津軽 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101006048

感想・レビュー・書評

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  • 太宰文学の中でも明るい小説だと思った。
    津軽の歴史から風俗まで緻密に描かれていて、丸で目の前に津軽の風景が広がっているように感じた。
    最後の乳母のたけに再会するシーンは太宰が母性を求めているように思われ、それまでの太宰のデカダンの印象とは違い、とても新鮮に思えた。

  • すっごくよかった。
    太宰治の作品を読むのは、国語の教科書以外で初めてだった。
    著者紹介のところに自殺したことを書くのがもったいないくらい、『津軽』の文章はおもしろかった。

    「食べ物には淡白であれ」という決意を蟹と酒の前ではあっさり覆したり、子どもの頃の友人に会って、少年の心が残っていることを喜んだり…
    とても親しみを持った。
    と思えば、納得させられるような考え方や「雪で洗われた」ような桜の花などの描写が素敵で、とても楽しかった。
    解説でもあったけど、太宰は人を笑わせるのが好きだったそうで、それがこの文章に表れてるんだなあと思った。

    以下印象に残ったこと

    日本の風景は、人に見られすぎて人臭い感じがするけど、ここはそういう感じが全くしない…という文

    「飲食に於いては何の関心も無かった筈の、愛情と真理の使徒も、話ここに到って、はしなくも生来の貪婪性の一端を暴露しちゃった」

    「大人というのものは侘しいものだ。愛し合っていても、用心して、他人行儀を守らなければならぬ。なぜ、用心深くしなければならぬのだろう。その答は、なんでもない。見事に裏切られて、赤恥をかいた事が多すぎたからである。人は、あてにならない、という発見は、青年の大人に移行する第一課である。大人とは、裏切られた青年の姿である」

    「さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな。では、失敬」

  • ひさしぶりの太宰治
    ひさしぶりに読んで読みやすさにおどろいた
    微妙な空気感を感じられるおもしろさがある

  • 太宰作品中最も好きな作品。太宰にもこんな小説が書けるんだ、と目から鱗。

  • 収録内容は以下の通り。

    筆者口絵
    本編
    渡部芳紀: 注解
    亀井勝一郎: 解説

    筆者による郷土愛や郷愁が強く感ぜられると共に、筆者の良心、あるいは筆者が言うところの「自然の情」がよく描かれている。
    自身を内外両方から捉えようとした結果に思える。

    カバー装幀は唐仁原教久。

  • やっぱり太宰はいいですね。これは太宰が地元津軽を紹介しているような特にひねりのない単純で平和な話ですが、見栄っ張りだったり、他人にしっとしちゃったりする自分の悪い癖やダサいところなんかも書いちゃえるのが素敵ですし共感しました。有名なセリフですが、大人とは、裏切られた青年の姿であるというのが、最近友人に裏切られた(と、私は感じている)私に響きました。全体的にはほっこりするし太宰という人をより知れるゆったりしたお話です。

  • 太宰の終活のようなお話だと思った。自分の故郷を旅する。会いたい人に会う。津軽を読んでみると、太宰はもう人生に悔いはなかったのではと思う。

  •  自分のことも周囲の状況も、冷静に分析して皮肉っぽく正直に語っている。この作品では、今まで読んだ他の太宰作品に比べて、その皮肉や自虐やツッコミが明るくて、ユーモアたっぷりで、読んでて笑える部分が多かった。特に、友人と過ごしている前半は、ひたすら陽気さが感じられ、後に自殺するよう思えなかった。
     しかし、最後二章を見ると、やはり太宰の纏っている暗さや、寸分の狂いでバランスが崩れ、精神が崩壊しそうな危うさが感じられて、明るさと暗さが絶妙に混じった作品だと思った。

     冷静に分析しているのに、自分の本質が故の悲しい宿命に逆らえず、それを実直に文章にしちゃえるのが太宰らしいと思った。本作品では宿命を割り切っている感じがした。一方、他の作品では、やはり割り切ることができないか、宿命の終着点が死へと向かっている感じがする。それが故に後者は悲壮感や苦しみが一層強く感ぜられるような気がした。

     太宰という魅力的な人間には、能力的にもその他の面においても足元にも及ばないけれど、自らの価値観に基づいて誠実で、繊細で、人が良く、それが故に苦しんで、また、自己否定から抜け出すことができない彼には、根元的な部分で共感してしまう部分が多い…。だからこそ彼の作品は慰めになるし、普段抱えているジレンマを言葉にしてもらえたりする。ただ私は私の宿命を、先入観や過去で決めずに、静かにフラットな視点から凝視して、救済のベクトルに持っていけれたらいいなと思う。うまく言えないけれど。

  • 津軽への愛憎入り混じった感情は、自分自身に対するものでもあるように感じた。
    少年時代の回想はなんだかとても可愛いし、友人とは楽しく酒を呑んでいるし(そもそも最初から最後まで酒を呑んでいるのだけど)、たけとの再会はちょっと泣ける。
    生きていけるための何かを探す旅だと思って読んでいて、自分を見つけることができたようでよかったなあと思ったけれど、仄暗いところや死を想起させる文もちらほら挟まってくる。これが書かれたのが死の4年前、というのを考えると切なくなる。
    青森を旅しながら読みたいと思った。

  • 太宰自身が故郷・津軽地方を巡ってものした随筆。「~しちゃった。」という言文一致の極みのような表現があったり、読者に対する説明が気恥ずかしいほどに痛々しかったり。著者の小説ではあまり出てこない朗らかな一面が感じられる。と共に、自分に対して、また故郷についての自虐的な描写があり、このあたりは太宰だな~と思う。この紀行は、育ての親とも言える乳母・たけとの再会が最大の目的であり、そのクライマックスを最後に取っておく著者の気持ちがよく分かる。昭和19年という戦時中に、青森の地では酒食に事欠かない豊かさが興味深い。

  • 地方の片田舎の町でも人情と活気があり、どんな地域にも独特の個性のあった昔の日本へ行って、色々な土地を時間をかけて旅してみたい。時代が変わりもはや叶わないことだけれども、著者の人間味もありコミカルでもある筆致がそういう思いを自分の中に呼び覚ました模様。紀行文はもともと好きだが、本作も期待通りだった。

  • 太宰治 「 津軽 」自伝的な紀行文。死と虚構の中にいる 作家 太宰治から 津軽人の津島修治 に戻り 人間の幸福を取り戻ていく姿を描いているように感じる

    著者が 虚飾を行わず 伝えたかったのは
    *津軽の生きている雰囲気=津軽人の心の触れ合い
    *津軽、育ての母、家族に対する自分の気持ち

    最後の文 「さらば読者よ〜絶望するな」は 読者への遺書なのか? 昭和19年だから 戦争と関係あるのか?

  • 教科書の走れメロスくらいしか読んだことなくて、なんとなく苦手意識持ってたけど以前青森で記念館行ったこともあって読んでみました
    旅行記エッセイって感じで読みやすかった!
    たしかにナルシシズムも感じられたけどそれを客観的に自覚してるのがおもしろかったし共感出来るところもありました
    今度は小説も読んでみよう

  • 2017.8.9
    東北に旅行に行って、太宰の出身地である青森県金木町に行って、太宰巡りをした後カフェで読んだ一冊。津軽人の気性に関して、太宰の友人のことが書いてあって、その不器用な他者の迎え入れ方が、滑稽で、可愛くて、涙が出ました。思い出深い一冊。

  • 本棚整理のため、11年ぶりに再読。評価変更☆4→3

    津軽(生家と知人)紀行。生家がでてきてクライマックスで”たけ”に会うシーンを中心に太宰にしては爽やかな印象を与える作品。

  • 津軽の地理、文化、歴史、人全てが愛おしく感じられる描かれ方で、太宰らしく無いくせにとても太宰らしい作品。

  • 太宰が自分自身の出生地である津軽を訪ね、昔を訪ねる。飲んでばかり(笑)

  • 太宰治の他の著作とは異色の本作。

    風土記、回想録のような構成で語られている。生家の重荷を背負い続け、自己自身の否定を繰り返してきた。故郷の面影は以前の自分自身を辿るルーツになるが、最終の目的は乳母のたけとの再会にある。

    母性を追い求めた彼の究極がたけにあったことはあとがきで書かれている。女性との入水自殺を度々起こした太宰はたけのような安心感を持てる女性を求め続けたのだと感じる。人を楽しませる気遣いから、太宰は大胆さや繊細さを兼ね備えており、それらが文章によく表れている。そういった性格ゆえの寂しさや孤独を感じていたことも。

    最終文の「私は虚構を行わなかった。読者をだましはしなかった。さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな。では、失敬。」が深く胸にくる。彼自身は自殺してしまうが、自分自身に言い聞かせているような気がしてならない。

  • 風土記の執筆を依頼された太宰が津軽を旅行して書いた作品です。
    津軽の歴史などについても少し書かれていますが、やはり津軽にいる人たちと出会って会話しているところが一番読んでいて楽しかったです。思い出がある場所や懐かしい人と一緒に行く場所は、良く見えるんだろうなと思いました。
    私は津軽と全く関わりがないのですが、太宰と関わりのある場所と考えたら、訪れたとき胸が躍りそうです。

  • 聖地めぐりしてみたい・・・。
    最後の「元気で行こう、絶望するな。」という文が好き。

著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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