村が消えた: むつ小川原農民と国家 (講談社文庫 ほ 3-3)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061834439

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  • 10年に渡る取材を経て書き上げられたルポルタージュの傑作である。
    再読にも耐えられる作品だが絶版なのが惜しい。

    昭和初期に続いた大凶作で東北地方、そこへ満州開拓団の募集がかかる。
    豊饒な大地を夢見て渡った満州では匪賊による反日・抗日運動に晒される。
    農民たちが願ったのは安定した農業収入だったが、国が思い描いたのは
    「武装開拓団」だった。

    敗戦による満州からの逃避行はまさに阿鼻叫喚。子を失い、家族を失い、
    やっとの思いで舞鶴港に辿りついた人たちを待ち受けていたのは、新たな
    土地での開拓事業だった。

    青森県下北郡六ヶ所村。開拓者たちが入植した一地域の物語は、熊笹に
    覆われた土地を農地に変えることから苦労の連続だった。

    酸性土壌の土地では農作物の豊富な収穫は望めない。借金は雪だるま
    式に増えて行く。そして、度重なる国の農業政策の転換に翻弄される。

    土地を手放し、農業を離れ、開拓地を去って行く者が増える。時は高度経済
    成長期。地域の惨状に漬け込むように国家的事業の名の下、詐欺同然の
    土地買収が進み、血の滲むような努力の末に開拓した部落は解散となる。

    時代に、国に、農政に、弄ばれた人たちがいる。それは本書で取り上げれて
    いる地域に限らない。三里塚闘争の舞台となった土地も、戦後の引き揚げ
    者たちが開拓した土地だった。

    民草。国を信じ、従って来た人たちをこの国は草以上、人間以下に扱って
    来た。忘れてはならぬ歴史である。

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著者プロフィール

1933年、旧朝鮮・京城生。55年、読売新聞社に入社。71年に退社し、フリーのノンフィクション作家に。著書に『誘拐』『不当逮捕』『私戦』『我、拗ね者として生涯を閉ず』等。2004年、死亡。

「2019年 『複眼で見よ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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