ミーツ・ザ・ワールド

著者 :
  • 集英社
3.92
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717778

作品紹介・あらすじ

死にたいキャバ嬢×推したい腐女子

焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子の由嘉里。
人生二度目の合コン帰り、酔い潰れていた夜の新宿歌舞伎町で、美しいキャバ嬢・ライと出会う。
「私はこの世界から消えなきゃいけない」と語るライ。彼女と一緒に暮らすことになり、由嘉里の世界の新たな扉が開く――。

「どうして婚活なんてするの?」
「だって! 孤独だし、このまま一人で仕事と趣味だけで生きていくなんて憂鬱です。最近母親の結婚しろアピールがウザいし、それに、笑わないで欲しいんですけど、子供だっていつかは欲しいって思ってます」
「仕事と趣味があるのに憂鬱なの? ていうか男で孤独が解消されると思ってんの? なんかあんた恋愛に過度な幻想抱いてない?」
「私は男の人と付き合ったことがないんです」

推しへの愛と三次元の恋。世間の常識を軽やかに飛び越え、幸せを求める気持ちが向かう先は……。
金原ひとみが描く恋愛の新境地。

【著者プロフィール】
金原ひとみ(かねはら・ひとみ)
1983年東京生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。04年、同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。12年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。20年『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。21年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 自分に向き合おうと、これまで多くの自己啓発本を読んできたけれど、わたしがやってきたのはただの向き合うふり、だったように思う。
    読みながら、自分がどんな人間か、評価を加えず、矛盾に感じる部分も含めて書き出してみることにした。
    これまで手をつけられなかった自分の痛いところに触れてしまったような感じもあるけれど、不思議と苦痛を感じずに書き出すことができた。

    この作品は、いつもの金原さんの、強烈で鋭い痛みを伴う物語とは少し違った、壮大な自分探しの物語だ。さらに、主人公がリスカやODや浮気をしないというところも、これまでの金原さんの作品とはちょっと違うところかもしれない(お酒は飲んでる)。

    死にたいキャバ嬢と推したい腐女子の物語ってどんなだよ!
    と、思っていたのだけれど、ホストやオカマも主要キャラクターにいるもんだから、なかなかカオス!
    それぞれのキャラクターの個性は強く、アンバランスではあるけれど、物語の中での関係性としては、バランスが取れている。

    人生のある瞬間、とても濃密な人間関係を味わう時がある。職場でも、学生時代の友人でもない、趣味の繋がりともちょっと違う、一見、共通点がなさそうに見える関係。今はもう、連絡すら取っていない、どこで何をしているのかも分からない、過ぎ去った人間関係。でも当時は、それが全てだった。長い人生の中の、ほんの一瞬。その一瞬を、とても鮮やかな筆致で描き出している。

    作中では、主人公の腐女子(由嘉里)が、「マトモな考え方」、いわゆる「一般的な考え方」を持った人物として描かれている。だから、彼女の偏見は今多くの人が持っているであろう偏見だし、読みながら自分にも偏見が多々あることに気づかされる。

    死にたい、という気持ちは分かるけど、死にたいキャバ嬢(ライ)が言う死にたみの意味はよくわからなかった。
    隣人が、死を思わせる言葉を発したら、どうにか助けたいと思う。そういう感覚で、由嘉里はライを救いたいと思っている。ライに生きていて欲しいと思っている。ストレートにそれを伝える。たぶん、一般的な感覚だと思う。
    しかし歌舞伎町の住人たちは皆、そんなライの死にたみは知っているけど、由嘉里のようにまっすぐに止めようとしたり、生き続けることを押し付けない。でも、ライを心配して奮闘する由嘉里のことも決して放置せず、話を聴いて、そばにいてくれる歌舞伎町の住人たち。

    この作品に出てくる歌舞伎町の住人たちは、ライの死にたみに強く踏み込むことをしていなくて、その気持ちを受け止める、というところに留めている。その根っこにあるものはなんだろうと考えさせられる。ライのことを深く知っていてそうしているのか。深くは知らないけれど、歌舞伎町の住人たちが皆それぞれ、ライが抱える死にたみに近いものを抱えているのか。ライに死んでほしくないけど、ライが死を選ぶなら仕方がないのか。
    そこに踏み込まないことは、優しさなのか、共感なのか、諦観なのか。

    ライの死にたみを理解しよう、助けようともがく由嘉里。
    その中で、これまで想像もしてこなかった、さまざまな価値観に触れる。
    由嘉里が歌舞伎町の住人たちと交流することは、自分が縛り付けられていた価値観から解放され、自分の生き方に向き合うことでもあったのだ。

    自分がされたら嫌だけど、それを相手にしてしまうことって、ある。
    相手にかける優しい言葉を、自分にはかけてあげられなかったり。
    わかってはいるけど、うまくできないことって、たくさんあるんだよな。
    わかってないのに、わかったふりをしてしまうことも。
    多くの複雑な人間関係を経験してきたからこそ、味わえる作品だったりするのかな。

    そんな金原さんは、文學界新人賞の選考委員をつとめているわけだけど、一言「何でもいいよ! 小説書けたら送ってみて!」と短くもシンプルで包容力のあるコメントをされていて、選考委員であるにも関わらず、そこに全く評価を感じさせない言葉に、愛を感じる。この作品に出てくる人たちとも重なる、目の前にいる人を救済しようとする愛を、金原さん自身からも、ひしひしと伝わってくる。

  • 金原さんの小説は、描かれた強烈な痛みによって「生」を実感させる。しかし、この小説はあまり痛くない。もちろん痛い場面はたくさんあるのだが、痛さの感覚が鋭くない気がするのだ。

    僕が金原節に慣れただけなのかも知れないが、痛みを強く感じないのは、それだけ「死」に近い小説だからなのではないか、と思った。

    死にたみが強いキャバ嬢・鹿野ライと焼肉擬人化漫画を愛する腐女子・三ツ橋由嘉里。
    ふたりの決して交わることのないシェア生活を描く。

    ひょんなことから出会う2人。由嘉里はライに生きてほしい。でも、ライは「私は消えないと私じゃない」という強烈な希死念慮を持っている。

    ー どうして人は生きるためだけに、こんな風に誰かを必要としてしまうのだろう。どうして自分一人で、怪獣や恐竜のように力強く生きていくことができないのだろう
    由嘉里は人と理解し合い生きることを望む。

    しかしー


    たぶん、答えは読者に委ねられ小説は終わるのだろうと、と予想して読み進めた。

    でも、しっかり最後にあった。

    圧倒的な生への、そして死への、つまり生きることへの肯定感に包まれる。

    そして、僕は救われた。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      おはようございます。
      「鋭くない痛み」めちゃめちゃわかります!
      慢性的な痛みの蓄積が鈍く残って、その結果が、ライの希死念慮に繋が...
      たけさん

      おはようございます。
      「鋭くない痛み」めちゃめちゃわかります!
      慢性的な痛みの蓄積が鈍く残って、その結果が、ライの希死念慮に繋がっているのでしょうか。
      もしそうなら、一言でなんでそんな死にたいのかなんて由嘉里にはわからないけれど、「なんでなんで」と思う由嘉里の気持ちもすごくわかります。
      2023/12/17
    • たけさん
      naonaoさん

      この作品は痛みが鈍いんですよね。

      それは、この作品に登場するライの生が、絶対的、圧倒的なものではなくて、相対的なもの、...
      naonaoさん

      この作品は痛みが鈍いんですよね。

      それは、この作品に登場するライの生が、絶対的、圧倒的なものではなくて、相対的なもの、ともすれば消えてしまう灯火のような「生」だからなのかもしれないな、とも思ったのですが…

      それよりも、どうにもならないことに対してジタバタする由嘉里の愛の大きさが故なのかもしれません。

      飲んでいるので、自分が何言ってるかよくわかりませんが笑、
      ライを愛して成長してゆく由嘉里が僕にとっては愛しくてたまらない。
      だから、この作品大好きなんですね。
      2023/12/17
  • 性的描写を封印した金原ひとみの新境地「無理して恋愛やセックスをするのは違うな」 - エンタメ - ニュース|週プレNEWS[週刊プレイボーイのニュースサイト]
    https://wpb.shueisha.co.jp/news/entertainment/2022/01/08/115250/

    ミーツ・ザ・ワールド | 集英社 文芸ステーション
    https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/meetstheworld/

    ミーツ・ザ・ワールド/金原 ひとみ | 集英社の本 公式
    https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771777-8

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      金原ひとみ氏が腐女子の成長描く『ミーツ・ザ・ワールド』など新刊4冊|NEWSポストセブン
      https://www.news-postseve...
      金原ひとみ氏が腐女子の成長描く『ミーツ・ザ・ワールド』など新刊4冊|NEWSポストセブン
      https://www.news-postseven.com/archives/20220130_1722555.html?DETAIL
      2022/02/03
  • 分かり合えなくてもいいんだと、少しだけ心がホッとなるような作品でした。
    初の金原ひとみ作品で、映画では、「蛇にピアス」を観たのですが、小説としては初見でした。
    とてもいい作品でした。オタクの腐女子と死にたい願望を持つキャバ嬢、全く正反対な2人が、あるキッカケで、ルームシェアをするところから物語が始まります。文章が読みやすくて、すぐ読んでしまいました。正反対な2人の成長物語です。

  •  うーん。正直刺さらなかったかなぁ。

     死にたいキャバ嬢とオタク腐女子の物語。腐女子の由嘉里が合コンでボロボロになっているところを救ってくれたキャバ嬢のライ。そこから由嘉里とライの同棲が始まる。

     死にたいというライをなんとか救いたい由嘉里だが、いつしか由嘉里を置いていなくなるライ。ライの友人であるホストのアサヒやゲイのオシン、作家のユキに支えられながら生活していく中でライへの想いを整理していく由嘉里。

     由嘉里はものすごくライに依存しているが、ライの魅力というか、描写でそこまで伝わらないため、由嘉里がそこまでライに固執することに違和感を感じた。ただ、周りの人たちがいい人ばかりなので、救いもあるし、前向きになれる物語だった。

  • 強烈な怒りや痛みを原動力に自暴自棄になりつつももがき生き延びる人間を金原さんに期待して作品を手に取ります。

    この作品は複数の人物が短編をなして構成したものではなく、自分の在り方について問い悩む銀行員の若い女性が心のうちを1人語りする形を主に展開していきます。

    それぞれの人間が抱く「当たり前」「普通」或いは「幸せ」「悦び」が本当に自分にとって心地よいものなのか。

    他者との「共有」「共通」「共感」が過剰に求められていると感じる情報化時代に、「同じであること」が本当に第一義なのか。

    この作品は金原さんのいつもの熱のこもった怒りに満ちた筆致というよりは、力を抜いて、さらさらとしかし、決して自分の価値観を押し付けることなく、登場人物たちが動くことで浮き上がると感じる1冊でした。

    作品に登場する人物の親世代で、主人公 由嘉里が切々と喜びを伝える「焼肉擬人化漫画」はどうにも咀嚼しきれなかったのですが、私は「分からなかった」で置いときます笑。

    情報化社会で人々が数多ある選択肢を手に入れたことはとても素晴らしい一面、何か正解のようなものを1つに絞ろうと論争したり、正義で勝ち誇ろうとするのは厄介だなと感じました。

    • naonaonao16gさん
      ごはんさん

      おはようございます。

      いつもと一味違う作品でしたね。
      すごくよかったです。

      由嘉里には圧倒的に生きる理由となる腐の世界があ...
      ごはんさん

      おはようございます。

      いつもと一味違う作品でしたね。
      すごくよかったです。

      由嘉里には圧倒的に生きる理由となる腐の世界があるけど、でもそういうものがない場合はどうしたらいいんだろう。由嘉里みたいに母親とぶつかったら、何かが変わるのだろうか。
      わたしはずっと自分のうまくいかなさを、自分の生い立ちや親のような、他人のせいにしてきたよな、と、この作品を読んで思ったり。
      2023/12/17
  • 読み終わって本を閉じた時、タイトルの意味にはっと気づいて、胸が熱くなった。「焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子」という設定の主人公・由嘉里は、なんだか綿矢りさの小説に出て来そうでちょっと意外だったけど、彼女が希死念慮のあるキャバ嬢ライはじめ自分とは違う世界の人たちと出会って、互いの違いを認めることで自分を(もしかしたら世界も)受け入れられるようになるさまは、上質な海外YAを読むようでもあり、登場人物ひとりひとりに注ぐ金原さんのまなざしのやさしさに読んでるわたしも温かな気持ちに包まれた。なかでもホストのアサヒとの関係が良かったなあ…(ところで今は草食系ホストの時代なんだとか。金原さんの小説を読むと、知らない世界のことが学べたりもする)お互いをそのまんまで受け入れるために自分の偏見をいっこいっこ確認しつぶしてく作業とかが丁寧に描かれているのも、ほんと信頼できる…。これちゃんとした監督で映画かドラマにしてほしいな。大切な存在(=ライ)の不在から新たな一歩を踏み出すと言う意味では映画『佐々木、イン、マイマイン』を思い出したり。ライの内面を描き過ぎず「不在」のままで物語を閉じるところも良かったと思う。

  • 分かり合えなさに正面からぶつかって砕けて倒れてそれでも立ち上がってまたぶつかって、そうして自分が何者であるかということもまた発見する。
    結局自分は誰かにはなれないしこの自分で生きるしかないけれど、それでも人を思えることは希望。金原ひとみの書く女女本だった。

    真っ先に「焼肉が食べたくなった」と書こうとしてやめたんだけどでもめちゃくちゃ焼肉が食べたくなる本。と言うのも主人公が推してるのが焼肉擬人化漫画でオタ活の中に焼肉も含まれているから。そんな発想どこから出てくるんだよ…と思いつつこの漫画の作り込みもすごくてちょっと笑ってしまった。

    金原ひとみは初期と今でおそらく真反対のことを書いているんだけど疾走感しかない文章はずっとそのままで、そうだよこれが金原ひとみなんだよ…と思うその文体の強度に圧倒されて惚れ惚れしてしまう。
    今作の疾走感は初期に近くて、テイストは全く違うけど『アッシュベイビー』の怒濤感があった。好き。


    『ミーツ・ザ・ワールド』のミーツってmeetsじゃなくてmeatsなんか…?と思ってしまうくらいには焼肉擬人化漫画が出しゃばってくるのでなんかもうもはや『ミート・イズ・マイン』(焼肉擬人化漫画のタイトル)読んでみたいんですけど…?という感じです この漫画で推しカプ見つけてみたい

    初期作ではあんなに「食」を忌避していた金原ひとみが今やデブ飯だのデブ活だの焼肉だの激ヤバ煮干しラーメンだのスタバのグランデフラペチーノだのめちゃくちゃ食を謳歌する人々を書くようになったのは本当に感慨深いものがある
    私も元気にご飯食べようで、焼肉食べたら腹壊すけど

  • 死にたいキャバ嬢×推したい腐女子のルームシェア。
    ちぐはぐな二人が、妙にしっくりくるから不思議。
    通常であれば絡まない二人の絡みが絶妙で。
    お互い観点の持ち味が違うから、
    見える幅がバラエティに富んでいて、
    そこから引き起こされる化学反応がおもしろい。

    「世の中こんなだし生きづらい」
    なんて弱音が蔓延してるこの世界で、
    肺呼吸とかえら呼吸とか
    そんなざっくりした区分じゃなくて、
    一人ひとりがそれぞれに
    「コレがあれば息ができる」みたいな
    そんな各々の呼吸法みたいなのを取得して
    息を継いで生きながらえてるのかな、と。

    推し活なんかもソレで、
    腐女子の由嘉里は、推しへの愛を活力として生きてるんだけど、
    その「ミート・イズ・マイン」とかいう焼肉擬人化漫画がやたら作り込まれてて最高すぎて。
    てか焼肉擬人化漫画よ?
    もう、さすがです。

    様々な人との出会いを通して、
    いろんな世界が開いて、
    色々な感情にまみれて、
    自分に変化をもたらしていく。

    ささやかな成長や、
    それでもどうしてもある、どうにもならなさと、
    それでもどうしても抗う、人間臭さ。

    ちょっと異色かなとも思うけど、やっぱり良い。
    金原ひとみさん、大好きです。

    この作品の中で、一番ハッとしたのはP192。
    後半、刺さる部分多し。
    物語のラストも、私はすごく好きです。

  • これまで読んだ金原作品で、ダントツで好き!
    わかり合えないことで受ける痛みは深いけれど、わかり合わなくても得られる温かさは確かにある。
    ゆかりん、アサヒ、オシン、ユキは少し古めのステレオタイプにも思えたが、読者のレッテルを揺らがせるために、あえてそう書いているようにも思える。
    ひりひりしつつも笑ってしまうところもあり、読後感も良かった。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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