激震

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 73
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065183496

作品紹介・あらすじ

1995年、大地が裂けた。時代が震えた。

阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件と未曾有の災厄が相次いだ一年、戦後五十年かけてこの国が築き上げたあらゆる秩序が崩れ去っていく……。
昭和史の闇を抉った傑作『地の底のヤマ』の著者が描き出す平成の奈落。

雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編。

年明け早々に阪神地方を襲った大地震に衝撃を受け、被災地に駆けつけたヴィジュアル月刊誌「Sight」記者の古毛は、その凄まじい惨状に言葉を失う。神戸でも火災被害の激しかった長田地区では焼け跡に佇む若い女と遭遇。夕方の光を背にこちらを振り向いたときの眼はかつて戦場で出会った少年兵とそっくりだった。果たして彼女は何者なのか?

「何やってんだろうな、俺達」加納が自嘲ぎみに呟いた。(略)「世間の耳目を引く話題に引っ張り回されて、取材取材に駆け回る。それで終わってみりゃぁ、前に何やってたかも記憶が薄れてる始末だ。(略)世間、てぇお釈迦様の掌で踊らされてる、孫悟空かよ」
「元々、報道なんてそんなものだったのかも知れませんけども」古毛は言った。「特におかしくなって来たのが、あのバブルの辺りからだったような気はします」
「あれで、日本が溜め込んで来たあれこれの矛盾が一気に噴き出して来た感じだな。戦後、営々と築いて来たこの国の神話が次々と崩壊してる、ってところかな」
――本文より

感想・レビュー・書評

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  • 最後が余計かも…

  • 2020年の本作執筆時点から「四半世紀前」となる1995年を振り返っている。作中の出来事は、大半が1995年に起こっている事ということになる。
    本作の中心視点人物、主人公は雑誌等の各種媒体に記事を寄稿するフリーライター、フリー雑誌記者を生業としている男、古毛冴樹(こもさえき)である。本作は一貫してこの古毛の目線で綴られている。
    物語は2020年9月の或る日、古毛が取材活動をしている場面から起こる。
    古毛は所謂「JKビジネス」に関する取材をしていた。取材をしていて思い出したのは、25年前の1月「神戸へ向かうのだ…」という想いを胸に、当時の取材活動で高校生に会ったという日だった。
    1995年1月17日の早朝に阪神大震災が発生した。早朝の事態で連絡を受けて、普段は余りしなかった早起きをした。
    直ぐにも神戸へ向かおうとも考えた古毛であったが、当時の主な仕事場であった大手出版社の月刊誌編集部で相談した結果、同じ出版社の週刊誌の関係者と3人で翌朝一番に出発するということになった。そして事前にその日の予定ということにしていた活動の一環で高校生に会っていたのだった。
    やがて古毛は神戸に乗込んだ。「月刊誌ならでは」という視点の記事を綴るべく活動に勤しんだ。そうした中、夕刻に未だ燃えている住宅も視える場所に佇めば、同じ様子をじっと眺めている若い女性が居たことに気付いた。女性の様子を視ていると、名状し悪いような、決然としたモノを奥に秘めたような強い目線が強い印象を与えた。アフガニスタンの戦場で、決然と戦いの渦に飛び込もうとしていた少年が見せた目線というようなモノを古毛は想起した。
    そんな出来事を経て、古毛は或る事件を偶々知る。古毛自身が佇んで視ていた住宅街で発見された男性の遺体の中に、建物の倒壊で受けたダメージや火災によるダメージが死因ではなく、刃物で刺されていたらしいモノが在ったというのだ。震災後の対応で警察は非常に繁忙ではあったのだが、それでも捜査員達がこの件を調べていることも判った。
    古毛はこの事件に興味を抱いた。そして殺害されてしまったらしい男性は「評判が悪い男」で、嘗ては高利貸しであったが、何時の間にか借金が嵩んでしまっていて、他方で働いて収入を得ているでもなく、妻には暴力を振るうような人物であったという。妻は何時の間にか出て行ってしまい、娘は高校を中退して風俗営業で働いていたという。更に、その所在が不明になってしまった娘というのが、古毛が見掛けて強い印象を受けた若い女性であるらしいのだ。
    こんな出来事が在ったが、1995年は「驚くような出来事」が続発した。かの「オウム真理教」の問題も在った。古毛は記者活動を展開し続けるのだが、そういう中で神戸での強い印象を受けた出会いの件はどうなって行くのか?
    という物語だ…
    作者は「フリーの雑誌記者」というような仕事を経験されているらしく、加えて1995年頃はそういう活動の中に在ったようだ。そうした中での御自身の見聞や経験、周辺から聞き及んだこと等が本作には非常に多く反映されているのだと思う。「雑誌の取材の現場」というディーテールが丹念に重ねられる中で、作中の世界がリアリティーを帯びて構築されている。読んでいると「1995年の世界」に引き込まれて行く、連れ戻されるというような気もしてしまう。
    震災、オウム、沖縄の米兵による犯罪、大蔵省の接待問題等々と色々と驚くことが続発していた1995年だった。「戦後50年」という中、「50年が何だった?」と社会が揺れていたかもしれない。そして年の終盤には<ウィンドウズ95>が登場してもいる。
    本作は「雑誌記者が取材中に見掛けた人物に纏わる事件」という“ミステリー”を軸としながらも、「揺れた“戦後50年”」を、「その時点から四半世紀」という中で振り返るかのような、「単純にミステリーを紐解く」では足りない「迫るモノ」が在る作品であると思った。
    先日、偶々少し若い人と言葉を交わしたが、思えばこの「阪神大震災」の頃やそれ以降に生まれた人達が既に20歳代半ばに差し掛かって、社会の中で活躍している。自身は「阪神大震災」の頃、テレビニュースを視ながら窓の外を視て、雪が降り頻っていた様子に気付き「冬に災害で建物から閉め出されるようなことになれば?大変だ…」と何となく思っていたことを漠然と憶えている。
    「揺れた“戦後50年”」であった1995年は、或いは「様々な問題意識や変化」が顕在化し始めたような頃でもあったということに、本作を読んで強く思い至った。或いは本作は「幅広い世代に薦められる」という、なかなかの力作だと思う。

  • なかなか読み進められず途中で挫折。せめて半分まで我慢できれば面白くなったかもしれないが…また機会があれば図書館で借りよう。

  • うーん、最後まで読めた。
    けど、長かった。
    たしかにいろんなことがあったなぁ、とは思った。
    盛りだくさん。
    いつでも歴史は毎日、否が応でも積み上がっていくね。

  • 1995年、大地が裂けた。時代が震えた。

    阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件と未曾有の災厄が相次いだ一年、戦後五十年かけてこの国が築き上げたあらゆる秩序が崩れ去っていく……。
    昭和史の闇を抉った傑作『地の底のヤマ』の著者が描き出す平成の奈落。

    雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編。

    年明け早々に阪神地方を襲った大地震に衝撃を受け、被災地に駆けつけたヴィジュアル月刊誌「Sight」記者の古毛は、その凄まじい惨状に言葉を失う。神戸でも火災被害の激しかった長田地区では焼け跡に佇む若い女と遭遇。夕方の光を背にこちらを振り向いたときの眼はかつて戦場で出会った少年兵とそっくりだった。果たして彼女は何者なのか?

    めちゃくちゃ好みな一冊だった。1995年を取材しているような疑似体験感を味わえた。締め切り直前の編集部の慌ただしさや事件が起きた時の臨場感は、作者がフリーライターだった経験がふんだんに生かされているのかな?リアリティーのあるストーリーに対して、ラストの展開がガバガバすぎるんじゃないか?とも思ったけれど、面白かったから良し。

  • 97その時代の真っ只中にいた人間としてその時の空気や土地のにおいが蘇ってくるような臨場感がある。災害も厄災もきっと次々に起きるし、またそれに立ち向かい市民もどの時代にも居るということか。最後のサクセスストーリは蛇足でしたね。

  • いろんなことがあった1995年。

  • こんな都合の良い結末はない。

  • 仲間内の「青伝」するのに大蔵の官官接待批判⁈同根じゃないの!起死回生の記事が「ヤクザの救援活動」?震災のどさくさの殺人事件?関心ないだろうと冷めてたら、大どんでん返し。訳も分からず走り回った1995年、確かに色々ありました。デジャブ?

  • フリーの記者の目を通して阪神大震災、サリン事件、沖縄少女レイプ事件等を描く社会派小説。一文が短くテンポ良く進むので緊張感もあり一気に読めた。西村氏の文章は好きだけど、終わり方が調子良くて、そこが残念。

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著者プロフィール

1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。労働省(現厚生労働省)勤務後、フリーライターに転身。96年、『ビンゴ BINGO』で小説家デビュー。『劫火』『残火』で2005年と10年に日本冒険小説協会大賞(第24回、29回)、『地の底のヤマ』で11年に第33回吉川英治文学新人賞と第30回日本冒険小説協会大賞を受賞。14年、筑豊ヤクザ抗争を描いた『ヤマの疾風』で第16回大藪春彦賞受賞。他の著書に『光陰の刃』『最果ての街』『目撃』『激震』などがある。本作は『バスを待つ男』に続くシリーズ第二弾。最新刊は、シリーズ第三弾の単行本『バスに集う人々』。

「2023年 『バスへ誘う男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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