魔王

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062131469

作品紹介・あらすじ

政治家の映るテレビ画面の前で目を充血させ、必死に念を送る兄。山の中で一日中、呼吸だけを感じながら鳥の出現を待つ弟。人々の心をわし掴みにする若き政治家が、日本に選択を迫る時、長い考察の果てに、兄は答えを導き出し、弟の直観と呼応する。ひたひたと忍び寄る不穏と、青空を見上げる清々しさが共存する、圧倒的エンターテインメント。

感想・レビュー・書評

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  • 幼い頃に両親が事故で亡くなった安藤兄弟。景気低迷の中、現政治を批判し、ファシズムを彷彿される主張を大きく掲げる政治家・犬養が若者からの支持を集め、野党による政権交代の機運が高まっていた。

    『魔王』の章では、自分が頭の中で叫んだことを半径30歩程度の距離の範囲にいる人間に言葉を発せさせることができる能力をもつ安藤兄の話し。

    『呼吸』の章は、安藤弟の妻・詩織の視点から夫・安藤潤也の闘いの序章を語っている。5年前に犬養の街頭演説中に心臓発作で亡くなった兄。兄の死後、弟に備わった能力。その能力を糧に、静かにファシズムに向かっている世の中の立て直し、犬養の失脚を画策し始めるところまでが語られている。

    犬養は熱心な宮沢賢治の読者であるため、所々に宮沢賢治の作品の記載がある。宮沢賢治の作品を本作のような視点で読んだことがなかったが、小学生、中学生の時、結構好きだったので、多分ほぼ全部読んだ。幼い時のことなので、私にとっては単純に夢の話であり、特にそれ以外に感じることはなかった。それが、メディアを通じて、時の人が話すことで、世の中の人がこんなにも影響を受ける。メディアの影響力、時の人の発する言葉の世間への影響力、つまりは世の中の人間がいかに自分の意思を持っていないかを思い知らされる。

    兄が生前、鳥になって、空を飛んでいたのは、弟が環境調査(希少猛禽類の調査)につながっているのであろうが、弟が感じる兄の気配について、おそらく理解ができていないと、思いながらいつのまにか終わっていた。

    これがモダンタイムスを読んで物語が繋がっていくのであろうか?

  • なんだろう…外側で起こっている出来事はわかる。主人公も自分で語っている。けれども、主人公が見えない、つかめない。そんな感覚でした。そのため、「魔王」を読んでいる途中で戦線離脱してしまいました。
    読みきったけれども「重力ピエロ」のときも、途中まで似たような感覚がありました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    思うに、淡々とした語り口はおなじでも、おもしろいと感じるかそうでないかの差は、そこにユーモアを感じるか否かなのかもしれません。
    シリアスな中にもくすっと笑えたり、一瞬でもほっとするような出来事が絶妙なバランスであったり…そうしたところに、気持ちが動くのだと思います。

    …っていや、「魔王」でもそういう場面は前半、あったんですけどね…うーん、、、全然説明になってなーい!!
    つまりわたしは「魔王」よりは「重力ピエロ」、「重力ピエロ」よりは断然「AX」の方が好きなタイプということです。
    (これで勘弁してください(苦笑))

  • 読み終わって感想を書こうと思ってから、「何が言いたかったんだろう?」と思った。
    「何を伝えたかった」を感じずに読んでいて、すごく面白かったし、残るものがあった。
    もっと政治や社会に目を向けて、起きていることの裏までを考えろということなんだと思う。
    考えろ考えろマクガイバー

  • ある日突然、自分の思っていることを他人に言わせることができる能力を持っていることに気が付いた安藤
    日本の政治を変えようと宣言し、諸外国にも毅然とした態度をとることで支持されるようになったニューリーダーの政治家の犬養
    安藤はファシズムに向かっているかのような日本の風潮にと不安を感じていき、自分の持つ特殊能力で何かを変えようとするのだが…

    久しぶりに読んだ伊坂幸太郎さんの作品

    色々な意見があるけど
    私はおもしろかったな~

    ラストはどうなるんだろう~って思って
    ひゃあ!な終わり方だったけど
    私、嫌いじゃない。

    自分で考える余地があるラスト
    もやもやするかもだけど
    そこがおもしろい

    さて内容
    大衆がファシズムに傾倒する様子ってたぶんこんな感じ
    自分で考えないで人が言うことを考えないで鵜呑みしちゃう
    極端な〇〇ファーストだったり
    分かりやすい結論や短絡的な答えを求める
    政治もそうだけどおそらく日常のいろんなシーンで似たようなことってあるんじゃない?

    そんな呪いに遭遇した時の呪文はこれ
    「考えろ!考えろマクガイバー」

    え?あれっ!この作品の続きってあるの?
    モダンタイムス?
    いやん~読まなくっちゃもやもやする~
    って結局、もやってるんじゃないの!私!

  • ひたひたと忍び寄る熱狂。群衆の中で取り残された考え続ける兄と、俗世離れした世界で謀略する弟。集団心理と国家への帰属意識の高まりが描かれているが、著者も述べているようにそれが主題ではない。今の時代だからこそ現実世界と重ね合わせて読んでしまうが、単純にエンターテインメントとして、息もつかせぬような描写の流れの流暢さは見事だと思った。

  • 個人的にはとても面白い本。ただし、政治的な要素や社会人チックな描写があり、読み手を選ぶと思います。少なくとも中学3年生の息子は"ちんぷんかんぷん"だったらしく"内容が難しい"と言い、数ページで読むことを辞めてしまいました。

    この物語は、カリスマ政治家「犬養」により心を掌握された市民たちを見て、それは本当に正しいか疑問に思い、たった一人で戦う「安藤」目線で話が進みます。

    現実世界でも、政治家といえば利権主義や事勿れ主義で本当に国や社会を良くしようなどと思っている人は少ないでしょうし、また市民も周囲に同調し流されるような人は多いでしょう。そんな世間に一石を投じる、ある種の社会風刺のようなストーリーです。このストーリーが2005年に出版されているということにまず驚きます。

    話を物語に戻すと、安藤は犬養と戦う決断をするのですが、面白いことに犬養自身には特に"悪い点"や"悪役要素"がありません。犬養と戦うと決めた安藤ですが、実際は安藤自身も一体何と戦っているのか、本質を理解できていません。安藤は死ぬ直前にやっと、戦う相手は"何も考えない人達"であろうことに気づきます。そこにたどり着くまでの安藤の葛藤や考えが「私自身」、つまり読者自身に問いかけられているように表現されており、ついつい考えさせられ、読み進めてしまう本でした。

    結果的に安藤は何もできずに死んでしまいますが、第二章として安藤の弟「潤也」が主人公になり物語が進みます。主人公は純也ですが、話はその彼女である「詩織」目線で展開されるところがまた面白いです。
    きっと、第二章が始まってすぐ、詩織目線の文章に驚くでしょう。人物視点をここまで書き分けられる伊坂幸太郎の表現力、技術力には読んでいて圧倒されます。

    ここはおそらく、安藤と対照的な詩織目線で話を描くことで物語に深みを出しているように思いますが、目線が違うことで新鮮味も生まれるため、読んでいて飽きません。
    ボリュームはありますが、読み始めるとスラスラと一気に読み進めてしまう一冊でしょう。


    予備知識として、この魔王は少年サンデーで漫画としても描かれています。漫画版は伊坂幸太郎の他作品も織り交ぜられた話になっており、内容や設定も少年漫画向けに変わっています。
    私は子供の頃にこの漫画版魔王を読んでおり、私の生き方を変えてくれた本です。私はおそらく、安藤になりました。それほど、良書だと思います。
    大人になった今、たまたま図書館で小説版を見つけたので読んでみたのが今回の感想ですが、小説版の方がずっと面白いと思いました。
    漫画版を見ていたからイメージが湧きやすかったとこもあるでしょうが、やはり伊坂幸太郎を味わうには小説を読むほうがいいでしょう。
    まあ、うちの子供は漫画版の魔王も読まなかったので、メルカリに出品してしまいましたが、小説版は買って家に1冊残して置こうと思います。

    最後に、この本では若者に一目置かれる手っ取り早い方法を「より新しくて、より信頼ができる情報を、よりたくさん手に入れること」とあります。現代ではインターネットで簡単に情報が手に入れられるようになっただけに、医学的根拠といったようなワードを売っている方も多いですが、それをそのまま鵜呑みにして自分で調べない、考えない人達には小説内と同じく、少し怖さを感じることがあります。これは子供の頃に魔王を読んでいた影響なのかも知れませんが。
    そういった、リテラシーのない人への警鐘ともとれる本なので、個人的には多くの人に読んでもらいたい一冊だと思っています。

  • モダンタイムスをよみたいばっかりに。

    • strnさん
      私も恩田陸の「楽園」を読みたいばっかりに
      「模倣犯」読んだ経験があります
      突然すみません
      私も恩田陸の「楽園」を読みたいばっかりに
      「模倣犯」読んだ経験があります
      突然すみません
      2010/02/25
  • 世にも奇妙な物語を見たあとと同じような感じ。
    結末まで読んでもそのあとの世界はどうなったかわからないけど、パラレルワールドで「あーなってるかな?」と想像してしまった。

  • 政治との向き合い方を考えさせられる物語だった。
    アンダーソンやバーのマスター、島など意味ありげな登場人物が何人かいるが、その人たちについて深くは触れられないため、もやっとした感じが残る。

  • 本のタイトル「魔王」と、その5年後を描いた「呼吸」の中編2編から成る小説。
    兄「安藤」と弟「潤也」、その妻「詩織」、そして圧倒的な影響力を持つ政治家「犬養」が物語の中心となる。
    犬養の思うがままに、疑問も抱かず都合の良いように誘導される国民。自分で考えることを放棄し、流されることの危険。それに抗う安藤兄弟。
    結末はすっきりするものではないけれど、それも明示せず読者に考えさせるのが目的?
    考えろ考えろマクガイバー。

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著者プロフィール

1971年千葉県生まれ。東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、「新潮ミステリー倶楽部賞」を受賞し、デビューする。04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で、「吉川英治文学新人賞」、短編『死神の精度』で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞。08年『ゴールデンスランバー』で、「本屋大賞」「山本周五郎賞」のW受賞を果たす。その他著書に、『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』『重力ピエロ』『フーガはユーガ』『クジラアタマの王様』『逆ソクラテス』『ペッパーズ・ゴースト』『777 トリプルセブン』等がある。

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