最後の命 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062767026

感想・レビュー・書評

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  • もやもやする。とてももやもやする。
    善悪で区切れるならばとても楽なのに、でもそれでいいのかと思ってしまう。
    でもでもそれを少しでも肯定しようとすると、自分が荷担しているような気がして、いやいやそういう意味ではないんだけど、と頭のなかで永遠と繰り返す。もやもやする。でも嫌いではない。むしろ好き。

  • 推理小説の如く伏線を回収していくラストの部分とあるべきではないのだが誰しも心の底にもっている闇を記していて、更に謎を残してフェイドアウトしていく・・・読了後自身の心理面を再チェックしたくなる一冊です。中村氏の作品は続けて読まずブレイクタイムが必要な重さを感じます。

  • 幼いこころに同じ出来事でトラウマを生む親友二人。消し去ることのできない衝撃は、思春期に、学生時代に、大人に成長しても二人のこころを締め付ける。悩み、衝動、悔やみ、罰…。負を背負うことは同じでも行動は全く違う二人。負を追い払うよりも同化し慣れていくことで行きていくことができた二人…負の描写をさせたらピカイチですな。もう完全に中村文則ファンです。

  • 小学生のとき、親友の冴木と遭遇してしまったホームレスの集団レイプ。
    主人公はそのことがきっかけで性に対して潔癖症に、冴木は逆に強姦でしか興奮できなくなってしまう。
    対照的に成長した彼らは大人になり邂逅を果たすが、そこに一人の女性の凄惨な殺人事件が起きた。

    私と冴木の過去もふくめて、とにかく重く悲痛な小説だった。
    死にそうな人間を見捨てることだとか、抑制の効かない性衝動だとか、殺人だとか。
    悪というものの本質を考えさせられました。
    つまり悪とは一体なんなのだろうか。
    冴木は自分自身へ罰を受けるべきだったのだろうか?
    人生というものをどう生きてどう使いどう死のうと、すべて彼の自由だ。
    私は冴木は救われるべきだったと思います。それだけに、結局あのような結末を迎えてしまったのには虚無感で気が沈みました。

    これを執筆していたときの中村文則本人の精神状態が気になる。
    読むのはこれで5冊目ですが、いよいよハマりそうです。

  •  読み終えて、Webで映画を観るが5分で断念、やはりというか・・・画像の暗さに欝々として観る気が失せてしまう。小説の内容を感覚的に表現すると「物凄くねちっこくて救いのない話、ハッピーエンドは期待できない」逆に評価すると、けっして知れることのない人の内面、また行動をここまで書ききるとこができる貴重な作家はいないのかもしれない。この才能はとっても稀有だとおもう。

  • 「悪はいったい、どこから来るのか」
    映画のキャッチコピーですが、気になり本を買いましたがなかなか読めず、開けば1日で読めました。
    本当に悪はどこから来たのか。
    何が悪なのか。
    一人一人の人生があったのだから、一人の視点からだけでは何も分からない。
    物騒なニュースが多いが、本当にどこから来たのか。

    最後に香里さんとの向き合い方なんかも書かれていて、読み手にその後を丸投げにしない物語でフィクション感があった。

  • 理性が働いて悪性腫瘍のように自分を蝕む欲望だと
    分かっていながらそれに耽溺してしまう冴木。

    一般的に、正しいことだと分かっていながら
    恐怖からそれを行えないとか、
    幸せを受け入れられずあえて不幸を選んでしまうとか、
    自分の経験ではその程度のことだけれど、
    冴木のような状況は充分ありうるだろうなと思う。

    成長しつづける魂の未来という連鎖が
    人間に本当にあるのだとしたら、
    こんな矛盾に満ちた世界に生れ落ちて
    善なるものを獲得する人生を
    記憶も新に何度も経験する必要などあるのだろうか?
    よく、記憶をリセットするのは
    過去獲得した何者にも縛られずに
    一からやり直して得られるものが真実だから的なこと
    をいうことがあるけれど、
    記憶があろうとなかろうと、
    真実善に向かう成長傾向があるものなら、
    記憶があろうとなかろうとそのように歩むのは
    当たり前のことのように思える。

    でもこの世の中のことや自分のこととして
    考えてみると、どうもそれは違うことのようである。
    過去の記憶もなにもなく一からはじめているこの
    生活の中で、恐怖に打ち克てず、欲望におぼれ、
    他人を妬み嫉みいじけて汚れていく様が、
    何より本質で真実の姿で、
    どんなに記憶をリセットして何度生きることをやり直しても、
    記憶もなく生きている今が真実の姿で自分の本質なのだから、
    どんな人生を何度送っても、
    恐怖に震え、欲望に屈し、罪に汚れていくのではないだろうか。

    冴木が泣きながら訴えたことは
    無駄じゃなかったと言えるとすれば、
    彼が自分の人生を自ら閉じることで
    友人へ影響を与えたただ一点のみなのではないか。

    ・・・とか色々悲壮な思いに囚われます。

  • またしても社会に包摂されない孤独な青年を主人公とした本著は、中村版「第三の男」ともいうべきか。良質のハードボイルドでありながら徐々に隘路に追い込まれていくような不思議な感覚に襲われる。

  • 非常に読んでいてつらくなる作品。だけれども、夢中で読み進めた。
    性欲は、時に人の命を奪ってしまう恐ろしいものであると考え怖くなる。そして、幼少期のトラウマ、親子関係が将来に及ぼす影響についても、この本から読み取れる。
    現実にそのように苦しんでいる人がいるとしたら、つらいだろうと察するし、少しのことで人生は暗い方に転ずるのである。
    だが、最後に怖くないよと主人公が放った一言が、少しだけ明るいミライを案じてるように思え、気持ちが少し晴れた。

  • 中村文則を読むのは7冊目。
    施設で育った系主人公が多い中村作品だけど、この話の主人公たちはそうじゃない。“普通の家庭”で育っている。まずそこに「おっ、珍しいな」と思ってしまった。

    レイプ現場を見てしまった、そして多少なりとも参加させられてしまった少年二人の物語。
    簡単にまとめると、一人はレイプという行為に興奮を抱くようになり、一人は潔癖になった。
    しかし果たしてそれはその事件がキッカケだったのか?自分が持って生まれた素質だったのか?自分たちは過程を間違えたのか。

    暗く重いテーマの中で物語は進んでいく。
    罪と罰、葛藤。そしてミステリー。心はずーんとなるけれど、読み応えはあります。
    中村作品はなーんか癖になっちゃうんだよな。犯罪者側の視点って世間的には珍しいし。中村作品そういうのばっかだけど。でもそれって凄いことだと思うんだよ。人が目を背けたくなるようなところにスポットを当てているというか。

    鬱々としているけれど、だからこそ伝わるものもある。安心する、という言い方だと語弊があるのかな。でもそうなんです。分かんないけど。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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