるのか?

    「死んだ真似をしなきゃ殺られてしまうぞ」
    この言葉の真の意味とは。

    立場が変わった今、再読したらどう感じるのだろう。
    気持ちが上書きされる前に、感想を書き残してみました。

  • <無駄なく濃密にして完璧な傑作!>


     ピュアゆえに危うい少年が織りなす幻惑と冒険の書☆
     とある公爵夫人が、戦時中に出会った少年トマ。彼は貴族の一族が名乗るはずの名を名乗り、自らが有名な大将軍の甥だというストーリーの中に生きて、リアルな戦場におもむくのでした。虚言癖がひどい16歳の大暴走が止まりません★
     頭が切れて行動力もあるトマは、周りをほぼ信じさせて軍隊で才覚を発揮します。その実、彼の虚言に気づいた大人もいたのですが、好きにさせておいたほうがメリットがあると踏んで……!?

     トマは、自分が作り出した物語を信じているようにも見えるし、自らの行動によって妄想を事実化していくようでもありますね。
     虚構と現実のあわいに張られたタイトロープを渡っていくトマ。そのすばしっこさ、スリリングな選択の連続を書き方によって表すかのごとく、スピード感あふれる文体が印象的です! そういえば私、学生時代に「この本、薄いから安いなぁ☆」という、とんでもない理由で買ったんだったな……。本書が物理的に薄いのは、展開が完璧で無駄がないからです。中身は凝縮されていて、むしろ濃密です★

     コクトー小説の前作『恐るべき子供たち』では、狭い部屋が小宇宙と化してゆく神秘性、どこまでも閉じていく雰囲気に魅了されたことが思い出されます☆
    『山師トマ』もまた、美しい自己完結の作品ですが、外世界へ飛び出していった彼は、より危険に身をさらしていたと言えるでしょう。意外なところであっけなく崩壊の危機を迎え、その瞬間、トマは見事に自身を欺く芝居を打って出るのです……!

     トマ最後の一言は相当有名らしいので、引用せずにおきます。ここで安易に「鳥肌が立った」という表現を使うのは避けたいが、ふつふつと肌の上に起きた変化を他にどう言い表せるのでしょう。鮫肌かな……!? 幕を落とす(下ろすというよりは落とす感じ☆)ときの軽やかさ、鮮やかさが、最後まで完璧でした。

  • ◇コクトーの第一次世界大戦小説。セリーヌと併せて読むと面白い。

  • 裏面のあらすじは魅力的だったのですが…
    個人的には非常に読みづらく、訳が古いこととは関係なく悪文であるように感じました。

    読点がやたら多く、文章からイメージを想起することが困難であったため読み進めるのにかなり苦労しました。

    他に訳も出ていないようなので、光文社古典新訳文庫あたりで新訳が出ることを願います。

  • 丸善は現在、映画「人間失格」のポスターが
    いっぱい貼ってあります。
    この、太宰役の子、かわい過ぎ・・・

    閑話休題、こっちのトマもなかなか魅力的。
    でもそれ以上にコクトーの文章が素敵。
    翻訳もいいんでしょうが(河野好蔵氏です)。

    解説氏がどこかからの引用で
    贅肉がなさ過ぎで、骨が透けて見えそうな文体だ、
    みたいなことを挙げていました。然り然り。

    やたら見得の多いお芝居みたいな感じで
    読み進めません ^^

    泥地の歩きにくさを
    「乳母のように大きい接吻で捕らえようとする」
    なんて言ってました。

    実家にあるのは
    「リバイバルコレクション」とかで金ぴかピンの
    悪趣味極まりない表紙でしたが、図書館のは違いました。
    復活文庫、みたいなの。

  • 再読。自分が持っているのは角川文庫のリバイバルコレクション、金ピカのカバーのやつなんだけど、表示されないから通常のクラシックスバージョンで。コクトー自身の従軍の経験から書かれた1冊。

    タイトルは山師=詐欺師だけど、ギョーム・トマは意図的に誰かを騙して利益を図るために嘘をつくわけではないので、どちらかというと彼もまた一種のアンファンテリブル。無邪気な子供が「~~ごっこ」を楽しむのと同じ感覚なので、虚言癖ですらない。そして大人になりきれないまま彼の人生は唐突に幕を下ろす。怖るべき子供たちと描かれていたことは同じなのかも。

  • トマ、彼は一体誰なのか?真似をし、それを演じる詐欺師であるが、そこに悪意はなく、あくまで無邪気に詐欺を働いている。だからこそ皆はトマを信用する。
    トマの臨終の場面は切なさが立ち込める。最後まで詐欺を働こうとし、死を演じるようとする。死に対するトマの無邪気さはコクトー独特の観点に基づいている。悪意のない悪は悪なのか善なのか、それともどちらでもないのか。
    またコクトーは小説の主人公にあるゆる面で無知を与えている。その無知が何をもたらすのか、無知ではなくなったときどうなるのか、コクトーはそんなことを描くことが多い。

  • いかにもコクトーらしい、芝居がかった物語。
    出てくるキャラクターは芝居の一登場人物として、役割を演じるためだけに付けられたパーソナリティであり、人物としての深みを感じさせるものではない。コクトーは物語という形式ではあるが詩情にその重点を置いている。
    芝居には詳しくないので上手くは言えないが、芝居を見に来た観客を煽るような文体だった。読みにくい、かもしれない。一語一語に力と意味があり、さらさらと読み進めるには随分と濃い文章だったと思う。
    「恐るべき子供たち」にもあったコクトー独特の死に対する無邪気な興味みたいなのが本作品でも強調されていて、主人公のトマはどうしても死を悲壮なリアリティーあるものとしてとらえられない。そこでトマは無邪気に死と戯れ、死を知らぬまま死ぬことになる。戦場はそのような人間の死に対する感情を鈍化させるような舞台として一役買っていたのではないか。

  • 無邪気な詐欺師トマは嘘つきの羊飼いに似ている。

  • 100625(n 100705)

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著者プロフィール

(1889年7月5日 - 1963年10月11日)フランスの芸術家。詩人、小説家、脚本家、評論家として著名であるだけでなく、画家、演出家、映画監督としてもマルチな才能を発揮した。前衛の先端を行く数多くの芸術家たちと親交を結び、多分野にわたって多大な影響を残した。小説『恐るべき子供たち』は、1929年、療養中に3週間足らずで書き上げたという。1950年の映画化の際は、自ら脚色とナレーションを務めた。

「2020年 『恐るべき子供たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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