金木犀とメテオラ (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.75
  • (31)
  • (82)
  • (49)
  • (8)
  • (3)
本棚登録 : 840
感想 : 67
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087443516

作品紹介・あらすじ

孤独で辛くて怖いのは、この世で自分だけだと思っていた。

東京生まれの秀才・佳乃と、完璧な笑顔を持つ美少女・叶。
北海道の中高一貫の女子校を舞台に、やりきれない思春期の焦燥や少女たちの成長を描く、渾身の書き下ろし青春長編。

北海道に新設されたばかりの中高一貫の女子校・築山学園。進学校として全国から一期生を募り、東京生まれの宮田佳乃は東京からトップの成績で入学した。同じクラスには地元生まれの成績優秀者・奥沢叶がいた。奥沢はパッと目を引く美少女で、そつのない優等生。宮田はその笑顔の裏に隠された強烈なプライドを、初対面のときからかぎ取っていたーー。

装画イラストレーション/志村貴子(描き下ろし)

【著者略歴】
安壇 美緒(あだん みお)
1986年北海道生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2017年、『天龍院亜希子の日記』で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。本作は2作目の著書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • あなたには、『絶対に、奥沢に首位は取らせない』、『成績だけはこの人には負けられない』と意識し合ったクラスメイトがいたでしょうか?

    誰もが辿る青春の道、誰もが迷う青春の森、そして誰もが見る青春の光と影。私たちは誰もが青春時代を過ごして大人になります。あの青春時代があったから、今の自分がいる、そんな強い想いがある人も、そうでない人もいるでしょう。しかし、誰もが辿る道だからこそ、そこには今に続く自分自身の何かしらの起点があったのだと思います。

    そんな青春に、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?どんな光景がそこに思い浮かぶでしょうか?汗を流した部活動の日々、親には内緒の友達との逃避行、そして心の奥底に秘めた先生への想いなどなど、人によって何に青春の時間をかけたかは異なります。しかし、共通するのは、それが人生の中でもかけかえのない時間だったということ。二度と戻ることのできない大切な瞬間の連続だったということです。

    さて、ここに北海道にある『中高一貫の女子校』を舞台にした物語があります。地元だけでなく東京からも新入生を広く受け入れてきたその女子校。この作品はそんな女子校に一期生として入学した生徒たちを描く物語。そんな中に『東大一直線ツートップ』として意識し合う二人の女子の物語。そしてそれは、そんな生徒たちが青春の煌めきの中にそんな時代を駆け抜けていく様を見る物語です。

    『この度、めでたく築山学園の一期生となりました皆さんにふさわしい、晴天に恵まれましたことを…』と語る壇上の来賓挨拶を『射るような目で』『睨みつけ』るのは主人公の一人、宮田佳乃(みやた よしの)。『来賓挨拶のあとには、入学生代表挨拶がある』、『それは普通、入試成績一位の者が任されるものではなかったか?』と思う宮田は『突然、自分の名前が呼ばれるという奇跡を』願います。しかし、『入学生代表挨拶。一年一組、奥沢叶(おくさわ かなえ)』という司会の言葉の後、『奥沢叶が壇上に上がった瞬間、宮田の妄想はかき消え』ます。『群を抜いて見目がよかった』という奥沢は『桜を待つ、北国の春が訪れた今日この日』と式辞を読みます。『たしかにこいつが入学生総代だったのだろう』と確信する宮田の耳に『あの子、すっごい可愛いね』、『めっちゃ頭よさそ~』と隣の生徒の声が聞こえます。『とんでもないところに来た』と思う宮田は『自分をこんなところに追いやった父親を改めて恨』みます。去年の梅雨のある日、『知らない私学のパンフレット』をテーブルの上に見つけた宮田は、『私立築山学園中学高等学校、と書かれた冊子』を『どこか噓くさく安っぽい』と感じます。嫌な予感がする中、リビングに現れた父親は『来年、北海道に出来るんだってさ。中高一貫で、寮もあるって』と話します。それに反発する宮田に『毎日毎日、疲れて帰宅しておまえのヒスに付き合うのも限界なんだわ』、『お父さんはもう決めたから』と言うと仕事に出掛けてしまいました。『離れたいのはこちらとて一緒だ。しかし、今更どことも知れない田舎の新設校に行くなんてあり得ない』と思う宮田。そして、入学式の後、『委員会と係、何やる?』と、入学式の時に話しかけてきた森みなみと話す宮田は、『学級委員の奥沢さんと北野さん。早速ですが、進行よろしく』と担任が言うのを聞きます。『奥沢叶はその圧倒的な存在感で、優等生の座に落ち着いてしまった』と奥沢を見る宮田。そんな宮田は『ここにいるのは中学受験に敗れた落ちこぼれと、何も知らない田舎の子どもと、あるいはわざわざここを選んだ変人のどれかなのだ』とクラスメイトのことを思います。『どうして自分がこんなところにいるのだろう』と思う一方で、『だけど自分はここですら一番を取れなかったのだ』とも思う宮田は、『東京大学に行きたい』、『東京へは絶対に戻る』と思いつつ『窓の外の白く澱んだ景色を』睨み続けます。場面は変わり、『寮の半地下にあるレク室』で、宮田の耳に耳慣れない言葉が入ってきました。『特待生って馨と奥沢さんの二人だけなの?』と『特待生』についての会話を聞いた宮田は『入試の上位二名が、奥沢叶と北野馨?』、『自分が二位にも食い込んでいないことはあり得ない』と思い、翌日、『まだひと気のない時間帯に登校』し職員室へと向かいました。そして、そこにいた担任の落合に『入試の結果について知りたいんですけど』と話しかけ『自分の点数と順位が知りたいんですけど』と詰め寄ります。そんな宮田と、『入学生代表挨拶』をした奥沢叶。北海道に新設されたばかりの『中高一貫の女子校』を舞台にした二人の青春を描く物語が始まりました。

    “北海道の中高一貫の女子校を舞台に、ままならない思春期の焦燥や少女たちの成長を描く、書き下ろし青春長編”と内容紹介にうたわれるこの作品。安壇美緒さんの二作目の長編小説として2020年に刊行されています。”青春長編”という言葉だけで遠い目をしてしまうさてさてですが(笑)、流石に自身が経験したことのない女子校が舞台ということで、そんなには惹かれないかな?とも思いました、しかし、駄目でした。ああ、青春だよ、これ、という読後感に浸ってしまった私。しかし、そんな余韻にも十分浸り終わりましたので、レビューを始めたいと思います(笑)。

    この作品の舞台は、『私立築山学園中学高等学校』という北海道南斗市(もちろん架空)に新設された『中高一貫の女子校』が舞台となります。『北海道内外から広く生徒を募っている』ことから地元以外、東京からも寮生活前提で入学者がやってきます。そんな北海道という地には同じ日本でも違った景色が思い浮かびます。では、まずはそんな北海道らしい表現を追ってみたいと思います。

    ・『正方形の格子窓の向こうには、大きな山が聳えていた。人の手で作られた築山地区とは違う、本物の山だ。その山の上は、まだ雪に白んでいる』。
    → 入学式直後という季節の教室からの景色の描写がこれです。四月に雪の描写が許される北海道ならではの、かつ、この表現だけで広大な大地が目に浮かぶ絶妙な表現です。

    ・『湿度のない乾いた風が、白樺の木々の間を吹き抜けていた』。
    → 『乾いた風』とはよく使われる言葉ですが、そこに『湿度のない』という言葉をさらに重ねて修飾するところが強い印象を残します。『白樺の木々の間を吹き抜ける』…絵になりますね。

    ・『熟れた柿のような夕陽が、向こうの山へ落ちていく』。
    → これも凄い表現です。『熟れた柿のような夕陽』、海に沈む夕陽の表現ではなく、ビルの間に沈んでいく夕陽とも違う、大自然、まさに北海道に沈む夕陽ならではの表現だと思います。

    これらの表現は、そんな風に目の前の景色を見る登場人物の心の中を表しているとも言えます。デビュー作「天龍院亜希子の日記」では数々の比喩表現で魅せてくださった安壇さんですが、この作品では舞台を北海道にした意味を存分に感じさせてくださっていると思います。

    そんな物語は、作品冒頭に主要登場人物9人の簡単な紹介がなされています。この作品のように冒頭に人物紹介がなされる作品というと、恩田陸さん「ドミノ」、「ドミノ in 上海」のように大量の人物が圧倒的分量の物語の中に登場する作品で例があります。この作品は文庫本384ページとそこまで分量は多くなく、登場人物も少なくわざわざ人物紹介が設けられているのが不思議な気もします。しかし、物語を読む前に一通り目を通すことで見晴らしは確かによくなります。では、そんな紹介の中から主人公となる二人の女子生徒の記述を抜き出してみましょう。せっかくですので、ここに記述されていない点を”+”で補足します。

    ・『宮田佳乃 全国コンクールで入賞するピアノの腕前を持ち、成績優秀でプライドが高い。東京出身だが、父との折り合いが悪く、北海道に新設された築山学園中学校の寮に入ることに』。
    + 『宮田先輩は背ぇ高くて暗いからカッコいい』
    + 『東京大学に行きたい』と願い、『東京へは絶対に戻る』と強く決意している

    ・『奥沢叶 容姿端麗で人当たりがよく、誰からも一目置かれる優等生。築山学園中学校の入学式で、新入生総代を務める。地元生まれで、母と二人で暮らしている』。
    + 『絵を描くのが好き』
    + 『この家を出て進学をして就職をして、今ここにあるすべてを捨てて、何の事情もない何の問題もない、純粋な女の子になるんだ』と強く願う

    この記述から分かるように、宮田と奥沢という二人の生徒は全く異なる属性を持つ人物として位置付けられていることが分かります。物語ではそんな二人の唯一の共通点である『学力』でお互いを強く意識する様が描かれていきます。この作品は、

    ・〈宮田美乃 十二歳の春〉→ 宮田視点

    ・〈奥沢叶 十二歳の夏〉→ 奥沢視点

    ・〈宮田と奥沢 十七歳の秋〉→ 宮田と奥沢の視点が順次切り替わる

    という三つの章から構成されています。そんな物語の中で、『全員、東大コースみたいな塾』と説明される『六啓館』に通っていた宮田にとって『北海道の僻地の無名校に行くこと』は、『人生から降りたと思われ』るほどのことでした。そんなまさかの進学先で、『入学生総代』になれなかった屈辱。物語は、その先に『絶対に、奥沢に首位は取らせない』、『次は必ず、奥沢に勝たなければならない』と奥沢のことを強く意識していく姿が描かれていきます。それは、『成績優秀でプライドが高い』という人物紹介に浮かび上がる宮田のイメージそのものです。一方の奥沢は『母と二人で暮らしている』という説明の中に人知れず悩みを抱えています。『奥沢は家のあれこれを、誰にも言ったことがない』というその内情の先に『成績だけはこの人には負けられない』、『ライバルなんて、爽やかに言わないでほしい。これは戦争だ』と宮田のことを強く意識していきます。しかし、宮田の原動力とは異なり、その思いは『持てる能力のすべてを使って、この人生から脱け出してやる』という、全く違うところから湧き上がっていることがわかります。このパワーの源の違いが物語を格段に面白くしていきます。読者は視点の切り替えによって双方のパワーの源の違いをはっきり意識した上での読書となる一方で、当人同士にはそれが見えません。これは、そんな青春を駆け抜けてきた者全てに言えることです。人は他人の人生の裏にあるものは決して見えません。あくまで目に映る相手の姿をもってそんな相手を理解していきます。そして、そんな意識の度合いにおいて青春時代、特に中学から高校という多感な時代はその感覚が非常に繊細です。この作品では、前半二章を中高一貫校入学直後の二人それぞれの視点で見せ、後半一章では卒業を翌年度に控え、その先の進路で悩むことになる高校二年の秋という絶妙な時間設定の上で前半から四年が経った二人の姿を描いていきます。安壇さんはそこに彼女たちは新設校の一期生であるという設定を入れています。つまり、前半では誰も上級生のいない環境でゼロから学校を作り上げていく絵を描き、後半では下級生が入ってきて先輩となった彼女たちの姿が描かれるという背景が上手く物語進行に取り入れられているのです。そして、そこに描かれるのは、女子校ならではの雰囲気感。そんな物語にはこんな一文が差し込まれるシーンも登場します。

    『逸る心臓を押さえながら、初恋の輪郭へひた向きな想いを投げる』。

    『初恋の輪郭』というたまらない表現の先にある感情までをも描いていくこの作品。そんな物語は、最終章で『合唱コンクール』という舞台を彼女たちに用意します。学園を舞台にする作品で『合唱コンクール』は感動直結間違いなしの強力な武器です。私が読んだ作品では宮下奈都さん「よろこびの歌」、「終わらない歌」の圧倒的な感動の物語は思い出すだけでも胸が熱くなります。そして、この作品の『合唱コンクール』もそんな青春の舞台の結末には間違いのない感動を届けてくれます。

    『孤独で辛くて怖いのは、この世で自分だけだと思っていた』

    そんな日々の先に、

    『人が思うよりもずっと、この世で奇跡は起きるから』

    そんな言葉の意味を深く思う二人の物語。その先にも確かな人生が続いていくことを強く感じさせる二人の物語。嗚呼、これぞ青春!そんな思いの中に本を置きました。

    『とんでもないところに来た、と宮田は思った。そして、自分をこんなところに追いやった父親を改めて恨んだ』。

    『理想的な学校生活を手に入れることが出来た奥沢は、それに満足すると同時に、時々激しい嫉妬にも駆られた。宮田のような、本物を目の当たりにする度に』。

    それぞれの想いの先に新設の『中高一貫校の女子校』での日々を送る宮田と奥沢。この作品では、”学園もの”ならではの魅力たっぷりに二人の青春の光と影が鮮やかに描かれていました。安壇さんらしく、登場人物たちのリアルな会話の場面が多数登場するこの作品。舞台となる北海道の魅力満載に描かれてもいくこの作品。

    それぞれが抱える悩み、苦しみに真正面から向き合う宮田と奥沢。そんな二人の細やかな心の動きの描写の先に、青春物語らしい十代の少女たちの輝きを見た、そんな作品でした。

  • うちのマンションの前にも金木犀が植えられており、その香りがする時期になれば季節の移ろいを感じるところ。
    この辺では結構あちこちで目にするのだが、北限が東北南部あたりで北海道には自生しないということは初めて知った。

    北海道に新設されたばかりの中高一貫の女子校に入学することになった東京出身の宮田佳乃と地元育ちの奥沢叶。
    成績も容姿もピアノや絵画の才能も、傍目からは何もかも持っていると思われているツートップ。
    だけども二人にはそれぞれ周囲には知られたくない心の傷や秘密があって…、その葛藤が二人の視点で描かれるお話。

    地の文でそれぞれが「宮田」「奥沢」と苗字で呼ばれるところが新鮮。
    二人の少女のキャラクターに惹かれながら面白く読んだが、二人も周りの子もお行儀が良い子ばかりでちょっと物足りなさはあり。
    どちらかと言えば、12歳のパートのほうが良かったが、今の12歳ってみんなあんなに大人びた感じなんだろうか。私の感覚では彼女らは中1の女の子には思えずに読んでました。

  • 本書の中の一文「人が思うよりずっと、この世界で奇跡は起きている。」

    たしかに私にも「奇跡」は起きた。

    いい本に出会えた事。
    しかしそれだけでは奇跡は起きない。読了までの心理状態、環境、季節、大袈裟に言えば社会情勢も含めてさまざまな条件が上手くかみ合った時、私にとって「それ」が起きます。
    ごく稀にこういった感じになるから読書はやめられない。

  • 東京で中学受験をするはずだった宮田が、父の一存で北海道の中高一貫校へと変更させられる。
    六啓館という女子校で、彼女は入学早々に屈辱を味わうことになる。
    入試トップだと思っていたのに、代表として選ばれたのは奥沢叶という、地元の女の子だった。

    宮田と叶の視点で描かれるこの作品に、キラキラという擬音は、似合わない気がする(笑)
    テスト、才能、東大、東京と北海道の溝……。
    家庭に満たされない二人にとっては、生きるために、自身を成り立たせるために、勉強が出来ること、そのステージで一番を獲ることに、半狂乱的な情熱を注いでいる。

    けれど、二人が親という存在に嫌悪を抱く、その感覚。
    友人とすれ違ってしまった、微妙なその空気。
    そういう細かいシーンの描写に、惹き込まれるものがあって、面白かった。

  • 青春小説は、登場人物達に「幸せになってほしい」と思えたら良い小説だと思う。

    作者の安壇美緒は、語り口は優しいのに中々辛辣で、主人公2人に輝かしい未来が約束されるような終わり方はしなかった。
    どちらも高学歴を得ることによって現状脱出を目論んでいる。プランBの用意などない。
    極端なガリ勉で好成績を保ってきた宮田の成績はもう頭打ちのように見える。母親の愛人が色目を使ってくる奥沢の家庭は崩壊寸前にも見え、大学受験すら危うい。
    今回は、高2の秋に少し呼吸ができた程度のことだ。受験まであと1年ちょっと。このまま目標に突き進むのか、それとも新たな目標を見出すのか?
    最近の学校はやたらと将来の夢とか目標とか言うけど、こういった、追い詰められた子にこそ目標って必要なんだなと感じた。

    読み終わった後に改めてカバーイラストを確認した。先頭を走っているのは宮田だろうか、続いているのは奥沢。でも2番手の方が背が高いから、こっちが宮田かな。後ろでこけそうになってるのはみなみだな。この子達が好きだ。「幸せになってほしい」と思う。

  • よく、若い頃に戻りたい、なんて話を聞くけど、私は嫌だね。あの、心と身体のアンバランスを持て余す日々。学校での振る舞いをひと言を計算する日々。ヒリヒリするような敗北感や後悔や嫉妬を隠して笑う日々。もう、あんな日々は嫌だと思う。けど、この小説を読むと、あの頃にだけ見えたキラキラがあったなあ、と思い出すことができた。やっぱり、ちょっと戻りたいかも。

  • 安壇さんの別の作品が本屋大賞?か何かで話題になっていて、気になり、手に取りました。

    Amazonで購入した本書の帯にはナツイチ。
    -------------------------
    孤独で辛くて怖いのは、自分だけだと思っていた。
    北海道で女子高を舞台に描く直球の青春小説!
    -------------------------
    父親との確執で、東京からひとり北海道の中高一貫校に進むことになった宮田。
    北海道出身の美少女で新入生代表を務めた奥沢。
    完璧で非の打ちどころのない奥沢には、秘密があった。

    二人は相容れない関係。
    お互い意識はしているけれど、近づかず離れすぎず。
    クラスメイトとして過ごしているが。

    子どもは、親を選べない。
    わかっているけれど。

    全くジャンルは違いますが、
    昔読んだ組織理論的なビジネス本に、
    それぞれのナラティブに架け橋をかけること、
    相手のナラティブから見える景色を理解することが、
    組織として機能していくために必要だという話があり、
    それを思い出しました。

    宮田は、奥沢に対し、疑問と胡散臭さを感じるが、
    そんなことより自分の居場所(勉強)を奪われたくない、
    負けたくない、という気持ちが強く、
    自身のコンプレックスや自信のなさに、
    ひどく傷つく瞬間があり。

    奥沢は宮田に対し、
    都内出身、ピアノコンクール入賞、勉強、
    すべてを「持っている」宮田に密かに嫉妬している。
    自分の生まれた環境(母親と交際相手との関係)に苦しみ葛藤しながら、自分はどうすれば生きていけるのかを必死に模索している。

    どちらも相手に自分のコンプレックスや不安を投影し、
    相手のナラティブに目もくれず、自分だけ。

    中学生~高校生の話なので、当たり前なのですが、
    本書を読んで、
    ビジネス本を思い出すとは思いませんでした。

    個人的には、
    気が強くて一本気で、
    賢いのに不器用な宮田が好きでした。

    本書は、宮田視点、奥沢視点、
    そして宮田の友達のみなみの視点で描かれています。

    みなみが、奥沢の秘密を偶然知り、
    地元の友達に面白おかしく話したくなったとき、
    宮田だったらどうするとよぎった場面、
    とても好きでした。

    女の子って何か知るとすぐ誰かに話したくなるし、
    ネタに面白可笑しい時間にすることもできるけど。
    宮田の飾らないまじめな姿に感化されて、
    成長しているみなみに好感が持てました。

    家族との関係がどうなったのかはわからないですが、
    宮田と奥沢がべったり仲良くなるような友人話でもなく、
    周囲のクラスメイト達も、
    気づいたら関係が変わっていて、
    あいつちょっと嫌な奴だったのにっていうのが、
    意外にも本当は気の良い奴だったり、
    すごくその辺は良かったです。

    ただ、これを中学とか高校時代に読んでいたら
    どう思ったかわからないです。

    私はもう30代後半で、学生時代から離れているから、
    読めたような気もします。

    一番好きな場面は、
    宮田が一歩踏み出して、
    合唱コンクールのピアノを弾きたいと、
    馨に申し出る瞬間。
    情熱を恥と思うのをやめた瞬間。

    不器用でもつたなくても完璧じゃなくても、
    誰かがいて自分がいる。
    そして知らないうちに助けられていたり、
    誰かを元気にできていたりする。

    思わず安壇さんの作品をもう一冊購入したので、
    そちらも早く読まねばです…!

  • 勉強、友情の青春の物語だった。

    ピアノコンクール受賞者で、築山学園の入試では
    東京会場で1番の成績の宮田と
    入学試験満点で成績優秀、周りへの気配りができて
    容姿端麗の奥沢

    完璧に見える二人にも、親との関係、学費、プレッシャーなど抜け出せない悩みがあること
    学校行事、クラスメイトと切磋琢磨しながら
    足掻いているところが面白かった。

    最後の学校行事で
    自分の貧しい家庭環境隠し、完璧な優等生だと
    宮田を羨んでいた奥沢が相容れなかった宮田を励まし、自分だけだ通っていた不幸も、自分だけの持ち物ではないと気づく場面がよかった。

  • 宮田も奥沢も誰から見ても優秀で完璧なのに、本人たちはそれに満足できずにいる。
    彼らを苦しめるものが辛く痛い。

  • 周りから見たら何もかも持っているように見える、才気煥発な女子中学生二人が、実は誰も言えない悩みを抱えている。
    完全なモブキャラとして長年生きているので、なんでもできて見た目もいいという無双キャラの人たちはきっと明るく正しい青春を送って来ていたと思っていたし、今でも結構そう思っています。
    大人になって、自分を受け入れる事が出来たけれど、それまではあまり上手い事折り合い付ける事が出来なかったなあ。

    佳乃 東京出身、音大級のピアノ、東京での入学テスト首席、クールキャラ

    叶 地元出身特待生、地元でのテスト首席、振り返るほどの美少女、実は絵が上手い

    どちらも恵まれているとしか言いようがありませんが、お互い誰にも触れられたくない致命的な家庭の事情があり、読んでいるこちらとしてはどちらも痛ましいです。
    特に叶はどうなってしまうのかなと心配で、嫌な予感を抱きながら読みました。

全67件中 1 - 10件を表示

安壇美緒の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×