音楽と生命 (新書企画室単行本)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087890167

作品紹介・あらすじ

「教授」と「ハカセ」――長年親交のある二人による初の人生論

80年代、テクノミュージックで一世を風靡した「教授」こと坂本龍一。
以来、常に第一線で活躍し続けてきたが、近年は電子音楽とは対照的な自然の「ノイズ」を取り入れたサウンドを次々と発表。
一方、「ハカセ」こと福岡伸一も、分子生物学者としてDNA解析に象徴される要素還元主義的な科学を追求してきたが、その方法論に疑問を抱き、生命現象を一つの「流れ」として捉える独自の生命哲学、動的平衡論を確立。

20年来の付き合いという両者が、さまざまな挫折を経験しながら現在に至るまでの道のりを語り合う。
コロナ・パンデミック以降、死生観が劇的に変わる今だからこそ、私たちの生を輝かせることに目を向けたい。
音楽、アート、哲学、科学など、多方面に造詣の深い二人が、対話を重ねた末にたどり着いたものとは――。

【本文より】

一歩踏み出さないと、どこがゴールかわからない。それがある日、「あっ、これがゴールだ」と実感した瞬間があって、今まで見えていなかった次の山が見えた。「ここで終わりじゃないんだ、次はあそこに行かなければいけないんだ」と思いました ──坂本龍一

個体の生命が有限であることが、すべての文化的、芸術的、あるいは学術的な活動のモチベーションになっています。有限であるからこそいのちは輝く。このようにして生命系全体は連綿と続いてきたし、これからも続きうるのだと思います ──福岡伸一

【目次】
世界をどのように記述するか――刊行に寄せて
PART1 壊すことから生まれる―音楽と科学の共通点
PART2 円環する音楽、循環する生命
Extra Edition パンデミックが私たちに問いかけるもの

PART1とPART2は、NHK Eテレ『SWITCHインタビュー達人達』(2017年6月3日)で放送された対談を未放送分も含めて収録し、大幅に加筆修正したものです。

【著者プロフィール】
坂本龍一(さかもとりゅういち)
音楽家。1952年東京生まれ。1978年「YELLOW MAGIC ORCHESTRA (YMO)」を結成。映画『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞作曲賞、映画『ラストエンペラー』でアカデミーオリジナル音楽作曲賞、グラミー賞ほか受賞。2021年に直腸がんの罹患を公表。闘病中、日記を書くようにスケッチした楽曲を収録したアルバム『12』を、2023年1月にリリース。

福岡伸一(ふくおかしんいち)
生物学者・作家。1959年東京生まれ。京都大学卒業および同大学院博士課程修了。ハーバード大学研修員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。サントリー学芸賞を受賞したベストセラー『生物と無生物のあいだ』や、『動的平衡』シリーズなど、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。

感想・レビュー・書評

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  • 音楽家で"教授"の愛称で親しまれている(いた?)坂本龍一氏と、生物学者で作家の福岡伸一氏との"自然"と"人間"について語られた対談集。2017年6月3日 NHK Eテレで放映された番組と未放送分を合わせ、加筆・修正して出版された本。
    『自然』に対する『人間』の関わり方、自分自身の中にある『自然』についての考え方、というものが語られている。

    この本から学べたことは、『自然(ピュシス)』は"一回性(一度きりで再現できないもの)"だが「利他的(他者と共生を図れる)」であり、『人間の考え方や論理(ロゴス)』は"再現性(何度繰り返しても同じ結果が得られる)"があるものの「利己的(余剰を他者に渡さない)」な部分が強い、ということ。
    いちばん印象に残ったのは、坂本氏の『一番身近な自然は海や山ではなくて自分自身の身体(からだ)なんです。』という言葉だった。

  • ガン闘病中の坂本龍一さん、外苑再開発見直し要望書を東京都に送付「何もしなかったら禍根を残す」:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/238437

    「大切な故郷、東京が美しく魅力的な場所であってほしい」坂本龍一さんインタビュー詳報:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/238434

    音楽家・坂本龍一と生物学者・福岡伸一による初の人生論『音楽と生命』(集英社)、2023年3月24日(金)発売決定!|株式会社集英社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000403.000011454.html

    音楽と生命/坂本 龍一/福岡 伸一 | 集英社 ― SHUEISHA ―
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-789016-7

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      明治神宮外苑の再開発、小池都知事は坂本龍一の手紙をスルー なぜ東京のことを考えた手紙に真摯に向き合わないのか|NEWSポストセブン
      http...
      明治神宮外苑の再開発、小池都知事は坂本龍一の手紙をスルー なぜ東京のことを考えた手紙に真摯に向き合わないのか|NEWSポストセブン
      https://www.news-postseven.com/archives/20230328_1854159.html?DETAIL
      2023/03/29
  • 音楽家・坂本龍一と生物学者・福岡伸一の対話。
    アルバム『async』を聴きながら読んだ。非同期。

    テーマは明確。ピュシス(自然)とロゴス(論理)。
    二人の問題意識は共通している。分野は違えども、この、ロゴスの行き過ぎた社会ーー資本主義、AI、アルゴリズム、言語、利己主義ーーの行き着く先は見えているということ。

    その痩せた未来を遅らせるために、今一度ピュシスという概念に注目したほうがよい。
    ということで、坂本龍一は自然音や物体としてのピアノ、調律せずに音がずれていくに任せたピアノ、ノイズに向かい(音楽というのは本質的にアルゴリズムだ)、福岡伸一は、死んだ生命ではなく、生きているという状態そのものを考察する方向へむかう。

    (私もまったくその考えに同意する。そんなこと言ったってこの現代社会では生きていけないじゃないかという凡庸な意見は無視すればよい。
    というのも、私たち個人の人生がかかっているのだから。
    生きていけないじゃないか、ではなくて、生きていけないじゃないか、という意見そのものが実はロゴスによる凡庸化で、実際に見る限り、みんなじつに多様な生き方をしている。

    しかしそのようなピュシスを言語化しようとすると、どうしてもオカルトに近づいてしまう。一方、芸術はそれをそのまま提出すればよい。
    郡司ぺギオ幸夫流に言えば「外部」をいかにロゴスのなかに投入するかが必要な戦略となってくる)

    DNAと楽譜のアナロジーがとても面白かった。なるほどと思った。
    どちらも情報のプログラムであるけれど、しかし実際にどのように「発生するか=演奏するか」がとても重要になる。だってそれこそが世界だから。

    これは、複雑系科学の研究者である津田一郎氏の、数学=心のアナロジーにも通じる。私は彼の著作を通じて「より普遍的」という言葉が浮かんだ。これはロゴスとピュシスの「あいだ」を意味する。発生も演奏も、より普遍的な現象、行為だ。この半端さを言祝ぎ、積極的に捉えること。

    本書から具体的に得た知見は2つ。
    福岡伸一が紹介していた、今西錦司のダーウィン進化論批判は必読。
    そして坂本龍一が引用していた三浦梅園。今注目している思想家で、生前の彼の口から梅園への言及がありちょっと驚いた。

    「枯れ木に花咲くより、生木に花咲くを驚け」

    要は珍しい現象ではなく、むしろ当たり前と思って看過している現象こそ驚くべきことである、ということ。激しく同意。哲学をなんと美しく言い当てた言葉か!

  • AIは正解を判断するが、壊しながら進んでいるのが生命という、これから先、人間はどのように自動化と生きていくべきか、分かりやすく説明されています。

    ユクスキュルの「これは一本のブナではない。僕のブナだ」と気づく話しは難しかったのですが、坂本龍一さんは自分自身も自然の一部として「生まれたからには死ぬわけで」と語られてピュシスに近づくヒントがわかりました。

    ジョージオーウェル 1984 やSF小説の三体なども話題になりとても読みやすかったです。
    その他『創造的進化』アンリ・ベルクソンの「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある」や『生命とは何かー』シュレーディンガーの参考書の説明は、ずいぶん古い書物なのに今の時代を予測していたような内容で、段々とロゴスで構築された機械的な生命観より、動的平衡的な宇宙観、生命観のほうが納得できる気がしてきます。

    ホモ・サピエンスの狩猟民族のころは利他的行動が多かったのに、定住型農地改革あたりから食料を保存することで利己的社会に変わってきたのではないかとお二人の意見が一緒でした。
    生命として考えると、人間だけだいぶ間違って歴史が進んできてしまって、今後どう修復していくかが課題のようです。
    坂本龍一の間際の想いが詰まった大事なお話しでした。

    後半は福岡伸一さんの20代苦労なされたNY生活でネズミの実験話しや偽造問題では謎が多い
    ですね。

    最後に何億年も経つ地球では、本来ピュシス(自然)の中に自分自身がいるのに、数万年前にできたばかりのロゴス(言語や論理)が侵入していく社会によって、いつのまにか人間と自然を分けて考えるようになってしまった。かと言ってロゴスを疎かにするわけにはいかず、どのようにバランスよく生きていけばいいのか、おのずとわかってきました。
    少なくとも普段から、海や山、川など人間以外の生き物がいるところへ行って、ロゴスではないやり方で楽しみたいと思いました。

  • 生命でも音楽でも人間が世の中の物事を切り取って捉え理解するのは間違っていて、自然のあるがままの状態で理解したいという境地に登り詰めた2人の哲学的な対談だった。
    しかし、一つ一つの物事を世界から切り取って捉えるのは人間だけでなくあらゆる生物に共通していて、生物が生存するために獲得してきた脳の特質だろう。それに逆らうことはできないしその必要もなく、むしろ、機械のように全ての出来事を同じデータとして捉えるのでなく、重要な点に焦点をあてられることが生物、人間の脳の素晴らしさであると思う。
    哲学の世界に浸っているお二人の考えとしては面白かったが、科学的でない概念的な対談だった。

  • 生まれて、壊れる。壊れて、生まれる。留まらない蓄積しない流動的かつ常に新しい生命や音楽のありようを考えました。再現や予測、監視が馴染まない領域の話でした。

  •  20年来の付き合いという両者による対談集。
     コロナ禍以降、教授の死後、直後の出版だが、対談の行われたのは2017年のこと。序文と巻末の対談はコロナが発生してからのようだけど。
     いずれにせよ、音楽、アート、哲学、科学など、多方面に造詣の深い二人が、あらゆるものがデータ化、見える化され、「認識の牢屋」(福岡)に閉じ込められていく現代に、自由闊達な動き、フローといった、生命の本来あるべき予測不能な姿への揺り戻しを模索するような対談だ。
     それを、ロゴス(言葉、理論)とピュシス(自然)との対立として考察を重ねて行く。

     が、話は、それだけに固執したものではなく、それこそ生命の本質であるかのように、様々な話題に触れ、揺れ動きながら、たゆたっていく。秩序を欲してしまう人間の性に抗って、もっと囚われない、自由な魂の躍動を模索していく。

    「一番身近な自然は、海や山ではなく自分自身の身体だ」(坂本)

     これが、なによりのメッセージだろう。我々の命そのものがピュシス(自然)なのだ。そして、

    「ピュシスである自分自身に、ピュシスをコントロールしようとするロゴスが侵入してこないよう、気をつけなければいけません」(福岡)

     と警鐘を鳴らす。

     これは、いま正に、猛烈な勢いで発達している、AIのことを危惧してのことだ。AI=ロゴス的テクノロジーは、万全ではない。情報処理が高速化、効率化され、労働が軽減されるという表面的なメリットは大きいに違いない。しかし、そのロゴスが、人間の内面、生命に向かってくることを想定しておくべきと注意を促す。

     楽しく、高尚な、リラックスした対話の中にも、生命に関わる、大切で重い問いかけが含まれている。

  • 坂本龍一さんと福岡伸一さんの対談本。 ロゴスとピュシス(論理と本来の自然)がテーマ。 対談番組の内容をまとめたもので2人の上質で深い対話はいろいろ勉強になった。その世界の第一人者は、思索のレベルが違う。お互いの見解を尊重しながら、自分の意見を述べる。 知らないことは知らないと言える。 自分の知識の中で。例え話を使いながら理解する。人の話を聞いて、自分のものにする方法がすごく勉強になった。 色々と対談集を読んできたが、この本はとても面白かった。
    この本の出版の翌日に坂本龍一さんが亡くなった。彼はこの世界がどう変わっていくかを知りたがっていた。 彼にとっては無念だったかもしれない。

  • 哲学と生物学、音楽が合わさり難解な内容だが、何となく理解できる。ロゴスとピュシスの概念は興味深く、どちらもうまく行き来することが大事だと理解。

  • ロゴスとピュシスを巡る音楽家と生物学者による対話。一見すると対局にいるようにも見える2人の豊かな対話は、とても味わい深いものだった。坂本龍一の音楽を聞き直した。

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著者プロフィール

さかもと・りゅういち:1952年東京生まれ。3歳からピアノを、10歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学大学院修士課程修了。78年にソロ・アルバム『千のナイフ』でデビュー。同年、細野晴臣、髙橋幸宏とともにYMOを結成し、シンセサイザーを駆使したポップ・ミュージックの世界を切り開いた。83年の散開後は、ソロ・ミュージシャンとして最新オリジナル・アルバムの『async』(2017)まで無数の作品を発表。自ら出演した大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(83)をはじめ、ベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』(87)、『シェルタリング・スカイ』(90)、イニャリトゥ監督の『レヴェナント』(2015)など30本以上を手掛けた映画音楽は、アカデミー賞を受賞するなど高く評価されている。地球の環境と反核・平和活動にも深くコミットし、「more trees」や「Stop Rokkasyo」「No Nukes」などのプロジェクトを立ち上げた。「東北ユースオーケストラ」など音楽を通じた東北地方太平洋沖地震被災者支援活動もおこなっている。2006年に「音楽の共有地」を目指す音楽レーベル「commmons」を設立、08年にスコラ・シリーズをスタートさせている。2014年7月、中咽頭癌の罹患を発表したが翌年に復帰。以後は精力的な活動を続けた。2021年1月に直腸癌の罹患を発表し闘病中。自伝『音楽は自由にする』(新潮社、2009)など著書も多い。

「2021年 『vol.18 ピアノへの旅(コモンズ: スコラ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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