- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062767385
作品紹介・あらすじ
戦争を生き抜いた著者がつづる生と死の物語
戦記ドキュメンタリー完全復刻!
昭和19年、南太平洋ニューブリテン島中部、部隊は壊滅的打撃を受けたものの、ひとり生き延び、仲間の鈴木と合流することに成功する。そして断崖を通り抜け道なき道を進み、敗走を続けた。敵に追われ、飢えや渇き、暑さに苦しみながらも九死に一生を得た著者が綴る、生と死の物語。戦記漫画の傑作を6編収録。
※本書は1991年11月に株式会社コミックスより刊行されました。
感想・レビュー・書評
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第二次世界大戦にまつわる短編集。
さすが、水木作品のクオリティの高さ。
戦争体験しているからこその実際の戦場の厳しさと、水木センセイのユーモア漂う軽やかさが絶妙にブレンドされている。
「敗走記」
奇跡の生き延びた兵士に下される日本軍の軍隊としての不条理
「ダンピール海峡」
日本国旗を守りきることを使命とされた兵隊の悲劇
水木さんのあとがき
「南方の入道雲をみると、いつも「これが最後…」と何回も思ったことがある。このダンピール海峡を渡った兵隊の気持ちを(なんともいえない気持ち)「ダンピール海峡」という作品にした」
「レーモン河畔」
戦場の美女が無事に救われる
水木さんのあとがき
「明日死ぬかも知れぬ戦場に現れた美女が、なんと、無事に後方まで下がり、今日まで生きのびるという、めずらしい話だ。そして二人のうち一人は、現在、東京にいる」
「KANDERE」
南国の原住民との交流から数奇な奇蹟が起こる。
「ごきぶり」
戦争に翻弄され、戦後も先犯として巣鴨で処刑された名もない一人の男の人生
「幽霊艦長」
自ら犠牲となって敵の前に散ることで味方を救った宮本艦長。
「昨夜の激戦のあった海面はうそのように静まりかえっていた・・・」という場面が印象深い詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
漫画家の水木しげるさんが、自らの体験や生存者の話をもとに、太平洋戦争の過酷な最前線を描いた戦記漫画。
毎日、何人がコロナウィルスに感染、何人が死亡、と当たり前のようにニュースが流れるようになって、自分の中では死がずっと近くなったような気がしていたが、本書を読むと、その感覚が全く話にならないくらい戦時中は死と隣り合わせだったことを改めて感じる。そしてそれは、敵の銃弾だけでなく、日本軍のかたくななまでの「美徳」の強要も大きな要因だった。
目の前で親友を現地民に殺され、命からがら逃げかえってきた「僕」に対し、待っていたのは、「敵前逃亡罪」という汚名だった(『敗走記』)。
敵の爆撃をようやく逃れ、大隊に合流すると、待っていたのは傷病兵と自決用の手りゅう弾だった(『カンデレ』)。
戦時中の人命のなんと軽いことか。そしてこれははるか昔のことではなく、たかだか80年足らず前の日本の姿なのだ。
『敗走記』の最後に、水木しげるさんが書斎で雨を眺めながらつぶやく言葉をしっかり心に受け止めなければならない、と思う。
「戦争は 人間を悪魔にする 戦争をこの地上からなくさないかぎり 地上は天国になりえない……」 -
あとがきから察するに、ほぼ実話、少しフィクション、のようです。
ほんとうはきっと耳を覆いたくなるようなひどい話、つらい話をいっぱい見聞きされてこられたのでしょうが、その中からこれらの話を選んで漫画にしてきた水木さんの思いのようなものを考えてしまいます。
悲しい物語もどこかこっけいな描写があって、読むのがそんなに辛くなく、過酷な状況で忘れられがちな「人の誠実さ」「友情」「家族愛」が、決していつも損なわれてばかりではなかったことなどを教えてくれます。
前にも思いましたが、漫画というメディアは、かつて日本が我を失い袋小路に迷い込んでしまった戦争の体験を伝えるのに非常に向いていると思います。
特に水木さんの漫画は、少しトボけたような明るい雰囲気があって、「戦争のことを知ろう!」なんて気負うこともなく、読むことができます。それでいて戦争の本質みたいなものはしっかりと伝わってきて、心の奥に残ります。 -
淡々と描かれているのが、本当に恐ろしい…
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NHK朝の連続ドラマ『ゲゲゲの女房』も先週の100回を超えるあたりから、やっと何十枚も溜っていた質札を元に戻せるくらい収入が安定し、ようやく水木家にも貧乏神が去っていく兆しがみえてきたようです。
つまり、すたれていく貸本屋マンガから時代は週刊マンガ誌へと移行、一部のマニアの間でしか読まれていなかった俗悪な貸本マンガ家の水木しげるも、何十万部という雑誌に掲載されるやいなや一気に読者層の拡大を得て人気沸騰、例のあのサンデーVSマガジンの火花を散らす闘いの鍵みたいな存在と目されていたようですが、でも、その狭間に「少年ブック」や「漫画王」や「少年」や「ぼくら」や「少年画報」や「少年クラブ」という月間マンガ誌の時代があって、マンガもさることながら付録についてくる忍者の極意を書いた巻物やなんかも楽しみのひとつだったと私の父などは言いますが、調べてみると、この月間というスタイルが時代のニーズに合わなくなって60年代後半にほとんど休刊や週刊誌との合併に追い込まれています。
ただ、わずか10年前後しかない月刊誌の時期だったとしても、どうして水木しげるの活躍できる余地がなかったのか不思議です。
それにしても、あの伝説の青林堂によるマンガ誌「ガロ」の長井勝一をモデルにした嵐星社発行のマンガ誌「ゼタ」の深沢洋一(演じるはわが村上弘明!)や、東考社による貸本マンガからインディーズ出版を極貧のなかで貫徹した桜井昌一をモデルとする北西社の戌井慎二(俳優は梶原善)、このふたりのような地位や名声や富を求めないマンガへの無上の愛と、マンガをみる確かな目がなければ今のこのマンガの隆盛も広汎な才能の開花もなかったような気がします。
ところで、『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』だけが水木しげるではないと知っていても、なかなかその他のハードなものに手が伸びないのが水木ファンではない普通のマンガ愛好家というものでしょうが、それは絶対に惜しいと断言できます。
というのは、彼の戦記物は同種の娯楽的に書かれたものと比べても告発的な体験者によるものと並べても、まったく異質な肉体的な水木しげるという個別な人間的なものにあふれたもので、それは、何も戦争の無意味さを訴えたり、もちろん格好よさを吹聴したりするわけではなく、ただあるがままに自ら経験した惨めさ汚さ空腹さ痛さ苦しさを書き表し、勝ち戦も負け戦もないただ死へと向かうだけの行進でしかなく、その残酷な現実と向かい合うためには天皇陛下万歳とかお母さんとか言ってはいられず、幾分は半狂乱気味にでもなって、森の精霊や石と遊んだり純朴な現地の人と交流したりしなきゃやってらんないとばかりに、戦争の真っ只中にありながら戦争そっちのけで、せっかく戦争で南島に行ったのだからと、ちゃっかり生来の妖怪趣味を活かしてちゃんと南洋編を編纂してくるあたりやはり水木しげるという人はとことん只者ではありません。
願わくば、水木しげるの戦記マンガを読んで、一人でも多くの方が戦争を生理的に嫌悪する感性と肉体を持たれんことを! -
「敗走記」水木しげる著、講談社文庫、2010.07.15
272p ¥550 C0179 (2022.07.17読了)(2022.07.12拝借)(2010.08.11/2刷)
太平洋戦争中の南方戦線における日本軍の話、六編が収録されています。
悲惨ではありますが、生き延びた人たちの話もあるので、ちょっと救われる感じがします。
【目次】
敗走記
ダンピール海峡
レーモン河畔
KANDERE
ごきぶり
幽霊艦長
あとがき
☆関連図書(既読)
「カラー版 妖怪画談」水木しげる著、岩波新書、1992.07.20
「カラー版 続妖怪画談」水木しげる著、岩波新書、1993.06.21
「カラー版 幽霊画談」水木しげる著、岩波新書、1994.06.20
「総員玉砕せよ!」水木しげる著、講談社文庫、1995.06.15
「カランコロン漂泊記」水木しげる著、小学館、2010.04.11
「ゲゲゲの女房」武良布枝著、実業之日本社、2008.03.11
(アマゾンより)
戦争を生き抜いた著者がつづる生と死の物語
戦記ドキュメンタリー完全復刻!
昭和19年、南太平洋ニューブリテン島中部、部隊は壊滅的打撃を受けたものの、ひとり生き延び、仲間の鈴木と合流することに成功する。そして断崖を通り抜け道なき道を進み、敗走を続けた。敵に追われ、飢えや渇き、暑さに苦しみながらも九死に一生を得た著者が綴る、生と死の物語。戦記漫画の傑作を6編収録。 -
ゲゲゲの女房視聴後、興味を持ち購入。戦争短編数編が収録されているが、そのどれもに共通して感じたのは物語の悲しさと美しさである。戦争モノは戦争の悲劇性ばかりを捉える作品が多い印象を抱いていたが、水木しげるの戦記物は、死のもつ悲しさだけでなく、美しさも描いている。さらに当時の日本軍の描写に関しては、彼らの精神性や価値観に対して、嘲笑するのではなく美しいものは美しいのだ、と誠実さを感じる。「生」の醜さ、素晴らしさ、「死」の悲しさ、美しさ、戦地で実際に戦ったからこそ描けた作品。
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(01)
標題の短編のほか5編が収録されている.いずれも太平洋戦争の南方戦線が舞台となっている.
おそらく著者本人が描いたであろう背景の細密が印象的で,南や黒を感じるタッチであり,テーマ(*02)にも即している.その背景に比べると人物や表情は戯画化されシンプルであるが,飄々さ,戦場をさまよう亡霊といった感じがよく出ているように思う.
擬音表現も興味深い.それは背景でもなく人物でもない,セリフでもないし,説明の地の文でもない,その擬音たちが細密な背景にうまくデザインされて配置され,漫画を芸術として昇華させている.
(02)
無論,反戦の立場から戦争の悲惨さを描いた作品として読んでよいと思うが,戦争礼賛まではいかないものの戦場の美談といったテーマも扱っているところに著者の冷静が表現されているように思う.また,戦場となった南方の現地人,風土風物への言及にも著者ならではの視線を感じる. -
一言足りとも反戦云々言わずして戦争の不条理と滑稽さ、残酷さを書き連ねた傑作短編集。
旗の話とか泣きたくなってくる。 -
「生死の境に美談あり」人は死に直面すると、仏にもなるし、鬼にもなるんだろう。南方での兵士の日常の数々。多少フィクションもあるようだが、これは体験者でしか語れない内容。映像だと派手な戦闘シーンや美化されたものが多いが、こういう漫画は貴重な資料になる。