- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087445824
作品紹介・あらすじ
「どうしても後世に伝えて欲しいことがあります」原発事故の最前線で陣頭指揮を執った福島県浪江町の「闘う町長」は、死の直前、ある「秘密」を新聞記者に託した――。娘を探し続ける父親、馬に青春をかける高校生、名門野球部を未来につなぐために立ち上がったOB、避難指示解除後たった一人で新聞配達を続ける青年、そして帰還困難区域で厳しい判断を迫られる町長たち……。原発被災地の最前線で生き抜く人々と、住民が帰れない「白い土地」に通い続けたルポライターの物語。●目次序章 白い土地第一章 夕凪の海第二章 馬術部の青春第三章 「アトム打線」と呼ばれて第四章 鈴木新聞舗の冬第五章 ある町長の死 1第六章 ある町長の死 2第七章 ある町長の死 3第八章 満州移民の村第九章 フレコンバッグと風評被害第一〇章 新しい町第一一章 聖火ランナー終章 一〇〇〇年先の未来解説 渡辺一枝●著者プロフィール三浦英之(みうら・ひでゆき)1974年、神奈川県生まれ。朝日新聞記者、ルポライター。『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で第13回開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で第25回小学館ノンフィクション大賞、『南三陸日記』で第25回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞、『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』(布施祐仁氏との共著)で第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、『太陽の子 ―日本がアフリカに置き去りにした秘密―』で第22回新潮ドキュメント賞を受賞。福島県南相馬市在住。
感想・レビュー・書評
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三浦英之『白い土地 ルポ 福島「帰宅困難区域」とその周辺』集英社文庫。
第2回ジャーナリズムXアワード(Y賞)受賞、第8回城山三郎賞最終候補作品のノンフィクション。
著者の三浦英之という新聞記者はただ者ではない。被災者に寄り添いながら、被災地の真っ只中に身を投じ、政府や東京電力など巨大権力に牙を剝いて見せる行動力には感服する。『南三陸日記』が悲しみのノンフィクションであるならば、本作は怒りのノンフィクションである。
一歩も進まぬ福島第一原発の廃炉作業。何が『アンダーコントロール』だ。原発事故から10年以上が経過したが、燃料デブリは耳かき1杯も取り出せず、核爆発だか水素爆発で破壊された建屋が見た目綺麗に整えられ、汚染水だか処理水が海に捨てられただけではないか。安全な処理水だと言うなら、どうして海水で薄めて、1キロ先までトンネルを掘って放出するのか理解出来ない。
挙げ句『復興五輪』という名の『汚職五輪』だ。良いタイミングで新型コロナウイルス感染禍が起きて延期になり、全く盛り上がらぬ五輪だった。始まってみれば、『復興五輪』の『ふ』の字も無かったのには驚いた。
政府の判断により国が除染を進める還れる「帰宅困難区域」と『白地』と呼ばれる還れない「帰宅困難区域」。双葉町や南相馬市の方に行くと、余りにも明確に区別されていることに驚く。『白地』の方は東日本大震災から時間が止まったかのような廃墟が建ち並び、その異様な光景に驚かされる。
福島第一原発事故が多くの人びとの平穏な暮らしを根底から覆した。相馬野馬追いに全てを賭けた人びとの生活を奪い、名門双葉高校野球部を廃部にした。浪江町で地域に密着した新聞舗は事故後も、たった1人で新聞を配達した。三浦英之はそんな新聞舗を手伝いながら、福島第一原発事故で喘ぐ人びとの生活を取材する。
そんな中、末期癌の宣告を受けた浪江町の町長から最後のメッセージを記録して欲しいと口述筆記を託される。2011年3月11日に発生した東日本大震災による全交流電源喪失と東京電力の人災により福島第一原発は水素爆発を起こし、放射能物質がプルームとなって大熊町、双葉町、浪江町を襲う。しかし、浪江町にだけには政府からも東京電力からも放射能物資の拡散情報が全く提供されなかったのだ。浪江町の町長は放射能物資が大量に降り注いだ地区に住民を避難させたことを悔いている。
当時の政府の大本営発表は酷いものだった。枝野の「原発に直ちに危機は無い。」という大嘘を何度耳にしたことか。自国民にはSPEEDIの情報を提供せず、何故か米軍だけが全員、原発の80キロ圏内から退避したという事実から、アメリカにだけにはSPEEDIの情報を提供していたことが覗える。
2019年の台風19号で田村市や二本松市、川内村、飯舘村で放射能汚染土の入ったフレコンバッグが流され、中身が流出していたことなど知らなかった。自分はこの時、中国に出張していて、飛行機が欠航になり、足止めを食らい、何とか翌日に帰国し、大混乱の新幹線で帰宅したら、洪水で街中がとんでもないことになっていた。
『復興五輪』と言う被災地をバカにしたような『東京汚職五輪』。聖火ランナーが走ったのは大金を注ぎ込んだ東北電力の元原発建設予定地だったと言うのだから空いた口が塞がらない。
本体価格760円
★★★★★ -
かなさんのレビュー(1年前の3.11)で、読まなきゃなーと思いながら1年経過経。三浦英之さんのルポはいずれも良質(読了3冊でそれ言う?笑)で、本書は昨秋に文庫化。読むなら今でしょ!と手にしました。
話は逸れますが、『南三陸日記』を皆さんぜひぜひ一読を! もう涙がちょちょぎれます! バスタオルものです!(偶然にも本日、チーニャさんが熱く語ってますね)
さて本作は、福島第1原発事故による避難指示区域とその周辺のルポです。《白地》とは、「帰還困難区域」の中で未だ居住が望めないエリア。国の除染で避難指示解除はわずか8%(2023現在)とのこと。
三浦さんは、そこに住む人の本音を聴き、感じ、伝えるために、現地に通い、移住し、新聞配達を手伝うのでした。
多くの方々と発災からその後が取り上げられています。避難先から被災地へ娘を探しに通う男性、高校馬術部の生徒たち、かつて甲子園でアトム打線と呼ばれ、今マスターズ甲子園を目指すOBたち、避難指示解除の街でたった一人で新聞配達をする青年、町民の辛苦を一身に背負って"闘う町長"、台風によるフレコンバッグ流出事故、葬られた復興五輪等々。
とりわけ、全町避難を強いられた浪江町長の、政治生命を賭けて取り組んだ「賠償問題」と「記憶の継承」は余りにも重く、その無念を想うと心が張り裂けそうです。
「福島の復興なくして日本の再生なし」と言い張った当時の政治家の言葉が、なぜここまで虚しく響くのか‥。真に被災者に寄り添うとはどういうことか、これほど考えさせられるルポもなかなかないような気がしました。-
かなさん、コメントありがとうございます♪
表紙の写真、柿ですね‥。本文中では触れられて
いませんが、タイトルでもある白とオレンジの
鮮やかさ...かなさん、コメントありがとうございます♪
表紙の写真、柿ですね‥。本文中では触れられて
いませんが、タイトルでもある白とオレンジの
鮮やかさが逆に悲しいです‥。
今年は能登半島地震もあったので、例年以上に
気が滅入ります。
あー暗いですね、元気出していきましょうᕦ(ò_óˇ)ᕤ2024/03/08 -
ちょこっと調べると、「あんぽ柿」(干し柿の一種)の元になる柿の廃棄写真のようです。
なんでも、生の柿でOKでも、乾燥して水分が飛ぶと、放...ちょこっと調べると、「あんぽ柿」(干し柿の一種)の元になる柿の廃棄写真のようです。
なんでも、生の柿でOKでも、乾燥して水分が飛ぶと、放射性セシウム濃度が上がるとか‥。
出荷製品は全品検査済みだそうですが、柿の乾燥果実等は加工自粛が今もあるそうで‥。切ないです(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)2024/03/08 -
本とコさん、こんにちは!
調べてくださってありがとうございます。
「あんぽ柿」…おいしいのに、こんなにたくさん…
柿の加工自粛、今もあ...本とコさん、こんにちは!
調べてくださってありがとうございます。
「あんぽ柿」…おいしいのに、こんなにたくさん…
柿の加工自粛、今もあるなんて…居たたまれないですね。
震災の発災から13年、
まだまだ沢山解決しなければならないこと、ありますね…。2024/03/11
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8冊目の三浦英之。信じられるジャーナリスト。そのひと言につきる。たくさんの人に読んでほしいと心から思う。集英社さん、文庫にしてくれてありがとう。
教えられることも多くて心の肥やしになること請け合い。今回は上野英信を知り「骨を噛む」を探して古本で入手できました。 -
また読み直して、違うことを思うかもしれないけれど。
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なぜ都市の名ではなく「福島」原発と名付けたのか
あの広い水素エネルギー研究フィールドはなんなのか
中間貯蔵施設は本当に「中間」なのか
復興五輪は何の復興なのか
そもそもなぜ東京電力の発電所が福島にあるのか
気候変動対策でとりあえず原発で行こうと言われ始めている今、原発が何をもたらすのかをあらためてみておかなくてはならないだろう。
本書は地に足をつけた迫力のあるルポ。
読みやすいが、重い読後感がある。
行動しなくてはならない。 -
背ラベル:369.36-ミ
この作品、私も単行本の方で読んでいて
思わずコメントしちゃいました。
文庫のほうでも中ほどの...
この作品、私も単行本の方で読んでいて
思わずコメントしちゃいました。
文庫のほうでも中ほどのカラー写真、
一面の緑に覆われた地域で車が埋もれるようにポツンとある…
ありましたでしょう?
私、衝撃を受けてしまって…
帰還困難地域がまだあること、忘れてはいけないと思いました。