食はイスタンブルにあり 君府名物考 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065208366

作品紹介・あらすじ

かつて500年に亘り、栄華を極めたオスマン帝国。
東洋と西洋、イスラムとキリスト教という文明と宗教の交差が生み出した
大首都・イスタンブルで、当時、人々はなにを食べ、どんな暮らしをしていたのか?

1500坪の台所で260余名のコックが、年に600万円予算で贅を尽くしたトプカプ宮殿の献立。
食事が足りないと鍋を投げて暴動を起こした、屈強たるイエニチェリ軍団の食い意地。
施しこそ敬虔な信仰の証、と貧者への給食すら豊かだったこの帝国を、
当時の料理書や、市場で売られた食材物価表までたどって、細やかに検証。
オスマン帝国の興亡を「食」で大胆に考察する。

目次

巻ノ一 古都は食をはぐくむ
巻ノ二 遊牧の遺産
巻ノ三 ケバブのみがトルコ料理にあらず
巻ノ四 イスタンブルの市場めぐり
巻ノ五 君府料理尽し
巻ノ六 貧者の給食
巻ノ七 トプカプ宮殿の台所
巻ノ八 スルタンの食卓
巻ノ九 祝祭の饗宴
巻ノ十 「土」風から「洋」風へ

学術文庫版あとがき 

本書の原本は、1995年、NTT出版より刊行されました。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで3つの帝国の首都であった歴史を持つイスタンブールは、アジアとヨーロッパの狭間にある上、シルクロードや地中海など各種交通の主要地点でもあった。だからこそ各地から食品が集まり、その文化が隆盛していった。その過程を歴史とともに振り返り、我々日本人にも馴染み深いケバブやヨーグルトなど料理ごとにも詳しく情報をまとめていた。すぐにイスタンブールに行きたくなる1冊。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/768307

  • 鈴木董氏の著作は今年2冊目で、前回も思ったが、僕は彼の文章がとても好きだ。美しい言葉選びに、知性あふれる論の展開。そして細かなエピソードが面白い。今回も多くの学びと新たな気付きを頂いた。
    フランス料理、中華料理と並び、世界三大料理に数えられるトルコ料理。日本では今ひとつ馴染みがないが、紐解いてみれば世界でも有数の食の交点であることが分かる。
    歴史上最も重要な都市のひとつにイスタンブルは挙げられる。それは簡単にいえば東西の洋の繋ぎ目であり、古代ペルシア帝国、古代ギリシア、ローマ・ビザンツ帝国、そしてオスマン帝国という名だたる文化の興隆を経験した土地だからである。
    気候風土を取ってみても、トルコという土地は非常に豊かである。イスタンブルをはじめとした沿岸部の地中海性気候に始まり、内陸の大半は乾燥したステップ気候、北部の黒海沿岸は温暖湿潤気候など、さまざまの食材が育まれる礎があるのだ。
    そしてオスマントルコを築いたトルコ民族はもとより中央アジアの遊牧民だ。遊牧民にとって馳走となる肉料理もさることながら、常食となる乳製品はトルコ料理の要ともいえる。
    エキゾチックな香りが漂いながらも、教科書でしか見ていなかった土地と民族にいくらか親近感を抱くことの出来る一冊。

  • 小笠原弘幸「オスマン帝国」再読を機に、こちらも再読。副題の君府名物考とあるように、公定価格表や旅行記や料理書をひもといて、これでもかの食材、料理づくし。エヴリヤ・チェレビーが大げさにかきたてるヨーグルト作りたち。安価なごちそう羊の肝(カラ・ジエル)。羊の胃袋のスープ、イシュケンべ・チョルバスゥ。生食でもジャムでも乾無花果でも食べられた無花果。今は見られないらしい、メロンの種を抜いて、炒めたご飯や挽き肉などなどをつめこんで蒸したというメロンのドルマ。貽貝のドルマ(ミディエ・ドルマスゥ)。バクラヴァ、針金カダイフ、レヴァーになど、甘い焼き菓子の数々。酸味料として使われた、レモン汁、未熟な酸っぱいぶどうの汁、ざくろ汁。レシピだけでのみたくて仕方ない気にさせられる薔薇水、スルタン風蜂蜜水。といったあたりが特に心惹かれた食材、料理。また、エピソードとしては、かつて大膳所のコックでもあった国政を立て直した偉大な大宰相キョプリュリュ・メフメット・パシャ、料理人としての腕については、何も伝えられていない…という一節からドラマが書けそうなと思ったり。宝石にも等しい高価な青磁も染付を、日常の食器、容器として何げなく用いられていた、特に昔オスマン帝国展見た際の、わざわざ使い勝手の良いように金属の蓋をとりつけた壺などが思い起こされ、といったところか。

  • オスマン帝国が舞台の本を最近よく読んでいるので、食文化から造詣を深められて良い。高橋由佳里「トルコで私も考えた」も大好きなので、知ってる料理もいくつかあった。甘いものへの執着がすごいなぁ

  •  ヨーロッパとアジアの接点でもあり、キリスト教世界とイスラム教世界の交点でもある「君府(くんぷ)(イスタンブル、コンスタンティノポリス、ビザンティオン)」のトプカプ宮殿給食施設の会計簿等を中心に、紀元15世紀(日本では応仁の乱の頃)のスルタンやイェニチェリ(君主直属の奴隷軍人の歩兵)の食事などを紹介している。
     トルコの市場で生の食材を見た人なら、本書を読みながら食材を思い描きながらワクワクして読めるに違いない。物や文化の交流点、是非行ってみたい。 

  • トルコの食文化史。多くの食材名の由来が、ギリシャ、アラブ、ペルシャ語にあるのは、イスタンブールが東西文明の交差路にあるという地理的特色ならではで、オスマン帝国が拡大するほどに、富が物資が集積する君府(イスタンブール)のグルメも発展の一途をたどった。官僚体制の整った国だけに、数百年前の宮廷台所の支出がちゃんと残っているのは興味深く、また食材の公定価格情報などは、広大な帝国の維持するには庶民を食わせる事だというポリシーが伝わってくるよう。日本ではトルコ料理がまだ馴染み浅い分、料理写真が掲載されていればなお良かったが、文中で詳述される食材の数々とレシピは具体的で、それらを眺めるだけでほのかに香りが漂ってくる感じだった。

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著者プロフィール

1947年生
1982年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士
東京大学東洋文化研究所教授などを経て、
現 在 東京大学名誉教授

著書:
『オスマン帝国――イスラム世界の「柔らかい専制」』(講談社現代新書、1992年)
『オスマン帝国の権力とエリート』(東京大学出版会、1993年)
『オスマン帝国とイスラム世界』(東京大学出版会、1997年)
『世界の食文化(9) トルコ』(農村漁村文化協会、2003年)
『ナショナリズムとイスラム的共存』(千倉書房、2007年)
『文字と組織の世界史』(山川出版社、2018年)
『オスマン帝国の解体――文化世界と国民国家』(講談社学術文庫、2018年)
『文字世界で読む文明論――比較人類史七つの視点』(講談社現代新書、2020年)
『食はイスタンブルにあり――君府名物考』(講談社学術文庫、2020年)
『帝国の崩壊――歴史上の超大国はなぜ滅びたか』(編著、山川出版社、2022年)他

「2023年 『オスマン帝国の世界秩序と外交』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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