イスラム―癒しの知恵 (集英社新書)

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  • 集英社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205763

感想・レビュー・書評

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  • ムスリムの文化について述べられていることで驚いた点は以下である。
    今後のムスリムとの付き合い方に生かせそうだ。
    ・お店でムスリムがお茶を出してきたら、買い物をしてお返しをすると、ムスリムは悲しく思う
    ・ひとりでいることは悪いこと
    ・何でも分け与える文化

    外相と急遽面会できたというエピソードには胸が温かくなった。
    日本人は人生に安らぎを見出せず、生き物やキャラクターに癒しを求めるという作者の指摘に、とてつもない衝撃を受けた。
    私には愛猫がいるが、心の支えになっている。
    愛猫=宗教のようなもの、というわけではないが、特定の宗教を信じている人々はこんな気持ちなのだろうか・・・

  • 15/02/24。
    3/6読了。

  • イスラム教徒はなぜ自殺率が低いか?という問い立てから始まるイスラム紹介。
    シリアやトルコに詳しい筆者自身の滞在体験を交えて、イスラムの基本的な考え方を説明。
    すべての判断は神に委ねよ、そして家族や隣人、友達といった縁を大切にせよという教えが、他人への批判を戒め人を孤独にしない、と言う。 その結婚観など、私たちの持つ個人主義からはじまるそれとはかなり違って違和感も大きいが、国を母体とする政策がアテにできなくなった今日、こういう考え方に依るのも理解できる。

    さまざまのエピソードの中、後に大統領もつとめたギュル外相を訪ねた話には胸が熱くなる。
    ギュル氏の個人的資質に依る部分が大きいとも思うが、キリスト教世界とイスラム教世界とのつなぎ目にあって、難しいバランスを要求されるトルコ人の懐の深さを感じる。
    同時に、、世界の果てにあって両者から遠く ある意味無邪気でいられる日本だから歓迎され期待される何かもあるのではないか。
    さて、なぜ、過激派の活動が目立つのに、イスラムへの回帰が止まらないか?貧富の差の拡大や政治的迫害を理由に挙げる意見が多いが、どうもピンと来なかった。
    本書では、技術発達のめざましい今日、答えを見いだすのが難しくなってきていることを指摘し、例として脳死の扱いの問題を挙げている。このような出口の見つけられない問題に直面して、戒律により行動を定められているイスラムに回帰し心の平安を得たい、のだという。
    なるほど。


    2011年1月に出版されたもの。
    2014年1月、仏紙の風刺画が発端となったテロ事件、そして直後のISによる二人の日本人人質事件の最中に読む。

  • イスラムでは命は神の手にあるものであり、人がどれくらい生きながらえるのか、いつ死んでいくのかも、全て神の手にあるとする。命を決めるのは神であって、人間ではない。

    厳格なムスリムは墓を作らない。作ったところで霊が現れるという発想がないのだから、墓に詣でること自体に意味がない。
    イスラムでは理由なき殺人は厳禁である。
    苦境にある人にとっては、神に全てをゆだねていれば、いつか良いことが起きる。成功者にとっても、神に定めるべき義務を果たして親切な行いを積めば、来世でご褒美がもらえる。

  • 現在重い雰囲気にある日本に比べ、暮らしのうえでの「良くないこと」に対してイスラムではどう対処しているのか、イスラムの考え方や行いを述べた本。
    昨今の新書にありがちなテーマを掲げた本ですが、中身はイスラムの内面に切り込み著者の主張にあふれたもので、真摯なメッセージを感じました。

    いろいろな例でイスラムでの考え方が示されるのですが、自分的にものすごくざっくり捉えてみると、すべてを神が決め、それに従う、ということが重要なのかと。
    大風呂敷を広げて考えてみれば。
    神とは何か、ということなど自分は普段考えもせず、科学や情報の成果に囲まれて日頃暮らしていますが、イスラムでは神はより具体的な聖なるものとして身近に存在していると思えます。
    日本でもたぶん過去の暮らしにおいてそういう考えを持っていた頃もあったはずで、便利な暮らしに囲まれることなく、大変な災害や事故などに身一つの状況下で対峙するのにはそういう知恵みたいなものが必要だった、といえるのではないか。

    現在日本に限らずいろんな国が便利な暮らしに染まりつつあるとはききますが、病気や死など生活するうえでの不安は存在し、たぶん消えることはない。
    そんな中で、普段暮らしていく上での世界の認識を、科学や情報や経済という「現実」に頼ることと、神という人知を超えた存在に頼ること、どちらが幸せなことなのかと。著者はそういうことを述べておられるのでは。と思いました。

    日本を含む前者の考え方では、つらい日常をおくるにはあまりに頼りなく、ちょっとしたことで世界が絶望的に見えてくるのも、不思議はないのかもしれません。

  • 『なぜムスリムは自殺をしないのか』という問いをはじめ、全知全能のアッラーのみにその身を委ねることの安らぎ、イスラーム的なもてなしの心地よさ、クルアーンやハディースに記された弱い人間を導くための行動規範などについて述べられている。
    著者はムスリムではないが、『どうしたら西洋とイスラム社会の対立を緩和できるか』という立場、どちらかというとムスリム寄りの立場で書かれている。閉塞感が漂う、日本をはじめとした世俗主義を採った国家の中で、イスラーム的な考え方が人々に癒しをもたらす可能性は大きいと、著者は期待している。
    わたし自身もムスリマとして、イスラームの癒しには確信を持っている。この本は、ムスリムもノンムスリムにも読んでもらいたい一冊である。

  •  イスラム地域研究者が,イスラムの教えをポジティブに解説。イスラム圏では自殺が少ないらしい。どの宗教も自殺は基本的に禁忌だが,イスラムは特にすべてを神に委ねる考え方なので,自殺は神の否定につながる。
     ではなぜ自爆テロ?という話だが,それは著者の『イスラムの怒り』に詳しい。信仰の敵とのジハードで命を落とす殉教は,イスラムでは価値ある行為とされているから。ただ911なんかを殉教で正当化するのはかなり無理で,現実にイスラム共同体の存続が脅かされている場合に限られるらしい。
     悲しいことにパレスチナ,特にガザの状況は絶望的。自爆テロを殉教とみなしてしまうくらいに悲惨。だからこそハマスが支持を得た。しかし,本来イスラムの教えはかなりポジティブで,多用される「インシャアッラー」もその表れ。日本人は重い病気などすると「因果」とか「霊」とか後ろめたさを感じるが,その点,神の御業と達観しているムスリムは,くよくよすることも少ない。結果,予後もよいのではと著者は推測。少なくともQOLは上がるだろう。
     それと,アッラーは人間の弱さを知悉していて,欲望に負けてラマダンなど戒律を破ってしまっても,後で喜捨などをして善行を積むことで,回復可能。ちなみにラマダン月の日中は,断食だけではなくて,性欲とかあらゆる欲望を絶つんだという(サウム)。日中だけ絶てばいいなんて食欲より簡単だ…!
     とまれ,イスラムの教えはムスリムの生活に深く入り込んでいて,敬虔の程度には差はあれど,基本的に望ましいものとして認識されている。
     思いがけず叶った著者たちとトルコ外相の会見が詳しく紹介されている。EU加盟が後退したために実現した会見だが,外相の言うことは理にかなってる。「ヨーロッパの価値というのは、宗教、民族、言語にあるのではありません。…民主主義、人権、自由な市場経済システムにあるはずです。」p.103
     ただ,著者がかなりイスラム贔屓で,西洋文明に批判的なのが少し気にかかった。宗教のおかげでよりよく生きているムスリムも多いだろうけど,余計な世話を焼かれる共同体重視の環境を煙たく思っている人もいるようだし,その程度がひどくて傷ついている人々もいるかもしれない。
     それでも,西洋側からのイスラム理解が偏見に満ちていて,それが両者の関係をギクシャクさせていることは事実なのだろう。もっと相互理解が進むといいけれど,移民労働の問題もあり,経済面でもっと余裕が必要かも。宗教にこだわりのない日本人ができることも少なくない,のかもしれない。

  • 仕事の関係でイスラム教の人と接する機会があったので、知っておこうと思い、読み始めました。
    自分はイスラム教ではないが、イスラムの考え方について少しわかったような気がします。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学文科卒業。社会学博士。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同支社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『イスラームから世界を見る』(ちくまプリマー新書)『となりのイスラム』(ミシマ社)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)ほか多数。

「2022年 『トルコから世界を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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