大人は泣かないと思っていた (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087442342

感想・レビュー・書評

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  • ああ、こういうものから逃げ出したくて地元を出たんだったな…と自分の感情の立ち位置を再確認しました。でも自分は結局、似た環境に嫁ぎ、これまた似た環境の土地に住んでしまい、今洗濯機の中の渦に飲み込まれたような生活をしています。
    翼くんとレモンちゃんのように渦中にあっても揺るがない信念を大事にしたいと思える、素敵な作品です。

  • 「少し上の世代の頃までは共有されていた」と思っていた価値観が現代でもまだこんなに強く残っている場所もあるのかということにまずびっくりした。
    そんな狭い世間でしがらみにしばられながらも、自分らしく生きようと葛藤する彼らの姿をすごく清々しく素敵に思いながら読んだ。
    寺地さんの作品、やっぱりかなり好きだ。

  • 主人公時田翼の日常は静かに淡々と過ぎて行くようで実は…。誠実だからこそ周りの人からの印象が薄かったが、読み進めて行く内に時田翼でいいか…から時田翼がいい!に私の中でも変わって行った。
    私も時田翼のように温厚で芯がブレる事なく周りの人と上手く関わりながら生きて行けたらいいなと思った。

  • 物分かりが良すぎて、物事達観しすぎな時田さん。それから直情型で周りに流されないはっきりした物言いの小柳さん。二人から始まって、ぐるぐる周りの人も関わりながら、みんな幸せに変わりつつある。
    齢◯十年重ねた人間が急に変わるなんてファンタジーもいいとこだけど、時にはそんな可能性を秘めた夢だって見たくなる。

  • みんな過去を受け入れながら、色々な選択をして、今を生きているんだな。

    未来のことを考えすぎて今を大切にできない私と登場人物が重なった。だけど、レモンちゃんや千夜子さんのように自分の意志をもって少しでも現状をより良いものに変えようと行動を起こす姿を見て憧れの気持ちを抱いた。

    人からどう思われるかじゃなくて、自分がどうしたいかで行動していけばきっと明日はもっといい日になる。

    寺地さんの誰の生き方も否定せずに、ふわっと優しく受け止めてくれるような文体がとても好きなのでまた他の作品も読んでいきたい。

  • 寺地はるなさんの作品のあたたかいところは、
    すくい上げてくれるところ。

    人と違うところもなんてことなく受け入れてくれるし、けっして否定しない。
    そこに救われる。

    子どもの頃、大人はもっと大人だと思っていた。
    正しく間違わず、どんなことも、きちんとできる。
    自分も大人になったらそうなるんだと思っていた。
    だけど、いつまで経っても自分が思い描いていた大人に全然なれない。

    ふと思い出したのは、祖母に先立たれた祖父の姿だ。
    膝を抱えて、しょんぼりと床に座っていた。
    どこへ行ったらいいのかもわからない
    迷子の子どもみたいだった。
    あんなに小さな祖父は見たことがない。
    私のおじいちゃんが「おじいちゃん」という枠から外れた唯一の瞬間だった。
    私には、おじいちゃんが泣くなんて考えすらなくて。
    でも、正しかった。まっすぐに。
    愛する人を失ったひとりの人間として。
    だって人間なんだもん、みんな。
    完璧じゃないし、間違ったり、
    躓いたり、泣いたりする。
    完璧である必要なんてないんだ。
    私たちは寄り添いあったり、支えあったり、
    手を取りあって生きていけるんだから。
    すべての人が完璧だったら、誰も何も要らない。
    欠けを補い合って生きていく。
    それができるって素敵だなと思う。
    寄り添えるこの世界が素敵。

    様々な状況下の人たちが物語には登場するけれど、
    その誰もが責めることなく、
    ほのかな希望をもたらしている。
    そういうところが、あたたかくて優しい。
    どんな自分も受け止めてくれている。
    大人だって泣いてもいいんだよ。
    大丈夫、誰だってそんなに強くないし、
    強くなくたっていいんだよ、って許してくれる。
    そっと微笑んで、照らしていてくれている。
    そこに、救われる。

    • refrain∮さん
      ユウダイさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。私のコメントを気に留めていただき嬉しいです。こうやって言葉をかけてもらえて、褒め...
      ユウダイさん、はじめまして。
      コメントありがとうございます。私のコメントを気に留めていただき嬉しいです。こうやって言葉をかけてもらえて、褒めてもらえたこと、光栄です。優しい方なのですね、きっと。
      寺地はるなさんの作品は、全作品読むほど好きなので、興味がありましたら是非読んでみてほしいです。ちょうど、もうすぐ代表作の『水を縫う』が文庫化になる予定ですので、よろしければ是非♪
      今後ともどうぞよろしくお願いいたします♪
      2023/05/10
    • ユウダイさん
      refrain∮さん、ご返信くださりありがとうございます。またオススメもお教え頂き、重ねて御礼申し上げます。全作品読んでいらっしゃるんですね...
      refrain∮さん、ご返信くださりありがとうございます。またオススメもお教え頂き、重ねて御礼申し上げます。全作品読んでいらっしゃるんですね。それはすごい!
      全作品読まれた上でのオススメなので、とても良い作品なのでしょうね。承知しました。
      では「水を縫う」が文庫化になれば、読ませていただきます。
      今後とも何卒よろしくお願いします。
      2023/05/10
    • refrain∮さん
      ユウダイさん、オススメを読んでくださるとのこと、嬉しいです。なにか心にとまる読書時間でありますように。ブクログ内ではさほど交流もなく、ぼんや...
      ユウダイさん、オススメを読んでくださるとのこと、嬉しいです。なにか心にとまる読書時間でありますように。ブクログ内ではさほど交流もなく、ぼんやり佇んでいるので、ユウダイさんとお話できて心がほぐれました。ありがとうございます。
      2023/05/10
  • はぁー!めちゃめちゃ良い!
    男らしく女らしく男のくせに女のくせに…それっておかしくない?
    昨今の風潮を軸に描かれる連作集。

    田舎の街を舞台に、ナヨナヨした女っぽい男の人や仕事がばりばりできる自分の意見を言う女の人、男なんだからを振りかざすおじさんなんかも出てきます。

    最近のこの流れは全体的にはとても素敵な流れだと思う。
    男に…女に…縛られるなんてもったいない。それ以前の個人を大事にする。
    ただそれを(どっちの立場でも)声高に叫び相手に押し付け押し切ってしまうのは違うと思うんだよなぁ。
    もちろん主張は大事だし議論を戦わせるのは大事。
    そういう点で、本書はさり気なくそっと隣にそういうことを寄り添わせてくれる。そんな存在でした。

    何より素晴らしいのが、女のくせに!男のくせに!な方を主人公にした短編が出てくるところ。
    解説の言葉を借りるならばとてもフェアだなぁって。
    すごくじんわりきた一節があって、妻に飲酒を禁じた理由、
    〈それは妻を守るためでもあった。だって女は弱いのだ。おれの助けのおよばぬところで飲まされたら、なにをされるかわかったものじゃない。〉
    この一編はこの一節にすべてが詰まってる。唸らされました。
    (もちろんそうでない人もいるだろうけど)
    (どんな理由であれ男だからってふんぞり返ってる人を擁護する気もないけど)
    (同じように女だから許されるでしょって胸張ってる人も擁護する気はないよ)

    でもこれからの時代、時田翼くんのような人たちがスタンダードになっていくのだから外套を脱げないのは分かるけど、脱いでみようかなと考えるだけでも大事だよね。そして脱ぐ手伝いをしてくれる人がいることを理解するのも大事。

    ちなみにそこがテーマの短編ばかりでなく、人との別れ方、未来の背負い方なんて部分にも触れられていて。
    本当にそっと背中を押してもらえるような、とても素敵な作品でした。

    この作家さん、追いかけてみたいかも!



    @手持ち本

  • いつも寺地はるなさんの本を読み終えた時感じるのは、
    個性的な登場人物の皆さんが素敵で温かく
    お互いを尊重しながら、歩み寄り
    支え合って成長していく姿です。

    今回も時田翼くんを中心に織りなす素敵なメンバーが、お互いの心の傷にも、向き合いながら
    思いやりを持って一歩一歩歩き出し素敵に成長していくお話が連作短編になっています。


  • 作中にある 十代でできちゃった婚 ダッシュボードに白いふわふわを敷いて 黒のワンボックスカーに……
    寺地先生のちょっと毒のある偏見がクセになりそうです。

    そんな 毒を吐くキャラクターも作者の軽快な文章で 嫌みなどなく むしろ軽快に感じます。

    男なら女ゎ母親なら…など【こぅあるべきだ!】っと 言う それこそ 古めかしい「偏見」を登場人物を通じて みんな不器用で生きづらい、だけど……お互いを思い合い 明日へ進んで行く。

    重厚なテーマを軽快に明るく爽やかに昇華挿せてくれる 寺地先生は「さすが!」の一言に尽きます。

  • 大人も泣くんよ。
    大人だから〜親だから〜とがんじがらめになって
    泣けないことも多いけれど
    溢れるように泣きたい時がある。

    初めて読む作家さん。
    良かった〜。日頃はミステリ寄りの私だけど
    やはりホッとひと息つけるような本もいい。
    「水を縫う」の作者さんだったのか。
    タイトルだけ知っていたけれど
    今度手に取って読んでみよう。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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