ラテンアメリカの文学 7

  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (469ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784081260072

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  • 作者はアルゼンチン出身。
    科学者としての才能を期待されたが、科学とは決別し作家の道へ。
    ボルヘスたちが中心となった文学サークルに参加、最初はボルヘスに傾倒するが、徐々に反発していったということ。

    「英雄たちの墓」の本文でもいきなり「アルゼンチンの街を歩いていたらボルヘスに会った」として、その後ボルヘス批判が始まるから「え?杖をついてアルゼンチンを散歩する作家ボルヘスって言ったらあのボルヘスだよね??急にどうしたんだ?」と思いましたよ(笑)
    まあその後は結局和解したようで、私の持ってる文芸雑誌ではサバトは「ヨーロッパの人たちには『アルゼンチン文学って要するにガウチョ文学だろ?』なんて言うけれど、我々アルゼンチン人が形而上的小説を書くのは、歴史的、地理的に意味があるんだ!!」と言っています。
    さらに推定80代のボルヘスと推定70歳前後のサバトが並んで座って話している様子が写真に写っているんだが、ラテン人種って老いても格好いいな~~。

    なお、こちらで語られている「画家による人妻殺人事件」は同じ作者の「トンネル」のもの。
    http://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4336026602#comment

    ★★★
    旧家の名門の流れをくむオルモス家の娘アレハンドラは、父親フェルナンド・ビダル・オルモスを射殺し、部屋にガソリンを撒き焼死した。
    なぜ彼女は残った2発の弾丸によってでなく、焼け死ぬことを選んだのか。
    狂人も輩出した家の狂気の犯行かと思われたが、フェルナンドが残した『闇に関する報告書』という手記が発見されたことにより事件は新たな見方を示唆する。

    物語は事件の2年前、無為の日々を送るマルティンという若者が公園で印象的な娘のアレハンドラと出会い夢中になることから始まる。
    マルティンは、アレハンドラの両親フェルナンドとヘオルヒーナの幼友達ブルーノに、アレハンドラと過ごした日々を語る。

    アレハンドラ。混血らしき顔立ち、黒い髪、緑がかった灰色い目、強固な意志、素朴な服装はより彼女の厳格さを引き立たせる。

    マルティンはアレハンドラに翻弄される。
    街を出ようとするが出られない。アレハンドラを求め続ける。アレハンドラ。

    アレハンドラの語る一族の話。
    スペイン軍と闘うためにアルゼンチンに侵攻したイギリス軍隊、アルゼンチンに残り新たな人生を始める軍人たち、幾度も繰り返される戦闘、反乱、敗走、そして狂人。家族に会いに敵地を潜り抜けた大佐は、家族の元にたどり着いた時その目の前で首を討たれる。大佐の娘は父親の首を持ち部屋に50年間閉じこもり続けた。

    アレハンドラが語りたがらない一族の話。
    盲目、狂気、フェルナンド。

    アレハンドラが口を滑らせた”フェルナンド”の名前にマルティンは嫉妬に狂う。
    ある日マルティンはアレハンドラが彼女によく似た男と会っている場を見る。
    混血らしき顔立ち、長い白髪、緑かかった灰色い目、強固な意志を感じる姿。
    あれがフェルナンドだ。アレハンドラは彼を愛しているんだ…

    第3部はフェルナンドによる「闇に関する報告書」

    『もうすぐ私が暗殺されれば、こんなことも終わりになるのだが、いったいいつ始まったことなのか。
    私は以前より盲人への特殊な思いを抱いていた。
    そして盲人たちによる秘密結社があることを突き止める。
    それは古代の神が闇の王子に打ち負かされ悪魔に失墜し、その失われた権威を取り戻そうと盲人たちを使っているのだ。

    私は知り合いの盲人を見張り、秘密結社との接触を待つ。
    そしてついに彼らの密会の場所を突き止める!

    だが私は彼らに気が付かれてしまった。
    盲人たちは私を閉じ込める、私は焼き殺されるのだろう。
    まったく、なんというごろつきの一団!信じるためには人を焼き殺さねばならないとは。

    それまでの間、私は盲人たちの秘密結社がこの世に及ぼした影響を考える。
    ランボー、ストリンドベリ、そして画家のフアン・パブロ・カステル。
    そう、あの事件、画家のカステルによるマリア・イリバルネの殺害がそうだ。
    マリアの夫は盲目だ。
    あれは盲人たちに仕組まれた殺人だ、カステルはマリアを殺すように仕向けられたのだ、それでマリアの夫の言葉、「たわけが!」の説明がつくではないか。

    私は盲人たちの隙を付き部屋から脱出し、地下道のトンネルを抜け、古代の神殿へ辿りつく。
    そこでついに古代の神が姿を現す。
    神と私とは果てしない時間を越えてさまざまに姿を変えて闘い、互いに喰らい付き合う。

    今私は自分のマンションに戻ってきた、
    だが彼らが私を生かしておくとは思えない。

    彼らは私を殺す、だが彼らからは来ない。
    だから私が行かなければいけない。
    彼女が待っている』

    第4部はアレハンドラとフェルナンドの死の翌日。
    空しく街を彷徨うマルティンの放浪と、ブルーノの語るフェルナンドと、彼の従妹でありのちに妻となるヘオルヒーナと過ごした子供時代が入り混じり語られる。
    閉ざされたような館には、暴王のようなフェルナンドと、恐れと憐みを持ちただ一人の信者のようにそばにいるヘオルヒーナ、そして狂人のヘオルヒーナの弟のペペがいる。そしてこの館にはまだ、父の首とともに50年間閉じこもる老女も生きていたのだ。

    マルティンは街を出てる決意をする。
    南へ向かうマルティンと、そしてアレハンドラの先祖が戦闘に敗れ北へ逃れるその長い長い道のりが交互に語られて、物語は終結する。
    ★★★

    解説によると、作品が世界に翻訳された時には、アレハンドラの魅力と、第3章の偏狂の独白が評判だったようですが、私としては第4章の語りがかなりよかった。
    ブルーノの語るフェルナンドの異常性、それを育んだであろう閉ざされた館と一族。
    南へ向かうマルティンと、北への敗走を続ける軍人たち。
    それらが静かに強く語られて引き込まれました。

  • 古本屋の片隅で。何よりその豪快な名前で即買い。何と本名らしい。知らない活動家や作家なんかも沢山出てくる。時折詩人ぽいフレーズもある。喜悲劇が悲喜劇となっているのはミスプリ?

  • 旧家の一風変わった女性に恋をした少年が巻き込まれた出来事、人物の顛末・・・。

    と、無理に要約を試みたが、要約しようがない。俺には難しかった。

    それぞれの章が、登場人物の繋がりをもって連結しているのは分かるが、作品全体としてどのような世界を構築しようとしているのかさっぱり掴めなかった。

    また個々の章の中身も、私自身に熱烈かつ報われない恋愛経験がないゆえにマルティンの言動は理解できず、常軌を逸したアレハンドラの言動はなおさら分からず、旧家の昔物語とブルーノの回想は退屈で、正直読み進めるのが辛かった。
    唯一、第3部「闇に関する報告書」だけ、この狂的な告白部分は、相当に惹きつけられるものがあった。
    どうもこの第3部が作品全体を読み解くカギとなっているようなので、全体を理解できていない自分はこの第3部についても噛み砕けてはいないということなのだが、それでもこの幻想空間は魅力的だった。

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