ワーカーズ・ダイジェスト (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 993
感想 : 118
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087452006

感想・レビュー・書評

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  • 痛い痛い。めっちゃ痛いなー。
    読み始めてからずっと、胸にチクチクと何かが突き刺さるような、そんな感じがしてました。

    仕事って、楽しいことよりも嫌なことの方が圧倒的に多くて、常に頭の中に「苦しい」とか「辛い」とかっていう負の感情を表すような文字がぐるぐる回ってるんですよね。

    でも普段はそういうの、見て見ぬ振りしてたりするんだけど、こんなの読んじゃうと痛いとこをガンガン突かれてなんか責められてるような気分になっちゃったなー。

    「働く」ってほんといろいろ大変なんだよな。なんて今更ながらに改めて思ったんですよね。

    仕事だけしときゃいい。
    なんて簡単に言う人もいるけれど、でもやっぱり職場の人間関係とか、ムカつく取引先の担当者とか、そういうの抜きにしてはできないんだよなー。

    だから、トイレで泣く奈加子の気持ちも、苦情にうんざりする重信の気持ちも、すごくよく分かりました。

    『良くもないけど悪くもない』
    『特に幸せではないけど、不幸でもない』
    という言葉がすごく印象的。

    力まずに、いつも通り淡々と過ごすのが一番なのかな。なんてことを思ったりしました。

    最後の益田ミリさんの漫画もすごくよかったです。

  • やっぱり好きなんだよね。津村記久子さん。偶然、しかも仕事で会っただけの同姓の同い年(33歳)の男女のお話。

    津村さんの書くお話は、特にドキドキするような展開もなく、ただ日常を切り取ったようなお話が多いんだけれども(この本もそう)どの作品も心をガッチリと掴まれてしまう。なぜだろう。

    ブログにて詳しいレビューしています*
    https://happybooks.fun/entry/2021/03/20/170000

  • 同じ苗字、同じ年、同じ誕生日の奈加子と重信は、それぞれ東京と大阪に勤めているが、偶然仕事の関係で出会うことになる。それぞれ全く違う人生を生きながら、ふとした瞬間に相手のことを思い出す、ただそれだけの話。

    特に恋に繋がったりはしない、本当にささやかなやり取りだけど、不思議と楽しく読めた。文体も読みやすくてすらすらいける。
    もう一作の短編のオノウエさんの不在では、個人的な地雷要素を激盛りした女が出てくる関係でちょっと…表題作は面白かったです。

  • 好き。初めてこの人の本読んだけど、特に主人公の心情描写が好きだった。周りの人の些細な行動に対して、「いい人だな」とか気付けるのが素敵だと思った。そういうことに気づける人になりたいですね。
    カップリングの小説も同じくらいよかった。
    どいつもこいつもどうでもいいや、とか、どうなってもいいでしょ、とかヤケじゃなくて達観してるのがイイ。

  • 表題作は、32歳の男女が主人公のお仕事小説。
    佐藤(男)サイドのちょっと不気味なクレーマー話も、佐藤(女)サイドの面倒くさい人間関係のしがらみも、それぞれに読み応えはあるのだがはやく点と点が線にならないかとウズウズしつつも、変に運命的なやつは止めてくれよ、とおもう。
    恋愛じゃない、友達じゃない、一度仕事の打ち合わせをしただけの男女が、要所要所で思いだす「あのひと」。
    向こうがこちらを覚えているかも怪しい、でもあのひとに話したい…。
    そして津村さんは裏切らない。
    今回も、報われるなあーとおもう。
    終わりかたも、すき。
    スパカツ、食べたくなりました。

    同時収録の「オノウエさんの不在」は、世代交代のお話。
    オノウエさんという絶対的な先輩がいなくなることで、「何かが自分に伝播した」と感じる主人公。
    大きな変化じゃないのだけれど、はじまりとはちがうおわりに至るところが巧み。

    「鑑賞」として解説を書かれた益田ミリさんの漫画もとてもよかった。

  • 生年月日と苗字が一緒の32歳の男と女が主人公の話。
    今まで読んだ津村さんの中では、一番この本が好きかも。主人公の年齢も近いし、舞台も近いので、いろいろ共感できた。

    一緒に収録されてるオノウエさんの不在も印象に残る話だった。3人が尊敬できる元上司のオノウエさんを救おうとする話。

  • 特別なことはなーんにも起こらない。
    30代の毎日のあるある。


    姓と生年月日が同じ男女が、たまたま出会って、再会する、という件に関しては特別かもしれないが、安易な恋愛に展開する結末でもなく、再会したところで締まっていて、とても良かった。
    (いつ再会するのか楽しみに読み進めたのは事実だが)


    文章が読みやすくて好き。
    描写が上手い…なんて上からだけど、表現が面白くて、クスリと笑えるところも多々あった。
    織田作之助賞、すごい納得。
    著者の初めて読んだ作品だが、他も是非読んでみたいと思わせるには充分な作品。

  •  若手社員たちの日々を綴った短編2編。

          * * * * *

     うまいなあと思いました。

     主人公はエリート社員でもないし専門職でもない。若手であっても夢や希望に溢れているような楽天的メンタルの持ち主でもない。ごく平均的な社員たちです。
     それも小狡く立ち回るタイプではない、普通程度の善良さを持った人たちです。

     だから共感できるところが多い。特に理不尽には心を空にしてやり過ごし、オーバーワークにはプライベートを犠牲にして帳尻を合わせるところなどには、苦笑しつつ頷いてしまうほどでした。
     それが自分にできるベターな選択だと知っているからです。

     表題作は重信と奈加子という2人の物語が交互に展開されていくのですが、同姓、独身、さらに重信が奈加子のいる大阪へ転勤と、津村作品にしては珍しく恋を予感させる展開です。
     でも、結局2人の接点はなかなか描かれず、ラストまで持ち越しに。そして……。

     正月明けの中之島公園。偶然出逢う重信と奈加子。

     おお、ついに!

    と思ったのにつまらぬ会話で笑いあってエンドを迎えます。やっぱりなーと苦笑しました。 ( だいたい重信に演奏させる楽器が鍵盤ハーモニカってムードもロマンもないですよね。)

     でもすごく面白かった! やっぱり好きです。津村さんの世界。

  • 津村さんの書く人は少しだけユニークな視点でものを見ているから面白い。マトリョミンなんてものがあるのを初めて知ったわ。
    そして、そっと寄り添ってくれる言葉がたくさんある。このくらいの温度感で描かれる話が今の自分にはピッタリだった。熱血!じゃない話。

    夢をかなえて輝かしい場所で働く人か沢山いる。素敵で憧れる。でも、最近そのようなトピックや人の体験談がしんどく感じることがある。

    『ミステリと言う勿れ』で整くんが言っていたように、そしてこの話の重信が感じているように、華型でない地味な仕事や作業があってこそ、華型の仕事があると思えば、少しは前向きになれる。


  • 面白かった

著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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