- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061984585
作品紹介・あらすじ
敗戦直後、上野のガード下の闇市で、主人公の「わたし」が、浮浪児がキリストに変身する一瞬を目にする「焼跡のイエス」。少女の身に聖なる刻印が現われる「処女懐胎」。戦後無頼派と称された石川淳の超俗的な美学が結晶した代表作のほかに「山桜」「マルスの歌」「かよい小町」「善財」を収録し、戦前、戦中、そして戦後へ。徹底した虚構性に新たな幻想的光景を現出させた、精神の鮮やかな働きを示す佳作六篇。
感想・レビュー・書評
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「山桜」「マルスの歌」「焼跡のイエス」「かよい小町」「処女懐胎」「善財」収録。俗なるものに聖なるものを見出し、幻視する。キリスト教の教義が散りばめられており、興味深かった。石川淳が書く一文は長く、慣れるまでやや読みにくいものの、非リアリズム的、渦巻く思弁が迸るようなそれは小気味よい。個人的なお気に入りは「かよい小町」「処女懐胎」。他の作品も読みたい。
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焼け跡のイエスのみ
阿部公房のけものたちは故郷をめざすの主人公がきゅうぞうが目指した故郷。
聖と俗がいりまじる表現。
群衆の様子がありありとえがかれる。
短い短編。次の日には,闇市は跡形もなくなくなる。皮肉か。 -
昔の恋人と、大学のことを思い出す本。
石川淳はいやらしいよなあ…!
ユーモアが難しくてよくわからない。
「貞子」を「てこちゃん」と呼ぶセンスは好き。
クリスチャンなんだっけ? -
現代の舞台からいきなり非現実的な出来事が起きる。起承転結の転で突然、雲の上に放り出され、結もなんとなく放りっぱなしのまま雰囲気で閉じられる感じ。観念や技巧が優先され、人物がご都合的に踊らされている/性格が現実的に詰められていない印象を受ける。特に女性が記号的に扱われている。
非現実的な転部が「想像力の飛翔」のように長所として挙げられているのをよく見るが、村上春樹やよしもとばななのマジックリアリズムを知っている世代としては、「別に…」という反応になってしまった。 -
山桜◆マルスの歌◆焼跡のイエス◆かよい小町◆処女懐胎◆善財
解説:立石伯 -
浮浪児がキリストに変身するというイメージだけですでに美しい。おぞましいものがある種の神聖さを帯びるようなイメージは好きです。想像力の広がりも時空を超えていてすごいなと思わされます。
でも、なんというか、聖に変化する俗の描かれ方が、時々しっくりこない短編もありました。聖なるものの崇高さに比べて、俗なるものの低俗さがつりあっていない感じがして居心地が悪かった。だから、聖と俗を対義的観念としてとらえて読んではいけないのかもしれません。 -
新潮文庫版で読んだものもあるのだけれどもうずいぶん前なので改めて。いちばんのお気に入りは掌編ながらゴシックホラーテイストの「山桜」。「焼跡のイエス」「処女懐胎」はタイトルからしてキリスト教系だけど、かと思えば「善財」は仏教だし、いずれも象徴として宗教モチーフを使っているだけで信仰とは無関係なのであまり難しく考えずに読めます。「かよい小町」は主人公の気持ちはイマイチわからないものの会話のテンポがよく軽快。やたらとおっぱいの素晴らしさについて力説したり(笑)、書いてる作者が楽しそう。全体的に、女性の気持ちを無視して一方的な愛を告白をする男性キャラが多いのが気になりましたが、そういう時代だったのか、石川淳の恋愛観なのか?
※収録作品
「山桜」「マルスの歌」「焼跡のイエス」「かよい小町」「処女懐胎」「善財」 -
「焼跡のイエス」
「山桜」 -
戦後の日常から始まるのに終わりはいつも思いもよらない方向に行く物語ばかりだった。
戦争の傷口がまだぱっくりと開いた中での平凡な日々と『神』を感じさせる出来事と結末。
日常が突然に非日常になる世界は読んでいてどこに飛ばされるのかが分からなくて妙に疲れてしまった。