燕は戻ってこない

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717617

作品紹介・あらすじ

この身体こそ、文明の最後の利器。

29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。

北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

『OUT』から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける作家による、予言的ディストピア。

【著者略歴】
桐野夏生(きりの・なつお)
1951年金沢市生まれ。93年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。98年『OUT』で日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、04年『残虐記』で柴田錬三郎賞、05年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、08年『東京島』で谷崎潤一郎賞、09年『女神記』で紫式部文学賞、『ナニカアル』で10年、11年に島清恋愛文学賞と読売文学賞の二賞を受賞。2015年には紫綬褒章を受章、21年には早稲田大学坪内逍遥大賞を受賞。『バラカ』『日没』『インドラネット』『砂に埋もれる犬』など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 女性に是非とも読んでほしい作品だ。

    「代理母」というテーマで人間の本性を剥き出しにし、その愚かさを映し出す。

    話の大筋は予見できるが、物語がどう収束するのか全く読めなかった。文字通りラスト1ページまで結末が、分からない。

    また、現代若者の貧困というサブテーマもあり、読んでいてなかなか辛い。
    貧すれば鈍するなのか、主人公を含めた男女が感情のまま 刹那的に流されている部分には、同情と反発を同時に覚えた。

    男の私がこの作品を真に受け止められたとは思えない。
    読まれた方は、このラストシーンをどう感じるのか、感想を読んでみたい。

  • 産む産まない、別れる
    別れない・・・

    その場のフィーリング
    で物事を決めたり、

    感情に流されて自棄を
    起こしたり、

    はたまた誰にでもいい
    顔をしたがる八方美人
    だったり、

    登場人物たちの言動が
    コロコロ変わる様子が
    とってもリアル。

    なんだか節操ないけど
    人ってこうだよね、と。

    誰しもあることだけど、

    とはいえ、あまりにも
    コロコロと変わる人は
    一緒にいると疲れます。

    そういう人って身辺に
    次々と問題を起こすん
    ですよね。

    それから貧困も問題の
    温床。

    言動がコロコロ変わる
    人と貧困を避けること。

    貧困は不可抗力な面が
    あるけれど、

    平穏に暮らしたければ
    やはりそういうことに
    なるのかなと、

    内容とあまり関係ない
    けれど、そんなことを
    ふと思ったのでした。

  • OUTの既読から約5年、主人公の香取雅子の怒りが未だに目に浮かぶ。桐野作品で女性達の怒りの感情表出ふたたび。非正規職員故の生活困窮の無限のループ。さらに男には性処理として利用される主人公・りき。生活費得るため、この不条理な生活から脱却するため子宮を売る。すなわち代理母となる。依頼主夫婦は一端離婚し、りきと籍を入れる。いざ妊娠、出産した時、色んな感情を持つ。依頼人の妻、りきの友人、りきの愛人、りきの母親。日本に根付く男尊女卑の悪しき考えは吐き気がするほど。桐野作品、鬱屈した女性が藻掻く描写は見事でした。⑤↑

    • ポプラ並木さん
      湖永さん
      コメントありがとう!
      そうそう!「叫び」ですね。
      アホな男性がそれを助長しているんだろうね。
      今度は「日没」を読もうと思い...
      湖永さん
      コメントありがとう!
      そうそう!「叫び」ですね。
      アホな男性がそれを助長しているんだろうね。
      今度は「日没」を読もうと思います!
      どんな「叫び」が見られるのか、楽しみです!
      2022/12/24
    • 湖永さん
      ポプラ並木さん こんばんは。

      「日没」は、ちょうど1年くらい前に読んだのですが、重くて暗い感情が溢れてたような気がするのですが…。

      ポプ...
      ポプラ並木さん こんばんは。

      「日没」は、ちょうど1年くらい前に読んだのですが、重くて暗い感情が溢れてたような気がするのですが…。

      ポプラ並木さんは、どう感じるでしょうか。
      レビュー楽しみにしてます。
      2022/12/24
    • ポプラ並木さん
      わー--そういう感じなんですね。了解です。
      元気な時に読みたいです。
      読んだら感想UPしますね(^^♪
      わー--そういう感じなんですね。了解です。
      元気な時に読みたいです。
      読んだら感想UPしますね(^^♪
      2022/12/24
  • お金で売った子宮は誰のものなのか。
    お金で産ませた赤ちゃんは誰の赤ちゃんなのか。

    『代理母出産』と聞いて、こんなことを想像したことがなかった。

    「代理出産」と聞いて思い出すのは、タレントの向井亜紀さん。子宮摘出手術を受けた向井さんが「どうしても夫の遺伝子をこの世に残したい」との強い思いから、アメリカ人女性に代理出産をお願いしたこと。

    当時も色々な批判があったとは思うが、赤ちゃんを抱く高田夫婦も、産みの母親となった女性も とても幸せそうにしている印象が強く残っている。

    その為か、「代理母」をビジネスとしてとらえるという考えにショックがあった。貧困を理由に子宮を提供する。「それは女性の人生の搾取だよ」という第三者の言葉にも衝撃を受けた。

    困窮する日々に嫌気がさして、そこから抜け出したいと、多額の報酬が約束された「代理母」を大した考えもなく引き受けたリキ。

    悠子は、子ども出来ない原因が自分にあるとわかり、何度の不妊治療も上手くいかず、ようやく夫婦二人で生きていくのも悪くないと考えていた矢先に 夫から「代理母」の話を持ちかけられ困惑する。

    悠子の夫、基は有名なバレエダンサー一家に産まれた一人息子で 自身もまたバレエダンサーとして名を馳せた人生を送ってきた。そして、自分の遺伝子を持った子どもが欲しいと願うようになる。

    三人が結んだ契約が「赤ちゃんの命」ということを考えれば、この人達の言動に「なんて自分勝手なんだ」と怒りもわいてくるけれど、私が、どうしようもない貧しさや、産みたくても産めない辛さを 本当に理解することなどは出来るはずもないので、気持ちの持ちようがわからなくなる。

    それもそうだ。当の本人たちだって 全てのことが未知の世界で、「代理母」を決めた時、妊娠が分かった時、そして出産を迎える時、その都度 心は揺れ動き、悩み 怒り 悲しみ 答えの出ない渦の中でもがいていたんだから、三人三様の心情を代わる代わる読んでいる私の心がグルングルンにかき乱されるのもしょーがない。

    ただ、普通の生活をおくれるだけのお金が欲しかった。
    ただ、自分の子どもとして赤ちゃんを育ててみたかった。
    利害の一致した双方には「幸せ」が待ってるはずだった。

    最後はただただ「お腹の子どもは無事に産まれてくることは出来るのか」という不安で一気に読んだ。

    だが、そこには衝撃のラストが待ち受けていた─。


    ✎┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
    赤ん坊の力はやたら強大だ。
    かれらを見ているだけでポジティブな気持ちが湧き上がってくるのはどうしてだろう。

    赤ん坊は泣き止まない。すると、急に心の底から
    悲観に近いような感情が溢れてきて、リキも泣きたくなった。

    • ゆーき本さん
      強烈だよー!終始 強烈だよー!
      誰かに共感出来るとか出来ないとか考えてる暇もないくらい、イライラ モヤモヤ ゾワゾワ。
      強烈だよー!終始 強烈だよー!
      誰かに共感出来るとか出来ないとか考えてる暇もないくらい、イライラ モヤモヤ ゾワゾワ。
      2024/01/21
    • 1Q84O1さん
      代理出産それぞれの考え方があるでしょうけど…
      答えは出せない…
      代理出産それぞれの考え方があるでしょうけど…
      答えは出せない…
      2024/01/21
    • ゆーき本さん
      そうそう!何が正解かなんて本人達にしかかわらない。「人助け」とか「エゴ」とかどの側面で見るかで変わってくると思う。でも1番大切なのは生まれて...
      そうそう!何が正解かなんて本人達にしかかわらない。「人助け」とか「エゴ」とかどの側面で見るかで変わってくると思う。でも1番大切なのは生まれてくる命ってことだよね〜。
      2024/01/21
  • 北海道での介護職を辞め、東京で病院事務として働くリキは、非正規雇用の為、日々の生活もままならない。
    そんなリキが、「代理母」になることで今の生活から抜け出そうとする…

    代理母になる葛藤や並々ならぬ決意というものが、重くのしかかってこないのは、リキの節操のない生きざまだろうか。
    考えてはいるのだろうが、気持ちがコロコロと変化する。
    同じように悠子もそうなのである。
    ちょっと他人事として捉えてる感がある。

    思いのまま、我儘に突き進むのは、基だけ。

    そこにまっとうな意見をするのが、アセクシュアルのりりこなのだ。

    いろいろな人間がいて、いろいろな形の欲望があり、いろいろな関係がある。
    性にも生殖にも、ひとつとして正解はない。

    このことばがすべてを語っているように思う。

    子どもって誰のもの…。
    代理出産は、人助け…。

    赤ん坊という無防備で無力で無垢なものを守ってやりたいという保護本能を母性というのならラストのリキの行動は。

    まさしく、それぞれのままならぬ現実と欲望が錯綜する生々しい人間らしさを見た。

    • ポプラ並木さん
      湖永さん
      こんにちは。
      女性の怒りの感情が終始表出されていて、ほぼ男性が原因というのがつらいかった。
      桐野作品ではOUTは既読で、その...
      湖永さん
      こんにちは。
      女性の怒りの感情が終始表出されていて、ほぼ男性が原因というのがつらいかった。
      桐野作品ではOUTは既読で、そのインパクトと同様に印象的な作品でした。
      代理母の問題は深く、女性の心理描写に切り込んだ素晴らしい作品でした!
      2022/12/24
  •  面白いのは

    きれいごとじゃなく

    ほぼすべての登場人物の

    自分勝手さ

    第三者の目から(読者)からすると

    笑えてくるぐらいです



    リキも貞操観念が低いし

    勢いで物事を悪い方にしちゃうし

    依頼側夫婦も勿論

    自分たちのことばっかり

    同僚も セフレも元上司も 友達も

    節操ないな



    でも こんなもんですよね

    代理母の話で これほど

    子供の存在が希薄でいいのか

    そこを鋭く書かれているのが

    面白いんですよ

  • 北海道の内陸部の人口5,000人の小さな町での介護職にいや気がさし、上京するが、学歴もスキルもない29歳のリキは派遣社員となり、病院の事務職として勤めるしかなかった。困窮した暮らしの中、友人から卵子提供を勧められクリニックに行くと、「代理母」になることを持ち掛けられ、迷いながらも受諾する。
    元バレリーナの基と妻の悠子は子供を欲していたが、妊活の末、悠子の身体の事情により、子を持つことは無理だろう事を告げられる。リキが代理母を持ち掛けられたのは、この夫婦のためであった。日本では代理母は認められていないため、基と悠子はいったん形式上離婚し、リキが基と婚姻届けを出す。基とリキが通常の人工授精による妊娠・出産をするためだ。最初から、迷いがちだったリキは、気持ちの定まらないまま、人工授精の前に、2人の男と関係を持つ。その後、人工授精を経て双子の妊娠が判明するが、結局、それが誰の子か分からない。中絶を考えたり、気持ちが揺れるが、帝王切開で、無事、双子を出産する。

    「生活に余裕のない地方出身の若い女性」「代理母になることを受諾するが、他人の子を宿すことに心からの納得を得られない。父親とは何か、母親とは何か、子供を持つとはどういうことなのか、という悩み」「夫の精子を使っての人工授精を了解するが、実際に代理母の妊娠が分かり釈然としない妻」等、色々な人間の立場から物事を見ることを強いられる。そして、それぞれの登場人物の気持ちが大きく揺れ、物語の方向も定まらない。その「揺れ」そのものが物語となっている。
    桐野夏生の他の小説と同じく、物語は予定調和的には全く進行しない。途中で、「この話にどうやって落とし前をつけるのだろう?」と読む側の方が心配になるくらい、物語は揺れながら進む。そういった、「収まりのつかなさ」が面白い小説だった。これも、桐野夏生の他の小説と同じく、ラストが衝撃的。

  • 「私は何を売り渡したのだろう」
    貧しさから代理母になった29歳リキの叫びが聞こえてきた。
    介護の仕事を捨て一人東京に出てきたリキの生活は困窮していく。不満と怖れ、劣等感に苛まれるリキの思いが伝わってきたが、安易に代理母を引き受けるのはどうなのと苛立ちを覚えてしまった。
    依頼者である草桶基、悠子夫妻の自己中心的な考え方にもついていけなかった。
    「子供って誰のものなの?」
    子宮の中で卵子がふらふらと浮遊しているイメージが、いざ妊娠してみると、小さな芽が子宮にしっかりと根付く感覚がある…。お金と引き換えに卵子と子宮を売ったリキだったが、命を宿し子が生まれてくる中で自分にとって確かなもの、大切なものが何かと気づいていく心の変化に希望が見えた。
    私はこのラストで良かったと思う。

  • 「代理母」を題材とした話。言葉は知っていたが、もちろんではあるがこれまで深く知ることのなかった領域。この本を通じて知ったのだが、代理母には2種類ある。
    まずはホストマザー。これは夫婦の受精卵を第三者の体で育て産んでもらうという形。つまり生まれてきた子供は当たり前だがその夫婦の子供。もう一つはサロゲートマザー。これはその代理母である女性の卵子を使う。つまりその夫婦の子供ではなく、正しくは代理母と夫の子供となる。この本は後者、サロゲートマザーを題材としている。
    …という説明から想像がつくかもしれないが、サロゲートマザーで子供を産むということは、夫はどうあれれっきとした自分の子供となる。主人公は高額なお金欲しさに代理母を引き受けるわけだが、そう簡単に出産まではたどり着かず…ということで起きる一連の出来事がこのお話の主軸となる。
    おもしろい作品であることは間違いないが、代理母となる主人公をはじめ、依頼する夫婦、その他もろもろ登場人物がいけ好かない。自分本位というか身勝手というか…人の汚い部分が良い感じで出ている。まぁそこがこの本のおもしろい部分の一つではあると思うが。以前読んだ「傲慢と善良」に似たような印象を受けた。
    結論、おもしろい話ではあるがあまり気持ちの良い作品ではないかなと。おもしろさの方が勝っていたので☆4とした。

  • 面白い!
    読後は痛快。

    やっぱり桐野夏生さんは好き。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

桐野夏生の作品

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