空白を満たしなさい(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.90
  • (121)
  • (175)
  • (115)
  • (14)
  • (7)
本棚登録 : 1919
感想 : 168
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062932899

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 分人という考え方は初めて聞いたが納得できた。

    何もかも嫌になっている時って、正常な自分とか、理想の自分と乖離しているから嫌になっているんじゃないかと思っていたから、考え方がスッと入ってきた。

    中盤はキャラクターが筆者の代弁者になりすぎている感じがして、読みづらかったが、
    後半にかけてとても良かった。

    分人という言葉は、これからも時々思い出す気がする。

  • 主人公のこと最後まであまり好きになれなかったけど、最後の一文に押し寄せる切なさに朝から胸が痛くて目が熱い。自殺する人は決してあなたたちがどうでもよくなったから死ぬのではなく、最後の最後まであなたたちを愛していたのだという、どこかで読んだ文章を思い出した。

  • 分人主義の信奉者である私にとっては、馴染み深い考え方が随所に出てくる物語だった。

    主人公の徹生は自殺した3ヶ月後に「複生者」として生き返り、自分の死の真相を確かめようとする。
    夫婦仲も良く可愛いひとり息子にも恵まれ、幸せの絶頂にいたはずの自分が、どうしても自殺するとは思えなかったから。例え仕事でストレスが溜まり自暴自棄になったとしても、例え憎い人間との諍いが心を荒ませていたとしても、妻や子の顔を思い出しさえすれば命を絶つことなど考えられなかった。

    過去の出来事や感情と向き合ううちに「分人」という考え方に出会った徹生は、家族と生き家族を想う前向きで幸福な「分人」が、下衆な知り合いとの罵り合いで負の感情に支配された「分人」を消し去りたくて自分自身をまるごと消してしまったー自殺してしまったーという真相に辿り着く。

    妻や息子、友人たちと二度目の人生を生き直す徹生だが、いつかは「複生者」が消滅するという事実を知り、どう消滅するのが家族のためだろうかと考え出す。


    誰かが想定外の行動をとったと聞いた時、「まさかあの人が」と感想を抱くことがあるが、それはただ単に私の前での「分人」しか知らないが故の身勝手な心の動きなんだろう。
    私自身もそうだが、いくつもの、何百何千もの「分人」
    を生きている。上司や公然の面前では意識的に、友人や家族の前でも無意識的に別の分人を生きている。
    嘘や建前というわけではなく、本音で正直に、別々の私を表している。そのことが本当によく分かる。
    だから、よく知っているはずの人が思いもしなかった行動をとることはよくあることだろう。

    加えて、仮に(究極的には自殺などのように)とんでもない人生の終わり方や想像もしてなかった一面を見せられたとしても、私がその人を想う時には私の前にいた「分人」を対象にしたい。私に見せてくれたその顔を、いつまでも覚えていたい。

  • 後半どう話をまとめていくのかそわそわしながら読んだけど大満足。良書。
    ちょいちょい胡散臭いシーンや設定も多いんだけど、私的に新ジャンルに部類される(若手作家で自殺を取り扱う)ストーリーだったため、こういう気になる箇所も手を止めることなくぐいぐい読み進めることができた。

    俺、自殺しちゃったの?自殺なんてしてるわけない!

  • 「空白を満たしなさい」
    図書館の予約待ち、だいぶかかりましたが、やっと回ってきたので読みました。
    平野啓一郎の自信作みたいですね。
    3年前に死んだ男が生き返った、という話。
    もちろん、遺体も焼かれ、骨も墓に入っているのに生き返っている。
    そのあたりの矛盾は説明一切なし。
    そんな点はP.K.ディックのSFに似ているが、これはSFではない。

    自分の死因が自殺か他殺かを調べていくところからスタート。
    シチュエーションはとてもうまく、どう回していくのかが難しい作品だけど、
    行き着くところは、平野氏が唱える「分人」。
    個人ではなく、個人の中に存在する分人。
    分人は多重人格とも違う。

    この概念、どうなんだろう。
    これから彼は持論として展開していくようだけど、概念としてのこるのか、
    それとも空振りに終わるのか。

    「日蝕」を読んだトラウマがあるので(そういう人が多いかも)、
    平野作品というと腰が引けるが、
    この作品は読みづらい漢字や意味が分からない言葉は出てきませんのでご安心を。

  • 自殺を「分人」という視点で考えた時、今まで理解できなかった自殺者の心が少し分かった気がした。

    人の悩みは全て人間関係に起因する、と言うが
    今の世の中で人間関係において、生きにくさを感じている人たちはこの考え方を頼りにすれば少しは生きやすくなるのでは、と思う。

  • 分人という考え、とても納得できた。自分もいままでいろんな呼ばれ方をしてきて、それぞれで違う自分だよなあと考えていた。そのうちこのテーマでnote書こうと思っていたけれど、この本を読んでああわたしの言いたかったのこれだわってなったのでたぶん書かないだろうな。笑

  • 平野啓一郎さんの「分人主義」を知ってから、本当に心に余裕ができた。おすすめ。

  • 途中から一人称が徹生から彼に変わるなど、分人と個人の区分も工夫して書かれていた。

    また堂島製缶に三度目に訪れるときも、妄想上の自分との葛藤もハラハラするポイントであった。まさに物語の中に引き込まれた。

    「本物の幸福はお金でもなく運でもなく、疲労で手に入れたものじゃないか」という一文がとても身に沁みた。生きがいを疲労によって感じるというなんとも皮肉に近いが、サラリーマンとしての実態をうまく表現している気がした

  • 大事な妻と子どもを残してなぜ自分は自殺なんてしてしまったのだろうと苦悩し真相に向き合っていく主人公の徹生の姿に、先日亡くなってしまった女優さんを重ねて考えていた。
    本当のことなんてもちろん私にはわからないけれど。
    でも、こんなこと考えてしまう自分は最低だ、自分はこんなはずじゃない、そんな自分は消したいと強く思い詰めていくことは、誰にでも起こり得ることなのではないかと思った。

    「分人」の考え方は、一度著者の「個人から分人へ」を読んでいたので理解しやすかったと思う。
    きちんと自分の全ての「分人」を認め、「見守り合う」ことができたならば、自分で自分を追い詰めていくことはなくなるのかもしれない。

    映画「マザーウォーター」でも、ひどいことを思ってしまったと落ち込む青年に「ああ、自分はそんなことを思ってしまったんだな」って思えばいいだけだよと語るシーンがあり、それを思い出した。

    そんなふうに、どんな自分も「見守る」ようになれたらと思う。

全168件中 91 - 100件を表示

著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平野啓一郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
西 加奈子
ピエール ルメー...
西 加奈子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×