作品紹介・あらすじ
恥や減点の対象ではなく、肯定的に利用することが、失敗を生かすコツ。個人の成長も組織の発展も、失敗とのつきあい方で大きく違う。さらに新たな創造のヒントになり、大きな事故を未然に防ぐ方法も示される-。「失敗は成功の母」を科学的に実証した本書は、日本人の失敗に対する考えを大きく変えた。
感想・レビュー・書評
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●二万個の失敗情報を集めても意味はない。全体を理解する事の大切さ、必要な失敗情報は最大三百個に絞りこむ、リーダーによって失敗は三倍違うなど、失敗をプラスに考えるヒントを提起。
●以前に、畑村さんの講演を聞きました。大変分かりやすく話して頂きました。失敗は成功の母と言います。失敗は誰にもあります。この本をヒントに失敗の意義を考えましょう。
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大きな失敗が発生するときには、必ず予兆となる現象が現れます。ハインリッヒの法則に従えば、ひとつの大失敗の裏には現象として認識できる失敗が約30件はり、その裏には「まずい」と感じた程度の失敗とは呼べないものを含めて300件もの小失敗があるからです。
(略)しかし現実には、こうした失敗の予兆は放置されることがほとんどです。なぜなら失敗は「忌み嫌うもの」であり、できれば「見たくない」という意識が人々の中にあるからです。(p89)
この本には、いわゆる失敗の種類、原因、対策のほとんどが網羅されていると思ってよいだろう。
たとえば、第三章「失敗情報の伝わり方、伝え方」のところでは目次だけでも、我々には「そのとおりだ」ということ、管理者には「耳のいたいこと」が並んでいる。曰く、
失敗情報は伝わりにくく、時間が経つと減衰する。
失敗情報は隠れたがる。
失敗情報は単純化したがる。
失敗原因は変わりたがる。
失敗は神話化しやすい。
失敗情報はローカル化しやすい。
客観的失敗情報は役に立たない。
失敗は知識化しなければ伝わらない。
六項目による記述。
当事者が記述できないときはどうするか。
決して批判をするな。
問題はこれをどのように生かすかにかかっている。
私は著者が失敗を学門にまで高めた功績を認めつつも、もっと厳密にそれを実行することを求めるものである。それには理由がある。
そもそも、この本を買ったのは畑村氏が菅元首相が組織した第三者機関「事故・調査委員会」の委員長に就任したからである。今年中に中間報告を出す予定になっている。この委員長はどこまで「頼りになる」か見極めたかったのである。
この本を読む限りでは、未曾有の原発災害が二度と起きないための処方箋を畑村氏が強いリーダーシップで出し切ってくれるだろうと期待できる内容である。ところが、今はそれに私は懐疑的だ。
この感想を書くに当って、調査委員会の動きを調べたが、ほとんど聞こえてこない。それどころか、第一回の6月7日の会合のときに畑村氏はこう言っているのである。
「原因究明の動作ができなくなってしまう」として「責任追及は目的としない」としたのである!!!!
なるほど、責任追及を始めれば、歴史的には中曽根や正力、あるいは安保体制そのものにまでふみこむ必要があるだろう。それは確かに難しい作業になるかもしれない。しかし、第七章「致命的な失敗をなくす」の章で著者は「リーダーにより失敗は三倍違う」とかいているのだ。リーダーの失敗を問わないで、どうやって本当に建設的な提案ができるというのか。
私はせめて中間報告で、来春から始まるだろうストレステストに対して本格的な建設的提案をしてくれることを望む。
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「失敗学のすすめ」畑村洋太郎著、講談社文庫、2005.04.15
302p ¥560 C0195 (2018.11.12読了)(2018.11.01借入)
失敗を隠したり、失敗の原因をすり替えたりするのではなく、失敗を記録分析して致命的な失敗を未然に防いだり、再発を防止したり、という形で活用しようと提唱しています。
「お手本を模倣することでうまくいくと考えている人の多くは、やがてそれ以外の方法について「見ない」し「考えない」ようになる。さらには、よりいいやり方を探し求めることまでやめて「歩かない」ようにもなるが、その一方で時代は常に変化しているので、あるときの「いいやり方」がいつのまのか「ダメなやり方」に変わるということが必ず起こる」(294頁)
「その人が意欲を持って現場に足を運び、そこで現物を直接見たり現場にいる人の話に真摯に耳を傾けなければ物事の本質は見えない」(295頁)
「人間がなにか新しいことをしようと行動すれば、その結果はまず間違いなく失敗に終わる。しかし、その失敗自体は悪いことではなく、その経験の中で自分が見たこと、感じたこと、考えたことは必ず次に役に立つ。この時一番まずいのは、失敗に懲りて挑戦自体をやめてしまうことである。そうすることでたしかにその人は失敗することもなくなるが、同時に自らが進歩するチャンス、成長するチャンスを失ってしまうことになる。」(295頁)
【目次】
プロローグ 失敗に学ぶ
第一章 失敗とは何か
第二章 失敗の種類と特徴
第三章 失敗情報の伝わり方・伝え方
第四章 全体を理解する
第五章 失敗こそが創造を生む
第六章 失敗を立体的にとらえる
第七章 致命的な失敗をなくす
第八章 失敗を生かすシステムづくり
エピローグ 失敗を肯定しよう
あとがき(2000年10月11日)
文庫版あとがき(2005年3月11日)
●失敗(11頁)
「創造的な設計をするためには、多くの失敗が必要だ」
●法則性(20頁)
大切なのは、失敗の法則性を理解し、失敗の要因を知り、失敗が本当に致命的なものになる前に、未然に防止する術を覚えることです。
●「失敗」の定義(25頁)
「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目的を達成できないこと」
「人間が関わってひとつの行為を行ったとき、望ましくない、予期せぬ結果が生じること」
●ナイフ(32頁)
ナイフで手を切るという痛い経験をしていない子供は、ナイフが実際どれくらい危険なものか、きちんと理解できないまま成長することになります。
●失敗の原因(71頁)
1.無知
2.不注意
3.手順の不順守
4.誤判断
5.調査・検討の不足
6.制約条件の変化
7.企画不良
8.価値観不良
9.組織運営不良
10.未知
●失敗情報の記述(119頁)
失敗情報の記述は、「事象」、「経過」、「原因(推定原因)」、「対処」、「総括」の項目ごとに行う
●未知への遭遇(217頁)
未知への遭遇を原因とする「よい失敗」は、いくら注意を払っても避けられないものです。こういうケースまで厳しく責任が追及されるようでは、社会のなかで失敗はなおさら忌み嫌われ、時に隠され、隠蔽されることにもなりかねません。その結果、社会の発展は停止してしまいます。
☆関連図書(既読)
「だから失敗は起こる」畑村洋太郎著、NHK知るを楽しむ、2006.08.01
「数に強くなる」畑村洋太郎著、岩波新書、2007.02.20
「未曾有と想定外」畑村洋太郎著、講談社現代新書、2011.07.20
「朽ちていった命」岩本裕著、新潮文庫、2006.10.01
(2018年11月13日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
恥や減点の対象ではなく、肯定的に利用することが、失敗を生かすコツ。個人の成長も組織の発展も、失敗とのつきあい方で大きく違う。さらに新たな創造のヒントになり、大きな事故を未然に防ぐ方法も示される―。「失敗は成功の母」を科学的に実証した本書は、日本人の失敗に対する考えを大きく変えた。
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知っている上司が紹介していたため、話のネタ用に。
きちんと読むと疲れそうだったので60%程度で・・
それでも付箋貼ったところは多かった。
自分の勤める会社もまさに本書でいく”ダメ組織”だった。
効率化コストダウンを全力推進中で
技能継承はマニュアルだけでやってるもんなぁ。
「データベースはあるのに、誰も活用しない」という話も
「うちも!!」と思った。
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・「こうすればうまくいく」といういわば陽の世界の知識伝達によって新たにつくりだせるものは、結局はマネでしかありません。ところが、「こうやるとまずくなる」という陰の世界の知識伝達によって、まずくなる必然性を知って企画することは、人と同じ失敗をする時間と手間を省き、前の人よりも一ランク上の創造の次元から企画をスタートさせることができます。14
・これらの点に関して、地元の消防対策関係者から再三にわたって防災対策の要望がなされましたが、当時の国鉄はこれを聞き入れず、「検討する」とだけ答えてなにひとつ対応しませんでした。44
・役割分担が明確な企業などの組織では、企画者の下に実行者がいるのが一般的です。このケースでは企画そのものが悪ければ、実行者がどんなにがんばってもうまくいくはずがありませんが、実際はまったく責任がないはずの実行者に失敗原因が帰せられて後始末が行われることが多く、企画不良による失敗は実行者にとって最もつらい形になりがちです。とりわけこうしたことは、トップに権力が集中している組織に起こりがちです。74
・優秀なメーカーの営業マンの条件のひとつに、「自分の会社のものの流れをよく把握していること」というのがあります。153
・マニュアルからはずれたときに起こるべき問題を教え込まないことには、軽々にこれを試した結果の大失敗というものを誘発しかねません。226
・「まさかこんなことが起こるとは思わなかった」ではなく、「あり得ることは知っていたが、まったく考えていなかった」238
・単純な理由で致命的な失敗がおこる原因 ①技術が成熟していること ②大増産、もしくはコストダウン対策やリストラ策がはかられているところ240
・会議の多い会社ほど、失敗を起こしやすい体質を備えている…/…実際、会議の場での議論で重要な決定がなされることは、現実にはほとんどありません。むしろ審議をして決めたという既成事実づくりが目的で、これを盾に反対者の口封じを行ったり、失敗時の責任回避のための予防線にされているのが実態です。256
・役に立つ話であっても、関心がないのに強制的に気化されたのでは苦痛でしかありません。組織の主導で、研修や勉強会の名のもとに行われている知識伝達の多くは、ともすればこんなふうに形骸化したものになりがち274
・最大効率をお題目に、こうやればどうなるという仮想演習さえ禁じて、関連するはずの他部署の仕事の中身も全く教えず、全体システムの中でそれぞれの関係の脈絡を断ち切ってきたのが、日本企業の典型的な管理手法でした。280
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失敗について、反省しないことがよくないことであって、失敗自体はわるくはない。成功にしろ、失敗にしろ、あくまでも1つの結果であるのだから。
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失敗は「新たな創造の種となる、貴重な体験」 —— 。人が失敗してしまう原因から、そこから学び次へとつなげる方法まで、著者の実体験を交えながらわかりやすく説く。2000年の刊行以来、長く読み継がれる「失敗学」の名著。
プロローグ 失敗に学ぶ
第一章 失敗とは何か
第二章 失敗の種類と特徴
第三章 失敗情報の伝わり方・伝え方
第四章 全体を理解する
第五章 失敗こそが創造を生む
第六章 失敗を立体的にとらえる
第七章 致命的な失敗をなくす
第八章 失敗を生かすシステムづくり
エピローグ 失敗を肯定しよう
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2018/9/21読了。失敗学ってあるのかなーと思って検索してみたら発見。
なるほどなるほどイチイチもっともと思いながら読めたのは、自分の中で失敗というものが隠されるものという認識がまだあるせいかもしれない。
仕事に活かせるかと言われると工夫が必要だと思うが、とりあえずシミュレーションの企画には活用出来そう。
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失敗をどのように活かしていくか、理論と実践の双方に切り込む良書。
著者は元々は機械工学の専門家ですが、本著の内容は文系・理系問わず仕事に活かせるものばかりです。特に第3章、4章は組織の中の個人がどのように立ち振る舞えば良いのかの示唆に富んでいます。
失敗が多く、未然防止を考えたい方にお勧めです。
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失敗をレベル別にカテゴライズ。
データベース化。
等役立つ内容満載。
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どの組織や個人は失敗するが、失敗の分析、改善、思考などを行い、肯定的に捉えることが重要。非常に読みやすく、実例が多く取り上げられていて、分かりやすい。
著者プロフィール
1941年東京生まれ。東京大学工学部機械工学科修士課程修了。東京大学名誉教授。工学博士。専門は失敗学、創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。2001年より畑村創造工学研究所を主 宰。2002年にNPO法人「失敗学会」を、2007年に「危険学プロジェクト」を立ち上げる。著書に『図解 使える失敗学』(KADOKAWA)、『失敗学のすすめ』『創造学のすすめ』(講談社)『技術の創造と設計』(岩波書店)、『続・実際の設計』(日刊工業新聞社)『3現で学んだ危険学』(畑村創造工学研究所)など。
「2022年 『やらかした時にどうするか』 で使われていた紹介文から引用しています。」
畑村洋太郎の作品