- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784043689033
作品紹介・あらすじ
「一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております」。夏は着古したランニングシャツ、冬は野良着のような作業服、いつもすりきれたズボンをはいていた隻眼の男、山崎方代-。家族も持たず、定職にも就かず、始末のつかない自分に悩みながら笑いとペーソスの文芸に磨きをかけた孤独と無頼の日々、そして一度だけあった「本当の恋」とは?虚言と奇行を繰り返しながら、短歌一筋に生きた異端の歌人に迫る。
感想・レビュー・書評
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「一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております」、「こんなにも湯呑茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり」などで知られる山崎方代。その生涯が膨大な取材を通じて明らかにされている。特に晩年の鎌倉在住時代についての記述は詳しく、無頼派の方代に振り回されつつも世話する周囲の人々も魅力的。「本当の恋」の実際が明らかにされてく過程もスリリングだった。
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一気読みの一冊。
こんなに面白い人がいたのかと驚かされた。
破滅・漂泊型の歌人でありながら、その歌は独特のユーモアとペーソスがあり、どこか優しい。
そんな歌人の評伝。実際に方代の艸庵(という名のあばら屋)に泊まった作者の経験が生きている一冊であった。
再購入2011/08/23(JPN450) -
おのずからもれ出る噓のかなしみがすべてでもあるお許しあれよ
山崎方代
多くの評伝を手掛けたノンフィクション作家田澤拓也は、山崎方代をスローライフの達人と呼ぶ。しかも方代は、〈山崎方代〉なる異端の歌人像を、全身で演じた人物でもあった。
1914(大正3)年、山梨県生まれ。26際で応召後、チモール島で顔面に爆撃を受け、右目を失明。左目の視力も衰え、傷病兵として敗戦の日を迎えた。だが、戦争のことは語らず、歌作を生の糧とした。
定職にはつかず、妻も子もなく、晩年は歯もなくなっていた。昼から冷や酒をあおる日々だったが、巧みな話術は人々をおのずと引き寄せた。住まいも知人が提供してくれ、晩年を過ごした鎌倉では、山菜などを採っては知人たちにふるまう自由な暮らしぶりだったという。
一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております
この代表歌は、和歌山に住むある女性への恋と言われているが、その逸話は方代自身が作り上げたものらしい。だが、みずから伝説を創作した背後に、「オレは、いまにも自殺しそうな人にオレの短歌を読んでもらいたいんだ」という言もあった。
こんなにも湯吞茶碗はあたたかくしどろもどろに吾はおるなり
語り口調で心にしみ入る作風は、ねばり強い推敲の成果でもある。掲出歌のような「かなしみ」を知る方代の歌だからこそ、疲れた現代人にも響くのだろう。
85年に肺がんで没。享年71。枕の下には600万余の貯金通帳が残されていた。
(2012年5月27日掲載)