カラマーゾフの妹 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 65
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062778855

作品紹介・あらすじ

カラマーゾフ事件から十三年後。モスクワで内務省未解決事件課の特別捜査官として活躍するカラマーゾフ家の次男、イワンが、事件以来はじめて帰郷した。兄ドミートリーの無罪を証明し、事件の真相を確かめたい――ロシアでまだ誰も試みたことのない大胆な捜査方法を使い、再捜査を開始するイワンだったが、そこにまた新たな事件が起こり――。十三年前の真犯人は誰なのか。新たな事件は誰が、何のために起こしているのか、そして、謎解きの向こうに見えてくるものとは。息詰まる展開、そして驚愕の結末!

感想・レビュー・書評

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  • 2020/03/22読了
    #このミス作品20冊目

    ドストエフスキー"カラマーゾフの兄弟"
    の未完作の続編とした代筆作。
    時代背景的にドストエフスキーが描こうと
    していたエンディングとは異なるであろう
    大胆かつ奇抜な展開です。

  • 設定は『カラマーゾフの兄弟』から13年後の続編という体裁をとっている。当然のことながら、本編の下敷きは、『カラマーゾフの兄弟』である。著者が作中でいうところの「前任者」(=ドストエフスキー)が、本来書くべきだった続編を、執筆前に亡くなったので、自分が書いた、という設定である。
    テーマは、前作で書かれた父殺しの裁判が果たして正しい判断だったのか、という懐疑から始まるミステリーだ。作者は、心理学、精神医学、SF(空想科学)、そして当時のロシア社会といったさまざまな要素を駆使して、『カラマーゾフ事件』の13年後を描いて見せる。ついには、「前任者」が書き上げた『カラマーゾフの兄弟』の話を破綻させることなく、かつ、自身の物語も矛盾せずに、意外な結末へと我々を導いてくれる。さらには、裁判直前にイワン・カラマーゾフがさいなまれたメランコリーの原因までひも解いてみせる。実に念入りなプロットで描かれた物語であった。
    本作は、「前任者」が著した『カラマーゾフの兄弟』を読んでいなくとも、本作だけでも充分楽しめるであろう(そのために、著者は、作中で一章を割いて前作をふり返る念の入れようだ)。しかし、前作を読了したうえで本作を読めば、その味わいはさらに広がる。どうやら著者は、江戸川乱歩賞に本作を応募するにあたり、規定枚数まで内容を削ったという。それでもやられた。十分に楽しめた。いつか、削る前のオリジナルの物語を読む機会が与えられたら、すぐにでも再読するだろう。

  • 再読でしたが
    充分面白かった。

    とは言っても
    『カラマーゾフの兄弟』
    そのものを読破出来ないままなので

    面白さは半減しているかも
    しれませんが。

    あの文豪ドストエフスキーの原作から
    "13年後"という設定で
    「父殺し」の謎に迫るという
    何とも向こうみずな続編。

    人間性の複雑さ
    猥雑さ 卑小さ
    それでも生きていくーという
    薄い希望の光。

    タイトルが
    「妹」であることの意味。

    江戸川乱歩賞に
    ほぼハズレなし。

  • 『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーが死の直前まで執筆していて、本来は続編が予定されていたという。これを日本人の著者が独自に読み解き、解釈し、勝手に続編を書いたのが『カラマーゾフの妹』だ。と言っても、ドストエフスキー自身が構想していたとされる設定も引き継がれている(アレクセイが革命家を志しているとか)

    『兄弟』で描かれた「カラマーゾフ殺人事件」から13年後、捜査官となったイワンが再び事件の真相に迫る中で新たな事件が起こる展開。ミステリーとしても面白いし、多重人格者や異常なフェティシズムなどサイコな面も描かれつつ、更にはスチームパンク得意の”ディファレンス・エンジン”が登場し、その計算能力によって、ロケット・ランチャーや宇宙船を開発するなどという、トンデモ系SF的な展開も盛り込まれている。(ここは好みが分かれるところだろう)

    この小説は語り手が”著者自身"であることも面白い。著者がドストエフスキーを前任者と呼びながら、これを執筆した経緯や、前任者の意図を解説するようなメタ視点が書かれている。「『兄弟』では、なぜ無駄なシーンが長々と描かれたのか?」とかサラっとディスってたりするのも楽しい。(その無駄なシーンを伏線として活かしている。勝手に)
    ちなみに『兄弟』の要約も書かれていて優秀。(あんなにわかりにくい小説をわかりやすくおさらいしてくれる)

  • 読みたいと思って待っていたらやっと回ってきた。昔読んだがぼんやりしか覚えていない「カラマーゾフの兄弟」。今あらためて読んでも大丈夫解るのだろうか。先にアノ長い長い本編を読んだほうがいいのだろうか。迷っているうちに手元に来てしまった。
    こういうのを杞憂と言うのだろう。読んでみたら、もう面白くて最後まで読んでしまわないと眠れない、久々に読書の楽しみを実感した。

    作者がこの本を書いたのはとても勇気がある。驚いたのは隅々まで読み込んで、原作(前作)のポイントは必ず抑えてある。その上で新しい展開をたっぷり読ませてくれる。なんといっても事件の13年後。あの事件は解決済みで犯人に審判もくだり、関係者もそれぞれの生活に戻っている。そこからどうなったか。

    三男のイワンは事件のときにはモスクワに発っていた。だが大審判の折には父フョードルを殺害したのは長男のドーミートリー(ミーチャ)だという判決を受けいれていた。法廷で人格を疑われるほど錯乱し暴言を吐いたことも今では「忘れられていった。
    頭脳明晰だったイワンは内務省に勤め、未解決事件の特別捜査官になっている。

    その後も頭痛と幻覚、記憶が途切れるという症状に悩まされ、原因は心の深いところにある何かのストレスだろう、時々現れる謎の記憶の断片も繋がりがあるのかも知れないと、うすうす自覚はしている。
    次の調査地はを13年前の「カラマーゾフ事件」にして、故郷(スコトプリゴニエスク、、わたしはここが一口にいえないので故郷とする;;)に帰ってきた。
    そこには以前オデッサの事件の折の通訳、トロヤノフスキーが来ていた。彼はイワンが調べ始めた「カラマーゾフ事件」に深い関心を持っていたし、心理学者として、イワンの症状にも関心があった。

    そして、過去の事件を現代の捜査法に照らして、謎を解いていく。
    当時この事件のゴシップで仕事を増やし、名士になってしまっているラキーチンもいた。予審判事ネリュードフ。そして今も天使のような弟、アレクセイ(アリョーシャ)は結婚して故郷に残り、教会の仕事をしながら子供たちの育成につとめ、人々から尊敬されている。

    事件の発端から、13年前の時間を掘り起こし、イワンの心の底に沈んでいる出来事から、長兄ドミートリー(ミーシャ)の冤罪が姿を現してくる。しかし彼はイワンの努力で20年の刑が減刑され13年になったのだが、シベリアの過酷な生活で亡くなっていた。

    悪の分身のような私生児で異母兄弟のスメルジャコフは裁判の前日に自殺していた。

    順調に調査が進んでいるとき、ラキーチンと、ネリュードフが撲殺される。凶器は父親フョードルのときのもに酷似していた。

    イワンは、頭痛が酷くなり時々人格が分離する、そして自覚がないままに悪魔的人格に変異する。「悪魔だ」と名乗りそばにいるトロヤノフスキーに語りかける。
    一度は幼い少女の人格が出た。
    以前の大審判の暴言も、他人格が現れて暴れたのではなかっただろうか、イワンは思い乱れていく。

    記憶にないが思い出すと嫌悪感が溢れてくる遠い領地、そんな中でイワンは譲られた土地を見に行く。そこには領主用の家もあったが何の記憶もなく、やはり過去には別人格が来ていたらしい。村人は彼を見知っていて、そのときの出来事を思い出し始める。当時そこには母も生まれたばかりの妹も兄弟もいて、すぐに亡くなってしまった妹の葬儀をして教会の墓に埋めていた。その妹も彼の記憶の底の底に眠っていた。

    それは彼の多重人格の証明であり、今も頭痛になって現れる根源的なストレスの痕跡だった。

    こうして過去に戻り、資料に当たり、事件当時見逃していた時間のずれを発見する。

    そして。当時兄弟が全員で憎み、誰が殺してもおかしくない状態の中で、父親の撲殺時間に時間的にかなう人物が浮かび上がる。


    原点を読み込んでミステリにした、そもそもの原点の読み込みがすばらしい。作者の文章力にも脱帽する。

    その上、アレクセイが、愛国思想の実現のために組政治犯の仲間に入り、ロケットや砲弾を作る地下組織で働く、電算機を使った速度や燃料消化に従う重量の変化や軌道演算の部分、計算上可能だと思われるロケット打ち上げ構想を実現しようとする、SF的部分も今風で面白い。

    イワンがトロヤノフスキーと知り合うオデッサの事件には、イギリスからホームズも参加していたらしいという、ウフッとなるサービス記述もある。

    面白かった。

  • おもしろかった。一気に読めた。
    ラストとか残念な感じもするけど、
    とても楽しめた。

  • ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読み終えたら読む予定です。

  • カラマーゾフの兄弟に絡めた日本が舞台の別の話かと思ったら、
    ほんとに大真面目な続編でしたよ・・・。
    大胆・・・。

    実は私はカラマーゾフの兄弟を読了しておりません。
    上巻の途中で止まったまま。
    なので、これ読んで大丈夫かなと思ったのですが、
    これは未読でも大丈夫。
    元の話を全部合間に説明してくれてるので、
    この話を読むにあたっては、まったく問題ありません。

    ただしそのおかげで、
    いちいち話の流れが途切れて全体としては、
    とても説明臭い仕上がりになってしまっています。
    元が未読でも大丈夫な利点はあるものの
    やはり仕上がりとしては残念です。

    これなら冒頭にざっくり兄弟のあらすじ仕込んでおいて、
    妹は妹で書いた方がよかったような気がします。
    その方がもっと深く描き切れたんじゃないでしょうか。

    未読でも問題なしとは書きましたが、
    ほんとに兄弟からの自然な流れなのかわからない
    なかなかぶっとんだ内容なんですよ。
    なので、これから読む人にはやっぱり兄弟読了後
    の方がいいんじゃないかなぁ・・・。

    私は少々後悔はしておりますので(笑)

  • カラマーゾフの兄弟を読んだことがあったので大丈夫かと思い読んでみたけど、
    昔のことなのでほんっとーに大筋でしか憶えておらず、
    もっと細かく憶えていたなら、数倍楽しめ、こんな解釈が!と思えたと思う。。。

  • 『カラマーゾフの兄弟』を読みたいけど、たぶん読みきれないと思っていた。(長編と横文字の多さに我慢できないから) この『妹』を書店で立ち読みしたら、『兄弟』の内容にも触れていてくれたから、こちらを読んで『兄弟』を読んだ事にししようとずる賢く決意。

    イワンを通して物語を見つめていたから、安定しない人格についていけないわい、と匙を投げ掛けた。けれど、判明したアレをきっかけに面白いー!で最後まで読みきった。私にも人間の醜悪や残忍性が気になって、ネットで調べてしまう癖がある。なんだか嫌な性格だなと思っていたが、文中にあるように自分を見つめているからなのかな。後半の怒濤の攻めにハマった!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      > 『兄弟』を読んだ事にししよう
      「新カラマーゾフ」も出たけど読まないよね?
      さらに「『罪と罰』を読まない」もあるヨ。
      > 『兄弟』を読んだ事にししよう
      「新カラマーゾフ」も出たけど読まないよね?
      さらに「『罪と罰』を読まない」もあるヨ。
      2015/11/27
    • もゑさん
      『妹』で大満足の私です。
      嘘です、ずる賢く挑戦嫌いの
      わたくしめです。こんな私に、
      ぜひとも「『罪と罰』を読まない」を
      教えてくださ...
      『妹』で大満足の私です。
      嘘です、ずる賢く挑戦嫌いの
      わたくしめです。こんな私に、
      ぜひとも「『罪と罰』を読まない」を
      教えてくださいませ!
      2015/11/27
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著者プロフィール

1966年茨城県生まれ。茨城大学卒業。
お茶の水女子大学人文科学研究科修士課程修了。
1995年、第6回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『ムジカ・マキーナ』でデビュー。著書に『アイオーン』、『赤い星』など。編書に『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』(東京創元社)がある。2012年、『カラマーゾフの妹』で第58回江戸川乱歩賞を受賞。ほかの著書に『翼竜館の宝石商人』などがある。

「2022年 『大天使はミモザの香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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