老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883979

感想・レビュー・書評

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  • 超高層マンションが増え続ける背景には、人口を増やしたい自治体の思惑と、新しく作って売り抜けたいディベロッパーの思惑。急激な人口増によるインフラ不足、一方で将来に起きる空き家や空き部屋の増加、インフラの不足と劣化。何十年かのローンを払い終わる頃に、そのまちはまだ住むに値する場所なのか?住むに値する場所であるために、「自分たちのまち」という意識を持ち、都市計画に関心をもつことが必要。

  • 著者が共著に名を連ねていた「これからの日本に都市計画は必要ですか?(学芸出版社)」が全く実務の香りを伴わない絵空事の羅列にしか読めなかったため、本作もまたどうせアカデミズムとやらの垂れ流しだろうとタカを括って手に取ったが、どっこいしっかり地に足のついたプラクティカルな内容で驚いた。都市計画屋さんを少し見直した(私の専攻も都市計画ですが)。

    以前から「人口減少下で自治体のやる空き家対策なんて単なる近隣窮乏化政策」と思っていた僕にとって、本書の「自治体のやる過疎対策は規制緩和競争」という見解はまさに我が意を得たりと言ったところ。本著では都市計画の策定権限が無秩序に下部行政にデレゲートされてしまったことを原因に挙げる。考えてみれば、そもそも「立地適正化計画」なんてものが必要になったことからみても、都市計画行政は既にレームダック化していたということだ。本書で触れられる容積緩和の限定適用のほか、個人的には低層住宅地の最低敷地面積も厳格に運用して土地の細分化を防ぐべきと思う。

    本書では住宅供給過剰社会からの脱却策として、新規住宅供給の乗数的波及効果を考慮してそれ以外の方策を述べるが、そこはきちんと本丸を攻めるべきと思う。ほぼ完全雇用の日本において、需要を無視して供給したって資産価格が下降するだけで需要は喚起しまい。既に日本は総量規制の道を探るべき時期に来てしまっていると思うのだが。

    先日もある不動産業界団体のトップがインタビューで「個人的見解だが、人口減少はもうそろそろ止まる頃だと思っている」と言い放った記事を見た。どんな個人的見解だよ、と思ったものだが、不動産業界もこのまま根拠の不確かな楽観論に乗っかって住宅を無秩序に作っていたのでは、日本の都市としての価値を劣化させ、ひいては自らの拠って立つ「不動産の価値」を毀損しかねないことは頭では解っているはず。早い所「わかっちゃいるけどやめられない」から脱却しなければ、本書の指摘通り次世代の生活にとって取り返しのつかない事態になりかねないことを思い起こしてほしいものだ。

  • 老いる家 崩れる街 野澤千絵著 過剰な住宅建設 増える空き家
    2016/12/11付日本経済新聞 朝刊

     人口減少時代に入ったのに高水準の住宅建設が続いている。本書は「住宅過剰社会の末路」という副題の通り、過度な住宅建設がもたらす様々な弊害について警鐘を鳴らしている。東京の湾岸部で建設が続く超高層マンションや、都市部の郊外で止まらない宅地開発の背景を探り、このままでは「不動産」が、売りたくても買い手がつかない「負動産」になりかねないと厳しく批判している。







     確かに、本書でも触れている賃貸アパートの建設ラッシュには「本当に入居者が集まるのだろうか」と思わざるを得ない面がある。著者が指摘している通り、都市計画の規制緩和をてこに自治体が人口の奪い合いをしているのも事実だろう。空き家は今では地方だけでなく、東京のような大都市でも急増している。


     本書では群馬県みどり市や埼玉県羽生市など各地の事例も紹介している。様々な住宅のなかでも超高層マンションが抱えている問題について、的確にかつ鋭く切り込んでいる点が印象的だ。


     著者は解決策として、都市計画と住宅政策の連携の必要性を強調し、今ある「まちのまとまり」に住宅の立地を促すことを提案している。そのためにも、住民一人ひとりが自分が暮らす街に関心をもつように求めているが、そこが最も難しいのだろう。(講談社現代新書・760円)

  • 空き家が右肩上がりに増え続けているにもかかわらず、都市部では超高層マンションが林立し、郊外では無秩序に戸建て住宅地の開発が続いている。なぜか? 日本の「まち」にまつわる問題について、フィールドワークの結果などを交え解説する。

    第1章 人口減少社会でも止まらぬ住宅の建築
    第2章 「老いる」住宅と住環境
    第3章 住宅の立地を誘導できない都市計画・住宅政策
    第4章 住宅過剰社会から脱却するための7つの方策

  • 365.31||No

  • 長期優良住宅 建物の基本構造部分に耐久性が高い 配管などの設備の補修がし易いこと 間取りの変更がし易いこと 定期的な点検や補修等の計画が策定されていること 税制優遇あり
    ただし立地が考慮されていない 老いる家 崩れる街

  • きわめて重要な視点だと思う。今トレンドとなっているコンパクトシティだのスマートシティだのは、開発屋、プラント屋、建設屋の視点で、かっこいいキーワードが乱立しているが、それ以前に、重要な問題がある。
    それは、今後の急激な人口減、農業従事者の減少、イエや家系というコンセプトの溶解、インフラ整備原資の決定的な不足などを踏まえて、土地不動産市場を野放図な状態から救い出すこと。地域空間についての公共意識を喚起できるように、そして、将来に継承できる都市デザインへと収束させることを重視した国・地域の政策体系を整えることだ。

    ところで、p133の水道管破裂事例にでてくる「湖西市」は、滋賀県ではなく、静岡県の間違いだと思われる。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。1996年、大阪大学大学院環境工学専攻修士課程修了後、ゼネコンにて開発計画業務等に従事。その後、東京大学大学院都市工学専攻博士課程に入学、2002年、博士号(工学)取得。東京大学先端科学技術研究センター特任助手、同大学大学院都市工学専攻非常勤講師を経て、2007年より東洋大学理工学部建築学科准教授。2015年より同教授。共著に『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(学芸出版社)、『都市計画とまちづくりがわかる本』(彰国社)がある。

「2016年 『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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