- Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
- / ISBN・EAN: 9784047275850
作品紹介・あらすじ
新メンバーの千尋と紫乃が加わり、来たるべく体育祭に向けて盛り上がる太一たち文研部。だがそんな一大イベントを前に一年生の二人はどこか浮かない顔をしていた。そんなある日、太一は伊織から「未練」があると告げられる。さらに周囲の言動から立ち上る強烈な違和感-信頼しているからこそ相手の言葉を疑いなく受け入れてしまう五人、そんなメンバーを陰で嘲笑うのは太一たちが予想もしない人物で…。愛と青春の五角形コメディ、絆を貫く第5巻。
感想・レビュー・書評
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今回は今まで同じ学年の5人がふうせんかずらという得体の知れない存在に
精神を嬲られると言うパターンでしたが、今回からは短編集からの新メンバーの千尋と紫乃が加わり、
ふうせんかずらは新しい2人を利用する手段を講じてきます。
得体の知れなさに怯え、距離をとった紫乃に対し、千尋はふうせんかずらの提案を受け入れ
それによって得た能力・・・相手の思う者になりすます事で5人の関係を崩しに掛かります。
体育祭が近づき、準備に追われる中で、
上級生5人の姿を眩しく感じる2人の下級生の心は羨望と諦めから踏み込めない紫乃と
苛立ちと逃避から5人を汚してしまいたいと歪に走る千尋との視点から進んでいきます。
彼らの目に映る上級生達は果たして気付かぬうちに始まっているふうせんかずらの脅威を
どう乗り越えていくのかが見物となっています。
とある場所のレビューを見ますと、中にはマンネリだと捉える感想もあるようですが、
展開は一緒でも、それを重ねる毎に太一、稲葉、永瀬、唯、青木ら5人が
変化を、成長し続けている事を汲み取らねばならない事に気付けないのか不思議でなりません。
ここに出てくる少年少女達はラノベには珍しく、実に一般的な若者でしか無く、
それが思いもよらぬ出来事に遭い、晒され続ける中での苦悩が実に丁寧に綴られている事を
察する事が出来ない様では話になりません。
表面的には強がってみても、内心は何時崩れても不思議はないぎりぎりの状況に立たされており
そこを5人の仲の良さで支え合いながら、しかし時には反撥もし、そしてそれを乗り越え
更に絆を深めて行く、実にテーマ性が強く、丁寧に作られた物語であると私は感じます。
臭さもあります。しかしそれもまた青春と笑ってしまえる所もまた一つの味でありますし、
羨ましさを覚えますね。今回の千尋の様にそれに反撥する気持ちと言うのもまた分かります。
そうしたあり得そうな心を描き、そして繋げてみせる物語。
既にタイトルに十分作者の思いが表れているのだと思います。
今時の作品によく見られる、感情の赴くままに行動し、自己完結する様な主人公ではなく、
相手の事を慮り、感情に流されそうになりながらも懸命に考え、心を通わせるのは
とても大切な事であると感じます。心とは感情のみではなく思考が伴ってこそ
おおきく育って行くのかも、大人にもとても考えさせられる温かな作品であると思います。
白身魚氏のイラストがまた作品にとても合っているのですよね(*^_^*)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
”10000回だめで かっこ悪くても 10001回目は 何か 変わるかもしれない"
皆がコンプレックスを持ち、それを克服したい、変わりたいと願っている。勇気を持てばそれも可能かもしれない。そんな想いがあれば。そして”人は変わってゆく”ものだから…。
それにしても太一たち5人は強くなったなあ。 -
ふうせんかずらに唆された新入生が幻想投影を使い5人を面白くしようとするお話です。
今回のお話の主人公は新入生二人でした。
紫乃の一番長い独白は読んでいて胸焼けがしたんですが、多分完全に好みじゃなかったせいだと思います。
千尋と紫乃が先輩達のような人達に憧れて、それを目指して自分を変えいてくという過程がとても丁寧に描かれていて共感できました。
ただ、丁寧すぎて助長という面もありました…。
しかし、総じて言えば面白かったです。そして最後のふりも気になります。 -
前期アニメから枠の5巻目。新入部員にさっそく〈ふうせんかずら〉の魔の手が伸びる。
千尋の思考があの年代を思い返すにいろいろと身につまされる部分があり、度し難くも微笑ましい。2年生メンバーを客観視中心で描くのが物語の構成的にも、これまでの成長を強調する意味でも効果的。
特別じゃない人間が少しだけ変わるということを丁寧に書いてくれてなぜか嬉しく思う。 -
短編集『クリップタイム』の最後の話から直接繋がる話です。
はじめは太一の視点で書かれていますが、3章辺りからは新入生の二人(主に宇和千尋)の視点になります。ほぼ彼らが主人公で、新入生たちから見た文研部二年生の5人は超人に見えて、それに比べて自分は……みたいな感じの話でした。
千尋が次第に追い詰められていく様子は、今までのシリーズの中でも結構重いほうかな、と思います。一方で円城寺紫乃は割と明るく話を展開していました。 -
短編集を挟んでの正式な5巻目。2年生編が本格的にスタートということかしら。
シリーズを通してのテーマ(と勝手に思ってる)「自意識をめぐる問い」という部分は新キャラの内面に舞台を移し、超常現象による揺さぶりも攻め口を変えてきており、やはり新たな段階に来たのかな、という感じがする。
ストーリーとしては「もしも涼宮ハルヒが、世界を思い通りに変えられる己の能力を自覚したら」とでも言うべきもの。日常に不満を抱く新キャラの姿が、まるでハルヒに見える。
このシリーズの感想に、度々「ハルヒ」を引き合いに出しているが、まずは道具立てが近いから、ということがある。そして、前島賢が「セカイ系とは何だったのか」で指摘した、「自意識を語る『オタクの文学』としてのセカイ系」の特徴を、「ハルヒ」以来久々に見た気がした、というところが大きいかな。