- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062767026
感想・レビュー・書評
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中村文則の凄さは、「こちら側」と「あちら側」(白と黒とか、普通と異常とかで表されるもの)の狭間を描ききる所にあると思う。
例えばデビュー作の『銃』や二作目の『遮光』なんかは「こちら側」から「あちら側」へと踏み入る人の話。
『最後の命』は、狭間で悩み続ける主人公と「あちら側」に行ってしまった冴木が退避して描かれている。
そして、本作と『銃』『遮光』の最大の違いは、「あちら側」に行った人の自意識にあると思う。
『遮光』ではラストで「瓶のある世界」へと行ってしまい、言ってしまえば主人公発狂エンドだ。けど、周囲とのズレとかそういうものを取り払い、二人だけの世界で生きること。それはある意味幸せなんじゃないかと思う。
でも、本作の冴木は「あちら側」に行ってしまっているのに苦しみ続ける。
便宜上「あちら側」で一括りにしているけれど、作中にも登場する『罪と罰』に象徴されるように、罪人という意識を持っているのが原因だろう。
この本を面白いと思うのは、彼らの苦悩に自分の中にある「あちら側」の要素を掘り出されてしまうからなんじゃないだろうか。(「あちら側」的な考えをしてしまうのはおかしい事じゃないと作中でも触れられているけど)
ニーチェ的に言うと、「深淵」を覗き、取り込まれたり足掻いたりする彼ら。その苦悩に触れる僕たちも、深淵に取り込まれない様に気をつけなければならない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この人の書く本はいつも自分の思考まで絡め取られるような感覚に陥る。
周りに人がいない状態で読んでしまうと、自分の思考が内へ内へと向いてしまって危険だと感じてしまう時がある。 -
どんよりした展開、ある意味重いテーマではあるが軽々な描写はリアリティを感じない創作
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やはり中村作品は気持ち悪い。しかし満たされない欲望を持っている人間は辛いと同情した。
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2
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中村文則さんの小説をはじめて読んだ。深い絶望の中の小さな希望をイメージさせられた小説でした。
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「俺は、これが、たまらなく好きなんだよ。悩んでるし、俺の人生は、めちゃくちゃになったけど、俺は、こう思うことが、こうやって、女を襲いたいと思うこの欲望自体が、たまらなく好きなんだよ」
「お前は、ひょっとしたら、いなくなった方がいいのかもしれない。お前のことを知らない人間から見れば、そうなのかもしれない。でも、俺は、そう思わないんだよ。お前が間違っていても、俺は、お前が死んだら嫌なんだ。物事は、そんな単純なものじゃない。そうだろう?色々な立場がある。わかるか?世の中なんてどうだっていいんだ。どうだって、いいんだよ。逃げろよ。薬でも飲んで、我慢し続けて、生きたっていいじゃないか」 -
救われる
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中村文則の作品に共通する、心の暗い部分に埋まりそうなテーマに共感しながら、どこか反社会的な生き方をする登場人物たちにやりきれなさも感じる。
だが作品はストーリーの流れに乱れが無く、減速する箇所もなく、文字を追うことについては抵抗が無かった。
少年から青年にかけての性衝動に付きまとわれた生活は、全て小学生時代に偶然見た、知的障碍者の女がホームレスたちに犯されていたことに始まる。
その風景が、ホームレスたちとの共犯じみた原風景になって脳裏の底に沈んでいて、常に顔を出す。
友達だった二人の少年が同じ事件をわずか違った視覚から見、その違いが 二人が別の人生に分かれてしまったあとの生き方になる。
しかし二人の成長とともに原風景は広がり、それに捉えられてしまった後では、頭にこびりついたような性というものに人格を覆い尽くされ、支配されていく。
人の暗部を少年の性を語ることで、暗い闇を背負った二人の男が如何に生き、それを受け入れ抗い、どこにたどり着いたか。
人の原罪に迫る悩みを、生活全体に塗り広げ、作者は解決することを登場人物に任せた、そんな救いようのない作品だった。
分かれた後、闇に流され立ち直ろうともがいていることをお互いに知らなかった二人が、偶然出会い、過去を見つめ返す、しかしやはり、自分を救うのは自分でしかなく、深みに流されていった一人。
助けの要る女を伴侶にして、生き続けようとする一人の、漆黒の中に薄闇が見えてくるような生き方にわずかな救いが見える。
若い中村文則の描き出す暗い人生シリーズの中で、心に残る一冊だった。 -
201910