- Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065267462
作品紹介・あらすじ
二年前、東北で横死した劇作家兼演出家の破月悠高。妻の久代がその未完成の遺作を発見した。学生時代に夫妻も所属していた劇団NTRをモデルにしたその戯曲を読んだ久代は、同じく劇団員だった鷹野裕に声を掛ける。「裕、あの戯曲の続き書かない?」
相談の結果、元劇団員たちがそれぞれ好きな形式で文章を寄せることになった。作品集のタイトルは「ヒカリ文集」。劇団のマドンナであり、あるとき姿を消してしまった不思議な魅力を持った女性、賀集ヒカリの思い出が描かれてゆく。
『親指Pの修業時代』『犬身』『最愛の子ども』……そして新たな傑作が誕生!
感想・レビュー・書評
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⚫︎感想
だれにも心を開かない、でもだれにでも真心をこめて接することができたヒカリに魅了された元劇団員たちが作り上げた「ヒカリ文集」。みんなに甘やかで特別な記憶を残して、最後まで実在としては登場しない。
家庭環境で幼少期に歪んでしまった部分が、刹那的な本物以上だと他人が感じてしまう優しさを生み出しているらしい。ヒカリ本人はどこまでも孤独が埋められない。
何人もの立場から繊細に立体的に描かれ紡がれるヒカリ。心に残る繊細な文章表現が素敵だった。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
二年前、東北で横死した劇作家兼演出家の破月悠高。妻の久代がその未完成の遺作を発見した。学生時代に夫妻も所属していた劇団NTRをモデルにしたその戯曲を読んだ久代は、同じく劇団員だった鷹野裕に声を掛ける。「裕、あの戯曲の続き書かない?」
相談の結果、元劇団員たちがそれぞれ好きな形式で文章を寄せることになった。作品集のタイトルは「ヒカリ文集」。劇団のマドンナであり、あるとき姿を消してしまった不思議な魅力を持った女性、賀集ヒカリの思い出が描かれてゆく。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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語るほどに輪郭が失われる「謎の女」 六人の叶わぬ思いが浮かび上がる | レビュー | Book Bang -ブックバン-
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https://www.bookbang.jp/review/article/7301222022/04/15
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演出・脚本家だった破月悠高が被災地で横死した。その遠因となったのはかつて彼が主催していた劇団NTRの所属女優ヒカリの思い出を描いた未完の戯曲。悠高の妻で元劇団メンバーだった久代から連絡を受けた同じく元劇団員の鷹野裕は、ヒカリをよく知る仲間たちからヒカリについての作品を寄稿してもらい文集を編むことを提案し…。
この本自体がその架空の文集の体裁になっている構成が面白い。まず未完の悠高の戯曲で始まり、久代や裕を含む他5人の劇団員によるヒカリについてのエッセイや小説が連作短編のように続いていき、彼らの視点を通して、読者はヒカリという一人の女性のことを知っていくことになる。
寄稿したメンバーのほぼ全員と(男女問わず)なんらかの性的な関係を持ちながらも、けして尻軽というのではなく、どこまでも優しく誠実だったヒカリ。孤独を抱えるあまり、他者の心の機微に敏感で、相手が欲しがっているものを与えずにはいられないのに、自分自身の欲しいものはわかっていないかのような。
ただ劇団員の中では最も健全な精神の持ち主である久代と結婚しながらも、悠高がヒカリにそれほどまでの(自殺まがいの死を遂げるまでの)未練を抱いていたというのはあまりピンと来なかった。読み進めるうちにヒカリの追悼文集のような錯覚に陥っていたけれど、死んだのは悠高で、ヒカリは今もまだどこかで生きているのだと思うと不思議な気持ち。 -
『最愛の子ども』にも感じたけど、何か物寂しいけど柔らかな気持ちになのは、やはりこの文章によるものか。とても心地よいテンポと表現で読むのが楽しみであり、読み終わるのが惜しくなってくる。皆さん言うようにいつまでも読んでいたい気持ちになる。
冒頭の戯曲形式によるイントロダクションで人間関係を説明される中でヒカリへの興味を沸かせて次の章へと移るが、この中に順平がいる事で自分自身も素直にこの中に入っていけた気がする。こうやって読者を物語に引き込むのがとても上手だと思う。
各々のエピソードを通じてヒカリ像を浮かび上がらせる流れの中で、最初はとても魅力的なファムファタールとも言えるヒカリが人との付き合いを重ねる程にどんどん自分自身の孤独感に悩んでいく姿は物悲しいけど、何だかわかる気がする。結局、人は完全に他人と分かり合えることはないとすれば、誰しもがヒカリの要素を持っていて、かつ誰しもが嘘でもいいから分かりやすいフィードバックを求めているのではないか?ヒカリを通じてそういう自分自身の中にある孤独感を見ているような気分になる。
といっても決してどんよりするわけでもない。それは全員の文章からヒカリへの愛が溢れているからか。よく考えれば、最初の戯曲部分は単なる台本なんだから本当に皆で集まってたわけでもないと思うし、おそらく劇団員にはヒカリとは付き合わなかったけど重要な役割の人もいたんだろうと思うとかなり冒頭に引っ張られて過剰に仲間意識を感じてしまっているのかも知れないとは思いながらも、心地よい空気感を楽しめた。
つまるところ、ヒカリは何を求められているか?は理解できても何を自分が求めているのか?はなかなか理解できていなかったのかな?その気持ちわからなくもない気がする。。。 -
松浦理英子の作品って、最初の頃のナチュラル何とかから、最近(?)の親指がなんかになったとか、犬になりたいとか、飽きもせず、ずーと読んでいます。にもかかわらず、面白いと思ったことないんですね。なんか、バカみたいなのですが、(ああ、もちろん、松浦理英子がじゃなくて、ボクが、ですよ)今回も読みました。2022年の野間文芸賞だそうです。どんな人が選者なのだろうと、心底、不思議な気持ちになりました。
ブログにも、そんなことをうだうだ書いてます。よろしければ、覗いてみてください。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202302110000/ -
寡作の人、松浦理英子がまた傑作を。
横死した劇団主催者、その遺稿の続きを5人の役者が綴る。男女の垣根を超えたその狂おしい愛が切なく胸を締め付ける。欲望、嫉妬が蠢く人間模様、とならないその人物描写、心理描写に唸ると共にぽっかりと空いた喪失感をも抱かせ、読後はしばし放心してしまった。 -
ヒカリのことを、知っているような気がした。似ている人は周りにまったくいないのに、知っている人の話をされているような感覚に、なった。
文集というのがいいなあと思う。作品集でも「ヒカリについて」とかでもなく『ヒカリ文集』。まろやかな感じ。
これほど捉え、とらわれるひとに、これから会うことがあるのだろうか。ヒカリを通してそれぞれが、自分の人生や劇団の他のメンバーのことを考え、観察しているのがおもしろい。わたしはこんなふうには、周りの人のことも自分のことも分かってなかったな、とこれまた自分を省みることにもなった。 -
2022年3月
相手をもてなすような言動をしてしまうことは多かれ少なかれ誰しもあるだろう。ただそれに長けてしまうと自ら人間関係を良好だが空虚なものにしてしまう。
ヒカリは「年季の入ったもてなし人」である。
作中、サロメへの感想を言い合うシーンで、ヒカリの言葉は表面的で、ほかの人間に追随して共感できないと言っているだけのような気がする。作品について良い悪いの感想が同じだと誰でも嬉しく思うだろう。サロメに共感できないという言葉は周りの人間に対するもてなしではなかったか。
他人への奉仕が自分の幸せならば一生奉仕していればいいのかもしれないが、ヒカリが6人との恋愛で結局別れを選択するのは最後にはやはり我が出るということなのかも。
冷やかしでないファムファタル像。 -
誰からも愛されて、誰からも理解できないヒカリを色々な人の目線から描いた連作。