ひそやかな花園 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062777582

作品紹介・あらすじ

ひそやかな花園は角田光代さんが書かれ2014年に文庫が発売された小説です。毎年家族ぐるみでサマーキャンプをしていた七人。七人にとって楽しかったキャンプがある年から突然なくなってしまう。大人となった七人が再会し、彼らの出生にまつわる衝撃の真実。話にひきこまれてしまうミステリーでありながら感動してしまう作品です。

感想・レビュー・書評

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  • 夏がやってくるたび、年に一度だけ別荘に集まって過ごす七組の家族。
    しかし、数年繰り返されていた集まり「キャンプ」は突然打ち切られる。
    あれは一体、何の集まりだったのか。
    当時、幼い子どもだった7人の男女は、それぞれの人生を歩んでいくのだが、ひとり、ふたりと再会して、それが、どういうものだったかを知ることになる。

    物語は、非配偶者間人工授精によって生命を授かって生まれた子どもたちが主人公です。

    これは、家族の物語なんだな、と思いました。
    結婚して家族ができて、また、新しい家族を迎える。

    新しい家族が、なかなか迎えられなったら?

    妊娠、出産について考えさせられました。
    家族のかたちについても、色々と考えさせられました。
    そして、知ることも出来ました。
    安易に自身の考えをのべることが難しいテーマでしたが、読んで良かったと思います。


  • 幼い日の夏の記憶、靄のかかった部分がある。
    自分の何かがおかしくて、生きづらさを抱えている。
    かつての子どもたちは時を経て再会を果たし、夏の記憶を探り動き出す。そして生きていくことへ、踏み出していくお話。

    そんなにうまくいくかなー。
    前向きになれるかな。
    会いたいと思うだろうか。今後も関係を続けていくのか?私だったらもうこれで終わりにしたい、と思った。

    それぞれ靄のかかった記憶の部分、生きづらさ、心情の描写は良かった。

    一部の親が無責任、不誠実だと思った。
    言ってもいい嘘と、絶対に言ってはならない嘘があると切に感じた。
    ライターの野谷光太郎のセリフも心に残った。
    「だれかを傷つけるために言葉を使っちゃ、ぜったいにいけないんだ」

    重いテーマであった。
    どう"生まれたか"より、どう"生きてきたか"…と書かれていたが、難しい。難しすぎる。

    追記
    (解説より)
    家族とは、親子とは、夫婦とは、差し出されたり与えられたりするものではなく、かたちのないところから築いてゆくもの、新たに創造するもの。むろん、血縁を超えて。
    なるほど〜。

  • いつも思うけれど。
    角田さんの文章、小説は奥が深い。
    本当に人がどう考え、どう生きているか、ひしひしと伝わってくる。
    このキャンプに集まった彼らはどうだろう。
    たのしいキャンプだった。子供たちも、親たちも。

    そうだろうか。

    そこからドラマが始まる。苦悩が始まる。
    でも、かれらは本当に一生懸命生きている。
    美しいと思うけれど。
    これは彼らのカルマなのですね。

    多くの人の小説を読んで、そしてそのあとがきを読み進めると、角田さんのお人柄も垣間見えます(本書にはあとがきはありませんでした)。世話好き、お酒好き、たばこ好き。世話好き、というところ、そうかもな~、と。
    あとがきって、なにげに楽しい。です。

    ーーー

    位置No.2633
    私はね、すごくたのしいとか、すごくうれしいってことは、点だと思ってるの。そしてしあわせというのは線。ずーっとたのしいこと続きということはあり得ない。だからずーっとしあわせというのもあり得ないと思ってる。ただ、一瞬でも、一日でも、あるいはもっと漠然とでも、ああたのしかったって思えることがあったら、私はとりあえずしあわせだって。

    位置No.3576
    「さっききみは、焼鳥といっしょに食べるものだと言った。おれはお通しだと思ってた。どっちも微妙に違った。でも、どっちも間違ってない。

    ↑ これ、なにげに大事なひとこま。

    位置No.4044
    お礼を言いたい。会ったことのないあなた、私の世界を創ってくれて、ありがとう。おとうさんって、もう二度と呼びません。呼ばなくても、もうだいじょうぶだから。

  • この作品をネタバレなしで感想を書ける人がいたら、どうぞ教えてください! はい、私は放棄します! 読了済みの方で、共有したい方はコメントをお願いします。紗有美の感覚が実は一番ノーマルなんだろうけど、共感はできない。それも穿った見方なんだろうなぁ...。

  • 精子バンクを使った人工授精によって生を受けた子供達。

    無事に健康で生まれてきてくれること。
    自分たちの子供であれば望みはそれだけなのに、いざ有料でたくさんの候補者の中から生物学的父親を選ぶ際にはもっと多くを望んでしまうこと。

    より頭の良い、運動能力の高い、容姿の良い、芸術的センスのある…etc…

    出産を経験し、我が子との絆を実感できる母親と、彼女を妊娠させられなかった自分への情けなさが消えない父親と。

    深いテーマで、子供達がその真相を知ってからも葛藤は続きます。

    私たち夫婦はまだ子供については挙式後に…と考えているけれど、実際自分たちにも不妊治療は必要かもしれない。そうなったとき、どう悩み、どう結論を出すのか…。

  • これまた重たいテーマ。ただ、角田光代にかかると、その中でも光差すものがあり、救われる感じが好きだ。 

    AID(非配偶者間人工受精)から産まれた7人の子どもが夏のひと時だけ集まって過ごす。アレはなんだったのか、知っていた子も知らなかった子も、大人になって初めて知った人もいて、親子とは、家族とは、自生にも疑問を持ったり、他のせいにしたり。

    紗有美のクズっぷりにイラッとさせられ、賢人の自身の穴を埋めるかの如く彼女たちを中絶に追い込む行動…7人のそれぞれの人生についても深く描写されて読み応えたっぷり。
    AIDお腹いっぱいです笑

  • 引き込まれた。
    人工授精…こんな事実もあるのかと思うと、今までにない引き込まれ方をした。
    何となく物語はわかってくるが、この事実どう受け止めていくのか?と気にになってしょうがなく数日で読破。何だろうなー人として生きて行く上で家族、親、子、友達ってなんだろうと考えて読みふけった。最後のハルの思いもつかなかった行動は男泣きしそうになった。そしてスピーチは素晴らしい。またサユミのエピローグは素晴らしく清々しい。そして著者の所々に出てくる名言には目を見張る。もう一度読みたい本である。

  • 登場人物が多くて、誰が誰で何をしたか、途中こんがらがってしまったのと、結構重いテーマのお話だった。

    幼少期のキャンプが、何の繋がりの集まりだったのか解き明かされていく過程が面白かった。

    また、エピローグで、波留の歌の説明の部分、初めて行った海外(パリ)で、最初は、困ったことが起こらないようにホテルに閉じこもっていたけれど、困ったことが起きるかもしれなくても、助けてくれる人がいたり、わくわくすることに出会えるかもしれないと思えてホテルを飛び出すことができたというエピソードで、ネガティブ思考な紗有美が、「そこに居続けたら、明日も、世界も、ずっと怖いまんまだよ。怖くなくしてくれるすばらしいものに、会う機会がすらないんだよ」と言われた気がすると解釈しているところが、読んでて前向きになれて良かった。

  • AIDで産まれた7人の子どもたちの物語。
    AIDをつかって産まれたことへの葛藤が一人ひとりが本当に実在するのかと思うくらい細かく書かれている。特に女性の心理描写が凄い。
    角田さんが物凄い量の文献を読んだり取材されたりしたのだろうと思う。のめり込んで読んでしまった。
    AIDは現在の日本で採用されている技術であることを知らなかった。

    本の中で好きなフレーズがひとつ。
    樹里が父親と並んだ静けさを「母の静けさは満月に似ていて、父のそれは雪に似ている。」と表現しているところ。美しい表現でとても印象に残ってる。

  • 幼い頃の夏のキャンプの記憶。
    AID(非配偶者間人工授精)で生まれた7人の子ども達と家族のその後の人生。
    <樹里 弾 賢人 紀子 紗有美 雄一郎 波留>

    AIDは、そこに至るまでの事情は人それぞれに異なるし、当事者にとっては、ものすごくデリケートな問題。

    川上未映子さんの「夏物語」も素晴らしかったけれど、角田光代さんも、子どもの立場、妻の立場、夫の立場、第三者(医療従事者や作家や精子提供者)、たくさんの視点を集めて、ただの悲劇にならないように、誰もに希望が持てるように、よくここまで巧くまとめたなと拍手を送りたい。

    賛否両論あるけれど、本当に子供が欲しい人にとっては、AIDは救いの神であることには間違いない。
    また、こういう特殊な境遇の出自を抱えた家族同士でないと、理解し合えないこともある。
    子ども達と輝かしい夏のキャンプを手にした幸せは、本当に楽園そのものだったと思う。
    次第にその楽園が形を変え、幻となっていったとしても。

    中盤では、もう出口が見つからないような、救いようのないようなくだりもあったけれど、そこから、光の糸口を手繰り寄せてくる感じが本当に素晴らしい。

    始終、紗有美に対する描写がとても悪意に満ちていて、とてもぞっとさせられたけれど。
    でも、きっとこの紗有美こそが一番の主人公で、彼女のこれからの運命こそが、”救われる”存在なのかもしれない。

    「(略)どれも子どもがいないからできることだけど、でも、子どもがいても同じ充実は得られたとは思う。だから、おんなじだよ。いたとしても、いなかったとしても、ただ、生きなくちゃならない自分の人生がある、ってだけ」

    「(略)きみが見るもの、きみが触るもの、きみが味わうもの、ぜんぶ人と違う。きれいごと言ってるんじゃなくてさ、事実。聖職者には彼の世界があって、犯罪者にだって彼の世界がある。ぜんぶ違うから、面倒もあれば悲劇もある。きみがいなければ、きみの見る世界はなかった。それだけのこと。(略)だれの世界とくらべて欠落なんだ?」

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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