大人は泣かないと思っていた (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087442342

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった。既存の役割にとらわれない人物を描いていたり、今らしい要素のある作品でありつつ、ストーリーに今の気持ちとリンクしてしみじみしてしまった。
    とある章でスカッとすると思っても、よく考えれば奥深くどうにもならないことが隠れているのだと後で気づいてハッとさせられる。
    納得できないことに対して頷くでもなく抱えていくということって確かにあるなと思わされた作品。

  • 閉鎖的な田舎で暮らす人達、それぞれのストーリー。時田翼から始まり、リレー形式のように主人公が変わっていく中で、田舎ならではの男尊女卑、しつこい噂話、自分自身も地方の出身なので田舎にいた頃を思い出しました。『男はこう、女とはこうあるべきだ」なんて周りの大人達に言われていて窮屈だったけれど、言っている大人達こそあるべき男性像、女性像にに縛られて苦しんでいたのかもしれない・・・。鬱々とした記憶もこの本を読むとそう思えた。男である前に、女である前に、親である前に、子である前に、自分は1人の人間であり、まずその自分を生きることが大切なんだな。

  • 寺地はるな作品3作目。
    男は、女は、こうあるべき、とか、固定観念に対して本当にそう?と問いかけてくるような内容が毎作品盛り込まれています。
    今回も。

    固定観念が、全て悪いわけではない。と思う。
    それを正しいと信じ、一生懸命に守り続けた人もいるんだろう。
    その考えは古いよって、無碍にするのも、違うような気もする。
    結局は、自分が望むように行動するしかないのだろうな。誰かがこう言うから、みんながしてるから、じゃなくて。後悔しないために。

    私は純愛を求めてないのかな。
    翼とレモンの恋愛パートがいらなくて…笑
    とはいえ、レモンちゃん大好き。
    レモンちゃんのように素直になりたい。
    そして相手のことを思って行動できる子
    、憧れだ。なりたい!
    これに対して、翼のことは、よくわからなかった。
    どんな人なのか。
    弱いようで、強いようで。


    細かなところで好きなところは、途中、ファミリーレストランに対する表現が好きだった。
    私が大好きな他作品と似ていたから。

  • 狭い世界で生きることの苦しみ、すごくよくわかる。

    一方で、都会だろうと田舎だろうと、どこのコミュニティ、どこの世界に行っても、噂話で暇つぶしするひとは いなくならないんだよなって
    翼の生き方で改めて気付かされた。
    確かにそうだよなぁって。

    お酌警察私の会社にもいるなぁ笑

  • 大人は泣かないと思ってた…きっと自分で勝手に決めつけて思い込んでいることはたくさんあると思う。
    読み終わって心がほっこりしたし、自分の考えを改めようとも思った。いい本に出会えた。

  • 大人になる事が怖いから、なりたくないから、大人という言葉にひかれ手に取った。
    この本に出てくる女の人は全員かっこ良くて、私がなりたいものそのものだった。だけど、その分失うものや、考え方が悲しくもあるもので、私も同じ事を感じるのかと思うと、少し読みにくかった。
    この本に出てくる人達はちゃんと自分の軸を持っていて憧れた。言いたいことを言わないのも、認めたくても認めれない事も、言いたいことを言うことも、全て、行動も思考も全てが大人だった。きっとそうなんだと思う。何かを我慢することは、何かを守る事で、何かを失うことなんだと思う。だから私はやっぱり大人になりたくないなぁと思った。

  • どれも読んだ後に暖かくなる話で、特に鉄腕のお父さんの話に惹かれました。最近の価値観とか考え方に戸惑う大人は多いんだろうなって、読んだあともっと人に優しくしたいなって思える本でした。

  • 何かいい本はないかなと探してる中で、目に入りタイトルにハート射抜かれました。
    『大人は泣かないと思っていた』その一文から広がる想像といったら。想像できる景色や背景があるけれどどんな風に描かれているのだろうか、知りたい、と思い読みたくなる。名タイトルと思いました。

    舞台は同じだけど、章ごとに視点となる話の主人公が入れ替わる形式。これ、好きです。
    いろんな角度から、その本の世界を楽しむことができるから。

    最近書かれた本なだけあり、単純な人間ドラマという感じでおさまっておらず、現代の鬱憤や爽快感が散りばめられていて新鮮味がありました。
    フィクションもこんな空気感となる時代なのか!と。
    性別の役割や家父長制に囚われない一面もありながら、そういったものの表面をなぞるだけではなく、一人ひとりの登場人物が、相手や周りの人を一人の人として尊重して接しようとしてることが文章から伝わるので丁寧で好感が持てました。

    ジェンダーギャップって…日本はかなり遅れてて…フェミニズムが…と本質の理解に追いつく前に騒がれていることの側面だけで何故かバトって論破して言い負かそうとする不健全な言い争いは不毛に思える時もあります。
    単語や説明を教科書的に覚えるより、人ひとりを尊重する心が浸透していけば理解により繋がりそうと思います。
    この本を読むことでその空気感を感じ取り、今までに自分にない、もしくは言語化されていなかった考え方を知ることできっかけとなり理解が進むかもしれない。
    上質なフィクションと思いました。

  •  久しぶりに本当に良い本に出会えた。

     本作は登場人物それぞれを中心とした短編集となっている。この本の題名にもなっている「大人は泣かないと思っていた」は一つ目の短編のタイトルとなっている。

     どの短編のタイトルも素敵で、特に六話目の「俺は外套を脱げない」というタイトルがお気に入りだ。

     この本の魅力はやはり登場人物の心情が丁寧に描写されているところだろう。特に「妥当じゃない」という短編では、きみ(貴美恵)の心情の変化や2人の女性の等身大の友情が美しくもリアルに描かれている。

     世の中の価値観に苦しんでいる人は多いだろう。

     私自身、最初は世の中の価値観と同じく、翼の境遇を惨めに思っていた。でも、違った。幸せかどうかは自分自身で決めるしかないのだ。

     いつのまにか泣けなくなってしまった人に贈る、心あたたまる珠玉の短編集。

  • 大事件は起こらない、人の悪意が露悪的に描かれない、日常が描かれた、こんな本が好き。
    語り手が次々と変わっていくオムニバス方式は、その行動や言動が、どうしてなされたのかの裏がわかるのがおもしろい。最初の『大人は泣かないと思っていた』が一番好き。
    終わり方も、余韻があっていい。
    「たき」って誰? って思うけど、それも含みでいい。
    奥さんの名前だったなんて安直な結論じゃなくてよかった。

    p39
    子どもの頃、大人は泣かないと思っていた。そんなふうに思えるほど、子どもだった。

    p71
    家族って、僕は、会社みたいなもんだと思う。

    会社って、ひとつの目的のために、いろんな人が集まるでしょ。みんなでそのひとつの目的を達成るするために、力を合わせるでしょ。
    ~血が繋がってたってさ、他人だよ。~気が合わないやつも、虫が好かないやつもいっぱいいるけど、協力しなきゃいけない。仕事だからさ。

    p122
    (10年前に家を出た母が一人暮らしをしながら)
    両手を合わせてから、箸を取る。正座をして、背筋を伸ばして食べる。ひとつでもいい加減な習慣を自分に許したら、きっとどんどんだらしなくなっていく。わたしはだらしない生活をしながら強靭な精神を養えるほど人間ができてはいないのだ。

    p136
    (花を摘まない息子の翼を前に)
    摘まれた花は、摘まれない花よりはやく枯れる。だから翼は花を摘まない。でも、わたしは花を摘む。摘まれた花はだって、咲いた花とは違うところに行ける。違う景色を見ることができる。たとえ命が短くても。


    「お母さんはもう振り返らずに生きていけばいいよ」という息子の言葉に、著者はこう書く。

    p135
    昔のことにたいして罪悪感を抱えるんじゃなくて、そうしてまで選び取ったものを大切にして生きてくれるほうがいい、そのほうがずっといい、と。
    きっぱりとした決別の言葉だと思った。

    ええー? 決別なの?
    その疑問に対する答えが、母親の広海と会社を共同経営する千夜子の言葉。
    p148
    「いろんな人を傷つけもしたし、迷惑をかけたもの。でも過去があっての、今のあたし。だからどうせ頭をつかうなら、あの時こうしてたらどうなったかな、なてことじゃなくて、今いるこの場所をどうやったらもっと楽しくするか、ってことを考えたいのよね」

    昔のことにたいして罪悪感を抱えるんじゃなくて、そうしてまで選びとったものを大切にして生きてくれるほうがいい、そのほうがずっといい。
    あれは決別の言葉ではなかった。翼からのプレゼントだ。これまでのわたしと、これからのわたしへの。

    p251
    (入院した父の病院で、翼はかつての恋人と再会する)
    恋人だったひとは「いつまでも仲よく、一緒に暮らしました」を選べなかった関係が、すべて無意味かというと、そんなことは絶対にないのだと言った。

    p260
    (死期を悟った父が翼に、どうせ死ぬんだから。~生きていても、もうなんの役にも立たないんだし、だったらはやく死んだほうがいい。と言うのに) 

    「やめろ。役に立たないからなんだよ。それがなんだよ。役に立つために生きてるわけじゃないだろ。他人のために生きてるわけじゃないだろ。どうせ死ぬんだからなんだよ」

    p267
    自分の知らないところで、いろんなひとたちに心配されたり世話を焼かれたりしているのだと思い知った。「誰にも頼っちゃいけない」なんて、たいした思い上がりだったということも。

    p268
    去年の今と比べても、いろんなことが変わった。だからほんとうにわからないけど、でも遠くばかり観ないように、と今は思う。遠くを見過ぎて、目の前にあることをないがしろにしないように。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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