虚像の砦 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062759250

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  • 中東で日本人3人が誘拐された実際の事件を背景にして、テレビという巨大メディアの実態を暴く情報小説。
    過去にスクープ報道で汚点を残したが、時の政権に批判的な姿勢を貫くテレビ局が舞台。
    主人公となるのは情報番組のディレクターとバラエティのプロデューサー。
    再三語られるのは、
    「情報とは、情に報いることだ。しかし、報道とは、道に報いて初めてそう呼ぶことができる。ジャーナリストは、真実を追い求めるだけでなく、人としてのあるべき道に報いることが出来なければ、その責任は全うできない」。
    誘拐事件を自作自演あるいは自己責任に世論を誘導するためにテレビ局を利用する政治家。テレビ局に絶大な力を持つ大手広告会社。政治権力に阿り、テレビ局内での地位を固めんとする役員。免許更新というテレビ局の生殺与奪権を握る官僚。
    二重三重の陰謀が繰り広げられるテレビ局。
    そんな中にあって、
    「俺たちの絵は、あんたらの嘘の道具じゃないんだ。テレビは映像さえあれば、それでいいんじゃない。映像が正しく使われるように、何で徹底的に取材しないんだ」と、真の報道を貫かんと、事件の真実を求めて現地に飛ぶディレクター。
    一方で、視聴率に縛られ自分を見失ってゆくバラエティのプロデュサー。
    一般に「公平中立条項」として、放送事業者は、「政治的に公平であることが義務付けられている放送法第3条の2①の2項がテーマともなり、『ハゲタカ』シリーズの著者ならではの、骨太で重厚な小説となっている。

    一人のジャーナリストが語る言葉が、印象に残る。
    「ジャーナリズムの使命とは、為政者が独裁者への道を歩み始めたと感じた時に、たとえ強引と言われても身を挺してでも阻止することだ」

  • 緊迫感あふれる展開。
    面白かったです。

  • これはおもしろかった!

  • 「虚像」と書いて「メディア」と読ませる本書はあるジャーナリズムあるいはテレビの役割とはなんなのか。あるいはその根底にある日本人の在り方とはなんなのか。小説の体をとっているが、その中身は当時の、あるいは現代においてもメディアにたいするあるいは我々に対する問いかけである。

    面白きゃいい、視聴率を取れればよいといった風潮に支配されているテレビお笑い界と、政府やスポンサーの顔を観ながら買い取りニュースを配信する報道局。そこには人の温かさや笑いが人々を幸せな気持ちにさせるような真の笑いや、政界あるいは産業界からも中立独立し、国民に対し真実を伝え続ける第四の権力としてのジャーナリズムとしての気概は残っていないのか?

    そこに気骨のあるものが現れても、うまく立ち回れないと途端に左遷されてしまう。結果、無難なお笑いや報道記事が蔓延していくという構造的な問題を抱える放送業界にあって、風見や黒岩は異端児である。

    その異端児としての活躍と、業界に巣くうグレーな世界とのやりとりを真山仁独特の語り口とスピード感でドライブしていく。官界の中でも正義心を持ち、お役所仕事をこなしつつも正義感を持って仕事に踏み込もうとする官僚もまた存在する。

    本書でも何度も外の力によるテレビ局の在り方が捻じ曲げられる場面が出てくる。しかし最後の最後で少しだけやり返すような、小さくガッツポーズするようなシーンが存在する。そこで一矢報いるあるいはそこから未来が広がっていくという光を感じることができ、これこそが真山仁の真骨頂だと再認識するのだ。

  • 2018/7/15読了

  • 中東で日本人が誘拐された。その情報をいち早く得た、民放PTBディレクター・風見は、他局に先んじて放送しようと動き出すが、予想外の抵抗を受ける。一方、バラエティ番組の敏腕プロデューサー・黒岩は、次第に視聴率に縛られ、自分を見失っていった。二人の苦悩と葛藤を通して、巨大メディアの内実を暴く。

  • テレビ局を舞台にした物語。決して短くはないが緊迫感あふれる息つかせぬ展開でどんどん読めてしまう。

  • ハゲタカのドラマは見てたけど、本では作者初挑戦。
    序盤の劣勢から逆転するスッキリ爽快社会もので、気持ちよく読めて面白かった。
    独特なテレビ業界の慣習や、構造など知らない事が多かったけど上手に書いてあるため、置いてけぼりにならず、むしろ大変勉強になった。
    現実の事件と重なる部分が多く、当時の裏背景を色々想像してしまう、、、

  • 著者2作目。
    前回読んだ『黙示』同様、綿密な取材の結果が伝わってきて、あたかもノンフィクションを読んでいるかのような錯覚に陥る。
    テレビ局の報道とバラエティ番組、両者に関わる人物たちの苦悩と葛藤と起死回生の物語。
    政治家からの言論弾圧や、華やかさの裏でめまぐるしく展開する裏工作が、妙なリアリティを伴って突きつけられる。
    背景説明の多さも事実ながら、一般人である私にはそれが理解を助けてくれるツールだったと思う。

  • 相変わらずのリアルっぽさ。まあ、っぽさ、なんだけどね。

  • ジャーナリストとは 何か?
    を自問する 風見は イスラエルでの日本人人質事件を
    通じて、ジャーナリストのあり方を 真剣に問う。
    父親も 新聞記者で その姿を追いかけていた。
    日本も二世代目が 物語の中心になっていくのですね。

    お笑い系番組を企画して 視聴率オトコといわれる黒岩。
    父親が 笑いの研究をしていた。
    それを受け継いで、笑いを追求する。
    弱いものいじめや年寄りをバカ扱いする笑いから
    本当の笑いとは何かを追求する。

    風見と黒岩の二人が 同じテレビ局の中で
    苦闘しながら 本当の姿を 求めようとする。

    一方で 『自己責任』という 言葉が どうやって発生し
    どのように操作されるのかを、暴きだす。
    なるほど、こんな文脈で 『自己責任』でてきたのか。

    テレビ局の経営が あまり 
    収益性のないビジネスモデルになってきているなかで
    ドレッシング ですすめるのか?護衛集団に守られるのか?
    いずれにしても マスメディアが 苦悩の選択をせざるを得ない。
    それでも、マスメディアには バーチャル的な権力が存在するのは
    不思議である。
    こんなところに、電通がしゃしゃり出てくるのも 意外な感じがあった。

    真山仁の 追求するテーマが 先鋭化しているのは、
    彼のもつ 志が 大きいのかもしれない。
    大きく物事をとらえながら、言葉の意味を
    事件の背景における 大きな闘いが しのぎあっている。

  • 面白かったけど、他の真山小説よりはもうちょっとだったかなと。

  • テレビ業界の裏側を、報道とバラエティの制作の現場を通してこれでもかと見せつけられる。普段何気なく見ている番組にも、視聴率や色々な大人の事情が絡んでくるものなんだなぁ〜…リアルにドロドロ。ただハゲタカと同様に終わりはスッキリ

  • コレを読むと、テレビの報道番組やお笑い番組の見方が、今までと変わる。

  • 放送局の実態が、よくかけているのでは。

  • テレビ局の人達って本当にこの小説の中の人々のような気持ちで仕事してるんだろうか。

  • イラクのNGO人質事件をモデルにした人質事件の報道、「笑い」ビジネス、テレビ局と権力、総務省の許認可権を描いた小説。「ハゲタカ」や「ベイジン」もそうですが、この著者はオチに近づくと、やや強引な展開になる傾向あり。まあ面白いからいいですが。

  • やはり真山さんの本はおもしろい。
    知的好奇心をくすぐるんだよなー。知識というより世の中の一端を知れるというか。

    テレビというメディアに焦点を当てて、その中でも報道とバラエティを取り上げて題材にしてる。
    一時、自分も報道をやりたいと思った時期があったからすごい興味持って読めた。

  • 報道、エンタメ番組のディレクターが、それぞれ気骨を持って撮影、番組制作を進めて行く前に立ちはだかる組織、官僚、政治の壁、壁、壁。

    しかし、グレーなやり方も含めつつ突破していく様がリアルに描かれる。

    内容はフィクションであるが、実事件に近いものを取り扱っており、それも含め多大な臨場感がある。

    真山氏が取り扱う登場人物は、気骨のある人物が多く、読んでいて気持ちが良い。他方で、組織の論理を取り込み、立ち回っていくのでぶっとんだノンフィクション感もない。
    仕事本として新卒などに読ませて感想を聞いてみたい。

  • as isとかto beとかで語れる組織。でも人にはそれが必ずしも適用しない。結局、矜持とかモラルとかはas isの延長線上にあり、必ずしも夢=to beではない。
    金銭的に成功する、社会的地位を持つ、世界を平和にするとか、世の中は目標を持っている人を賛辞するような風潮があるけれど、畳の上で死にたいとかも同じくらいの価値があって良いと思う。
    現実的なのか、理想的なのか、青臭いのか、泥臭いのか、熱いのか、クールなのかは皆人それぞれで、大仰にいう必要も無いし、聞く必要も無い。何度も出てくる「自己責任」という言葉は、自分の行動に自分で責任を取れるか、責任を自覚して行動に移せるのかが問われているのだと思う。
    「筋論」や「べき論」は本当はシンプルな関係性の中で問われるべきであり、そこに意図や思い込みが入るから生きづらくなってくる。
    清廉潔白がいつの間にか、除菌や殺菌やらで逆に菌に弱くなる体。
    綺麗にあることを求めすぎて、白いシャツにインクの染みが一つつくことを恐れ、逆に白いシャツが着れなくなる馬鹿馬鹿しさ。
    あまりにも日本は、クリーンであることを求めすぎて、逆に強さを失っているのではないかと思う。手段と目的をわかって履き違える悪趣味はまだマシで、自分もその一人かもしれないが、無邪気な悪意や平気で屍を踏んで歩く、そんな人を見てみない振りをしていることにこの小説を通して気づかされる。
    じゃぁどうすればよいか、はHow toだけど、そんなものは本屋で1,400円で買えるのではなくて、結局自分が失敗して恥をかいて、理不尽なことに怒って、ちょっとした優しさに感謝して、迷惑をかけて反省し、かけられて許し、as isな自分を少しずつ自分の思える「善」に対してすすめていくことが、死ぬ間際に「あぁ幸せだったなぁ」と思える僕の些細なTo beなんだと思う。じゃぁ「善」ってなんなのかはまだわからないけど。そんな本が1,400円で売っているなら誰か教えてください。

  • 小説は人生で数冊くらいしか読んだ記憶がないけど、
    これはすごく面白かった。

    映像化されたのを見てみたいけど、
    さすがに無理だわな。

  • 真山仁氏の本は、社会性があり、どの本も引き込まれてしまう。この本も一気に読めた。

  • 報道のディレクター風見、バラエティのプロデューサー黒岩の二人を主人公として、某TV局(と言いながら、あそこだな、と露骨なんですが^^;)を舞台に展開するストーリー。昔実際にあった、中東でのボランティア日本人誘拐事件をモデルとして話が進む場面も。面白かった。すでに会社をリタイヤした自分としては、池井戸さんの描く銀行マンといい、この作品が描くTV局スタッフといい、自分の仕事に熱意をもって臨んでいるサラリーマンの姿にほろ苦いものを感じる。

  • 「ハゲタカ」シリーズの真山仁の作品ですが、ハゲタカよりも引きこまれた感があるのはトピックが自分にとっても興味のある分野だったからか、それとも著者の気合の入り方か。いずれにしても終わりの見えない中で非常に楽しく読める一冊でした。ちょっとみんな簡単に首吊すぎだけど、たしかにテレビ関係者の人の自殺って多い印象があるから、怖い世界なのかもしれないですねぇ。

  • 実際にあった事件がいろいろと頭をよぎる内容。
    もちろん、それらを脚色した上でのフィクションですが。
    こういうストーリーを表現できるところが、小説の面白さであり、真山仁の面白さなのかなと思いました。

  • この小説すごいね。テレビ局の実態をここまで描いてしまうなんて。最後に林操がテレビを見る熱さと温かさ、そして冷徹さが混在した小説だと言ってたけど、まさにそんな小説でした。おもしろかった!

  • 2011/8/12読了。

    テレビの報道とお笑いという、一見正反対に見える両部門における登場人物の葛藤、理念や志といった理想と、報道規制やスポンサーといった現実の間で揺れる姿を描いている。この本と合わせて新聞をテーマにした企業小説を読んだことで、マスメディアが抱える問題、報道の自由と企業利益の追求のバランスをとる困難さが垣間見えたように感じられた。
    また、企業小説というと業界特有の横文字や専門語句が並んでいるような印象が強いのだが、真山仁の著書はどの作品でも比較的平易な説明がなされており、全体像が掴みやすい。それでいてその業界の本質が映し出されているように感じられるだから、とても不思議である。

    私事になるが、ウニの添加物に関する記述が記憶に残っている。この本を読んだ翌日に訪れた海鮮丼屋で、ウニの鮮度の良さを伝えるために偶然にも添加物に関する説明を聞かせていただいたのである。

  • 虚像と書いて、メディアと読ます題名から刺激的。TBSのお家騒動をモチーフに、展開されていく。その中で、印象的な言葉があった。
    「笑いによる攻撃に立ち向かえるものはなにもない」
    「我々の仕事は、影や闇に光を当てることだ。その闇のなかにあるものが何かは、問題じゃない。大切なのは、闇をそのままに捨て置かないことだ」

  • ・笑いをまじめな人が書くとひどい
    ・とは言いつつそこらへんに深くふれないからセーフ
    ・メディアとはこんなに熱いのか?
    ・地元のテレビ局でバイトしてたときはそんな感じはしなかった。
    ・ローカル局とキー局の違いか?
    ・ただ作品としてはまぁまぁ面白い
    ・最強の笑いを求めると行き着くのはどこになるんだろうか?

  • 面白かった!

著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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