- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062932899
感想・レビュー・書評
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分人という考え方は初めて聞いたが納得できた。
何もかも嫌になっている時って、正常な自分とか、理想の自分と乖離しているから嫌になっているんじゃないかと思っていたから、考え方がスッと入ってきた。
中盤はキャラクターが筆者の代弁者になりすぎている感じがして、読みづらかったが、
後半にかけてとても良かった。
分人という言葉は、これからも時々思い出す気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
主人公のこと最後まであまり好きになれなかったけど、最後の一文に押し寄せる切なさに朝から胸が痛くて目が熱い。自殺する人は決してあなたたちがどうでもよくなったから死ぬのではなく、最後の最後まであなたたちを愛していたのだという、どこかで読んだ文章を思い出した。
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分人主義の信奉者である私にとっては、馴染み深い考え方が随所に出てくる物語だった。
主人公の徹生は自殺した3ヶ月後に「複生者」として生き返り、自分の死の真相を確かめようとする。
夫婦仲も良く可愛いひとり息子にも恵まれ、幸せの絶頂にいたはずの自分が、どうしても自殺するとは思えなかったから。例え仕事でストレスが溜まり自暴自棄になったとしても、例え憎い人間との諍いが心を荒ませていたとしても、妻や子の顔を思い出しさえすれば命を絶つことなど考えられなかった。
過去の出来事や感情と向き合ううちに「分人」という考え方に出会った徹生は、家族と生き家族を想う前向きで幸福な「分人」が、下衆な知り合いとの罵り合いで負の感情に支配された「分人」を消し去りたくて自分自身をまるごと消してしまったー自殺してしまったーという真相に辿り着く。
妻や息子、友人たちと二度目の人生を生き直す徹生だが、いつかは「複生者」が消滅するという事実を知り、どう消滅するのが家族のためだろうかと考え出す。
誰かが想定外の行動をとったと聞いた時、「まさかあの人が」と感想を抱くことがあるが、それはただ単に私の前での「分人」しか知らないが故の身勝手な心の動きなんだろう。
私自身もそうだが、いくつもの、何百何千もの「分人」
を生きている。上司や公然の面前では意識的に、友人や家族の前でも無意識的に別の分人を生きている。
嘘や建前というわけではなく、本音で正直に、別々の私を表している。そのことが本当によく分かる。
だから、よく知っているはずの人が思いもしなかった行動をとることはよくあることだろう。
加えて、仮に(究極的には自殺などのように)とんでもない人生の終わり方や想像もしてなかった一面を見せられたとしても、私がその人を想う時には私の前にいた「分人」を対象にしたい。私に見せてくれたその顔を、いつまでも覚えていたい。 -
後半どう話をまとめていくのかそわそわしながら読んだけど大満足。良書。
ちょいちょい胡散臭いシーンや設定も多いんだけど、私的に新ジャンルに部類される(若手作家で自殺を取り扱う)ストーリーだったため、こういう気になる箇所も手を止めることなくぐいぐい読み進めることができた。
俺、自殺しちゃったの?自殺なんてしてるわけない! -
「空白を満たしなさい」
図書館の予約待ち、だいぶかかりましたが、やっと回ってきたので読みました。
平野啓一郎の自信作みたいですね。
3年前に死んだ男が生き返った、という話。
もちろん、遺体も焼かれ、骨も墓に入っているのに生き返っている。
そのあたりの矛盾は説明一切なし。
そんな点はP.K.ディックのSFに似ているが、これはSFではない。
自分の死因が自殺か他殺かを調べていくところからスタート。
シチュエーションはとてもうまく、どう回していくのかが難しい作品だけど、
行き着くところは、平野氏が唱える「分人」。
個人ではなく、個人の中に存在する分人。
分人は多重人格とも違う。
この概念、どうなんだろう。
これから彼は持論として展開していくようだけど、概念としてのこるのか、
それとも空振りに終わるのか。
「日蝕」を読んだトラウマがあるので(そういう人が多いかも)、
平野作品というと腰が引けるが、
この作品は読みづらい漢字や意味が分からない言葉は出てきませんのでご安心を。 -
自殺を「分人」という視点で考えた時、今まで理解できなかった自殺者の心が少し分かった気がした。
人の悩みは全て人間関係に起因する、と言うが
今の世の中で人間関係において、生きにくさを感じている人たちはこの考え方を頼りにすれば少しは生きやすくなるのでは、と思う。 -
平野啓一郎さんの「分人主義」を知ってから、本当に心に余裕ができた。おすすめ。