網走発遥かなり (講談社文庫 し 26-4)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061847132

感想・レビュー・書評

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  •  『網走発遥かなり』島田荘司の30年前の作品。抒情感があふれるタイトルだが、作品はどちらかというとトリッキーな構成のもの。一人称で語る話者がどんどんとパラノイアのようになっていくさまが少し食傷気味ではあるが、その陰にある捻りはさすがに島田荘司というものであり、実に面白い。謎の設定が秀逸で読者を引き付け離さない。
     しかし、その謎以上にストーリーテリングが見事。物語としての面白さが抜群なのだ。中でも、三章の「乱歩の幻影」は江戸川乱歩へのオマージュともいえるべき作品であり、島田荘司はこれを書きたくてこんな話を構築したのかと思ってしまう。作中で語られる福島萍人の『続有楽町』は実在する随筆らしく、「江戸川乱歩の友人」というエッセイの全文がそのまま転載されているらしい。この作品のために作ったと錯覚するぐらい見事に物語にハマっている。乱歩好きにはたまらない作品だろう。
     一章一章もかなり面白いが、通して読むと更に面白さが引き立っている。こういう話は、御手洗物として書いてほしかったというのが本音であるが、ノンシリーズとして乱歩ネタをやりたかったということだろう。

  • 「網走発遥かなり」最終章。今までの話がすべて繋がる…。里美新造が主人公として登場するのだ。
    彼は「丘の上」に出て来た丘の上の少年の父であり、「化石の街」に出て来た主人公里美の甥であり、「乱歩の幻影」の主人公の夫であり、全編通じて出てくる謎の老人笠井の息子である。
    彼は網走へ行き、そこで父の身に起きた四十年前の真実と出会う。

  • う・・・ん、さすが島田荘司!と改めて感服いたしました。(っていっつものことだけど)。4章に分れていて、連作のような形式をとっています。1章1章が全く無関係なように思えるんです。キーポイントは謎の老人なんですけど。読んでいて、これらがどう繋がるの?と考えるともうワクワク。私事では、タイトルからも判るとおり、北海道が出てきますからね〜〜。これまたワクワク。本社は一応、社会派ミステリということですが、島田氏って詩の才能もあおりで〜と驚きました。

  • 本作は一風変わった小説である。4章で構成された作品だが、それぞれの章は全く独立した話(のように読める)。それぞれ島田氏特有の幻想的な謎が用意されており、主人公も違う。

    まず第1章「丘の上」では東京の高級住宅街に住んでいるある主婦が隣りの老人の奇行に興味を抱く話。その老人は庭に出て大量の笹を集めたり、鏡で丘の上の家を照らしたりと奇妙な行動をしている。やがて主婦はそれは何か老人がただならぬことを企んでいるかと邪推しだすのだが・・・。

    続く「化石の街」は新宿駅の地下に出没するピエロの話。そのピエロは街を徘徊しては怪しげな行動を繰り返している。やがてある男がそのピエロの行動に何か意図があるのではないかと思い、後を追ってみるが結局特別なことは起きなかった。しかし彼はその翌日に同じコースを辿る老紳士を発見し、声を掛けて、何をしているのかと訊くと「宝探しだ」という意味不明な答えが返ってきたのだった。

    3章「乱歩の幻影」は実家が写真館である女性が昔現像を頼んだまま取りに来なかった客のフィルムを現像したところ、なんと江戸川乱歩その人の写真だったという、ミステリファンなら俄然興味が出るような展開を見せる。彼女はそのフィルムを持ち込んだ和装の女性に興味を抱く。

    そして最終章「網走発遙かなり」は網走で起きた事件譚である。主人公の男性の父親はかつて有名な作家であったが、戦中北海道に疎開した時に、飲み屋の女性と懇意になり、道内を電車で旅行した際にその女性の恋敵に車内で射殺されてしまったのだ。しかし男性は当時の文芸誌に報じられた事件のあらましに腑に落ちないものを感じ、独自に捜査を始めるが・・・。

    これら4つの関係ないと思われた物語が最後で実は1つの話だったと気づかされる。ガイドブックの中には本作を連作短編集と書いているものもあるが、本作はれっきとした長編ミステリなのだ。
    歌野氏の『ガラス張りの誘拐』の感想でも書いたが、私は若竹氏の『ぼくのミステリな日常』や倉知氏の『日曜の夜は出たくない』のような連作短編集よりも、本書のような短編集と見せかけておいて最後に長編だったと解る作品の方が断然好きである。特に本書の各章は初期の島田の才気溢れる奇想とアイデアが盛り込まれているのもまた最大の魅力だろう。

    が、しかし本作に対する当時の私の評価は上で語るほど高くない。読書中、何度も「これ、長編だよな~?」と裏の紹介文を何度も読み返しながら半信半疑で読んでいた記憶がある。そんななんとなく腑に落ちない感じでの読書だったので、最後に全てが繋がるときに驚くというよりもなんだか狐につままれた感じがした。しかし前述したように短編のような各章は独立した作品としてもクオリティが高いのは断言できる。逆にそれがためにそれぞれの作品のベクトルが一定方向になく、個性の強さをお互いに発揮してしまった故に最後の纏まりとして統一感が欠けたように感じたのかもしれない。とはいえ、この感想は今になって云える事で、当時はやはり私自身が読者として未熟だったのだろうと素直に認めよう。

  • 各話意表突きつつも無理なく纏まっているところは流石です。
    探偵小説的な展開はありませんが、各話の繋がりと、その収束していくさまを楽しむ一冊だと思います。
    【丘の上】【化石の街】は楽しめましたが、【乱歩の幻影】は乱歩に興味がない人には少々苦痛かなと思いました。

  • ぜんぜん網走のことが出てこないな……と思いながら読んでいました。
    短編集と思いきや、実はつながっている連作短編集。
    最後まで読み終えて、あの時出てきたあれはそういうことか!とか、表題ってそういう意味か。などなど、意表を突かれました。

  • 四編から成るストーリーに、それぞれ関連性があり、物語を一層面白くしてくれている。最後の「網走発」は、かつて湧網線が走っていた頃の話で、その風景がなつかしい。

  • 島田ファンならずとも、必読。感動してください。

  • 読んでるときは面白かった気がするけど終わり方がイマイチだったな。

  • ほとんど網走関係ない。成城のほうが目立ってた。表題の話以外は面白かった。
    笹の葉、剥製、誘拐。
    ピエロ、化石、演劇。
    乱歩、同潤会アパート、写真。
    網走、釧網線、雪。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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