この世の全部を敵に回して

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093862110

感想・レビュー・書評

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  • (2014.09.01読了)(2014.08.30購入)
    川上弘美さんの書評を読んで興味を持ちました。古書店で探したら見つかったので購入してきました。140頁ほどなので、さっそく読み始めました。
    小説かと思ったのですが、本の分類は、C0093ではなくて、C0095になっていますので、エッセイでした。
    小説を書く中で、人間の生と死についてあれこれと考えたことを一冊の本にまとめておきたくて書いたものと思われます。
    人間は生まれてきて、いずれ死にます。自分で死を選ぶ人もいますが、病気や事故で亡くなることもあります。長く生きて天寿を全うすることもあります。
    生きていてもしょうがないと死を選ぶ人もいますが、不死を願って不老長寿を願う人もいます。肉体は滅んでも、魂は生き続けると信ずる人もいます。
    輪廻転生を信じて、因果応報を考えながら生きる人もいます。
    人間の生と死にまつわるいろんな考え方を考察しながら、その考え方の中で、自分はどれを取るのかを述べて行っています。なかなか興味深い本でした。
    高校生、大学生ぐらいの方にお勧めの本です。

    【目次】
    刊行者の言葉
    この世の全部を敵に回して
     第一部
     第二部

    ●金銭の簒奪者(12頁)
    彼ら(子供たちと妻)は私がこれまで働いて得てきた金銭の容赦なき簒奪者である。もしも彼らという存在がなければ、私はいまのこの生活より格段に物質的に恵まれた暮らしを営むことができたに違いない。
    ●よりよく生まれるための本(26頁)
    よりよき死を迎えるために説かれた本でさえ、死の直前までいかに「生きるか」を説いた本にすぎないし、よりよく生まれるための本は一冊もこの世界に存在しない。
    ●死の確認(35頁)
    あなたは自身の誕生によって人生の始まりを確認したが、死によって自らの死を確認することができないのだ。
    ●不死の世界(53頁)
    不死の人間同志に特定の恋愛など必要だろうか? 当然、不死の世界での繁殖には何一つ意味がない。そもそも繁殖という概念が消滅するだろう。親子、兄弟、親友、そうした限定的人間関係もまた不死の世界では無意味である。誰も死なない世界で婚姻届を提出する人間は恐らく一人もいないだろう。
    ●死とは(55頁)
    私たちにとっての死とは肉体の消滅であると共に「私」という意識活動の停止である。肉体の死と意識の死、この二つが同時に起る現象がしなのである。
    ●霊魂の永遠(56頁)
    肉体が滅んでも、私という意識は死なずに天国か地獄で生き続ける
    (2014年9月10日・記)
    商品の詳細説明(楽天)
    人間は、どこから来て、どこに向かうのか——。生きがたい思いを漫然と抱くすべての人に、作者から突き付けられた八万文字分の言葉の爆弾。
    (「BOOK」データベースより)amazon
    私という人間は、生まれてこなくてもちっとも構わなかった。二十一世紀の「人間失格」。

  • 私は苦手でした。
    入り口は面白そうだったけど、敷居が高すぎた。

    敷居が高いなら高いなりの入り口であってください。
    ゆるい頭ではついていけなくて、嫌悪感さえもってしまった。

    …哲学なんだ~。

  • 71点。仕事がうまくいき、日々のご飯にありつけ、友達や家族とうまくできれば幸せと言うタイプの人だけではなく、世界とは何かといった存在論的問題を問わずにはいられない実存形式の人が回りにはいる。前者は自分が幸せになることにフォーカスするが後者の興味は世界の謎に向けられる。
    白石一文も作品から推察するに存在論的な問いを設定せずにはいられないタイプだ。この小説は論旨こそニーチェの焼き直しだが、主観にやや傾ぎすぎじゃね?な価値観に素直に同意しかねるのと、これはこの人の小説全般の感想だけど言ってることはわかるけど押しの強さになんかイラっとするんです。
    さらに今回の小説は自分自身のためだけに書いたのではないかと思うほどに、問うというよりは確認するといった趣向が強く間違いなく処女作だったらまず出版には至らないだろうなといった内容。でも十冊以上もの書籍を上梓している作家だからといって自己満足的な心情吐露だけで終わっていいはずはない。
    しかしこれらイライラはきっとすべて著者の狙い通りだ。だってさ、タイトルが『この世の全部を敵に回して』だもん。
    外したときの言い訳にも使えそうなこのタイトルは反則だろ。

  • P136
    私たち家族は、他に何もできないゆえにハチを心から愛したのだった。
    ・・・私たちはハチの一生に一体どんな意味があるのか最後まで
    分からなかったが、分からないからこそ彼をただただ可愛がったのである。
    私は思う。愛とは本来そうしたものでなくてはならないのだと。
    この人生の意味も目的も知らず生きていく自分、同様に生きている他の
    人々や動物たち。存在する意味も目的も持たない相手(自分自身も含む)に
    大して私たちができることは二つしかない。一つは黙殺すること。そして
    もう一つはただ愛することだ。

    P138
    愛とは、他に何もできることのない私たちが、ハチに向かってそうしたように
    行うささやかなものでしかない。密やかで力なく、日常的なものである。
    ほんとうの愛とは、死すべき運命を背負わされた全部の生き物への憐憫である。
    それがすべての愛の源流である。愛は死すべき私たちへの小さな励ましなのだ。
    だからこそ愛は、どんな人間や生物にも平等に注がれる。

    ●人間はこんな愛情を持ちうるのだろうか。ハチを愛したのは、それが身近な
     存在だったからではないのか。遠くの死ぬゆく人を哀れんだところで、
     それがいったい何だというのだろうか。

    ●この世の醜悪さに目を向けている人がどれほどいるだろうか。
     そして私という存在は醜悪な本性によって形成されているのだ。
     このことを認めて生きていくのは苦痛でしかない。
     だから、心の中では薄々感じていながらも目を背けて生きているのだろう。

    ●この世のシステムがそもそも悪意に満ちているという視点は斬新だった。
     恐らく総ての人に『善く生きたい』という考えはあるはずなのに、一向に善いものにならない。
     他人を殺し、自ら死に、騙し、脅し、快楽に溺れ、自己愛を追求する。
     そもそも世界のシステムに問題があるのは間違いない。


    読了日:2010/05/19

  • 初めの展開は面白かったけど、あとはくどい

  • P38 霊能者の霊能力を疑うことは、一流のスポーツマンの神業めいた運動能力や各分野の芸術家たちの創造力、数学者や物理学者の驚異的な数学力を疑うことと同じである。・・・彼らはどうして例というものの存在を信じようとしないのだろうか。礼の存在を認めることがなぜそれほどにいやなのか。私からすれば、現に霊能者たちが出会い、語り、取り次いでいるそうした霊の存在というのは、躍起になって否定せねばならないほど重大なものではない。・・・霊というものを単に過大評価しすぎなのである。
    P46 …つまり他人に迷惑をかけない範囲であれば一生哀しんでもらっても文句はいわない。だが、結局のところ、もしもその人が立ち直れず・・金の無心をしてきたり、何かの保証人になってくれといってきたり、なにやら怪しげな新興宗教への入信を勧めてきた場合には、断固として拒絶する。これがこの世界の人間全般の態度ではないだろうか。
    他人に対してそうした冷静な態度をとることのできる私たちが、例え我が子に死なれたとしても本気で悲しむことなどできるはずがないと私は思う。悲しみという感情は燃えさかる薪の炎だ。灰のように降り積もる憎しみや怒りに比べればその命はもともと短い。
    P48 こうした力にすがるときに私たちが何を願っているかを端的に言い表す言葉がひとつだけあると思っている。それは「例外になりたい」ということである。・・・そのような彼らの願いは、非常に効率的なものだと私は考える。・・・ただ問題なのは、彼らがそうやって効率的に動こうとするため利用する超越的な力というものは、所詮そんなものがなくても実現できる、高が知れたものにしか効力を発揮しないという点である。
    P99 私たちの住むこの社会では、ある条件を満たした者は、千人殺しても一万人殺しても罪に問われないのである。・・・私たちの住む世界が、殺生という行為を根本的に否定できない社会だからである。

  • 友人が書いたものを紹介するという形にはなっている。
    その文章が、この本の題のものだ。かなり、断定的に迫ってくる。え、え、と思っているうちにしかし、つい読んでしまう。そして、読み上げた時に、読む前の何なんだ、という防御の姿勢がなくな手いることに気がつく。

  • 白石さんとタイトルに誘われ購入。最初面白いと思ったのだが、段々失速。読んだら白石さんじゃないし、、もう少しメリハリがあるといいな。最初の文章「大切なことは生まれてきた事への意気地だ」が心に刺さって、なんとか最後の方は読んだ感じ。

  • 2013/07/31読了

    読み手(作品内)の、この作者の呼称や、言わんとしている事からなんとなく漱石の「こころ」の先生ないしはKに似たものを感じる。
    しかし内容は哲学の新書のようであった。
    人の生き死にの意味を愛だの罪だの宗教だの運だのと、生死にかかわる一通りのことを唱えては釈然としないという作者の解釈をひたすら読むこととなる。
    人なら誰しも一度は考える、真横にいながら考えても分からない問いかけ。
    それはこの作者もまた然りであった。
    友人の一声 作者はこの手記に沿った人ではなく愛があったという解説は、本当なのか建前なのか。それに関してはなんとも言えなかった。
    人間らしさに溢れた、やるせない一冊であった。

  • こういう人生哲学というか人生観というか死生観というかを遺すに至るまで、どれだけたくさん傷ついたのか。

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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