来福の家

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713831

作品紹介・あらすじ

台湾、中国、そして日本。3つの言語が織りなす初めての快感-在日台湾人の著者が解き放つ新しい文学、誕生!第33回すばる文学賞佳作受賞作品「好去好来歌」収載。

感想・レビュー・書評

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  • 台湾ー中国ー日本。
    幼いころに日本に来日して、文化の狭間に生きる葛藤や、違和感や、美しさを、日常のつぶさな記述でしっとりと織り上げていく。芥川賞の選考過程で「対岸の火事で共感できない」という感想を述べた選考委員がいたが、それぞれの文化の「囚われ」について、境界にいる人だから気づくことができる。結婚に伴う苗字の変更のこととか、名前の音が変わることの感覚とか。そうした意味で、今の日本社会に新たな気づきを与える、あまりに繊細な文化人類学的考察でもある。

  • 単一民族とされている日本では「日本人か否か」と無邪気に躊躇なく線を引きがちだが、実際はグラデーション(濃淡や多色の混ざりや重なり)であることに気付かされる。著者のような人々は、私達が思いもしないこと(文字や名前や国籍や言語等)で葛藤し、もがいていたのだと。

    自分にとって自然なことが他者には違和感をもたれ、その逆もあったり、それを悲しく思うことを理解されなかったり、本人自身もその感情が説明できなかったり。

    表題作『来福の家』では、その葛藤を越えた多層的なグラデーションの豊かさや奥深さを味わえた。もう一方の物語『好去好来歌』の主人公である縁珠が今後どのような心境を辿るのか気になる。そしてどちらも、出てくるゴハンが旨そう。水餃子、食べたい。

    しかし、つくづく日本は歴史に翻弄されることが少ないと思う…。アメリカや西欧と比較したら普通と感じるが、台湾をはじめ、中韓とか、ロシアとか中央アジア等においては、家族の物語自体が歴史や政治や社会変化に大きく翻弄されているため、重層的で、大変興味深い。。

  • 「好去好来歌」「来福の家」の2編がおさめられている。
    私は読後感がすっきり幸福感が残る後者が好き。
    2編とも台湾生まれ日本語育ちの作者でしか書けない、気づけないエピソードがちりばめられているようで興味深かった。自伝的小説?次のほかの作品を読んでみたい。また、2編とも親戚や祖父母さらにはその上の世代までの血縁の強いつながりを感じさせるお話だなぁと思う。私がそういったつながりをあまりもたないので、敏感になってしまっているのかも。
    「好去好来歌」は黒髪のほっそりした主人公で姚愛寗を想像しながら常に映像を観るように読みすすめた。映画にできそう。台湾人で日本語が不得意な母との衝突に悲しくなってしまった。望まずに日本育ちとなってしまった自分との葛藤とまざってしまい自分では制御不能となってしまう少女のこころのもやもやを想いこちらが苦しくなる。
    「来福の家」は前者と似た境遇ではあるが、主人公笑笑は少しふっきれているように感じられる。少し大人というか。自分の中のバランスも自分でとることができているようで安心して読み進めることができた。笑笑と姉がふたりしかできない言葉さがしをするところ、笑笑と里実が秘密の名前をもつところの女子特有のキラキラコソコソクスクストークの場面がお気に入り。笑笑がウェイウェイを連れて迷子になってしまった日の描写が暑い気温と色濃い緑と台湾の音が感じられ、むあっとした。姉歓歓が子供にどんな名前をつけたのか気になるところ。

  • 好きだな、この人の作品。

  • 文学作品という観点からは色々批判できるでしょうが、率直に言って面白かったです。著者の個人的な経験、葛藤を生にぶつけているのだけれど、そういう小説で優れたものはいっぱいあるし、そこを突き抜けた先に行きつつあると思う小説でした。

  • 日本語を話し、ずっと日本に住んでいるけれど日本国籍ではない主人公達の、日常にしばしば現れる裂け目やひずみ。
    対岸の火事なんかじゃない、同じ岸で起きていることだ。
    胸の痛くなるところも多かったが、真摯に寄り添う作者の体温が感じられ、読後感は二篇とも良かった。
    表題作が特に好き。

  • 芥川賞候補作の選評が話題になっていたので、興味が沸きました。

  • 台湾生まれ日本育ちの作者による2作品を収録。
    名前と国籍が日本ではないことで、日本人独特の余所者を見る目で見られることもある中で、成長して行く台湾生まれ日本育ちの主人公。
    台湾と日本と中国の複雑な関係と、台湾語と日本語と中国語が飛び交うほのぼのと暖かい雰囲気の家庭で育ったのであろう作者の柔らかい文章のギャップが良い塩梅で混ざっています。
    とても台湾に行きたくなりました。

  • 同級生のだれもが、日本語を話すおかあさんがいて、パスポートが日本国発行で、中国語は習うものであって…自分は日本での生活は長いのに、おかあさんの日本語は完璧ではないし、パスポートは日本国発行でないし、中国語も習わないと話せない。いろいろな葛藤が個人の中にくすぶっていて、そこを想像しながら、リービ英雄や柳美里の作品を思い出していました。

  • わたしとほぼ同年代の、日本で育った台湾国籍の女の子の話。悲痛な1話目も、ほんわかした2話目もどっちも作者が感じたことがある気持ちなんだと思う。1話目が鋭くてよかった。言葉の話がメインだったけど、生活習慣でも色々なエピソードがあるんだろうな。

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著者プロフィール

1980年、台湾・台北市生まれ。3歳より東京在住。2009年、「好去好来歌」で第33回すばる文学賞佳作を受賞。両親はともに台湾人。創作は日本語で行う。著作に『真ん中の子どもたち』(集英社、2017年、芥川賞候補)、『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社、2015年、日本エッセイスト・クラブ賞受賞、2018年に増補版刊行)、『空港時光』(河出書房新社、2018年)、『「国語」から旅立って』(新曜社、2019年)、『魯肉飯(ロバプン)のさえずり』(中央公論新社、2020年)など。

「2020年 『私とあなたのあいだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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