- Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062210805
作品紹介・あらすじ
ごはんからココナッツのにおいがしない。
「さーや、何やってるの」
わたしが給食のクリーム色の器に鼻を近づけてひくつかせていると、朋香ちゃんは新種の生きものを見つけたみたいに、好奇心と不安の混ざった声できいてきた。
「え、何でもないよ! コシヒカリかなーとか思って」
新種の生きものなんかになりたくないわたしは、あわてて器から顔を離した。
やばいやばい。
わたしは周りの給食班をキョロキョロと見まわした。
「マレーシアではココナッツミルクで炊いたごはんがあってね」なんて話し始めたら……。
きっと「帰国子女ぶってる」とか、周りにコソコソ言われちゃうんだろうから。
帰国子女として転入してきて二週間。まだまだ気が抜けない。
──本文より
目次
1(サトゥ) 督促女王
2(ドゥア) 初めての歌
3(ティガ) わたしは変わってしまったの?
4(ンパッ) 赤い下着
5(リマ) タンカードNo.1
6(ンナム) トナカイからのプレゼント
7(トゥジュ) 時計と寿司は回り続ける
感想・レビュー・書評
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みんなと同じじゃないと...と思い込んでいる子どもたちに読んでもらいたい。
短歌の魅力が伝わってくる。
マレー語?の響きがおもしろい。
恋心を絡めているところも中学生には身近に感じるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本は、日本では周りであまり見当たらないという理由だけで“ちょっと受け入れにくい”と考えられがちな「帰国子女」「短歌」「マレーシア」「イスラム教徒」etc.をミキサーに入れてガーと混ぜたら、とてもおいしいミックスジュースができました、というような作品。
この本の主人公の名前は沙弥。日本語のサヤという読みはマレーシア語では「私」という意味のsayaにつながる。沙弥は自分の名前がマレーシア語でも意味をもつことを気に入っている。それはすなわち、マレーシアを気に入ったということ。
マレーシアからの帰国によって沙弥は中2の2学期から日本の公立中学校に編入した。でもふと思う。-マレーシアにすっかり馴染んだ自分が、日本の学校に戻って周りに合わせられるのかな?そんな思いが日増しに膨らんでいたある日、成り行きから1学年上の女子の先輩に誘われ、短歌をいっしょに作るような流れになる。
もちろん沙弥は短歌を作るのははじめて。しかも唐突。そのときほとんど口から出まかせみたいな感じで、マレーシア語とチャンポンにした短歌を書いて先輩に渡す。ところが意外にも先輩から「いいじゃん」と言われる。当の本人はデタラメだと思っていたのに…
沙弥はどうやればうまく学校でやっていけるのかを考えるあまり、何をするにも「こうやっても大丈夫なのかな?」とささやくもう1人の自分がいた。だけど素のままの自分で作った短歌が先輩にほめられた。他人の目を気にしてばかりの沙弥が、他人の事なんか一切気にかけずに作ったものが評価された。
そのことを裏付けるかのように、後日、図書館司書の先生が2人に、短歌は自分のなかの価値観を大事にしていて周りに流されないような人にこそ勧めたいと言う場面がある。
短歌には“魔法の力”があって、それに気づけば自分だけでなくみんなをハッピーにもできる―青春小説のいわば王道パターンだけど、それだけじゃない。中学生では意外と少ない同学年以外の人とかかわり合う話とか、もちろん(?)気になる男子の話もブレンドされている。
また友達の家族の一員となった女性がイスラム教徒で、沙弥がマレーシアで見聞きしたイスラム教徒の知識を生かす場面など、中学生受けしそうな題材以外にもチャレンジして中学生に伝えようとする著者の意欲も見られた。さらりとした書き方ながら山場も多く、ボリュームのある読み応えだった。 -
良かった!
マレーシアから帰国した中学生の主人公。
周囲から浮かないか、びくびくしながら過ごしていたけれど、「督促の女王」先輩から突然吟行に連れ出されて毎日が変わっていく。
心理も日常描写もとても丁寧に描かれていて、自然と入っていくことができた。
終盤の展開も、甘いだけじゃなくて良かったなぁ…。
そして、マレー語の混じった短歌が最高。
『寝る前に頭につめた公式も夢の出口に着くころにルパ』
『年号を覚えなくてはダメですか キラキラ百年前の出来事』
ずっと口ずさみたくなった。 -
マレーシアから帰ってきて日本の地元の中学に編入したばかりの沙弥。クラスになじもうと必死の彼女だが、一年上のせんぱいにむりやり「ぎんこう」にひっぱりだされて、いつしかいっしょに短歌を詠むようになる。タイトルは、マレーシア語で五七五七七のこと。もうそれだけで勝利、という感じの楽しいひびき。
ちょっとできすぎのところもあるけど、さわやかななかにも自分とちがうものを受け入れるということ(国籍とか文化以前に、短歌を詠むということだって、中学では浮くよね)がさらりと描かれていて気持ちのいいお話でした。 -
変わったタイトルに惹かれて借りてみた。
マレーシア語で五七五七七の意味。
マレーシアから帰ってきた沙弥と、先に音楽学校から転校してきた佐藤先輩、お父さんがマレーシア人と再婚してイスラム教徒になった藤枝君。
マレーシアと吟行が引き合わせた中学生の友情物語。
マレーシア語って可愛らしい響きの言葉が多いのね。 -
タイトルはマレーシアの言葉で「五七五七七」。話の軸は短歌。
読後感が爽やかな作品。話題が次々展開していくので、一気に読みました。イマドキ中学生の誰もが持つ悩みをよく描いているし、かといって閉塞感のある苦しい空気感ではなく、いろんな人間関係もよく考えられていて、不自然感がない。
短歌、図書室、異文化、自分らしさ、そして、恋。たくさんのキーワードがケンカすることなく、うまく繋がって、流れるように読みきりました。
登場人物の個性がわかりやすく、小さなドキドキも散りばめられていて、本当に面白かった!
短歌、やってみたいなーと思っちゃいました。 -
爽やかで甘酸っぱくて切なくて。周りに合わせなきゃいけないプレッシャーのなかでもがくサヤと、学校以外に世界を持つ佐藤先輩の吟行の行方。意外に響きが可愛いマレーシア語を織り交ぜた短歌の世界。自分は自分のままでいいんだよ、とメッセージをくれる児童書。読後感も爽やかでかなり久々の読書のいいリハビリになりました。
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特に期待せずに読んでみたのだが、なかなか面白かった。講談社児童文学新人賞を受賞だけに中学生、小学生高学年あたりがおすすめか。
短歌とマレーシアやイスラム教との絡み方が非常におもしろい。多様性が大きく叫ばれている今の時代ならではの小説だと思った。 -
最初は、題名が呪文のように感じていましたが、中身を読んで納得しました。とても暖かい物語です。
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詳しくは言いませんが、一部分だけ読んでみて全体を読んでみたくなって読みました。この題名も、読む前はなぜか気になりましたが、読んでみて納得です。短歌が
文中に出てくるんですが、読んだ後に思わず口ずさんでしまうようなものばかりで、印象に残りました。おすすめです。