- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087211962
作品紹介・あらすじ
近年「従業員が幸せ(ポジティブ)になれば会社の業績が上がる」という言説が流布し、多くの企業が従業員の幸福度を上げようと躍起になっている。
しかし幸せ(ポジティブ)になることで成果や業績が上がる人や条件はごくわずか。
むしろ従業員の性格に合わせた働きかた、職場環境、指導が重要なのである。
実験を通して人間の幸せを数値化する「幸福研究」を専門とする著者が、最新の研究から個人の性格に合わせた組織作りや働きかたのヒントを提示する。
【おもな内容】
・不安な気分で創造性がアップ
・ネガティブな人はピンチになると協調的
・心配性な人は管理職に向いている
・従業員あたりの売上高と仕事の満足度は無関係
・従業員全員をポジティブにするのは費用対効果が悪い
・ストレスが多い職場ではマインドフルな従業員が活躍する
・上司がマインドフルだと部下が疲れにくい
・幸せそうな上司のほうが部下の評価が高い
【目次】
はじめに
第一章 幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるのか
第二章 不幸せ(ネガティブ)な従業員こそ重要だ
第三章 マインドフルな従業員
第四章 テレワーク時代の幸福な働きかた
第五章 幸福研究に基づいた幸せな働きかた
おわりに
【著者略歴】
友原章典(ともはら あきのり)
青山学院大学政治経済学部教授。
2002年ジョンズ・ホプキンス大学大学院よりPh.D.(経済学)取得。米州開発銀行、世界銀行コンサルタントを経験。ニューヨーク市立大学大学院助教授、ピッツバーグ大学大学院客員助教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営大学院エコノミストなどを経て現職。
著書に『実践 幸福学』(NHK出版新書)、『移民の経済学』(中公新書)など。
感想・レビュー・書評
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今は青学の教授を務めておられる経済学者による、組織論についての大学の講義をまとめたもの。読んでいて、少し事例の羅列に近い印象を受けたのは講義録だったからか。。
とは言え、情報がテーマ毎に纏まっているのと、マインドフルネスやウェルビーイングといった最近のトピックにも触れられているので、サクッと情報を得るサプリメント的な本として有用だと感じました。
内容は「人の働かせ方」の本で、著者は「どのように従業員を幸せにすれば企業にとっても恩恵があるのか」という問いを立てて本著を纏め上げたそうです。
読了して思ったのは、このタイトルはちょっと誤解を生むのでは…ということ。
会社でよく「あの人はバックギア引くタイプ」という表現が使われてまして、要は変化に後ろ向きな人のことなんですが、「ネガティブな人」という言葉を見て私のアタマに浮かんだのはそのタイプの人。ただ、このタイプは本著における「ネガティブな人」では無く、「心配性」「楽観的ではない」くらいの人を指すようでした。
というコトで、本著「やる気がなくて批判ばかりして動かない人に上手く稼働してもらう本ではない」という大前提を理解した方が余計な期待を持たなくて済みます(笑
著者の問いへの答えは、「従業員を幸せにすれば組織に恩恵があるとは断言できない」というものだったようですが、様々な研究の中で得られた知見はそれなりに有用なものもありそうです。
部下のパフォーマンスを上げるために上司はどうすれば良いか?部下が創造的な仕事をする時は幸せそうな態度で、分析的な仕事をする時は悲しそうな態度で接すると良いんだそうで。
しかし、これを自然に実践するのは大変そうですね。部下の立場で「これから何の仕事するの?」って訊かれて返事したら急に上司の態度が悲しそうになったりしたら困惑しそうですが(笑
ちなみに脇道ですが、テレワークについて、2010年に上海で実施された在宅勤務の実験で、企業の生産性が20〜30%増加したとのことですが、「うち2/3はオフィススペースの縮小によってもたらされ」というのはなかなか切なさを感じました。
(まぁ、それ以外の生産性が上がっているだけで御の字なのかな…)
ボリューム感的に手ごろなので、興味があれば読んでみては良いのではと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
色々な実験をしその結果から、従業員との働き方や上司と部下の在り方について書かれている。
ネガティブな人とあるが、ネガティブがと言うのではなく受け止め方やそのベクトルの方向についての個性だろう。
どこでも叫ばれているマインドフルネス。
なかなか自分に取り込めていないし活かせていない。
もう少しこうしたらというヒントを書き留め実践したい。 -
■全体的な幸福感が高いときには仕事の満足度と転職の関係性が弱くなる。一方、全体的な幸福感が低いときには仕事の満足度が低い人ほど転職する。つまり仕事の満足度が高いか低いかに関わらず全体的な幸福感が低い人ほど転職しやすい。
■第1章「幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるのか」まとめ
・気分がよくなると情報処理能力が上がるが、その効果は長く持続しない可能性が高い
・家族の不幸により情報処理能力は下がるが、時間がたつとその影響は小さくなる
・幸せだと成果が出るのは労働意欲が増すからではなく、効率的に働くようになるため
・従業員当たりの売上高は仕事の満足度とは無関係
・全体的な幸福感が高いときには、仕事の満足度が高くなくても転職をしない可能性がある
・仕事の満足度が高いほど企業価値が上がるが価値がかくなるまでには時間がかかる
・従業員を幸せにする労務管理は費用対効果から推奨できない可能性が高い
・生徒の学力向上には先生が幸せであるよりも家庭環境や教授法の改善の方が効果的
■意外にも交渉の途中で怒った感情に変わる相手の方が一貫して起こっている相手よりも良い印象を持たれる。
ずっと怒っている人は、そういう性格だと思われて嫌われてしまう。逆に途中から怒る人は理由があったから怒ったと解釈されて、それほど不快に思われないらしい。一方、交渉の途中で怒りから幸せな感情に変わる相手は、一貫して幸せな感情を示す相手よりも悪い印象を持たれる。
■交渉結果を有利にまとめたいのであれば、ただ怒ればいいわけではなく幸せな感じで接し始めて、途中で怒るのが得策となる。また、途中から怒る人は一貫して怒っている人よりも良い印象を持たれるので今後の関係性の観点からも望ましい。
■第二章「不幸せ(ネガティブ)な従業員ほど重要だ」まとめ
・仕事た正当に評価され、自分の感情が認識できる状態では、不安は創造性を向上させる
・認知能力が高い人は心配症であるほど管理職としてのパフォーマンスが良好
・力関係の強い人は怒ることで交渉が有利になる
・最初から怒っているよりも途中から怒り出す方がよい交渉結果を導ける
・途中で怒りだす方が一貫して怒っているよりも良い印象を持たれる
・怒ると一時的に創造的になる
・身体的接触を伴う競技のアスリートは怒りでパフォーマンスが向上する可能性がある
・暗記のような学習では怒っている先生に指導された学生の方が高い学習効果を示す
・ネガティブな気分の人は組織の存続が危ぶまれるとき協調的に行動する傾向がある
・ネガティブな気分の人は、ポジティブな気分の人より慎重に考える
■マインドフルネスとは直訳すると「心(マインド)が満ちていること(フルネス)」。わかりにくい概念だが、一般的には「価値判断をせずに一瞬一瞬に意識を向けること」と定義されている。キーワードは「現在」。目の前のことに集中していない状態である「マインド・ワンダリング」(心がさまよっている状態)の反対と考えればわかりやすい。
■マインドフルネスにはポジティブ心理学のようなほかの手法とは違う特徴がある。それは、価値判断をしないこと。悩みや苦しみは、良い・悪い・正しい・間違いという価値判断に起因するからだ。例えば、人はこうあるべきだと思っていると、そのように振る舞えない自分を不甲斐なく感じて、自分自身を責めてしまう。そのため、マインドフルネスでは悩みや苦しみといったネガティブな感情が沸いても、無理にそれを抑圧しない。心が反応するのは自然だし、感情に善悪や正誤はない。ありのままの現実を受け入れることでかなり気分が楽になる。ただし、悩みや苦しみなどの感情が解消されるわけではない。ただ、身の回りの出来事に過敏に反応しなくなり、以前よりも動揺しなくなる。すると悲観的に考えなくなる。
■第3章「マインドフルな従業員」まとめ
・ストレスが多い職場ではマインドフルな従業員ほど良い業績
・マインドフルネス瞑想により集中力が増加し、記憶力も向上
・マインドフルネスの訓練で仕事の満足度が増加し感情的消耗感が減少
・職場でのヨガやマインドフルネスの訓練で睡眠の質や自律神経のバランスが改善
・マインドフルネスの訓練はストレスからの回復力(レジリエンス)を向上
・マインドフルネス瞑想を含んだプログラムは燃え尽き症候群を改善する可能性がある
・ストレス管理プログラムによって医療費の請求が下がる可能性がある
・上司がマインドフルであれば部下の疲弊度は低く業務評価は高い傾向にある
■部署が成果を出すのは怒っていて強面の上司かそれとも幸せそうで元気な上司なのか。アムステルダム大学のファンクリーフらは実はどちらがよいかわからないとしている。効果的な接し方は部下たちの性格による。
彼らの研究によると協調性(若しくは調和性)の低い部下のグループでは怒っている上司の方が成果を発揮したのに対し協調性の高い部下のグループでは上司が幸せな感情を示した方が成果を発揮した。つまり、ケースバイケース。
■上司と部下の相性
協調性の高い部下には上司の幸せな感情がうまく作用し、逆に協調性が低い部下には上司の怒りの感情がうまく作用する。協調性の高い部下は他人に礼儀正しく接し、競争よりは協調を好む傾向があるため、上司にも自分を同様に扱ってくれるように期待する。また、幸せの感情は友好関係や社会的繋がりを促進するので、仲のいい関係を好む協調的な個人とは相性がよい。
一方、敵意や論争と関係する怒りの感情は協調的な人とは相性がよくない。社会の調和を重視する部下にとっては上司の怒りは受け入れがたい。部下の期待と上司の感情表現が一致しないと上司の怒りは成果をもたらさない。
協調性の低い人の場合も同様な理由だ。協調性の低い人は議論になることも多く論争になることを躊躇しない。また、怒りは敵意や論争と関係するので非調和とは矛盾しない。このため、部下が社会の調和を重視しないときには上司の怒りは許容範囲であり部下の期待と上司の感情表現が一致するため上司の怒りは成果と結びつく。
このほかにも仕事の負担の感じ方に違いがみられた。協調性の高いグループでは幸せそうな上司よりも怒った上司の下で働いた方が作業量が多いと感じていた。怒っている上司の下で働いた部下たちは、その相性の悪さゆえに仕事を負担に感じたのだろう。一方で協調性の低いグループでは怒っている上司と幸せな上司の間で部下が感じる仕事の負担感に差がなかった。
上司の在り方に関して、部下に優しく接するべきか、それとも厳しく接するべきか、どちらも間違っていない。上司と部下の相性が重要。グループのパフォーマンスへの影響は、上司の感情表現が部下によってどのように判断されるかにもよる。結局は相性。
■リーダーの情動表現と作業の性質について、リーダーが幸せな情動を示した場合には分析的な作業よりも創造的な作業において良好なパフォーマンスを示した。一方、リーダーが悲しむ情動を示した場合には創造的な作業よりも分析的な作業において良好なパフォーマンスが示された。また、リーダーが中立的な情動を示した場合には創造的な作業と分析的な作業の間でパフォーマンスの差はみられなかった。
■第4章「テレワーク時代の幸福な働き方」まとめ
・在宅勤務により従業員のパフォーマンスが向上。離職を抑制し、企業業績もアップ
・在宅勤務に向かない従業員の存在や、キャリア形成への悪影響といった懸念もある
・主観的なウェルビーイングは組織の業績と正の相関があるが、その程度は大きくない(若しくは主観的なウェルビーイングは組織の業績を決める一要因に過ぎない)
・協調性の低い部下のグループでは怒っている上司の方が成果を発揮
・悲し気な(幸せそうな)上司のもとでは部下の分析的な(創造的な)パフォーマンスが向上
・部下による上司の評価は、仕事の成果とは一致しない:幸せそうな上司の方が悲し気な上司よりも部下による評価が高い
・怒った(幸せな)リーダーの方が情報に基づいて理性的に判断する(感情的な反応をしやすい)グループのパフォーマンスが良好 -
感想
ブレーキも必要。ネガティブな人は物事をありのまま見つめている。彼らの意見は採用されづらい。しかし停滞期にこそ彼らは必要とされる。 -
従業員の幸せでポジティブであれば、会社の業績が上がるという考えについて検証している。
ネガティブな感情が仕事において有益な場合や、特定の条件下では、怒りで交渉を有利に進められたり、パフォーマンスが上がったり、必ずしもポジティブ=業績UPになる訳ではないことが、示されている。
マインドフルネスが有効な場合や、テレワークが向いている状況や従業員、リーダーは、ネガティブ、ポジティブである方がいいのかなど、様々な研究の方法や研究結果から読み取れることが紹介されている。
結局は時と場合によって違うということがわかった。
本文で引用されている研究について、研究の手法や結果や導き出される結論まで書かれており、読みにくく、結果だけ引用すればいいと思っていたが、筆者が、あとがきに、エビデンスを引用した文章ですら、その論文を読んでいるのか疑問に思うところがあったため、過程も言及したとのことで、なるほどと思わされた。 -
ネガティブな人も活かせることを説いた組織論。
ネガティブな人も存在価値があり、使いようによっては大いに生きる(無論リーダーとしても)というのが、ネガティブな自分にも多いに励まされた。 -
【書誌情報】
2021年12月17日発売
924円(税込)
新書判/240ページ
ISBN:978-4-08-721196-2
近年「従業員が幸せ(ポジティブ)になれば会社の業績が上がる」という言説が流布し、多くの企業が従業員の幸福度を上げようと躍起になっている。
しかし幸せ(ポジティブ)になることで成果や業績が上がる人や条件はごくわずか。
むしろ従業員の性格に合わせた働きかた、職場環境、指導が重要なのである。
実験を通して人間の幸せを数値化する「幸福研究」を専門とする著者が、最新の研究から個人の性格に合わせた組織作りや働きかたのヒントを提示する。
〈https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-721196-2〉
【目次】
はじめに
第一章 幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるのか
第二章 不幸せ(ネガティブ)な従業員こそ重要だ
第三章 マインドフルな従業員
第四章 テレワーク時代の幸福な働きかた
第五章 幸福研究に基づいた幸せな働きかた
おわりに
【著者略歴】
友原章典(ともはら あきのり)
青山学院大学政治経済学部教授。
2002年ジョンズ・ホプキンス大学大学院よりPh.D.(経済学)取得。米州開発銀行、世界銀行コンサルタントを経験。ニューヨーク市立大学大学院助教授、ピッツバーグ大学大学院客員助教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営大学院エコノミストなどを経て現職。
著書に『実践 幸福学』(NHK出版新書)、『移民の経済学』(中公新書)など。