やがてヒトに与えられた時が満ちて… (角川文庫 い 58-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043820016

感想・レビュー・書評

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  • 「楽しい週末」でも思ったけれど、そうかも知れないと思いながら何度も読んでいます。
    最初の単行本が出てから17年経ちますが、読むたびに、当時より一層の凄みを感じずにはいられません。

  • なんと、SFだったよ。読み始めて分かったのだけれど。そして、面白い。

  • 宇宙には始まりがあり、終わりがある。宇宙もまた世の中のすべての存在と同じく、存在である前に存在である以上に現象だった。
    銀河系などの宇宙を構成する要素は膨張のために互いに遠ざかり、やがてはそれぞれの存在を相互に認識できなくなる。ただ無意味な空虚だけが残る。
    地球は人間の知的活動の範囲をはるかに超えてすごいシステムだった。
    それが私の仕事だったのだ。私の人生の意義であり、最も楽しい仕事であり、他人から期待されていることだったのだ。誰の人生にだって意義が必要ではないかね?なすべきことをみつけてそれを実現する過程を人生と呼ぶのではないかな?
    意識があることに気づいたのはいつだったろう。あ、自分だという不思議な思いがまず来て、私は私だとわかった。
    自分が置かれている状況がまるでわかっていないにも関わらず恐怖心がないことを私は意識する。
    創造性は不均一から生まれる。

  •  この小説は、凄い。人生観が変わるほどの衝撃を久々に味わったかもしれない。冷静に上手く書評が出来ないほどだ。これまでも池澤夏樹の本はたくさん読んできたし、美しい話も温かい話もうなるような話も心に響く話も体全体、心全体で目一杯享受してきた。池澤夏樹が用意した物語という列車に乗って、色んな風景を、色んな人たちを見てきた。それでも、今まではどこか池澤夏樹本人の、美しい文章を書く技量に魅了されていた節がある。

     しかし、この小説は明らかに違う。池澤夏樹から小節という媒体を使って、確実に自分自身の人生観を、死生観を変える程の衝撃を受けた。ただ他人の思考を追体験するのではない。この本は小説であり、池澤夏樹自身の思弁であり、同時に自分自身の代弁であり、ひいてはヒトの行く末だ。スケールが大きすぎて、これ程の話を収拾させるということは生半可なことではない。著者自身の文庫版あとがきにもあるように、池澤夏樹がこの小説を書くに至った要因はいくつかある。しかし、考え得る要因にそれ程の意味はない。これはもう書かれるべくして書かれた小説なのではないか、と思う。池澤夏樹という『ザンジバル』が、ヒトのメッセージを『そっちにいるあなた』に送るために。

     構成としては、「星空のメランコリア」の4編がおそらく後の表題作のプロット的な役割を果たしているのだろうが、この2つが同時に同じ本として刊行されたことも大きい。前半は日本放送出版協会が、後半は河出書房新社が刊行したもので、本来、別々の本として世に出ているものだ。しかし、角川書店の努力により、こうして1つの文庫に収まっている。人為的配慮が働いているにせよ、この必然も作品が生まれたのと同じくらい自然だ。そして、この2つの作品がこの文庫を手に取ったヒト(自分も含めて)に同時に伝わることが圧倒的に価値のあることだ。

     ここで内容に関して論じるのはおそらくナンセンスだろう。きっと自分はこれから何回もこの本を読み返す。読み返しては気付き、気付いては読み返すだろう。とにかく、初見の今確実に思うことは「とてつもない小説に出会ってしまった」ということだけだ。

  • 私の大好きな池澤夏樹氏のSF小説です。
    小説の中にちりばめられている池澤氏の宇宙観、文明観を、自分の頭の中で反芻すると、種としてのヒトについて、深く考えさせられるものがあります。


    地球温暖化、自然破壊、戦争と飢え・・
    これらは、人間が生きるということ以上に、個人の快適と快楽を追い求めた結果生まれたもので、最近はその反省のせいか、地球に優しくなろうという風潮も見られるけれど、
    結局は、自分達の進化と幸福を一番に求めてしまうのが人間の性なら、今後も地球環境がさらに悪くなっていくのを止めることはできないような、不安を感じます。

    しかし一方で、どうにかなるさ、と楽観的に構えている部分が自分の中にあり、その不安を実感として感じられていないのも事実です。

    楽観的になるにせよ、悲観的になるにせよ、ヒトに与えられた時に限りがあることに変わりはないのだと思いました。

  • SF小説の体裁をとっているけど、むしろ小説の形を借りた、起こり得るひとつの未来予想的な印象。
    いや、未来をテーマにしたSFって皆そうなのでは?とも思うけど、それとはちょっと違う。
    何が違うかというと、うーん、悪い意味でなく、物語性の乏しさか。世界の転換的なことが起きているのに、実に淡々と進む。主人公がそういう性格だからかもしれないけど。

    あくまでSF小説として読むなら、結局ラグランジュ氏は何だったのか?ヤウンデはその後どうしたのか?というあたりが不満。

    でも、こういう静けさは、池澤さんらしくて好きだ。

  • あとがきにもあるように”サイエンス・フィクションであると同時に、スペキュラティブ・フィクションでもあるSF”である。

    奇想天外さはなくオーソドックスな設定。すこし教訓的。途中からストーリーは溶けてゆき主人公の思索と問わず語りになっていく。

  • i always be confused for the COSMOS. Decult said (゜ I think, therefore I am. ロ゜) the author said 'i don't think, therefore nothing.' Uhmm, deep insight like a cosmo.

  • 2008.7

  • 2008.05.24

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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