セレクション戦争と文学 3 9・11 変容する戦争 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087610499

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  • 全八巻のシリーズ。
    ものすごく分厚いけれど、ガンガン読める。

    冒頭は、リービ英雄「千々にくだけて」。
    日本からニューヨークにいる妹に会いに行く途中、9.11によって、カナダから動けなくなるエドワード。

    「まつしまや、しまじまや、ちぢにくだけて、なつのうみ」

    エドワードが呟く芭蕉の句。
    そして、頭に浮かぶのは、アメリカが徳川時代の日本になってしまったという比喩。
    テレビから流れる「evilders」(悪を行う者ども)の声。印象的なのは、母の台詞「avoid foreign entanglements」(異国とのからみごとはさけるべし)
    繋がらない、妹への電話。

    この不思議なコントラストの中で、エドワードは自分が出遭った9.11を、困惑という色で描写する。

    この話に出会えて、良かったと思った。

    宮内勝典は、自分自身の経験から香田証生を語る。
    彼らが見ようとした「ざらりとした現実」は、私が生きている今この現実と何が違うのか。

    私たちの抱える自殺率が、「平和」な世にあっての答えで、「真に生きること」は、死に瀕して生きている者たちから知るしかないのだとしたら、そんなに滑稽なことはないんじゃないか。

    そんなモヤモヤした思いは、シリン・ネザマフィの「サラム」に着地してしまう。
    アフガニスタンからやってきた、ハザラ人の少女レイラが、入国管理局によって収容されるお話だ。

    彼女の元には、時間を尽くして裁判での難民申請獲得を目指す田中先生と、初めて翻訳のアルバイトを請け負う留学生の「私」が訪れる。

    レイラのような少女が恐怖を感じない世の中になって欲しいと願う一方、それは自分に影響を及ぼさない「ソト」の物語に留まる範囲だからだろう、という、建前にも気付かされる。

    他にも、
    平野啓一郎「義足」では、参考文献に後藤健二の著書が挙げられている。
    米原万里「バグダッドの靴磨き」も良かった。
    ジャンルは詩、短歌、川柳まで。

    この一冊から得たものは大きい。

    「湾岸戦争でインフラストラクチャーをすっかり破壊され、その後の経済制裁で痛めつけられたイラク国民がこつこつと自力で再構築した施設が、次の戦争でまた壊される」(池澤夏樹「イラクの小さな橋を渡って」)

    「米軍部隊が26日、シリア北西部で過激派『イラク・シリア・イスラム国(ISIS)』の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者を標的とする急襲作戦を遂行し、同容疑者が死亡したとみられることがわかった。」(2019.10.27のCNNニュースより記事抜粋)

  • アンソロジー第3巻。
    時代が現在に近くなると、『フィクション』と明確になっているものより、エッセイと小説の間のような散文が占める割合が増える。まだフィクション化が可能なほど時代が熟成していないとも言えるし、ジャンルの垣根に拘らず、ストレートに表現しようとする著者が増えた、という考え方もあるだろう。

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