イスラームとは何か〜その宗教・社会・文化 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061492103

作品紹介・あらすじ

クルアーンは語る、神と使徒と共同体の根本原理と、その実践。イスラーム理解が拓く、世界への新たなる視点。

感想・レビュー・書評

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  • 現在、私はマレーシアに出向中である。マレーシアはイスラームを国教と定め、人口約65%以上のマレー人はムスリムである。実際、私の職場の約7割を占めるマレー人は、全員ムスリムである。そのような環境下、彼らの思考・行動様式を理解するには、イスラームの基本的知識を知っておく必要があると思い、手に取った書籍。

    本書は、初学者を対象とした入門書ではあるが、教科書的に知識を羅列した記載ではない。読み進めるうちに、次々と「新しい発見」をすることができるよう工夫されていた。又本書は、1994年発刊で、「9.11」や「イスラーム国」等の一連の事件以前の書であるため、むしろ「公平・客観的」にイスラームを学ぶのに適している。

    特に、興味深かったのは、①ユダヤ教、キリスト教、イスラームは起源が同じくするセム系一神教、相違点は預言者(モーセ、キリスト、ムハンマド)である点、②その中でも、イスラームが最新の神の啓示であるとムスリムが考えている点、③預言者は、神の啓示を”預”かる者であり、決して未来を言い当てる”予”言者ではない、という点である。

    又、スンニ派とシーア派が分派した歴史的経緯を説明した章も大変興味深い内容であった。

    今後、イスラームの知識を一層深めるため、世界史におけるイスラームの位置付け、「9.11」以降のイスラーム現代史などに分野にも読書の範囲を拡げて行きたい。

  • イスラームの歴史を初心者にも分かるように、平易に書かれた入門書。ユダヤ教キリスト教との対比もされていて、また中立的に書かれているので、すごく分かりやすい。イスラームは他の一神教と違って、法学、政治と一体になっているので、権力が保たれている状態なら良いのだが、そうでなくなった場合は非常に厄介だと感じた。確かに現在、ムスリムにとっては危機的な状況かも知れないが、過激な解決法は避けてもらいたいものだ。歴史を見ても、イスラームは帝国を作るための法秩序を述べたものであって、我々が普通思い浮かべる宗教とは違う。なぜ宗教のためのに殺しあうのか、やっぱりこれを読んでも理解できなかった。我々が平和ボケしているだけなのか?

  •  面白かったです。ムハンマド~現代までイスラームでどんな歴史があったか、どのようにイスラームが発展したかを俯瞰でき、知識0でも読めました。

     また、この本を読みながら様々な文献・論文を拝見する機会もあったのですが、その中で見たアブー・ユースフ著『租税の書』の冒頭文を見たときに、イスラームの中でかなり深遠な統治論や諸制度が発達してきたことが垣間見えて驚きました。

     本書の内容やそうした他文献を通じて、イスラームの歴史もヨーロッパ史等に劣らないくらい面白く奥深いことを確信できました。イスラーム史を学ぶきっかけに良い本だと思います。
     同時にイスラームに関する歴史や文化に関する関連書籍がもっと増えるといいなぁ、と思いました。個人的には、イスラームの英雄のマンガを読んでみたいですね。ハールーン・アッラシードのマンガとか読んでみたいです。

  • イスラームはなぜイスラム教ではないのか
    あるいは、イスラームの美しさとはかなさについて

    という1〜8章に対して9章のドライブっぷりがすごい
    近代化が民族主義を推進してそれが現在の紛争のほとんどの引き金になっている、、、みたいなの、まじかーという気持ちしかない

  • イスラム文化の理解のために。
    いきなり頭に入ってスッキリ理解、とはいかないものの、セム的一神教の世界、スンナ派、シーア派がどのように分化していったのか、神と預言者(ムハンマド)とカリフ、クルアーン(今はコーランと言わないらしい)とハディース、といった基本をまずは理解、という感じ。

  • イスラーム研究者 小杉泰 「 イスラームとは何か 」

    異文化共存を考える上で 大変勉強になった。イスラームの現代の問題は クルアーン(コーラン)とムスリム(使徒)の関係性から考えるとわかりやすい

    クルアーンの詩的な言葉の強さを感じる。クルアーンの規定領域の広さは、教会なしで 世界宗教化する上で 必要だったとも思う。ただ 複雑な現代社会では 一元的な強さや広さでは 統制しきれないかなーとも思った

    クルアーン
    *クルアーン(コーラン)の規定領域の広さ〜憲法、民法、刑法、商法、倫理が 全部 入っている
    *クルアーンは宗教的メッセージを 天地や星など 自然の風景を象徴として用いている→詩的な言葉の強さ

    イスラームの宗教特徴
    *モスクは 教会と違う〜イスラームには 教会のような 宗教的な組織(総本山や位階秩序)がない
    *イスラームは 空白の中から突如生まれた=啓示宗教としてのイスラーム〜啓示=神アッラーの言葉=クルアーン→ イスラームが最後の啓示

    ムハンマドの意味
    *ムハンマドは40歳で啓示を受けた。ムハンマド=最初のムスリム(神の使徒)。神アッラー→大天使ジブリール→ムハンマドへ 預言者の召命
    *クルアーンは 一度に出来たのでなく、ムハンマドが預言者となって死ぬまでの23年で 徐々に形成

    宗教のはじまりの条件
    *唯一神が存在する
    *宗教は啓示から始まる
    *天使(神と使徒をつなぐ)によって啓示がもたらされる

    イスラームの原理構造
    *神への信仰、崇拝=アッラーの他に神なし
    *人間(信徒)の共同性、同胞性

  • イスラームの入門書として十分な易しさと詳しさ。歴史的な縦のつながりと地理的な横のつながりを改めて整理できる。情感あふれる文章も読みどころ。アッバース朝帝都バグダードへの旅行をした気分になれる。

  • イスラム教についてわかりやすく解説している入門書です。

    イスラム教(イスラーム)の創始者であるムハンマドの活動や、『クルアーン』およびイスラム教の教義、イスラム教と政治や文化とのかかわりなどのテーマをあつかった、バランスのいい入門書だと感じました。

    本書の「序」で著者は、「西洋の場合、イスラームを長い間キリスト教対イスラームという宗教対立の観点から―十字軍を初めとして―見てきた。植民地支配の時代もあった。その負の影響は、現代の研究でも完全にはなくなっていない。日本人はその点、自由な心を持っている」と述べており、そうした自由な観点からイスラームを理解することができるはずだと考えています。とはいえ、イスラム教についてほとんど知識をもたない読者であっても、キリスト教と対照してその類似点と対立点に注目するような理解のしかたに、知らず知らずのうちになじんでいることもすくなくないように思います。

    著者は、「イスラームを知るには、外側からイスラームについてあれこれ言われている論評を語るのではなく、イスラームそれ自体を見なくてはならない」と述べており、正しくその概要を理解することができるようにまとめられていて、興味深く読むことができました。

  • パリでのテロが起きた時に。少しでもイスラム教が理解できたと思う。

  • イスラム教の始まりや、仕組みなど基本理解から始まり、イスラム世界の歴史や現代における問題などをまんべんなく知ることができました。
    初めて知ることもたくさんあったし、今後ムスリムと一緒に生きていく上での理解や教養にもなりました。

    筆者もおっしゃるとおり、日本人は中国や欧米からの知識を吸収し、興味を持ってよく学んでいるが、イスラム世界に関してはそれが薄い気がします。
    よく分からないまま、興味がないか、マイナスなイメージを持っている人もいるのでは…?

    イスラム世界のことを正しく知ることで、そういったイメージは無くなると思いました。

    ただ何度も同じところや振り返って確認することが多く、私の頭がまだこの本の知識を全て吸収する準備ができていないかなと思いました。その意味ではあまり楽しい読書では無かった…

  • 渡邊太先生 おすすめ
    14【教養】167-K

    ★ブックリストのコメント
    21世紀にはキリスト教徒数を超えるかと言われるイスラームという宗教について、誕生の経緯、啓典、教徒の社会生活、宗派、イスラーム諸国家、20世紀末のイスラーム世界の状況等について、簡潔に、易しく概説したもの。

  • イスラームに関する知識書。
    第一章「新しい宗教の誕生」を図書館で読んだらあまりに面白く、買ってしまった。

    第二章以降も、以下、
    クルアーン、ハディース、スンナ派4大法学派、近代化とイスラームの調和、パレスチナ問題におけるユダヤ人とアラブ人の捉え方の差異
    については興味深い記述が多くあった。

    筆者のメッセージとしては、あとがきにあるように、様々な価値観や文化を輸入して既存文化と上手く調合させている日本に、未知の文明であるイスラームの価値観を取り入れ、発展させることはできないか、ということである。
    確かに、欧米や中国等様々な文化を取り入れた日本は、イスラームを取り入れることももしかしたら可能なのかもしれない。日本でもムスリムが増えている中で、日本がどのように変化していくのか、面白い視点である。

  • 数年前にモロッコ、ウズベキスタンを訪れてから漠然とイスラムについて持っていた”女性は肌や髪を露出してはいけない”とか”イスラムの人は皆戒律を守っている”とか、全く幼稚な知識を恥ずかしく思うと同時に、人々のやさしさ、イスラム文化、歴史の豊かさに魅了された。昨今の政情不安定、ならず者が幅を利かせるイスラム思想が日々報じられることから、ただでさえもイスラムの知識、情報が限られる日本において、イスラム=危険・テロ等間違った認識が広まってしまうことを危惧する。かく言う私もイスラムをそこまで理解しているわけではないので、入門レベルで読んでみた。この本は、イスラーム入門としては、わかりやすい本だと思う。イスラムの誕生、歴史、コーラン、そして最近のイスラム社会における問題、矛盾点等わかりやすい。最近というのは無理があるかもしれない、なぜならこの本が書かれたのは1994年だから。それから世界は様変わりし、アラブの春やイスラム国等はもちろん出現していない。
    特に印象に残ったこと
    ・イスラムは唯一神、そしてその預言者ムハンマド以下は皆平等である。
    ・前述は、時としてイスラム社会の混乱を招く原因ともなった。すなわち根本的には決定者(権力者)がいないからである。そういった中で、コーランを研究する学者は、その中でも、重要な役割を持った。
    ・いつの時代も、権力を私利私欲のために使ってきた暴君がいた。それらはコーランに明確に「神の下した規定によって統治しない者は圧制者である」と述べられている。今のイスラム国、ボコハラムの指導者達も、ここに立ち返れ、と思う。一般のイスラムの人も立ち上がれないか。
    ・結婚も平等の精神の元にある。例えば第一夫人と第2夫人は平等に扱われなければならない。第1、第2は決して序列ではない。昔戦争が多かった時代女性が余り気味だったため、妻を複数持って良いこととなったが、全ての妻を物質的、時間麺、金銭的全ての面から平等に接しなければならない、即ち、複数の女性を結婚したいという男性の欲のための制度ではないということ。
    ・近代では法律は属地的である。しかし、イスラムは、属人主義である。すなわちイスラム教の人が非イスラム国に行ったからと言って、イスラムを守ることから免除されるわけではない。ラシュディの”悪魔の詩”の問題はここ。

    また時を置いて読み返したい。

  • 序 「イスラーム」の発見へ
    第一章 新しい宗教の誕生
    第二章 啓典と教義
    第三章 共同体と社会生活
    第四章 第二の啓典ハディース
    第五章 知識の担い手たちと国家
    第六章 神を求める二つの道
    第七章 スンナ派とシーア派
    第八章 黄金期のイスラーム世界
    第九章 現代世界とイスラーム

  • 世界三大宗教の中で、唯一日本史に登場しないイスラム教。

    なぜこうも日本とイスラームには、越えがたい壁があるのか。

    本書では、日本人にはお馴染みだが縁遠い教義である断食、礼拝、巡礼、豚肉食の禁止、アルコールの禁止、女性の権利や着衣の制限などにはほとんど触れられない。

    中心とするのは、ムハンマド以降、如何にしてイスラームが確立し、繁栄と衰退を繰り返し、分派したのか。その勢力と権勢に関わる物語だ。

    その中身は、ほとんどの歴史と同じく、既存勢力との対立、世襲の成功と失敗、圧政と反乱の繰り返しであり、何度調べてもいまいち記憶出来なかったシーア派とスンナ派の違いさえ、馴染み深い『物語』という枠を通すことで理解できるようになる。

    物理的な距離の遠さは生活環境の遠さと重なり、それは心理的な遠さにつながる。

    飛行機とインターネットが誕生した現代においてやっと、理解不足からくる不利益が見られるようになってきた昨今だからこそ、たまには楽しむだけではなく、役立てるために歴史を学ぶのも悪くない。

  • 1994年刊行。

     かなり前の書籍であるが、単なる通史的な叙述をせず、テーマ的な叙述がなされる。
     具体的には、クルアラーン、ハーディスの意味合いや成立、ムハンマドによるイスラム教成立から正統カリフ、ウマイヤ朝、アッバース朝の栄枯盛衰過程、シオニズム運動・イスラエル建国に対するイスラムの立場、カリフ制崩壊後、現代におけるイスラムにおける制度の模索等である。
     事件の時系列的な羅列でなく、登場人物の息遣いを感じられる内容なので、高校生がイスラム史・中東史を学ぶ際の背景的な知識となり、無味乾燥な記憶作業の一助となる書といえそう。

  • イスラームの問題を理解するには、基礎知識をと思って、1年間積読。やっと読了。
    学生の頃、イスラーム法の授業も取ったけど、すっかり忘れちまっていたし。
    これも20年以上前に書かれた本なので、いまを理解するには、他のソースで情報を補わないといけないけど、宗教であり、社会であり、文化であるイスラームっていうのをわかっていないと、ボタンの掛け違いっていうのは続くんだろうな。

  • イスラーム入門として最適の書です。歴史、思想、慣習、政治等々、広い範囲にわたる基本的な知識をあまねく得ることができます。
    特筆したいのは文章の美しさ。初心者には馴染みの薄い内容も、するすると頭に入ってくるのはこのせいでしょう。

  • 面白かった。読みやすく万遍なく、イスラームの始まりから現代まで書かれた入門書。

  • 20年前の本だけど、そもそものはじめから書いてあるからそんなのは誤差というか、却って示唆に富んでるなと思った。下手に現状を踏まえて書いてあるのに比べてみても、実に今を理解しやすい。ISも、これまでの歴史の中でたびたび起きたイスラム復興運動に、現代兵器と通信・コミュニケーションツールがくっついただけなのかも知れない(もちろんそうではなくまるきりの異端児なのかもしれないけど)。しっかりした深い学識を持った歴史的視野って本当に貴重だな。名著。

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著者プロフィール

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授。専門は、イスラーム学、中東地域研究、比較政治学、国際関係学、比較文明学。
 1953年生まれ。北海道夕張市出身。1983年エジプト国立アズハル大学イスラーム学部卒業。1984年国際大学大学院国際関係学研究科助手、1985年国際大学中東研究所主任研究員・主幹、1990年英国ケンブリッジ大学中東研究センター客員研究員、1997年国際大学大学院国際関係学研究科教授などを経て、1998年から現職。2006年より同研究科附属イスラーム地域研究センター長併任。京都大学・法学博士。1986年流沙海西奨学会賞、1994年サントリー学芸賞、2002年毎日出版文化賞、2005年大同生命地域研究奨励賞を受賞。2005〜2011年日本学術会議会員。
 思想史においては7世紀から現代に至るアラビア語で書かれた史資料を用いた研究をおこない、現代に関してはアラブ諸国とアラブ域内政治を中心に中東を研究し、さらに近年は広域的なイスラーム世界論を展開してきた。また、日本からの発信として「イスラーム地域研究」を歴史研究・原典研究と現代的な地域研究を架橋する新領域として確立することをめざしている。
【主な著書】
『現代中東とイスラーム政治』(単著、昭和堂)、『イスラームとは何か─その宗教・社会・文化』(単著、講談社現代新書)、『ムハンマド─イスラームの源流をたずねて』(単著、山川出版社)、『「クルアーン」─語りかけるイスラーム』(単著、岩波書店)、『イスラーム帝国のジハード』(単著、講談社)、『現代イスラーム世界論』(単著、名古屋大学出版会)、『イスラームに何がおきているのか─現代世界とイスラーム復興』(編著、平凡社)、『現代イスラーム思想と政治運動』(共編著、東京大学出版会)、『イスラーム銀行─金融と国際経済』(共著、山川出版社)、『岩波イスラーム辞典』(共編、岩波書店)、『ワードマップ イスラーム─社会生活・思想・歴史』(共編、新曜社)、『京大式 アラビア語実践マニュアル』(共著、京都大学イスラーム地域研究センター)、Intellectuals in the Modern Islamic World: Transmission, Transformation, Communication(共編著、Routledge)、Al−Manar 1898−1935 (監修、京都大学COEプロジェクト、アラビア語『マナール』誌・CD−ROM復刻版)他。

「2011年 『イスラーム 文明と国家の形成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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