- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065163252
作品紹介・あらすじ
今、いちばん勢いのある時代小説作家・朝井まかてが、こよなく愛する江戸の町を舞台に、歌舞伎役者や職人、商売人など様々な生業の人々の姿を、中身の詰まった8編の人情話に仕立てた傑作短編集。
1編目の「ぞっこん」では、「筆」が語り手になる。看板書きだったあるじと「筆」との出会いや情の深まりを、緩急をつけた落語調の文体で読ませる。2編目の「千両役者」は、ぱっとしない歌舞伎役者に千載一遇のチャンスが巡ってくる。もう後がない役者の焦りと、破滅と背中合わせの功名心が生々しく伝わる。3編目の「晴れ湯」は、湯屋(銭湯)を営む家に生まれた少女が主人公。客の戯作者や長屋のおかみさんたちのふるまい、子どもなりの家業への意気込み、江戸で恐れられた火事……。少女は大小のドラマに遭遇しながら、道楽者の父と働きづめの母という夫婦を、一つの男女の形として受け入れていく。続いて、自分のやりたいことを見つけた古着屋の少女が巻き込まれた揉め事に、愉快なオチを付けた4編目「莫連あやめ」。離縁された大喰らいの姉と、彼女を馬鹿にしながら利用する弟の、それぞれの顛末を活写した5編目「福袋」。さらに、女絵師が描いた枕絵が、昔の恋を照らす6編目「暮れ花火」。堅物の家主が、神田祭のお祭掛になってしまった7編目「後の祭」。その日暮らしの遊び人、卯吉と寅次の二人が助けた男からお礼にもらった品で商売を始める8編目「ひってん」。と、まさに福袋のように、何が入っているかわからないワクワク感とお得感。直木賞作家・朝井まかて初の短編集にして、第11回舟橋聖一文学賞を受賞した傑作!
感想・レビュー・書評
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可愛くてしみじみする江戸情緒あふれる短編集
銭湯の女の子の話が一番好きかな
ラストの両親の会話で心がぐっともっていかれた詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
江戸を舞台の、人情溢れる庶民の生活を描く、8つの短編。
ぞっこん・・・お互いがぞっこんになった“筆”と文字職人の歩み。
お上の動向に左右されながらも強かに生きる、人々の姿。
千両役者・・・大部屋役者の花六と、贔屓で通う辛子屋の太之助。
迎えるのは大どんでん返し。そして、一か八かの大博奕へ。
晴れ湯・・・湯屋の娘・お晴。好きな稼業を手伝う中、知るのは、
客の皆に愛される湯屋の事。父母の関係と自分への想い。
莫連あやめ・・・出来の良い兄嫁に心乱される古着屋のあやめだが、
親友を貶めた高慢な娘たちとの諍いが。それを救ったのは・・・。
福袋・・・大食漢で離縁された乾物屋・濱屋のお壱与。
弟の佐平は姉を大食い大会に出場させて、賞金をせしめる。
それは己の目論見のため。が、福袋。福が去ったら、空袋。
暮れ花火・・・羽裏の絵師・おようは、辰巳芸者の美代次から笑絵を
注文されるが・・・フラッシュバックの如きの過去の出来事。
後の祭・・・神田明神の「お祭掛」になってしまった家主・徳兵衛。
番狂わせはあれど奮闘する。町の衆も。神様も?
そう、祭りってのは楽しむもんだ、あたしらの天下祭だ!
ひってん・・・生業の無い卯吉と寅次が、人助けで貰った櫛を売る。
商いの思案に目覚める卯吉。時が過ぎ、商人として
歩む彼の心に浮かぶのは、ひってん長屋の想い出。
江戸には様々な生業がある。
それらに携わる人々の喜怒哀楽と生活を描く、人情溢れる短編集。
江戸の庶民の生活には生業があります。
順風満帆もあるし、努力を重ねるものもある。
だが、何かをきっかけにして、多大な変化が訪れることもある。
大御所・家斉、老中・水野の質素倹約、北町奉行・遠山の登場。
時代の風潮の変化もさることながら、人の関わりや縁も同様。
その変化の中での、喜怒哀楽溢れる人々の生き方が描かれています。
場所は江戸。江戸っ子の胸をすく鯔背な言葉は心地よく響き、
変化に対峙する心根には、粋を感じることも。
そして江戸の情緒溢れる詳細な、暮らしの情景描写の見事さ。
神田祭の熱量の凄さは行間から迸るほどの熱さでした。 -
小説現代2011年1月号:暮れ花火、5月号:莫連あやめ、2013年5月:ぞっこん、2016年1月号:千両役者、2月号:福袋、3月号:ひってん、4月号:晴れ湯、10月号:後の祭、の8つの短編に加筆修正して、2017年6月講談社より刊行。2019年7月講談社文庫化。市井ものだが、ちょっと訳ありで、普通にはお目にかかれないようなところをテーマにしていて、興味がひかれるかどうか難しいところ。福袋は、大食いの女性をうまく描いてあり面白い。晴れ湯は10才のお晴が、けなげで、かわいい。
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朝井さん初の短編集。どれもとても面白かった!長くても短くてもおもしろい、すごい。
どれもよかったけど、『晴れ湯』『後の祭』が好き。
『晴れ湯』は家業の銭湯を手伝う少女、お晴の話。誇りをもって、好きで手伝っているのに、よそから来た男の子にお株を奪われたり、手習いの場でお弁当をからかわれたりと、子どもゆえに思い通りにいかないことばかり。ちょっと投げやりになり気味なところが、いとおしい。同じ年頃の子と合わなくてちょっとませているところも、かわいい。親に「こうしてほしい」とも言えずにいたのに、母親がくみ取ってくれたことを知って泣く・・・いじらしい。
時代小説の中の少女がこんなにかわいらしいと思ったのは初めてかも。
『後の祭』は、マジメ一辺倒な徳兵衛さんがお祭り騒ぎに翻弄されるのがおもしろい。
「踊台の上で大声を出すんじゃありませんよ。お前さんは楓の木なんだから。木っ」 -
面白かった。時代小説をこんなに身近に感じて読んだのは初めて。まるで自分もその場にいて、事の成り行きを見ているような感覚に…。
特に、暮れ花火は切なくて泣けました。眩を読んで間もなかったせいなのか、主人公がお栄と重なって、もう1人のお栄を見ている気がした。 -
ぞっこん/千両役者/晴れ湯/莫連あやめ/福袋/暮れ花火/後の祭り/ひってん
それぞれが暮らす町でそれぞれの事が起きる。辛かったり苦しかったりしてもしまいには何とかなるのが嬉しい。
ひってんもそれなりにね -
時代小説短編集。暗い話はない。
① ぞっこん
付喪神の話
②千両役者
なかなか売れない役者と贔屓の唐辛子屋の話。
これから…!って時に話終わっちゃう。
なんかちょっと物足りない。
③晴れ湯
目まぐるしく働く湯屋の一人娘の話。
店の切り盛りと事件と家族関係と、みたいな
朝ドラ的な話。綺麗な終わり方で良い。
④莫連あやめ
女たちのファッションを絡めた争いの話。
友情ファッション家族関係…いくつかの話が
並行で進むけどどれもちょっと物足りなさがある。
⑤福袋
大食い故に離縁され出戻った姉と欲深い弟の話。
たくさん食べつつグルメの姉の食べっぷり楽しい。
最後は弟に罰が降るし姉は大食を生かす職に就く。
⑥暮れ花火
絵師と笑絵(春画)の話。
今までの話とはちょっと雰囲気が違ってエロス。
男に傷つけられた女が過去を乗り越えて
誠実な男と新しい恋に進むみたいな話。
⑦後の祭
江戸の大きな祭りを取り仕切る事になった町役人。
祭りが始まるまでのドタバタと始まってからの
賑やかなどんちゃん騒ぎ(一方運営は駆け回る)、
そんな雰囲気に没入できて楽しい。
最後には納得いかない。前半がいいだけに残念。
⑧ひってん
自由気ままなその日暮らしの男の分岐点の話。
ひょんなことから商売の才が芽を出し
その日暮らしから立派な商人になる話だけど、
なぜか寂しさや切なさみたいな、漠然とした
もう戻らないあの日々を思わせる。
貧しかったけどあの頃も楽しかったよねという。 -
江戸物の短編集。
短編集だからほっこりとか暖かい系の話かなと思っていたのですが、どれも厳しいくらい現実を切り取った話。
様々な職業についてる人達が、まるで目の前で生きているかのように日々を暮らしている。 -
Tさんのお勧め。
江戸を舞台としていても、
どったんばったん捕り物だったり、
おどろおどろした、またひょろひょろした妖し物だったり。
それはそれで良い話だったりするのだが、
やはり人情物を忘れるわけにはいかない。
ちょっと大人の江戸物。
貧乏くさいお贔屓がついた役者、
神田祭を差配することになった家主、
やたらと大喰いの出戻り女、
看板の文字を書く筆。
一番好きだったのは「莫連あやめ」かな。
流行らない古着屋の娘。
着物やその着方を見ただけで、人となりがわかってしまうが、
近頃兄に嫁できて、よく出来た義姉にちょっとひねている。
そんなあやめが思いついた莫連流は、
若い女の子が男物を粋に着こなす流行りになる。
でも実は本物の「莫連」が近くにいた…。
ファッションに一喜一憂する女の子たちはかわいい。 -
江戸庶民の生活色々の短編集。
江戸という時代に一所懸命生きている人達の生活が中々愛おしい。
祭り、湯屋、長屋、古着屋などで起こる出来事は、人情にも包まれて温かい。
大食い女の「福袋」、弾ける女の子のいる「晴れ湯」などなど楽しかった。