- Amazon.co.jp ・マンガ (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784088907918
感想・レビュー・書評
-
クールでちょっと変わり者の倫理学教師・高柳先生が、哲学的思考を道しるべに、悩める高校生たちを導いてゆくお話です。いじめ、非行、愛着障害、SNS依存など、さまざまな心の闇を抱える生徒たち。哲学は、彼らを救うことができるでしょうか。
このお話の特徴は、主人公の教師が徹底して「傾聴と対話」で生徒たちと向きあっているという点です。「黙って俺についてこい」というタイプの教師ではありません。生徒の問題を肩がわりして解決してあげるのではなく、生徒が自力で問題と向きあえるよう、倫理学(道徳哲学)の知識に基づいて援助する。それが高柳先生のやり方です。だから、問題はいつも解決するとは限らない。状況は何も変わらないことも多い。でも、先生と対話したあと、生徒たちの心境には多かれ少なかれ変化が生じます。自分の中にあらかじめ、前に進む力が備わっていることに気づくのです。
私の知りあいの精神科医が以前言っていたのですが、「精神科医には2種類の人間がいる。心の病と無縁の超絶ポジティブ人間と、患者以上に自分が病んでいる人間だ。前者はどんな大変な患者を前にしても心が折れないし、後者はどんな大変な患者を前にしても自分よりはマシと思えるから」。精神科医ではありませんが、高柳先生はおそらく後者のタイプです。自分自身がまだ闇の中を手さぐりで歩いている感がある。それだけに、その言葉は不思議な癒やしの力を帯びて心に浸透してくる気がします。
「恋に破れても、家族が死んでも、いじめられても、就職に失敗しても、仕事がイヤでも、お金がなくても、人生が退屈でも。それがどんな理由でも、命に換わるほど重い絶望になるんです」
読みながら、この説得力はどこからくるんだろうと不思議に思っていたら、第1巻のあとがきマンガにその答えがありました。なるほど…のひと言です。哲学自体が人を救うことはないのかもしれない。でも、哲学を必要とするほど悩んでいるのは自分だけじゃないと知ることは、もしかしたら救いになるかもしれません。読みごたえのあるマンガだと思います。おすすめです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
何を読もうと聞かされようと、自分自身の理性が同意した事以外何も信じるな。
-
第一話でひく人もいるだろうなあ…でも、凄くいいです。ただ…ひく人もいるよなあ。
-
NHKのよるドラで放送されていたのが素敵だったので、原作購入。
絵のタッチがちょっと苦手なのだけど、高柳の無愛想で暗くどこか不気味な雰囲気がよく分かる。
あとがきが一番胸に響いた。作者のおばさんが鬱病で自殺。付箋だらけの倫理の教科書と、神様と対話する形式の日記が遺品として残されていたと。
倫理って確かに社会で役に立たないし、私も高校の時楽しく学んだけど、もう何も覚えていない。でも、生きていくうえでは、生きることを考えるうえでは、命を救うくらい重要な意味を持つこともある。
楽しみに読み進めたいと思います。
“誰もが自分の視野の限界を世界の視野の限界だと思っている”ショーペンハウアー
“不安は自由のめまいだ”キルケゴール -
「新時代、教師物語」とあるように世に多くある学園もの漫画とは一線を画す異色な物語ではないだろうか。っていえるほど漫画を数多く読んできたわけではないのだけど。
高校時代に、政治経済の先生が権利と義務、責任を力強く語った授業や、倫理の先生が哲学の考えかたや手探りで生きていく意味を飄飄と説いた授業を思い出した。あの先生方に憧れて高校の教員を目指していた時期が私にもあったなぁ…。
思春期の柔らかい心と無限に広がっている未来は、授業の一言一言に反応して化学反応を毎日起こしていた。それは決してよい方向ばかりの変化とは限らなかったけど。
漫画にできること。
哲学にできること。
可能性には必ず限界が用意されている。そうシニカルにうそぶくことは簡単だ。
けれども高校生のときに私にもみえていた果てのない地平はどこへいったのだろう。消失してしまったのだろうか。それともどこかにまだ存在しているのだろうか。
言葉、表現、創作にできること。
この物語の主人公、倫理の教師である高柳先生は生徒を教え導くというのではなく、かといって生徒とまったく同じ位置まで降りてきて視界を共有するのでもない。生徒たちより少しばかり先を歩みながらも、同じ悩める完全ではない存在だ。ほんの少し先を行く先達として生徒たちがまだ知らぬ哲学という燈火で道を照らす。その炎を生徒たちに分け与える。
暗い画面と重厚な物語で、楽しく幸せな読書時間とはならないかもしれない。
しかし読み終わったあとで、幸せのほうへ一歩近づいたような軽やかさを感じることができた作品だった。 -
高校の時1番くらいに倫理好きだったの思い出した〜とても沁みる漫画、改めて哲学って面白い〜
-
NHKのよるドラを観て、これは原作も読まなきゃ、と思って即購入。
当初、3, 4巻は品切れだったので買えなかったのだけど、ようやく入手できたので一気読み。
ということで、現在発売されている部分についての感想を、1巻に記録しておく。
ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』という作品がある。不思議の国のアリスを下敷きにしたようなメルヒェンの体で、様々な哲学を横断的に紹介するような作品。発売当時はベストセラーにもなり、話題になったことを覚えている人も多いと思う。
自分がこの作品に出会ったのは、中学生後半のときだったように記憶してる。当時は読書の面白さに目覚めた時期で、図書室の本を片っ端から読んでいた。何が切っ掛けだったかは忘れてしまったけど、高価なハードカヴァであるこの本を読みたくて、お小遣いを貯めて買ったような記憶がある(誕生日プレゼントだったかも)。そして、この本を読んだことが切っ掛けで、自分は哲学という世界にどハマリしていくことになる。
関係のないことを書いた理由は、本書、『ここは今から倫理です』は、『ソフィーの世界』の漫画版かつ倫理版、と言っても良いのではないか、と。倫理や哲学といった分野は、先人たちが「より良い生き方」を模索し、七転八倒しながら積み上げてきた足跡そのもの。
時代とともに「正しさ」は変わるけれど、先人たちが積み重ねてきた「足跡」は、著作や考え方が残っている限り、いつでも参照することができる。ある時代の「正義」が誤った方向に向かい始めたとき、僕らは彼らの「足跡」を参照し、それを道標にしながら軌道を修正していくことができる。
本作の冒頭で高柳が話している通り、「別に知らなくてもいいけれど、知っておいた方がいい」「選択の余地はあるものの、実は必修科目」なのが、哲学であり倫理だと自分も思う。なぜなら、生きることは容易ではなく、人生へ真摯に向き合えば向き合うほど難しくなっていくから。
そんな困難な道程であっても、先人たちの「足跡」を辿ることで、いくらかでも困難さは軽減される。もちろん、先人たちが到達し得なかった現代においては彼らの足跡は付いていない。そこから先は、自分たちが道を切り開いていくしかない。しかし、過去から続く足跡を補助線として、僕たちは歩いていく方向を推測できる。
しかし問題点は、倫理や哲学といったジャンルが難解であること。先人たちが自らの内で葛藤し、絞り出した「言葉」は異質なもので、ある種の私的言語に近い。
また、高度な論理展開を駆使することで自らの言葉の正当性を世に示してしているため、基礎知識を身に着けていない場合は取っ掛かりすら掴めない。
だからこそ、本書のような「入り口」を示すことは、社会的に非常に有益なものだと思う。本書を読んで興味を持った人は、放っておいても知識を広げようと動き始める。ちょうど、高柳に救われたいち子がそうしたように。
「大きな物語」が消失して、秩序が崩壊しつつある現代だからこそ、本書のような作品が必要になっていると思う。
また、上記のような「意義」とは別に、学園モノの作品としても非常に良く出来ていると思う。思春期ならではの悩みや痛みに真正面から向き合い、上っ面な「優しさ」で誤魔化すことなく、一緒に寄り添う姿勢は素晴らしい。
偉人の名言ですべて解決、といった胡散臭さもなく、あくまで「道標」を示すのみに留め、解決は生徒それぞれに任せる。だから、結論が出ない回も少なくない。圧倒的に「正しい」と自分は思う。
とても素晴らしい作品だと思う。
今後も読み続けていきたい。
ちなみにドラマは来週3/13で最終回。
ドラマ版は漫画の良さを上手く引き出しつつ、映像表現で出来ることを巧みに取り入れていて、これも名作だと思う。
最後に、漫画版もドラマ版もいち子ちゃんが非常に可愛いです。