態度が悪くてすみません ――内なる「他者」との出会い (角川oneテーマ21 A 49)

著者 :
  • KADOKAWA
3.50
  • (32)
  • (64)
  • (127)
  • (10)
  • (1)
本棚登録 : 637
感想 : 60
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047100329

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「言葉は無限の誤解の可能性に開かれている」ってくだりと
    翻訳についての論考がおもしろかった。
    日本語訳の日本語がへんだと、原著を参照されるので、
    わからない言葉は静かにスルーしていた、という。

  • 前半は読みやすく納得というか、そういうことあるなあという感じ。後半、特に書評は難解と言える。
    合理的な人は結婚に向かない、喫煙の起源について、は興味深い内容。

  • 定有堂で、
    「読むならこの一冊」
    と紹介されていた本。
    相変わらずの樹さん。
    『ご飯はえらい』
    は、これまで自分が主張してきたことを、
    たつるさん的に解説してくれています。
    結婚するなら美味しく一緒にご飯食べられる人。
    これ、間違いないです。

  • 「やりがいのある仕事」のところが最も興味深かった。

  • ・「嘘」や「芝居の台詞」には「何か」が決定的に欠けている。
    身体が欠けているのだ。
    演技者は「台詞がよく聞き取れるように、きちんとアーティキュレートして語る」ことを求められる。私たちがふだんしゃべるとき、私たちのことばづかいに必ず随伴する「ためらい」も「前のめり」も「無意味な間」もそこにあってはならない。そのような夾雑物をすべて「削ぎ落とし」た、クリアーカットな発声を達成したのち、演技者は、その「台詞にふさわしい」動作や表情をこんどは「付け加えてゆく」。
    →小さい子どもの反応がわざとらしい時がある。ふさわしいと思われる態度を演技しているからかも知れない。発展というか、学習途上で夾雑物が生成されないのか。

    ・太宰治の最晩年のエッセイ『如是我聞 四』は新潮社の編集者を夕刻電報で呼び出して口述筆記させたものである。太宰は編集者の前で炬燵に入って、酒杯を含んだまま、「蚕が糸を吐く」ように、よどみなく最後まで口述したという。
    ところが1998年にこの口述筆記された『如是我聞 四』の「草稿」が発見された。それは発表原稿とほとんど一言一句変わらぬものであった。
    つまり、太宰はまず草稿を書き、それを暗記し、ついでそれを聴き手の前で暗誦してみせたのである。

    ・くわえタバコでネクタイを緩めたやくざな兄ちゃんが「いいから、適当に面白そうなのを選んで、ちゃちゃっと訳しちゃってよ」と汚いペーパーバックの束を私に投げてよこした。
    読んでみると、どうでもいいような動機の殺人があり、みえみえのトリックがあり、30分以内に犯人がつかまるというまことに無内容なミステリー短編集であった。最初は律儀に訳していたものの、そのうちに内容のあまりのつまらなさにうんざりして、ついに一大決心をするに至った。
    書き換えてしまうことにしたのである。

    ・例えば、日本製電気掃除機のマニュアルに「お餅が喉につかえた場合などにもご使用頂けます」というような記述があったとしよう(ないけど)。これをいま仮にフランス語に訳すことを明日までの急務とするベルナール君がいたとして、「お餅」というものの形状や性質について知るところがなかったという場合をご想定願いたい。辞書的語義はわかっても何のことかぜんぜんわからないというケースは技術翻訳においては少なくない。
    そういう場合は、静かに「餅のことは忘れる」というのも訳者の取りうる一つのオプションではないかと私は申し上げているのである。

    ・「タカハシ」さんと高橋源一郎を隔てる距離は、「テスト氏」とポール・ヴァレリーを隔てる距離より、「苦沙彌先生」と夏目漱石を隔てる距離より狭い。そして、この距離が狭いほど批評装置の性能は高く、響く「倍音」は深い。

    ・私たちにできるのは、この「どこまで信用してよいかわからない私自身の世界経験」」を慎重に腑分けして、そこから「信用できそうな要素」と「信用ならない要素」を識別し、「信用できそうな要素」だけに準拠して、「ほんとうの世界」について近似的に知ろうとすること、それだけである。
    「信用できそうな要素」というのは、「今ではないとき、ここではない場所、私ではない人間」の世界体験と共通するような要素のことである。

  • ブログではなく雑誌寄稿の雑稿集。カギカッコにいれる技法や、わからないところを飛ばす翻訳、金銭に換算できないものを理解しないコンサルに対する怒り、色々良く分かるし勉強になる。

  • ブログの文章を集めたものでなくて、様々な媒体に依頼を受けて書いた散文を集めたもの。なので、著者本人も言っているけど、少し他のものと味わいが違う。ただ基本はいつもの内田節である。

    「私のハッピー・ゴー・ラッキーな翻訳家人生」という題目の文章が特に面白かった。訳せないところは訳さなくていいという必殺技を伝授してもらった。

    おそらくほどよく適当に書いているんだと思うけど、著者の文章はある程度適当に書いたものが一番おもしろい。

  • 「目からウロコ」という言葉がある。内田樹を読んでいると、文字通り目からウロコが落ちる。しかも、その頻度が高い。試みに下の文章を読んでみてほしい。

    「合理的な人」は結婚に向いていない。/それは、「合理的な人」が人間関係を「等価交換」のルールで律しようとするからである。/「私はこれだけ君に財貨およびサービスを提供した。その対価として、しかるべき財貨およびサービスのリターンを求める」という考え方を社会関係に当てはめる人は、残念ながら結婚生活には向いていない(そして、ビジネスにも向いていない)。/というのは、人間の社会は一人一人が「対価以上のことをしてしまう」ことによって成り立っているからである。/すべてのサラリーマンが自分の給料は不当に安いと思っているが、それは彼らが稼いだ「上前」をはねることで株主配当や設備投資が行われている以上当然のことである。/結婚も全く同じである。/「夫婦」は企業と同じく、配偶者それぞれが「夫婦」という集合体に投資することで成立する。配偶者がそこに十分な投資を行い、状況の変化に相応できるフレキシブルなビジネスモデルを組み立てるならば、「夫婦」は生き延びることができる。/反対に、自分が投資したもの(金、時間、労力、気づかい、忍耐などなど)に対して相手から「等価」のリターンを求めると、「夫婦」は潰れる。それは営業マンが彼の努力で成約した取引から得られた利益の全額を「オレの業績だ」と言って要求することを許せば、会社が潰れるのと全く同じ原理なのである。/そのことに気づいている人はまことに少ない。(一部省略)

    新書版見開きで余白が出る短い文章だが、言われていることは、結婚生活に関する深い洞察に溢れているではないか。多くの人が、会社相手にははじめからあきらめても、配偶者には自分の投資に対する「等価交換」を求めてしまうのではではないだろうか。それは相手にしたって同じことだから、要求が正当なものであっても、いや、正当であるからこそ、会話は対決姿勢に終始し、やがて破綻することになる。

    経験から、結婚に「等価交換」は不向きだということをうすうす実感してはいても、それがビジネスモデルを譬えにして説明されることで、実に明快に理解できることに驚く。もしかしたら、巧く騙されているだけかもしれないが、それならそれでいい。とにかく人間は生きていくための「物語」を必要とする動物だから(因みに著者は離婚を経験している)。

    単行本化されていない、どこに書いたかすら覚えていないような筐底に残された雑多な文章を拾い集め、「知ること」というテーマの下に六つの章に並べ直したのは、編集者の手柄かもしれない。しかし、「落ち穂拾い」(この手の本を評者はそう呼んでいる)にしては、最近の収穫である。一つは、これらが、注文原稿であったからではないだろうか。最近の内田の本は、ブログをもとにしたものが多い。ブログは字数も何も気儘なものである。枚数が限られていることで、かえって首尾結構を意識し、簡潔にして明瞭な文章を生んだのかもしれない。

  • 知識欲をかきたててくれるウチダ先生のエッセイ。翻訳にまつわる文章は、畏れ多くもいたく共感。私も相当態度が悪いのだな、と自覚しました(笑)

  • タイトルで選んで手に取った次第の本。著者の語り口と題材にしているものがとても興味を引くもので面白く読めました。ブログやら取材やらで書いたものをまとめたエッセイ集みたいなもので、次々読めて重たい感じはありません。もう一回読み返すとさらにおもしろいかも。

全60件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内田樹の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×