タマや (講談社文庫 か 10-3)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061848290

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  • 小林夏之という青年が、恒子さんの弟のアレクサンドルからネコの世話をたのまれることになり、さらに失踪した恒子さんをさがす藤堂冬彦も彼の部屋に居候をすることになり、三人の男の同居生活が開始します。

    巻末に収録されている「「タマや」について―あとがきにかえて」のなかで著者は、「この小説のテーマは、一ことで言うなら、ネコも人間も、生れて来る子供の父親の正体を探そうとしても無意味だ、ということになるでしょう、ということは、自分の正体についても、また同じことです」とはっきりと述べています。また武藤康史の「解説」には、本書で参照されている文学作品や映画作品などの照合がおこなわれており、ネコの避妊手術に反対するアレクサンドルの意見の根拠となっている新聞の時評についても、見田宗介の文章であることが明らかにされています。

    カギカッコのない三人の同年代の男たちの対話がつづくという本作のスタイルのためなのかもしれませんが、この奇妙な同居生活の描写から、三人の男の同質性を強く感じさせます。そして彼らの言動の中心には、失踪した恒子や夏之と冬彦の母親といった「ファム・ファタル」的な女性がおり、あるいはネコのタマが位置しています。そうした作品の構成に、著者の批評的なまなざしを見いだすことも可能であるように思います。

  • 父親が誰かをわからなくさせることによって、オスたちが群れの特定の子供だけを世話しないようにするというような生物学的戦略をとっているのはチンパンジーだったかゴリラだったかよく覚えていないけれど、本作のテーマはまさしくそれ。本作は男目線であるがゆえにリアリティにはいくらか欠けるけれど、それを込みの(しょせん男などそんなものだよという)批評的小説だと考えると、逆マッチョになるかならないかのところギリギリな感じを楽しめる。

  • だらだら続くするする読める文章。
    皆まったりしてるなあ。雰囲気は寂しいけど。
    文章教室と違って、彼らとは友達になりたいと思う。なんだろうなあ、世間一般では駄目かもだけど、言うことに妙に説得力と高潔さがある。

  • 図書館に行って、タイトルだけで小説を選んでみる試み。

    いかにもといった風に散りばめられた引用に辟易し、都合のよいこと(登場人物にとっては悪いことかもしれないけれど)ばかり続くストーリーに辟易し、それでもつるつると読めてしまう不思議な魅力のある文体でした。好みもあるかとは思いますが。

    裏表紙に「現代の若者を描き切った、楽しい連作小説集」とあるのが面白いと思います。ちょうどこの小説の発表年に産まれたわたしには、やっぱりいかにもな「昔」の空気を描いた(「描き切」っているかは不明)小説だと感じました。
    今もてはやされているあの作家やあの作家のあの作品も、26年後に読んだらこんな風に感じられるのでしょうか?

  • 2010/5/14購入

  • この人の小説は話がどうの、というより、文章自体が好き。

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著者プロフィール

金井美恵子
小説家。一九四七年、群馬県高崎市生まれ。六七年、「愛の生活」でデビュー、同作品で現代詩手帖賞受賞。著書に『岸辺のない海』、『プラトン的恋愛』(泉鏡花賞)、『文章教室』、『タマや』(女流文学賞)、『カストロの尻』(芸術選奨文部大臣賞)、『映画、柔らかい肌』、『愉しみはTVの彼方に』、『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(共著)など多数。

「2023年 『迷い猫あずかってます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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