小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」 (小学館ジュニア文庫 ふ 2-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784092312760

作品紹介・あらすじ

映画ドラえもん×辻村深月

月面探査機が捉えた白い影が大ニュースに。のび太はそれを「月のウサギだ!」と主張するが、みんなから笑われてしまう…。そこでドラえもんのひみつ道具<異説クラブメンバーズバッジ>を使って、月の裏側にウサギ王国を作ることに。そんなある日、のび太のクラスに、なぞの転校生がやってきた。
2019年3月1日公開「映画ドラえもん のび太の月面探査記」(原作/藤子・F・不二雄)の脚本を手がけた辻村深月が、自ら書き下ろし小説化!

【編集担当からのおすすめ情報】
辻村深月、五年ぶりの書き下ろし長編!

感想・レビュー・書評

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  • 『リオデジャネイロ五輪』、その閉会式のスクリーンを席巻した日本発のキャラクター達。日本人が胸を張った瞬間。その中央にいたのがドラえもん。日本人であることの合言葉。ある調査では日本人の認知度97%とされる日本人の常識。『ドラえもん』。そして、新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本を対象として選出される直木賞。2012年上半期にその栄誉に輝いた辻村深月さん。『「ドラえもん」がいなければ、今と同じ形で作家になっていることはまずなかった』という『ドラえもん愛』に溢れた辻村さんが『ドラえもんで小説を書く』。そしてそれを読めるというこの喜び。『この本が、子供たちにとって初めて読む小説になればうれしいです』と語る辻村さん。『心がけたのは、子供をなめてかからないこと。安易なストーリーを作らなかった藤子・F・不二雄先生の作品のような、本物の物語を目指しました』というこの作品。図らずも3つのシーンで涙してしまった私。『ドラえもん × 辻村深月』の生み出す圧倒的な物語の魔力にすっかり心をもっていかれてしまいました。

    『月面で今、一台のロボットがゆっくりと動き出した。日本の技術を搭載して作り上げた月面探査機「ナヨタケ」』。その探査機が映し出す画面に『人が生きるには過酷なはずの月面の、大きな岩の陰に、ふっと何かがよぎった』という一大ニュース。それを居間のテレビでたまたま目にした少年がいました。『遅刻が多く、ドジで、運動も苦手、学校の成績も0点続き ー だけど、とても優しい、メガネをかけた小学生の男の子』、それが主人公・野比のび太です。その日も学校に遅刻した のび太。教室では『あの月のニュース、宇宙人が映ってたって言ってるやつもいるんだろ?つまりは月の ー 月面人!』と盛り上がりを見せていました。その中心にいるのが ジャイアン、スネ夫、そしてしずかちゃん。『みんな、のび太とこれまで数々の冒険をともにしてきた仲間だ。仲間、つまりは、友達』。そんな中『え〜おっほん!』大きな咳払いをしたのび太は『月にいた、あの白い影の正体…それは、月のウサギだ!』と説明します。『のび太、お前それ本気で言ってるのかよ』『のび太らしいや』と散々にバカにされた のび太。『ドラえもーん!』と家に逃げ帰ります。のび太の話を聞いた途端『月にウサギ?ウシャシャシャ。よくまあ、そんなバカかこと考えたもんだ』と答えるドラえもん。それに対して『ドラえもんまでバカにして!いいよ、いいよ。よってたかって…』といじける のび太に『でもまあ、その考え方は一概に間違いとも言い切れない』と、『四次元ポケット』を探ります。そして次の瞬間。『異説クラブメンバーズバッジ!』と秘密道具を取り出すのでした。ドラえもん、そう、その正体は『二十二世紀の未来からやってきたロボット』です。ドラえもんの出したこの秘密道具とともに『月』を舞台にしたこの物語はゆっくりと動き出すのでした。

    『子供たちにとって初めて読む小説になれば』という辻村さんの強い思いもあって、総ルビをふられたこの作品。今回のメイン舞台である『月』について、『月は、人が生きるには過酷な世界だ。まず、大気がない。これは、人が生きるのに必要不可欠な酸素がないということだ。つまりは、息ができない』ととても丁寧に、それでいて小説としてとても自然に語られていきます。一方で、その同じ『月』を『夜のブルーと、夕方のオレンジ色が混ざり合った夕暮れ時の空。見上げると、空にそびえる電波塔の向こうをカラスが数羽、飛んで行った。すでに満月が昇っていて、まだ明るさが残る空に光り輝く月は、どこかミステリアスだ』と一般的な小説にもあるような美しい表現も用いて物語の雰囲気を盛り上げていきます。『子供をなめてかからない』という辻村さんの思いがよく感じられるシーンだと思いました。

    そして、ドラえもんというと、やはり『秘密道具』です。オリジナル作品としての違和感を失くすためにも、原作に登場する数々の秘密道具が次々に登場します。定番の『どこでもドア』や『タケコプター』、ちょっと高度な『桃太郎印のきびだんご』や『ひらりマント』、これはマニアックか?という『警察犬つけ鼻』や『虫の知らせアラーム』、そして辻村さんとドラえもんということでは「凍りのクジラ」の名シーンも演出した『テキオー灯』などなど。二十数種の秘密道具がこれでもかと贅沢に登場して、う〜ん、これは満足!と物語を盛り上げていきます。しかもこれはアニメでも漫画でもなく小説です。あの道具、この道具が文字だけで大活躍する、それがはっきり目に浮かぶ、ドキドキワクワクな臨場感のあるシーンが連続するカタルシス。これはもうたまりません!

    のび太は語ります。『友達は仲間だよ。友情でつながっている仲間。友達が悲しい時には自分も悲しいし、嬉しい時は一緒に喜ぶ。ただ友達っていうそれだけで、助けていい理由にだってなるんだ』という言葉の中に、いつからか、私たち大人が忘れてしまっているとても純粋な感情が詰まっていることに気づかされます。そして、ドラえもんは語ります。『想像力は未来だ!人への思いやりだ!それをあきらめた時に、破壊が生まれるんだ!』。私たちには想像力があります。そして、それを大きく飛躍させ、いろんな未来が生まれました。大人になって忘れてしまったあの時代、あの場所で、私たちはドラえもんに未来を見せてもらって育ちました。ドラえもんという作品が誕生して半世紀が経ち、未来が現実になったものもたくさんあります。それによって我々の生活も大きく変わりました。未来から来たドラえもんが伝えてくれるこの言葉は、大人になった我々こそそれを大切にし、つぎの子供たちに伝えていかなければならないことだと思いました。

    世界に冠たるこの不朽の名作を辻村深月さんが新作として描くというこの贅沢。この国に生まれ育った幸せを、今日、強く、しっかりと噛み締めました。
    藤子・F・不二雄先生、そして辻村深月さん、幸せな時間をありがとうございました!

  • 2019年2月小学館刊。2019年3月1日公開の映画ドラえもんシリーズ通算第39作ノベライズ。異説クラブメンバーズバッジが、キーの道具。どんでん返し的なところもあって、楽しめました。

  • ドラえもんたちの協力がすごかったし、最後ジャイアンがアルにお菓子をあげたところやモゾがディアボロを倒したところが感動したし、面白かった。

  • ドラえもんの映画は毎年チェックしている。最近、色々な要素を取り入れて工夫しているがあまり満足いっていない。難しかったり、強引だったり…。だけど今年は違った。なぜなら、直木賞作家辻村深月が脚本を書いているから。彼女は自分の作品にも、エピソードを入れるくらいのドラえもん好き。そんな彼女が描いた今作は作品に対する、尊敬と愛情が溢れていた。原作に登場したひみつ道具、それぞれの登場人物の活躍の場面、心の動き。難しくない。わかりやすい。そして、感動とクライマックス。「ドラえもんってこういうものだ」というメッセージを感じました。いつか見た、ドラえもんを思いださせてくれます。物事を作り上げていくには好きになることが一番大事と思えました。小説版、映画版ともに素晴らしい完成度。大人になった子供達、是非、のび太たちとともに月面探査へ出かけてください。

  • ドラえもんが小説?という好奇心から読み始めた。ストーリーは良い。でもやっぱりドラえもんはアニメ。不自然なほど静まり返っていた、、、みたいな情景描写を活字にされると^^ 改めて映画で見てみたい。

  • 映画版で疑問に思った事が書いてあったので腑に落ちた。色々制約とか葛藤の中でこれを書き上げた事がなんか凄いな、とチープな感想を持ってしまった。

  • 今度の映画ドラえもんの原作はなんと辻村深月。面白かった‼️

  • 辻村さんが書いてるってことで読んでみました。
    ドラえもんを文章で読んだのが初めてだったから新鮮だった。

    月にはウサギがいるというのび太の思いからウサギの国を作って月へ出発
    カグヤ星というから逃げてきた不思議な能力の持ち主、ルカとルナとの冒険
    彼らは一定の年齢までしか歳を取らない
    千年も生きているらしい

    そんな彼らの力を利用したいとたくらむやつらと戦い
    最終的にドラえもんの道具で普通の人間にしてもらう

    またみんな会えるといいな

  • あの辻村深月さんが書き下ろした小説!
    笑いあり涙ありの名作!

  • アニメ版では描かれていなかった細かな描写が読めて良かったけれど、やはりドラえもんは漫画でアニメだからこその良さがある。箇条書き風に淡々と進んでいくのが気になった。辻村深月の作風がそうなのか、アニメ映画原作としてそう書いているのか、辻村深月作品を読んだことがないので判別出来ない。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

辻村深月の作品

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